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邂逅

走る、走る、走る。


けたたたましく鳴るサイレン。 開発されてから数世紀は経っているのだろう、現代のものとは少し文法が変化した言語が、侵入者を排除せよ、というニュアンスで、放棄された自己完結都市(アーコロジー)の廊下にその轟音を響かせている。

遠くからは、警備機械と思われるローラー音。 絶望的な状況であった。


「大体、なんで汚染深度Aの、廃棄された数世紀前の区画の警備機能が生きてるのよ・・・!」


悪態をつきつつ、走りながら手持ちの武装をチェックする。


数世紀前に作られ、私がサルベージし修理した、対人護身用ハンドガンとして持っている模造(コピー)品のベレッタ92。 残弾はマガジンを含めても18発程度。

お気に入りの主武装、M4A1カービン。 ここに来るまでにかなり消費してしまっており、残りはマガジン2個分、60発程度。

後は手榴弾2個。 電磁手榴弾1個。 コンバットナイフが1個。 扉突破用のプラスチック爆弾は、ここにくるまでにすでに使い果たしてしまった。


あまりの装備の貧弱さと、この程度の装備しか用意してこなかった、自分の想定の甘さに歯噛みする。



汚染都市シンジュク。 かつて「国家」という概念があった時代に使用された核兵器や重力兵器の爆心地となり、以後数百年にわたり、新人類(私たち)たちですら近づけなかった隔絶された都市遺構。


軌道衛星やドローンによるモニターでは、海上都市に近い部分はともかく、爆心地付近では完全に電力供給機構も崩壊しており、危険といえば、放射線異常・重力異常により肥大化・狂暴化した野生動物と、電力に依存しない旧式兵器の類、後は野蛮化した旧人類(かれら)くらいのはず、だったのだ。


「・・・大丈夫。 この程度の危機なら、私なら、何度も乗り越えてきた」

自分に言い聞かせながら、メンタルタブレットを嚙み砕く。 クロチアゼパム(抗不安薬)が本当に薬理効果を発揮し始めるまで、プラセボ効果を信じながら、走り抜けるしかない。


手持ちの自作端末で道をスキャン。 電気が通っているなら、と、かつての都市遺構の拡張レイヤーにアクセスをかけると、網膜情報に、不動産の広告らしき表示と、道案内のような文章が入り込んできた。 どうやらここはかつては居住区であったらしい。


居住区の警備でここまで大規模な警備システムを敷くのか、と半ば呆れながら道を検索。 


「・・あった」


お目当ての地上区画への脱出経路を発見。 居住区域の入口は警備機械が塞ぎ、侵入者()をとらえようとしているようだが、居住区を整備するための清掃用区域では、警備機械の行動ルーチンが入っていないようで、そこから地上区画へ廃棄物を投棄するためのエレベーターがあるようであった。


廊下の端にある、封鎖された別区画行きの扉のドアノブをM4カービンで破壊。 蹴り破り、エレベーター区画の廊下に入り込んだところで、「ドガガガッ」という轟音を耳がとらえた。


慌てて転がり、対角線上にあった死角に身を潜める。 耳のすぐ横で弾が飛んでいく風切り音がした。



「こんなところまでもう来てる・・・ やっぱりこの時代の行動予測AIは優秀だね・・」

歯噛みする。 こんなところで、警備機械にやられて死ぬのなんてまっぴらごめんだ。


敵は、おそらく自己完結都市(アーコロジー)全盛期に大量生産された、完全自立型警備機械の1種だろう。 戦車のようなキャタピラをベースに、上部の武装ユニットに用途に応じた武装を装着できる、汎用性が高く換装性能も高かったためベストセラーとなったといわれるモデルだ。 

キャタピラ内部にバッテリーと思考装置、アンテナを備えているため耐久に優れており、小回りが利きにくいことと、キャタピラ部分のコストが高いことを除けば万能ともいえるモデルといえる。


さすがに、この警備機械は居住区での鎮圧用であり、上部ユニットの武装はサブマシンガン程度であるようだが、今回は探索用の軽量装甲しか着こんでいないため、数発で貫通されてしまうだろう。 


仲間の機械にすでに連絡がいっているはずだ。 仲間の機械が集まってくるまで時間がない。 汗が噴き出る。


手持ちの対弾ドローンデコイを起動する。 高級品だが、致し方ない。 命には代えられない。


「いってこい! ファルコ!」


自立型AI搭載の鳥型のデコイが私の手から飛び立つ。 すぐに警備機械が反応し、デコイに射撃。 デコイは対弾機能はある程度あるものの、あまり長くはもたない。 デコイの危機回避AIが弾着予測で銃弾を回避させ、射線を私から離すように飛び始める。


M4A1をリロード。 後付けした3点バースト機能を起動し、廊下に飛び出す。


警備機械の全様がはっきりした。 やはり上部マウントにはサブマシンガンが2丁装着されているタイプであった。 デコイに気を取られている間に、上部ユニットの装着部位に、3点バーストで射撃。 


「よしっ!」


1つ目のサブマシンガンの固定脚を破壊。 あともう一つの固定脚を狙ったところで、網膜ディスプレイに警告表示が出現した。 慌てて右側に転がり込む。 轟音とともに、数秒前まで私がいたところに大穴があいていた。


慌てて後ろを振り向く。 新たな警備機械であった。 上部マウントには大口径の砲門が乗っている。 明らかに侵入者鎮圧どころか、都市制圧用の軍事用としか見えないユニット。


あまりの不運さに絶望しながら、手持ちの端末でデコイの優先順位を後方の警備機械に切り替え。 

特攻覚悟でデコイを後方の制圧用警備機械に突っ込ませながら、前方の警備機械のサブマシンガン用固定脚をなんとかアサルトライフルで破壊し、走る。


無力化した警備機械の横をすり抜け、清掃用区域の扉を蹴破る。 

後方で轟音。 デコイが破壊されたのだろう。 

歯噛みしながら清掃用エレベーター前までたどり着き、内部にハッキング。 

幸い旧式の簡単なロックで、ほぼノータイムでエレベーターが開く。 中に入り、上部階への移動を指示し、ドアを閉めた。


「はぁ・・・・・・」


安心してエレベーターの床にへたり込む。 警備機械のルーチン的に、持ち場の居住エリアを超えて捜索はしないはずだ。


清掃エリアの上からなら、地上に出られる。 地上に出てしまえば、「新人類」である私なら自由に行動可能であるし、少し歩けば、探索用に近くに設置したベースキャンプにも戻ることができる。


「しかし、汚染都市のこんな中枢側でも、電気が生きている区画があるなんて、油断した。 次の探索からは警備機械用の電子グレネードとか、もっと持ってくる必要があるわね」


そう独語しながら、改めて今回の異常性に思いを馳せる。 

そもそも、都市遺構とはいえ、爆心地たるシンジュクの、それもここまでの中枢側で電気が生きているなど、聞いたことがない。 海上都市にも報告が必要だろう。 もしかすると、更なるロストテクノロジーを発掘できるかもしれない。


考えているうちに、エレベーターが地上に到着しそうなことを告げた。

M4を肩部マウントに戻し、ベレッタを構える。 

入口の動きに気づいた、野蛮化した旧人類などが待ち構えているかもしれない。 

狭い空間では、アサルトライフルよりハンドガンの方が取り回しやすい。


扉が開く。


「・・・え?」

息を飲んだ。


入口周辺に、いくつもの死体が転がっている。 

全身に隆起する不整形の肉腫を伴い、腰には獣の布しかつけていない連中がずらずらと倒れている。


新人類(私たち)と違い、放射線耐性がなく、野蛮化した旧人類だ。 それはいい、良いのだが。


「これは、いったい・・・?」


問題は、彼らを、何が、どうやって殺害したのか、だ。


網膜ディスプレイによる簡易判定では、彼らの死因は「銃創による出血死」となっている。


一つの死体に近づく。 全身をスキャン。 銃創のような弾痕を発見。 詳細スキャンをかける。


「どういうこと・・?」

背筋が凍る。


判定結果は、未知の物質でできた銃弾かなにかでの傷。 

自慢ではないが、私も探索者としてそこそこ探索をしてきた身である。 手持ちのスキャナや端末には、各時代の武器や物質などをスキャンさせて読みこませある程度は学習させてきた自信はある。 その端末がエラーを吐くということは、それはつまり、


「・・あ」


網膜ディスプレイが一気に警告を発する。 

外部からの狙撃。 右大腿部外側に針状のものが着弾。 簡易分析では未知の、毒ぶ、


「・・・・」

そこまでで、私は意識を失った。

網膜ディスプレイが、近づいてきている「何か」 を指し示していた。





これは、邂逅の物語。





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