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オルデンの魔法師① 砂漠の町医者と闇の気配

はるか昔、テラの大地に神が降り立ち、人類を支配した。

神は己に似せて作った使いを監視役に置き、テラの大地を天蓋の中に閉じ込めた。

己の利のため、繁栄のために。


それから幾許もの時が過ぎ、人類がその支配の痛みさえも感じなくなってしまった頃、1人の男が反旗を翻す。


これは、真の自由と解放を求める、神殺しの物語。・・・に、不幸にも巻き込まれた魔族たちの物語。

壮絶な戦闘の後も、鮮血の女王ヴィーネはまだルンルンしていた。


久しぶりの命の駆け引きを存分に楽しみ、アドレナリンが出っぱなしのようだ。

まさか、魔族軍を壊滅させた転生者を、たった一人で倒してしまうとは。


見た目は可愛らしいロリッ娘だというのに。

ドワーフは見た目だけで判断してはいけない。


恐らく、戦神の加護とやらが、ヴィーネ女王に絶大な力を与えているのだろう。

だとすれば、その神とやらにぜひとも会ってみたい。

もしかしたら、リンを巣食う魔晶石を取り除いてくれるかもしれない。




ともあれ、ヴィーネ女王と転生者・バーサーカーとの戦闘以来、

みんなが女王を見る目がガラリと変わってしまった。


フレンチはヴィーネの従者のように従順な犬として仕えるようになり、

シッポを全力で振りながら嬉しそうにワンワン言っている。

反対に、リストは思いっきりビビってしまい、

ヴィーネが怖くなってしまったようだ。

あれ以来、目を合わせていない。


一方リンは、ヴィーネに対して憧れのまなざしを向けるようになった。

幼いころから鬼人族としてのあり方を叩きこまれ、

今なお日々稽古に明け暮れるリンが、初めて真の強さを目の当たりにした訳だ。


リンを始め、鬼人族は強くなること目的に生きているようなものだ。

彼女にとって、自分よりも小さな体格でありながら、

圧倒的な強さを持った女性に憧れを持つことはごく自然な事だろう。


妹のリンは馬車の中で、強さの秘訣やら戦い方やら、

ヴィーネに質問攻めしている。


仲良くなるのはいいけれど、強くなりすぎるのは、少し心配だ。

やっぱ、兄としては妹を守っていたい気持ちがある。

幼い訳ではないのだけど、いつまでも妹は妹だし。

守りがいは、残しておいてほしいものだ。




1日程度砂漠を走ると、オアシスが見えてきた。


砂漠の中とは思えない風景だ。

大きな湖と木々が広がっており、

今いる場所がどこなのか分からなくなるくらい自然が豊かだ。


湖のほとりにはヤシやオリーブの木があって、木陰で寝そべる人の姿もあった。


ようやく、ようやくオルデンに着いた。

これでリンの体を元に戻せるはずだ。

早くベルを探して、診てもらおう。

そうすれば、全て解決できるはず。




治療が終わったら八咫へ帰ろう。

今まで通り職場へ戻り、

マナ鉱石を掘って、

たまの休日には遊びに出かけ、

給料が入ったら美味しいものを食べに行く。


リンは学校へ戻り、

父とともに大好きな剣術の稽古に励む。


煩わしくも愛おしい、いつもと同じ日常を、

相も変わらず過ごすんだ。

ジンは人知れず心に決めた。




オアシスを抜けるとドデカい城壁が現れた。

巨大な石を切り出して積み重ねたような、強固な城壁。

外からでは、中の様子を全くもって見ることができない。

城壁沿いをぐるっと回って、ようやく門にたどり着く。


門の衛兵に町医者のベルに会う旨を伝えて手紙を見せる。

すると、衛兵は親切に診療所の場所を教えてくれた。

もう少しだ。


門から城壁をくぐると、市場が広がっていた。

行き交う人々や出店が軒を連ね、活気づいている。

異国情緒溢れる街並みと匂いに、一行のテンションが上がる。


フレンチは腹が減ったと言って、早速出店で串焼きを買っていた。

ちゃんとヴィーネ女王の分も買っていて、二人でホフホフ言いながら

美味しそうに食べている。

フレンチくんは完全にワンコである。


オルデンの人々は、褐色の肌に緑の瞳。

男性は頭にターバンを巻いていて、オシャレなひげを蓄えている。

口元の髭の両端をクルリと巻き上げている者や

ドワーフのように三つ編みをぶら下げている人もいる。

みんな、○○であ~る、とか言い出しそうな雰囲気だ。


女性はみな色とりどりのサリーに身を包み、

ベールで顔を隠している者もいた。

エキゾチックな雰囲気で、とても魅力的に感じる。




オルデンは魔道具発祥の地でもある。

街を照らす照明や調理器具、建設機材や医療機器に至るまで、

すべてはオルデンの魔法技術を応用させて作られている。


そのため、テラ中の商人が新たな技術や商品を求めて、ここオルデンへ集る。

街の市場は、今日も商人でごったがえしている。


旅の道中のサンドワーム対策には、傭兵を雇うのが鉄板だ。

危険を冒してまでオルデンへ来る理由が、ここにはある。

昔はオルデンから定期便が出ていたらしいが、人魔大戦以来、運行されていない。




活気があって、とても良い雰囲気の場所だ。

リンを治療している間、少し街を見て歩くのも良いかもしれない。




しかし、診療所へ向かう道中に気になる光景を見かけた。

街の奥へ進むにつれて、建物の影や路上で不自然に立ちすくむ人や寝そべる若者、

訳の分からない言葉で独り言を呟くおじさんを見かけるのだ。


それも一人や二人では無い。


フレンチいわく、何だか甘ったるい嫌な匂いがする、とのことだ。


街の雰囲気に少し違和感を感じつつ、ベルの診療所を探す。


「たぶん、この通りを抜けた先だ。」


大通りから一本入った脇道に、その診療所はあった。

診療所はかなり賑わっていて、患者が大勢押し寄せていた。

中の待合室だけでなく、外にも順番待ちらしき人がいるくらいだ。


何かあったのだろうか?


とにかく、会わないわけにはいかないので、ジンは人をかき分け受付へと向かう。


「ごめんください、ベルさんに会いたいんですが」

「診察ですか?今日はもういっぱいでして・・・」


ちょうどそのタイミングで、白衣を来た女性が出てきた。


「ベルさんですか?」


ジンははやる思いを抑えきれず声をかけた。


「そうだが・・・君は?」

「父の・・・ダンの紹介で来ました。妹を診てほしいんです。」

「ダンとは、懐かしい名前だな。ただ、見ての通り予約でいっぱいでね。診療時間外であれば少し時間もできる。それでもいいかな?」


なんとか約束を取り付けたジンは、ほっと胸をなでおろした。

一行は街をブラブラ歩きながら、時間まで待つことにした。




「それじゃあ妾はここで失礼する。オルデンの小僧に挨拶に行ってくる」


ヴィーネ女王は本来の目的を果たすため、オルデン王に会いに行くとのことだ。


ガルバンドが進める強兵と繰り返されるアルヴァニアへの越境行為。

これから始まるであろう戦争を防ぐため、

ヴィーネ女王は、ドワーフの国シャンデラと魔法王国オルデン、

そしてエルフの国アルヴァニアの3国軍事同盟を持ちかけるつもりだ。


この3国が軍事同盟を結べば、ガルバンドと言えども簡単に手は出せないだろう。

話し合いが上手くいけばよいのだが。




「ヴィーネ様、俺もお供します」


フレンチが迷わず申し出た。


「いいやフレンチよ、気持ちはありがたいが、今回ばかりは一人で行くよ。お主はリンのためにこの旅に同行したのじゃろ? であれば、最後まで任を全うせい。お主はいざという時役に立つ。リンのそばに居てやれ」

「ヴィーネ様がそうおっしゃるなら・・・」


フレンチは寂しい目をしながらヴィーネ女王を見送った。


あれだけ強ければ、ここで一人になっても問題ないはずだ。

フレンチは守りたい、というより一緒にいたいのだろう。

まるで恋する少年のようだ。

シッポと耳が、力なく垂れている。




ヴィーネ女王を見送った後、いい時間になったので一行は診療所へ戻る。

中へ入るとベルがひと息付いていた。


「改めて挨拶を。私の名前はベル・キャンベル。この小さな診療所をやってるしがない町医者だよ」

「僕はジン・キサラギです。ダンの息子です。父の紹介で八咫から来ました。彼女はリン。僕の妹です。向こうにいるのは友人のフレンチとリスト」

「どうぞよろしく。それで、どんな用件だい?」


リンは右腕をまくり、上腕に寄生する魔晶石をベルに見せ、これまでの経緯を説明した。


ガルバンドの研究施設に誘拐されたことや、

そこで受けた人体実験のこと。

現在は体に寄生した魔晶石のせいでマナ中毒を患い、

薬を飲んでいることを説明した。


「じゃあ、実際にこの魔晶石が寄生したところを見たわけでは無いのだね?」

「そうです。誘拐された時から兄に助けられるまで気を失っていたので」

「まさか、ガルバンドのシドが、こんなことをするなんてな・・・。まぁ、この結晶は魔晶石で間違えないだろう。しかもかなり純度が高い。薬を飲んでいるとはいえ、正気でいられるのが不思議なくらいだ」


ベルはリンの状況に驚きを隠せない様子だ。

「このレベルの魔晶石に触れながらマナに被爆し続ければ、普通はまともではいられない。」

「リンはそんなに危険な状況なんですか?」


ジンはたまらず質問を投げかける。


「あぁ。恐らく彼女はマナ適性が高いのだろう。通常、外環境からマナを体内に取り入れた場合、自身が持つ体内のマナと反発し合い、魔力暴走が起きる。これがマナ中毒の原因じゃ。異質なマナを体内に取り入れた時のある種の防衛機能ともいえる。しかし、リンの場合、それが軽度で済んでいる。魔晶石からのマナに体が順応し始めている証拠だろう」

「それって、大丈夫なんですか?」

「分からない。こんなものは初めて見るよ。ただ、この得体のしれない魔晶石をどうにかした方が良いのは間違いないだろう。摘出するか、もしくは無効化するか、だね」


ベルはリンの痛ましい魔晶石を観察しながら、淡々と事実を述べていく。


「もう少し調べてみないことには治療の方法が分からない。しかし、生憎いまは忙しくてね。患者の予約でいっぱいなんだ。まぁ旧友の好だ、ある条件を飲んでくれたら、時間外に観てやってもいいよ」

「条件って?」


ジンは慎重な面持ちで聞いてみる。


「君たちは、この国に来て違和感を感じなかったかい?」

「確かに、少し変な気はしたな。変に俯いたり、道端で寝転んでいる奴もいたし。それ甘ったるいような、変な匂いがした」


フレンチはオルデンに入国してからの違和感を話した。

どうやら、この気付きは正しかったらしい。


「いま、このオルデンでは深刻な水質汚染が発生している。汚染された水を飲んだもの、触れた者は、特定症状が現れるんだ」

「特定症状、ですか?」

「あぁ。軽度であれば、眩暈やふらつき、吐き気程度だ。人によって差はあるが、重度の患者には、意識混濁や痙攣といった神経症状が現れる。おそらく、体内のマナが異常を来しているためだ」

「道端で見かけた彼らの異変は、水質汚染による症状だったということですか」

「その通りだ。ここに来る人のほとんどがその患者だよ」


これまではリンの事で頭がいっぱいで、妹を救いたいばかりのジンであったが

ベルからオルデンの問題を聞くと、複雑な気持ちになった。


僕は求めてばかりではないか。

リンのためと言って、自分が安心したいだけではないか。

この世の中、苦しんでいる人は、たくさんいるんだ。




「そこで、君たちにお願いしたいことがある。この水質汚染の原因を調査してほしい。さらには解決までしてくれるとありがたい。」


ジンに断る理由は無かった。


「分かりました。ぜひ、やらせてください」


成功すれば、リンを助けられるだけでなく、オルデンの人も救うことができる。

恩返しの前借だと思えばいい。


「もちろん、調査してくれている間もリンちゃんの治療は続けていくよ。その点は安心してほしい」

「ありがとうございます。ちなみに、水質汚染について何か分かっていることはありませんか?」

「この国には3つの水源があって、全て王宮が管理している。怪しいのは北西に位置するラスナ湖水源だ。最も患者が集中している住民の居住区へ水を供給している水源だよ。ラスナ湖が、何らかの原因で汚染されている可能性が高い」

「じゃあ、さっそくラスナ湖を調査してみます」

「実際、話はそんなにシンプルではないんだ」

「どういうことですか」

「この水源は国が管理している。そして、王宮は水質汚染と王国民の被害について把握している」

「つまり・・・」

「この水質汚染は、人為的な思惑が絡んでいる可能性が高いんだ。最悪の場合、王宮そのものが絡んでくる」

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