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砂漠の女王① 砂漠の旅路

はるか昔、テラの大地に神が降り立ち、人類を支配した。

神は己に似せて作った使いを監視役に置き、テラの大地を天蓋の中に閉じ込めた。

己の利のため、繁栄のために。


それから幾許もの時が過ぎ、人類がその支配の痛みさえも感じなくなってしまった頃、1人の男が反旗を翻す。


これは、真の自由と解放を求める、神殺しの物語。・・・に、不幸にも巻き込まれた魔族たちの物語。

一行は馬車に揺られながらオルデンへ向かって出発した。


オルデンへは八咫から北東へ続く旧街道を通り、

森を抜けた後、ティピカ砂漠を横断してオアシスを目指す。

そのオアシスの中央に魔法王国オルデンはある。


順調にいけば1週間程度で着く道のりだ。

ティピカ砂漠の外縁は岩石砂漠であり、

遮蔽物も多いため比較的安全な道中だ。


最も危険なのは岩石砂漠を抜けた後の砂砂漠のエリア。

一面に砂丘が続く灼熱の大地で、

砂の中には巨大なサンドワームが巣くっている。


そこを抜けるとオアシスにたどり着き、

オルデンが見えてくる。

さながら砂に囲まれた天然の要塞である。




オルデンは、伝説の魔法師オルデンが建国した魔法王国だ。

優れた魔法技術を軸に産業を発展させ、

様々な魔道具を生産している。


夜を照らす照明や動力、生活必需品からテラを動かすインフラまで、

ほとんどがオルデンの魔法技術を応用して作られたものだ。


大戦前まで、八咫の国とオルデンは友好的な関係にあったが、

八咫が帝国の支配下となってから交流が途絶えてしまった。

そのため、現在のオルデンの情報はほとんど耳に入っていない。




馬車の中の様子はというと、平穏そのものだった。

リストは、道程と装備品の確認をしながら、馬車の中をうろうろしている。

フレンチは馬車を操り、ジンはリンの様子を見守っている。


リンは、マナ中毒用の薬を飲んでからというもの、

体調はだいぶ回復し、自由に動けるほどになった。

大事を見て、しばらく安静にしてもらうことにした。




フレンチいわく、追手の気配は無いとのことだった。

獣人族の五感は、索敵に非常に役立つ。

すくなくとも、ティピカ砂漠へ出るまでの林道は安全であろう。




ジンは、追手との交戦に備え、護身用の短刀を持ってきた。

大戦中、母が使っていた形見の短刀だ。


あれほど毛嫌いしていた刀を、

こんな形で手にするとは思ってもみなかった。

思い描いていた穏やかな日々が、どんどん離れていく。


リンが元気になったら、元の生活に戻れるだろうか。

大事な家族のためとはいえ、

自分の信念を曲げることに一抹の不安を覚えてしまう。


しかし、自分のために、家族を犠牲にできない。



『仕方ない。仕方ないさ』と、短刀の柄を触りながら自分に言い聞かせる。

とりあえず、1週間の旅路と、

そしてオルデンでリンの治療が終わるまでの間、妹のことを守らなければ。




馬車を走らせ半日程度で森を抜けることができた。

ここからはティピカ砂漠だ。

環境の変化も大きいため、初日は早めに休息を取ることにした。

岩山の陰に浅めの洞窟を見つけ、そこで野営することに決めた。




一行は晩御飯の準備に取り掛かった。

フレンチは火起こし、

ジンとリンは食材の支度、

リストはテントの設営に取り掛かる。



「そう言えば、昔もみんなでキャンプに行ったよな。大戦前の高校生の時だっけ?」


フレンチは、自分の毛に引火しないよう注意しながら、火を起こしをしている。

なかなか火が付かないようで、

火打石を何度もカチカチしている。


「あぁ懐かしいね。林間学校だろ?フレンチが女湯覗こうとして先生にボコられてたよな」


リストは小柄な体で背伸びをしながらテントを立てている。


「ちげぇよ。あれはジンが言い出したんだよ。途中で怖気づいて逃げやがってよ!俺だけつかまっちまったんだよ」

「ちょっリンの前でそういうこと言うなよ!」

「お兄さま、見損ないました。そんなやんちゃなことなさるなんて」

「いやっそのね、若いって言うのは時々いろいろやっちゃうんだよ」

「ジン、否定はしないんだな」


リストはニヤニヤしながらいじってきた。




思えば、4人が集ったのは久しぶりかもしれない。

大戦後、街の復興で忙しくてみんなで遊ぶ暇もなかった。

くだらない話題と穏やかな時間。

これから始まる困難の前の、つかの間の休息。

いつまでもこんな時間が続けばいいと、

ジンは心底思った。




次の日から、本格的に砂漠越えが始まった。

ティピカ砂漠の外縁を囲む岩石砂漠は、

3日程度で抜けられる見込みだ。


旧街道の名残で石畳が残っていて、

多少ガタつくが進みやすい。

ところどころに、古い立て看板や宿場の跡、

砂にまみれた休憩場所、かつての街道の名残が見えた。


見知らぬ土地を探検しているようで、ジンの心は少し踊った。

フレンチは目的をすっかり忘れ、何かを見つけては騒いでいる。

さっきも大声を出してリストに怒られていた。

これくらい穏やかな方が、緊張も解けてリンも落ち着けるはずだ。

この調子でいけば、岩石砂漠も順調に抜けられるだろう。




砂漠越えから3日目。

岩石砂漠の終わりが見えてきた。

徐々に岩山の姿も減り始め、砂の気配が強くなる。

時折吹く風が、砂っぽく、じゃりじゃりと不快な音を立てる。

道の先には、熱にうだされ靄のかかった、重苦しい砂の海原が広がっている。




食料と水の備蓄は問題なく、

リンの体調も大丈夫そうだ。

馬車の荷台と馬に砂砂漠を越えるための装備をさせて、

各々本格的な砂漠越えに備えていく。


砂砂漠には凶暴なサンドワームも出現するため、注意が必要だ。

なるべく音を立てず、慎重に進む必要があるし、

遭遇の場合は戦闘も避けられない。

これまで順調すぎた分、一気に緊張感が高まってきた。




リストは岩山を登り、この先の様子を探っていた。

進行方向には一面の砂が広がっており、

さすがにまだオルデンは見えないようで、

手ごたえも無かったようだ。


そして、岩山を降りようと振り向いた、




その瞬間。




フレンチの耳が飛翔体を捕らえた。


「リスト!」


フレンチが叫んだ瞬間、リストが力なくその場に倒れる。

索敵範囲外からの超遠距離射撃。

リストが何者かに撃たれた。

追手は誰かが岩の陰から出ていくのを、

虎視眈々と待っていたのだ。


岩石砂漠のはるか後方。

ここからでは目視することができない距離。

着弾時にマナの痕跡がないため、魔法ではなく銃弾による物理攻撃であることがわかる。

着弾時の衝撃を見るに、貫通性の優れた対物ライフル。

足止めではなく、確実に殺しに来ている。



「敵襲!ジンはリンを守って馬車に乗り込め。俺がリストを回収したら全速力で走らせろ!」


フレンチは岩山をのぼり、絶え間なく続く銃撃に警戒しながら、リストの元へ向かう。

明確な銃声は無く、風切り音と着弾時に岩肌が砕ける音があたりに響く。


「フレンチ急げ!早く!」


ジンは馬車の準備を終え、リンを馬車の中の荷物で囲った。


「走れ!逃げ切るぞ!」



フレンチはリストを抱えて馬車に飛び移り、大声で叫んだ。

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