魔族失踪事件② 捜索開始
はるか昔、テラの大地に神が降り立ち、人類を支配した。
神は己に似せて作った使いを監視役に置き、テラの大地を天蓋の中に閉じ込めた。
己の利のため、繁栄のために。
それから幾許もの時が過ぎ、人類がその支配の痛みさえも感じなくなってしまった頃、1人の男が反旗を翻す。
これは、真の自由と解放を求める、神殺しの物語。・・・に、不幸にも巻き込まれた魔族たちの物語。
もしかして、リンも連れ去られたのか?
ここ最近、巷をにぎわしている失踪事件。
妹もその被害者になったというのか。
いや、そんなことは無い。
彼女は鬼人族で、大戦の時に前線で戦った父と肩を並べるくらい強い。
そんな彼女が簡単に捕まるはずがない。
急いで稽古先の体育館へ向かい、
リンがいないか聞いてみる。
体育館に残っていた学生いわく、
2時間ほど前に帰ったとのことだった。
それであれば、とっくに家に帰ってきているはずだし、
父親と2人きりで気まずい豚汁をつつく必要もなかった。
道着袋が落ちていた現場に戻り、近くにリンがいないか探していると、背後から聞き覚えのある声がした。
「あれ?ジンじゃねーか」
このデカい声はフレンチだ。
「本当だ。ははーん、やっぱり失踪事件の調査が気になって俺らを追いかけてきたんでしょ」
リストも一緒だ。
「リンが・・・リンがいないんだ」
声が震えていた。
失踪、とは言わなかった。
まだそうと決まったわけではないし、
そうとは到底信じられなかった。
事件など、噂話のようなもので、遠い世界の話だ。
まさか、自分の身に降りかかるわけがない。
脳裏によぎる嫌な予感を、懸命に振り払う。
「あぁ?どういうことだよ?リンちゃん、いねぇってよ」
フレンチは半信半疑で言葉を選んだ。
「ん・・・、これは戦闘の痕跡だ。周りの斬撃の跡はリンちゃんのものっぽいね。しかも新しい。マナの痕跡もあるようだし、誰かが魔法を使ったのか・・・?」
振り返ると、リストが現場検証を始めていた。
顔は真剣で、遊び半分でやっているようではないみたいだ。
なんだか、嫌な予感が現実味を帯びてくる。
「ジン、まだリンちゃんは家に戻っていないんだよね?」
「あぁ。出稽古で近くの中学校に行ったっきり、まだ帰ってきてない。さっき学校で確認したけど、2時間くらい前に稽古は終わったらしい」
「そうか。とりあえず、周辺を探してみよう」
ジンは、フレンチとリストの3人で周辺を探してみることにした。
中学校の周りや商店街方面、
友人の家、
心当たりのある場所はすべて探したが、
やはりいなかった。
「ジンどうだ?リンちゃんいたか?」
フレンチは少し息を切らしている。
「いや、商店街の方も見てきたけど、やっぱりいなかった」
「もしかしてリンちゃん、失踪事件に巻き込まれたんじゃないのか?」
リストはついに、口にした。
探している間も、何度も頭をよぎった。
でも、まさか、
うちの妹が巻き込まれるなんて考えたくもなかった。
失踪事件にあった魔族は、未だ全員帰ってきていないらしい。
街総出で捜索に当たっているが、
いまだ手がかりがないそうだ。
「待てよ。リンちゃんの剣術はめちゃくちゃ強い。それなのに連れ去られたっていうのか?」
僕もフレンチと同じ意見だ。もしかしたら、まだどこかにいるのかもしれない。
「マナの痕跡が物質に付着することはよくあるけれど、さっきの現場では空間上にもマナが漂っていた。これは相当な魔力量でないと起こらないことなんだよ。しかも、騒ぎになるような戦闘音も出していない。相手は、隠密に長けた手練れに違いないよ」
リストの的確な考察に、かすかな希望が打ち消された。
地面に落ちていたリンの道着袋。
周辺の戦闘の痕跡。
リンの斬撃の跡。
頻発する魔族失踪事件。
状況証拠には十分だ。
探してもどこにもいない。
リンは、何者かに連れ去られたのかもしれない。
「じゃあ、街の捜索隊にも声をかけて、協力してもらおうぜ。3人じゃ限界があるぜ」
フレンチの言う通りだ。
そうだ、まだ間に合うかもしれない。
「ジンの父さんは確か捜索隊の一員だったよね。とりあえず、ジンの家に行こう。それに、確かめたいことがある。ジンの家にこの町の古い地図はある?」
リストはあくまで冷静だ。
普段はおちゃらけているが、こういう時に一番頼りになる。
「確か、ここらの土地を開発し始めた頃からの地図を残してるはず。街の開発も族長の務めだから」
3人はリストの提案で、一旦ジンの家に向かうことにした。
3人がジンの家に着くや否や、
父のダンに事情を説明し捜索隊の手配をしてくれた。
古い地図もありったけ持ってきてもらった。
ここら一帯の都市開発は先々代族長である
曾祖父が手がけた事業であり、
変化があるごとに地図に記している。
リストは、失踪事件の発生ポイントと新旧の地図を重ね合わせながら、
何やらぶつぶつつぶやいている。
僕は祈るような気持ちでそれを見つめている。
いつもうるさいフレンチも、さすがに静かだ。
ダンはそわそわしながら、
不要になった地図を片付けたりいじったりしている。
「やっぱりそうだ!旧下水道だ!失踪地点と旧下水道の位置が一致している。犯人は連れ去った後にここを移動しながら逃げたに違いない」
「でかしたぜリスト!やっぱりお前は頼りになるぜ」
リストとフレンチはハイタッチをして、
つかの間の喜びを分かち合う。
しかし、本当に肝心なのはここからだ。
「じゃあどうやってリンを探すんだ?旧下水道は入り組んでいて闇雲に探しても迷うだけだ」
「そこは、この俺に任せてくれ。いいアイディアがあるんだ」
「良いアイディアって?」
「おとり作戦だよ。おとり作戦!」
フレンチは、鼻をフンフンさせながら自慢げに話した。
ここまで読んでいただきありがとうございます!
皆様に楽しんでいただけるような作品に仕上げたいです!
ド素人のつたない文章ですが、ぜひ、皆様のご意見・ご感想をお聞かせください。
よろしくお願いします!