オレンジ屋根の家
H県の海沿いの小さな町に、オレンジ屋根の一軒家がある。
車一台がようやく通れるT字路の車道の脇、家と家の間の土地に「○△ハウス」と書かれた黄色い旗がはためいている。その布は随分と破れていて、竿が動かないように根元を固定する白いタンクも薄汚れ、朽ちかけていた。
売りに出されているのは一目瞭然で、人の気配はなく、わびしい雰囲気が敷地全体を包み込んでいた。
昭和の終わりに建てられた築四十年を超えるその家は、急な斜面の三角屋根が特徴的で、白いモルタル製の壁を持つ可愛らしい外観だった。徒歩五分圏内には小さなクリニックがあり、少し足を延ばせば警察署、学校、そしてスーパーと郵便局がある。
子育て世代が多い地域で、古い家と新しい家が入り乱れ、最近では角地にあった病院が廃業となり更地になった。その土地を三分割して新しい家が建つと、あっという間に入居者が決まる。そういう場所だった。
――けれど、妙なのだ。
立地条件は申し分なく、日当たりも良好。幹線道路である二号線から少し入った場所にあり、交通の便もいい。付近はここ数年で人口が増え、家賃相場も上がっている。この地域では珍しく3LDKで約八万円ほど。単身者用の住居でさえ六万円を超えることを考えれば、古家を賃貸にして家賃収入を得る人も多いのに。
それなのに、このオレンジ屋根の一軒家は、ここ五年ほど売りに出されたまま、買い手も借り手もつかない状態で放置されていた。
すぐ裏手の古家は取り壊されてすぐ買い手がついたのに、この家だけが崩されることなく、手付かずのまま捨て置かれている。
最初、この家は複数の不動産業者が管理していたという。傍の色も一つではなく二つ、三つであった時期もあったらしい。
頻繁に旗が変わり、管理会社が入れ替わる。
けれど、一向に売れない。
「いわく付き物件」だという噂もあったが、空き家が放置されること自体は珍しくない。やがて、人々の関心は薄れ、誰も住まなくなった家の敷地の隅で、がっくりと項垂れるようにしぼんだ旗だけが、風景に溶け込んでいた。
「本当に、この物件なんですか?」
背中にリュックを背負い、機材の入ったボストンバッグをぶら下げながら、俺は声を上げた。
目の前には、今まさに白い玄関フェンスを押し開け、アプローチに入ろうとしている男がいる。緑のジャケットを羽織り、片手に三脚を抱え、もう片方の手には大きなカバンをぶら下げていた。
「おー。来たか。待ってたんだぞ」
振り返り、白い歯でニカッと笑った男――それが俺の雇い主であり、大学時代の先輩、「木村雄介」だった。
彼は持っていたカバンを、白いタイルが張られた扉の前の床にドカッと下ろした。
はじめまして。
雲井咲穂と申します。
幼少期から怖い話やオカルトが大好きで、気が付いたらそうした本や雑誌を読んだり、映画を楽しんだり、某動画サイトでよく見て居たりもしていました。(今も見ております)
最近ではホラー漫画家さんに、体験談を4ページマンガとして描いていただいたり。とても貴重な体験をさせていただきました。
今回は、色々な好きを詰め込みつつ「日本」と言えばの「怖い話」をじっとり、感じていただけるような物語を書き進めてまいりたいと思っております。
もし少しでも面白いと思っていただけましたら、いいねやお気に入り登録などで応援していただけましたら幸いでございます。
何卒、何卒よろしくお願い申し上げます。
雲井咲穂




