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魔族失踪事件④ 潜入、そして救出

はるか昔、テラの大地に神が降り立ち、人類を支配した。

神は己に似せて作った使いを監視役に置き、テラの大地を天蓋の中に閉じ込めた。

己の利のため、繁栄のために。


それから幾許もの時が過ぎ、人類がその支配の痛みさえも感じなくなってしまった頃、1人の男が反旗を翻す。


これは、真の自由と解放を求める、神殺しの物語。・・・に、不幸にも巻き込まれた魔族たちの物語。

ジンは通路の曲がり角の影に身を忍ばせ、

リストが兵士に声をかけた。


「すいませーん。ちょっと道に迷っちゃいまして・・・。ここはどこっすかね?」

「なんだ貴様!?へへへっ、ちょうどいい。お前も捕まえて俺の手柄にしてやるぜ!」


ジンは兵士がこちらへ向かって歩いてきたところで背後から忍び寄り、

思いっきりヘッドロックで締め上げた。


兵士はゆっくりと意識を失い、その場に倒れる。

ジンはようやく女装を脱ぎ、

兵士の装備を剥ぎ取り着替える。

兵士が持っていたロープでリストの手足を軽く縛り上げ、肩に担いだ。




「これで準備完了だ。中に入ったら兵士に扮したまま、リンちゃんの居場所を探るんだ。リンちゃん救出後はフレンチと合流し、ここを出よう」


リストが作戦概要の説明を始めた。


「こういった施設には外に繋がる廃棄物を搬出するエリアがある。そういうエリアは警備が手薄なはずだ。そこから脱出しよう。まずは施設の全体像を把握する必要があるな」

「フレンチとはどうやって合流するんだ?」

「あいつは心配ないだろ。恐らく、中に入ればすぐ居場所がわかるよ」


えっ冷たくないか?


でもまぁ、騒がしいフレンチのことだ。

なんとなく、そんな気もする。

少しの疑問を残しながらも、

謎の施設へ侵入を開始した。




中に入るとそこは研究施設のようだった。

僕たちが入ったこの扉は搬入口のようで、

通路の脇に試験管やらビーカー、

何かの液体やらボンベが置いてある。


数メートル進むと

さらに地下へ続く大型のエレベーターがあった。


最奥の壁側中央に操作盤があり、

手すりで囲ってあるだけの

簡素な作りのエレベーターだ。

ところどころ錆びている。


縛ったリストを左肩で担ぎ、

操作盤をいじって、地下へ進むと、

想像を絶する世界が広がっていた。




下降のボタンを押すと、ガコンっと大げさな音が鳴り、

モーターの駆動音と共にエレベーターが動き始めた。


下降するに伴って視界が徐々に広がっていく。

隙間から漏れ出た強い光で、

つい目を細めてしまう。

視界が確保でき、眼を見開くと、

そこには広大なドーム状の空間が広がっていた。


中央には巨大な半透明の鉱石が

四方八方から鎖に繋がれ宙づりにされている。


鉱石は常に冷却されているようで、

何本ものダクトから冷気が流れ出ている。

この異様な光景は、まるで、

地下で発見された未知の脅威を拘束しているかのようだ。


鉱石は非常に大きく、縦10m、幅5mほどで

不規則な凹凸を持ちながら

八面体に近い形状を有している。


エレベーターからは距離があり、

詳しくは視認できないが、半透明な鉱石の中で、

何かがうごめいているように見える。


鉱石の下部は黒い金属のカバーで覆われ、

何本ものパイプが接続されている。

パイプ近くに設置された操作盤や機器の周囲には、

数名の白衣の人物が作業を行っているようだ。

いくつもの照明に照らされたその鉱石は

不気味な光を反射しながら、

この巨大な空間に鎮座している。

この鉱石を中心として円を描くように扉が並び、

地下3階まで続いている。




まさか、八咫の地下にこんな施設があったとは、

想像もつかなかった。

あっけにとられていると、

エレベーターが最下層に到着した。




こんな巨大な鉱石は見たことが無い。

青白く不透明で、

マナ鉱石にも似た色合いを持っている。


近づいてみてみると、やはりそうだ。

鉱石の中を、何かが蠢いているように見える。

眼を凝らしてみてみる。

すりガラスのようではっきりは見えないが、

円筒上の物体の4角に細長いものが生えている。

これは・・・




「ちょっとちょっと!困るよ、こんなとこまで検体持ってきちゃ~」


鉱石に気を取られ気付かなかった。

一人の兵士が背後から近づき、声をかけてきた。


突然のことで驚き、背筋が凍る。

ジンはゆっくりと振り向き、覚悟を決めた。


「ははーん、もしかして新人?迷ったんでしょ」

「ぁっはい!初めてなものでっ。この検体、どこへもっていけば良いんでしたっけ?」

「仕方ない、先輩についておいで」


助かった。

平和ボケした帝国兵で本当に良かった。

ばれないように深呼吸しながら、

先輩帝国兵の後をついていく。

左肩に担いだリストが、なんだか重く感じる。




「この施設は入り組んでいるからね。俺もたまに迷うんだよ」

「そうなんですか。先輩でも迷っちゃうなら、僕なんて無理っすよ。そう言えば、先日鬼の女の子が入ってきませんでしたか?2本角で赤髪の」

「あぁ、あれね。あれは上物だったよ。ドクもえらく気に入ったみたいで、今は中央研究室の奥でいじられてると思うよ。」


不安なワードが続く。

妹は、無事なんだろうか。

はやる気持ちを抑えながら、

必要な情報を引き出していく。

この先輩はちょろそうだ。


「ドクは今日も中央研究室にいるんですか?」

「いいや、ちょうどさっきタルタリアへ向かったよ。なんか、良いおもちゃが手に入ったとかでルンルンスキップしながら出ていったよ。マジで狂ってるよな」

「はは、ちょっと怖いっすよね。あんまり関わりたく無いですよ」

「でも今後のことを考えると、気に入られた方が良いかもよ。ドクはシド閣下のお気に入りだからな」

「へぇ、先輩いろいろ詳しいっすね!さすがっす。ついでに教えてほしいんですが、廃棄物捨てるところへの近道って分かりますか?」

「あぁ、あそこもわかりずらいよね。3番エレベーターから最上階へ上がるのが一番近いかな。他のエレベーターだと遠回りだし。っとようやく着いたね。ここが研究エリア。検体は冷凍カプセルに入れておいて」

「了解っす。いろいろありがとうございました」

「別にいいんだよ。困った時はお互い様さ。いま研究室はみんな出払ってるから、分からなかったらちょっと待っててね。さっき来た獣人の検体が暴れててね。みんなそっちの対応に向かっているんだよ。なんか女装してるし、頭おかしいんだよね」


フレンチだ。

あいつはどうやら無事のようだ。

居ないところでめっちゃ悪口言われてる。

不憫だ。


「それじゃあ、頑張ってね。」

「先輩、助かりました!ありがとうございました~」




彼に背を向け、研究室の扉を開けようとした時、

その先輩はまた話しかけてきた。


「ちょっと待って。ID見せてくれる?」


ID?なんのことだ?ここまで順調すぎて、

安心しきっていた。

ここにきて足止めはされたくない。

焦りで口がどもる。


「えぇっと、ちょっと待ってください」


体中のポケットをあさりながら、

それらしいものを探す。

とりあえずリストを床に降ろし、

体中をガサガサと探ってみる。


右ポケットの中に、カードの身分証があった。

まずい、写真付きだ。

思わず右足を引き、いつでも動ける体制を取る。


「あぁ、それそれ」


先輩帝国兵がIDカードを手に取った。

固唾を飲む。


ジンは装備品の警棒に手をかける。

体の力を抜き、呼吸を整える。

先輩との距離はほぼゼロ距離。

互いに間合いの中だが近すぎる。


流れでこうなったとはいえ、

敵に間合いを許すとは不覚だった。


視界を確保しながら全体像を把握。

巨大鉱石のエリアには研究員が6名。

そこからここまでの通路で他の兵士とはすれ違わなかった。

監視カメラがこちらを向いているのが厄介だ。

戦闘になったら見つかるまで時間の問題になる。


先輩兵士の動きを注視しながら最後の調整に入る。

呼吸を吐きながら、警棒を握る。

相手の視界が外れた瞬間がタイミングだ。




ピー。”ロック解除”

電子音の後に音声が流れ、研究室の扉が開いた。


「この扉、電子ロックだからね。IDカードで開けるんだよ」

「あぁ・・・ありがとうございます・・・」


ポンポンっと軽く叩きながら

僕の掌にIDカードを手渡す。


心臓を吐き出すところだった。

頼むぜ先輩。

もう行ってくれ。

帰ってこないでくれ・・・。


ようやくリストとともに研究室へもぐりこんだ。




研究室の前室は処置室のようになっており、

手術台のようなものが2台、

左右対象に並んでいる。


冷凍カプセルらしきものは、壁際に並んでいた。

ビニールカーテンで仕切られた奥には、

広い空間が広がっているようだ。

ジンは担いでいたリストを降ろし、ロープをほどく。

リストは奥へ進み様子を見に行く。

すると、彼は眼を見開き後ずさりした。


「なんだ、これは」




奥の部屋には広い空間が広がっており、

直径1m、縦3mほどの円柱水槽がいくつも並んでいた。

部屋は薄暗く、奥が見えない。

暗闇の中で、沢山の水槽が光に照らされ浮かび上がっている。


「おい、どういうことだよ。どうして彼らがここにいるんだ。それに、これはどういう状況だ?」


リストは恐る恐る円柱水槽に近づく。

水槽の中には、これまでに失踪したと思われる魔族が入れられていた。


獣人、妖狐、鳥人、鬼人、ゴブリン。

八咫に暮らしていたであろう魔族たちだ。

ここが、失踪者たちの行きつく先であった。


となれば、妹のリンはこの奥だ。

「中央研究室の奥にいる」と先輩兵士は言っていた。

ジンは水槽の間を駆け、リンの姿を探した。


リンがいたのは、一番奥。

円形の個室のようなスペースの中央に設置された、

円柱水槽の中で眠るように浮かんでいた。


「リン!」


ジンは駆け寄り、水槽を叩く。


「リン!目を覚ましてくれ!リン!」

「ジン、騒ぐな!兵士に見つかる」


周辺には水槽を囲むように検査機器や

モニターが複数台置いてあり、

円柱水槽の下部からはおびただしい数の配線や

チューブが延びている。


水槽の中の液体は淡い水色で、

緑色の光の粒が泡のように漂っては消えていく。

その中でリンは凍るように眠りについている。

生きているかも分からない。


この声は聞こえているだろうか。

ここまで読んでいただきありがとうございます!


皆様に楽しんでいただけるような作品に仕上げたいです!

ド素人のつたない文章ですが、ぜひ、皆様のご意見・ご感想をお聞かせください。


よろしくお願いします!

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