オルデンの魔法師② 調査開始!
ジン一行はベルの頼みである水質汚染の調査を引き受けた。
この国の部外者である彼らであれば、
国が管理する水源を調査するのに何かと都合がいい。
顔も割れていないし、最悪の場合、行方をくらますことだって容易だ。
リンを診療所に預け、調査はジンとフレンチ、リストの3人で行うことになった。
「よーし、とりあえず情報収集からだな」
フレンチはやる気満々だ。
「街の酒場から当たってみよう。こういう時の情報収集は酒場からって、相場が決まってる」
リストの提案で、一行は街で一番大きな酒場を訪れた。
しかし、そこはガランとしていて活気がない。
「マスター、ビール3つ」
ジンはとりあえず注文する。
「はいよ。お客さん珍しいね、旅の人かい?」
「まぁそんなところです。だいぶ空いているみたいだけど、何かあったの?」
「あぁ、最近の水質汚染の影響でね。ここはいつも地域住民のたまり場になっているんだが、みんな倒れちまってな。おかげで商売あがったりだよ」
ビンゴだ。
ここなら良い話を聞けそうだ。
ジンは質問を続ける。
「その水質汚染って、この居住区以外では起きていないの?」
「そうなんだよ。それがおかしいのさ。貴族どもが住んでる王宮周辺では問題ないらしい。住民からも水質改善の意見書を出してるんだが、現在調査中の一点張りよ」
「王宮は問題を見て見ぬふりしていると?」
「全くその通りだ。上のやつらは自分たちが良ければそれでいいのさ。下々の事なんか見向きもしねぇ。ただ、どうやらきなくせぇ噂もあるんだ」
「噂ってどんな?」
リストが食い気味で割り込んできた。
カウンターに身を乗り出しながら、興味津々で聞いている。
「あぁ。先日ラスナ湖の警備を行ってる軍人の家族が飲みに来たんだが、妙な事を話していたんだ。最近、息子が居なくなっちまったってよ」
「居なくなった?」
「それに、不自然な前触れもあったらしい。普段は全然問題ないんだが、仕事の話を振ると、自分が何をしているのか全く覚えてないらしいんだ。不自然にそこの記憶が飛んじまっているらしい。心配になって仕事を休むように言うんだが、出社時間になると『もういかなきゃ』なんて言って家を飛び出すらしい。まるで憑きものでも憑いてるみたいだってよ」
「それは妙だね」
リストは良い獲物を見つけたような目で活き活きとして言う。
こういう時は本当に楽しそうだ。
ちょっと不謹慎だぞ。
「それである日を境に、生気を失ったような顔になっちまったらしい。で、ある日、行方不明になったってよ」
「やっぱり、何かあるようだな。怪しすぎるぜ」
フレンチは鼻をフガフガさせながら息まいている。
「そうだな、行ってみるか、ラスナ湖に」
ジンたちはラスナ湖へと向かった。
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ジンたちがラスナ湖へ向かう頃、
ヴィーネは王宮内でオルデン王と面会に来ていた。
「お久しぶりです、ヴィーネ様。父の葬儀以来ですね」
「すまぬな、出迎えご苦労」
2人は応接間で向かい合い、会談を始めた。
ヴィーネはソファーに腰掛け、深く息を吐いた。
シャンデラとオルデン、アルヴァニア、
3国の行く末がこの会談で決まるかもしれないのだ。
オルデン王は若くして王位を継いだ、同国最強の魔法師である。
魔法王国オルデンの王位は世襲制である。
父である先代を若くして病で亡くした現オルデン王は、幼くして王位を継いでいる。
ヴィーネ女王とオルデン王一家は長い付き合いで、
初代王から現オルデン王まで3代に渡る。
ドワーフは長命のため、人族とは世代を超えた付き合いは珍しくない。
「ここへ来るのも5年ぶりくらいかの。シドのバカが八咫と戦争をしたせいで、テラ各国の交流はすっかり途絶えてしもうたわ」
ヴィーネはため息交じりに切り出した。
「全くです。しかも最近、ガルバンドには怪しい動きがあるようですし」
「やはりそちらも気付いておったか」
「アルヴァニア上空を帝国の飛空艇が飛行しているのを、わが国でも何度か確認しております。これは、確実な越境行為です」
「それだけではない。帝国は八咫の魔族を使って転生者の量産実験も始めておる。アルヴァニアと戦争を始める腹積もりじゃろう」
「なんと、そんなことまで。帝国はいったい、何を目的にそんなことを」
「そこまでは分からんが、我々としても、しかるべき対処をするべきじゃろう」
「もちろんです。互いに協力し、帝国に抗議しましょう」
ヴィーネは本題に入る前にソファーから身を乗り出した。
そして、威嚇するように言葉を吐く。
「ところで、そろそろオルデン王を呼んでくれぬか。大事な話があるのじゃが」
「何をおっしゃいますか?あなたの目の前にいるではありませんか」
「とぼけるでないは。妾にこの程度のごまかしが通じるとでも思ったか。オルデン王はどこじゃ。小物があまり出しゃばるでないぞ」
ヴィーネのヴォルテージが上がる。
目の前の人物を見透かすようににらみ、
応接間全体の空気がひりつく。
すると相手は目を見開き口角を上げ、不敵に笑う。
笑いを堪えるように右手で顔を隠しながら、
見抜かれたことがむしろ喜ばしいかのように高らかに笑う。
「あぁ傑作だ。さすがにヴィーネ女王を騙すことはできないか。久しぶりの再会を喜ぶこともできない」
「お主のように趣味の悪い人間と、付き合いはないはずじゃがな」
「相変わらず手厳しいな、お嬢は全く変わらない」
「ー!」
お嬢、その呼び方には心当たりがあった。
かつて、私に気安く、対等に、娘のように、愛情を込めて呼んでくれた。
その呼び方をする人は、今も昔もただ一人だ。
しかし、もう会えるわけがない。
彼は5年前に死んでいる。
「いったい、どういう、・・・!」
途端にヴィーネの体がグラつき、視界が霞む。
「これは・・・幻術・・・」
「相変わらず詰めが甘いな、お嬢」
「貴様、やはり・・・」
マナの気配を見せぬほど精細で高度な幻術。
こんなものを扱えるのは彼しかいない。
ヴィーネは薄れゆく意識の中、かつての友の姿を思い出していた。




