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魔族失踪事件⑤ 脱出、そして落胆

はるか昔、テラの大地に神が降り立ち、人類を支配した。

神は己に似せて作った使いを監視役に置き、テラの大地を天蓋の中に閉じ込めた。

己の利のため、繁栄のために。


それから幾許もの時が過ぎ、人類がその支配の痛みさえも感じなくなってしまった頃、1人の男が反旗を翻す。


これは、真の自由と解放を求める、神殺しの物語。・・・に、不幸にも巻き込まれた魔族たちの物語。

ジンは祈るような気持ちで

水槽の中に閉じ込められたリンを見つめる。


心の支えである妹に、もしものことがあったら。

心が押しつぶされそうな思いだ。




「リスト、リンを外に出せないか?ダメなら力づくでも外に出す」

「ちょっと待て、やってみる」


リストはモニターに向かいリンの救出を試みる。

幸いこのゾーンに監視カメラは無いようだ。

よっぽど見られたくないものだったのだろう。


「よし、これでいけるはず」


コントロールパネルを操作するリストが呟いた。


円柱水槽の下部から蒸気が噴き出した途端、

液体の水位が下がり始めた。


ゴウンゴウンというポンプらしきものの駆動音が

部屋に鳴り響く。

液体が無くなったところで、

水槽が持ち上がり、

ようやくリンを外に出すことができた。


「目を覚ましてくれ。迎えに来たぞ、リン」

「・・・お兄さま、ですか?」

「良かった、目を覚ました」

「急ごう、すぐに追手が来る」




部屋の外から警報音が聞こえる。

気付かれたに違いない。


ジンは椅子に掛けてあった白衣をリンに掛け、

抱えて走り出す。


「早くここを出るぞ!3番エレベーターから地上階を目指すんだ」




リストが先行して研究室の扉を開けると、

武装した兵士が集ってきた。


「おいおいこっちもかよ!今日はどうなってるんだ。応援を頼む!研究室だ、至急応援を!」

「ついに来たか!ジン、走るぞ。ついて来い!」


ジンはリンを抱えて3番エレベーターを目指す。


「検体には当てるな!ゴブリンを狙え、撃てー!」

「俺かよ!」


リストは姿勢を低くして必死に駆ける。

高価そうな器材に身を隠しながら

何とかして巨大鉱石のエリアにたどり着いた。


「そこまでだ!」


3番エレベーターを目の前に、4人の兵士に囲まれた。

全員武装しており、銃をこちらへ向け構えている。


「検体を置いて、ゆっくり手を上げろ。さもなければゴブリンを撃つ」

「くそっ」


ジンはリンを抱えているし、リストは戦闘には不向きだ。

圧倒的に不利な状況。

にらみ合う両陣営。


その時、通路の奥からドカドカと

激しい物音とともに、大きな叫び声が響いてきた。


「オラッ触んじゃねーぞこの野郎!ぶっ殺されて―のか、くそ、うぉらぁー!」

「麻酔銃が全然効かねーぞ!バケモンかこいつ!」

「はは!そんなもん効くか、ボケ!俺様の毛並みは鋼鉄そのものじゃ!刺さりっこねーよ」


フレンチが大暴れしながら

巨大鉱石のエリアまで進んできた。




「ちょちょちょちょコッチ来てるぞ!ぜっ全員構え!撃てー!」


ジンたちを包囲していた兵士は、

フレンチに向けて一斉射撃を始めた。


フレンチは巨大鉱石を盾にしながら駆けまわり

銃弾を避ける。

測定機器の上から壁面、

そして巨大鉱石へと飛び交い、

兵士たちの視界の外から外へと逃げていく。


設置してあるモニターを手にかけると

強引にむしり取り、次々に投げつけていく。

一瞬の隙をつき、兵士に飛び掛かると、

叫び声と共に、兵士や研究員が宙を舞っていく。


「ナイスタイミングだ、フレンチ!3番エレベーターに乗り込むぞ!」




混乱にまぎれて一行はエレベーターに乗り込み、

最上階の廃棄エリアを目指す。


そこであれば、警備は比較的手薄で

相手にも逃走経路として想定されにくいはずだ。


「おっ追えー!逃がしたらドクに実験体にされるぞ!とっ捕まえろー!」




最上階へたどり着いた一行は

廃棄エリアを目指して駆けまわる。

すると、禍々しい汚染注意のマークが張り付けてある扉を見つけた。

どうやらこれが廃棄エリアらしい。




扉を開けると、噓みたいに中は静かだった。

まだ兵士たちは追いついていないらしい。

広い部屋の両脇には、

壊れた設備や計測機器などが無造作に積まれており、

部屋は奥まで続いていく。


「奥に搬出口があるはずだ」


リストはみなに声をかける。


走る一行。


突き当りの壁に赤いパトランプが点滅していて、

そこが搬出口だと分かった。


途中、ピシャッという音がして、

リストは液体を踏んだことに気が付いた。

ふと周りを見回してみると、

整然と大型のコンテナが積まれており、

そこから液体が流れ出ているようであった。

気になって一つのコンテナの中を覗いてみる。


「うそだろ」


中にあったのは、青白く朽ちかけた人の断片。

そして中央エリアにあった物と同じ青白く

半透明な鉱石の欠片。

鉱石の欠片は、

まるで人を飲み込むかのようにして寄生しており、

人体は元の形状を留めていなかった。


人だけでなく魔族も同じ状態で、

これまで被害にあったものたちの末路がそこにあった。

失踪事件の被害者は、水槽に入れられた後、

何らかの変化を遂げて、

ここへたどり着くのだろうか。

だとしたらこれはいったい何をしているというのだ。


「これは惨い。帝国の野郎、とんだ悪人だぜ」


フレンチはコンテナを覗き、

苦虫を噛んだような顔をした。

この世の悪事を詰め込んだような凄惨な現場だ。

帝国は、人をさらい、

何かしらの実験を行っているようだ。

この鉱石は、それに関係があるのだろう。




「こっちだ!見つけたぞ!」


帝国兵が追いついたようだ。

一行は急いで搬出口から出ると、

そこは森の中であった。


木々の間を駆け、幹の根本で身を隠し、

帝国兵をやり過ごす。


「とりあえず、行ったな」

「これからどうする?どうやって街へ戻るんだ」

「大丈夫だ、こんな時は俺の鼻を頼れ。街の中央を流れるアンティグア川は、ハーネス山脈から流れる長ーい川だ。そんで、このヤマカガシの花はアンティグア川の近くに良く咲いている。俺が川の匂いを辿って、川沿いを南に行けば街にたどり着けるはずだ」


追手の追跡に気を配りながら、一行は街を目指す。




ジンはリンを背負って進む。


呼吸はあるものの、体は冷え切っている。

時折、うなされるように

言葉にならない言葉を呟いている。

早く街へ着かなければ。


これまでの移動距離から考えれば、

街からはそう遠くは無いはず。

どれくらいの間、あの中に入れられていたのだろう。

今日の夕方さらわれて、救い出したのは深夜だ。

少なくとも数時間は水槽の中にいたはず。

体に異常が無いか心配でたまらない。




月明かりの下、木々の隙間から漏れる光を頼りに街を目指す。


何度か追手の気配がしたが、

フレンチのおかげでかなり遠くの位置から敵を察知することができた。

獣人の聴覚は凄まじい。

いつもうるさいだけのフレンチが、

こんなに頼もしいとは。

正直、見直した。


迂回路を取りながら、慎重に進路を取る。




歩いて4時間程。

朝焼けが顔を出し始めたころに街に着いた。

ようやく帰ってきた。


急いで家に向かう一行。

玄関を開け、大声でダンを呼ぶと、

すぐに駆けてきた。

どうやら帰りを待っていたらしい。


「良かった。みんな無事なようだな。リンは?」

「意識はあるけど、体温が低い。うなされているみたいなんだ」


ジンはリンをソファーに寝かせて、毛布をかける。


「ダンさん、この鉱石、なにか分かりますか?」


リストは廃棄エリアに落ちていた

青白い半透明な鉱石の欠片をダンに渡した。

コンテナの中に入っていた、

かつて人だったものに寄生していた鉱石だ。


「これは、魔晶石に似ているな。マナの濃度が濃いが、魔晶石とは少し外見が違う。なんだか濁っていて気味が悪いな」

「なんだ?魔晶石って?」

「おいフレンチ、学校で習っただろ?魔晶石はマナ鉱石を精錬した物で、マナの純度が非常に高いんだ。タルタリアが工業国家に発展したのは、魔晶石からエネルギーを取り出すことに成功したからだ。野球ボールくらいの魔晶石ひとつで、車一台を半永久的に動かすことができるらしい。大戦で帝国が八咫に勝利した一番の要因は、タルタリアと同盟を組んだことだ。奴らはこの魔晶石を軍事利用した訳さ。魔晶石は一国の運命を変えてしまうほどの力を持つんだ」

「ってことは、あの研究施設では人工的に魔晶石を作ろうとしていたってことじゃないのか?」

「不明な点は多いが、結果的にそう見えるな」

「だとすると、リンの症状はマナ中毒かも知れない。高濃度のマナに長時間当てられると、低体温と意識混濁に陥ることがある。マナ鉱山の鉱夫たちも、時折似た症状になるよ。薬があるから、リンに飲ませてみよう」


ダンは薬を取りに行き、

ジンがそれを飲ませるために体を起こすとき、

背中に手を回すと異変に気付く。

なんだこの硬いものは。

嫌な予感がして、背中をめくる。




落胆、という言葉が一番近い。

それを見た時、僕たちの将来が、

音もなく静かに消えてなくなるような、

そんな気がした。


これからあるべき未来や、

来るはずの当たり前の時間。

普通の人が経験するはずの幸せが

遠のいていくような感覚。




リンの背中には、

こぶし程度の大きさの鉱石が張り付いていた。

それは背中だけでなく、

右腕の上腕部にも親指程度の大きさのものがあった。


まさしく寄生という言葉がふさわしく、

鉱石からは血管のような管が延びて

周囲の肌に潜り込んでいる。


まるで獲物を捕らえた蜘蛛の巣のように、

それは支配を主張していた。

ここまで読んでいただきありがとうございます!


皆様に楽しんでいただけるような作品に仕上げたいです!

ド素人のつたない文章ですが、ぜひ、皆様のご意見・ご感想をお聞かせください。


よろしくお願いします!

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