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砂漠の女王⑦ 死線の先

はるか昔、テラの大地に神が降り立ち、人類を支配した。

神は己に似せて作った使いを監視役に置き、テラの大地を天蓋の中に閉じ込めた。

己の利のため、繁栄のために。


それから幾許もの時が過ぎ、人類がその支配の痛みさえも感じなくなってしまった頃、1人の男が反旗を翻す。


これは、真の自由と解放を求める、神殺しの物語。・・・に、不幸にも巻き込まれた魔族たちの物語。

肌が逆立つような、まとわりつくような殺気。

転生者、バーサーカーはヴィーネを認識し、

戦闘態勢を取る。


互いに間合いを見計らいながら、少しずつ、

距離を詰める。

バーサーカーがコンテナから降り立ったその時から、

すでに戦闘は始まっている。


視線が交差した瞬間、

この砂漠一帯がただならぬ緊張感に包まれる。


一挙手一投足が、死につながる。

一瞬の油断が、命取りだ。


バーサーカーが構える鋼鉄の棍棒は、

分厚い鉄板を引きちぎったような粗雑なものではあるが、

振れれば身を削られそうな禍々しさを醸し出している。


対して女王ヴィーネは、斧ひとつ。

互いに飛び道具は持たず、己の肉体と知力、

その性能が勝敗を決する。

灼熱の砂漠で、戦いの火ぶたが切って落とされた。




ヴィーネの斧は辺りの砂を巻き上げながら弧を描き、

バーサーカーに迫る。

鋼鉄の棍棒がこれに合わせて振り下ろされ、

衝突と同時に衝撃波が広がる。


戦場は、2人を中心に砂嵐を纏うかのようだ。


ヴィーネの鮮やかな連撃をものともせず、

バーサーカーは棍棒でこれを全て受けきっている。

互いに一歩も引かず、一つとしてかわすことなく、

力と力の衝突を味わうかのようだ。


斧と棍棒の衝撃音が、

この戦闘を鼓舞するかのようなリズムを刻む。

対格差は約1m。

身長が2m以上あるバーサーカーに対し、

ドワーフであるヴィーネは1m40㎝ほどだ。


この圧倒的不利を補うため、

鮮血の女王は可憐に宙を舞いながら斬撃を繰り出し、

相手の死角を付く。

バーサーカーが大振りになった一瞬の隙を計って、

ヴィーネは背後を取る。

振り向きざまにバーサーカーの左足に攻撃を加え、

体勢を崩す。

立て続けに棍棒を持つ右腕に追撃を加え、

ようやく有効打が入り、

バーサーカーの腕が宙を舞う。



-好機




攻撃手段を腕ごと失ったバーサーカーに対し、

嵐の如く乱撃を浴びせる。

あの一見小さくか弱そうなドワーフが、

背丈以上の大斧を曲芸の如く振り回し、

バーサーカーはなす術なく斬撃を浴び続ける。


防戦一方の木偶の棒と化した相手を

一方的に蹂躙するヴィーネの顔は、

愉悦にゆがんだ恍惚とした笑みで歪んでいく。


敵の命を掌で転がす感覚。

あと一歩で死たらしめる充足感。

女王ヴィーネの深紅のドレスが血をすすり、

鮮血に染まっていく。


その愉悦の最中、ヴィーネは変化に気付けなかった。


切り落としたはずの右腕の先端。

上腕の切り口に盛り上がった肉塊が、

泡のようにブクブクと膨れ、瞬時に伸びる。

伸びた肉塊は拳に成形され、次の瞬間、

爆発的速度でヴィーネの腹部を殴りつけた。


「なっ・・・!」




ヴィーネは砂の上で受け身を取り体勢を立て直すが、

まともに受けた強烈な一撃に、呼吸が止まる。


「超再生じゃと?やはり転生者は常軌を逸しておるの。であれば、こちらも奥の手じゃ」


ヴィーネの連撃でバーサーカーも体力を削られ、

すぐには動けない。

この隙にヴィーネは姿勢を正しながら呪文を唱える。




「我は暁の戦士にあらず。無明に飲まれ死を招く、終焉のごとき戦火なり」




体から溢れる闘気が火炎のように燃え上がり、

ヴィーネの体と斧を包む。

その姿はまさしく戦神そのものである。


「いざ、参る」


ヴィーネは砂上で烈火を纏いながら宙を舞う。

脚部に力を込め空中を蹴ると、

火球となって高速移動し瞬時に距離を詰める。


これにかろうじて反応したバーサーカーは、

鋼鉄の棍棒で応戦するが、

ヴィーネは動きに合わせて翻り、背後を取った。


瞬間、バーサーカーの背中は裂け、鮮血が噴き出す。


苦痛ににじむ唸り声とともに超再生が始まるが、

ヴィーネの追撃がそれを許さない。


再生を上回る速度で斬撃を加え、確実にバーサーカーの体を削いでいく。

斬撃から逃れようとバーサーカーは地面に棍棒を叩きつけ、

辺り一帯に砂の壁を巻き上げる。

距離を取り、体の欠損を再生しようとするが、

時すでに遅し。


「これで終わりじゃ」


ヴィーネはバーサーカーの胸にある魔晶石の結晶を斧で破壊した。

すると、バーサーカーの超再生の速度が鈍り始める。

この隙に、両手と両足を切り落とし、砂上へ叩きつける。


「超再生を連続で行うには、生命の根源であるマナが大量に必要なはず。であれば、マナの供給源である魔晶石を叩くまでじゃ。」


砂の上で蠢く肉塊となったバーサーカーに不敵な笑みを浮かべるヴィーネ。

相手の死を見下ろすように、目前へ歩み寄る。

体から吹き出る血液が、乾いた砂に吸い込まれていく。




「よう、クソダルマ、眺めはどうじゃ。妾に一撃入れたのは、お主で2人目じゃ。光栄に思うが良い。さて、聞こえるか?お主の終焉が」


砂の奥、砂海の深淵からこだまするように地獄の呼び声が響いた。

バーサーカーが流す鮮血に引き寄せられ、

サンドワームが近づいてきている。


「ようやく来よったわ。砂漠の主よ。ゲテモノの終わりにはちょうどいいじゃろ。砂漠に喰われて死ぬが良い」


ヴィーネはふわりと浮き上がりバーサーカーの元を離れていくと、

砂の底が割れ、サンドワームの巨大な口が現れた。


周囲の砂もろとも、肉塊とかした転生者が吸い込まれていく。

超再生が可能なバーサーカーと言えども、

サンドワームの腹の中では死を待つほかないだろう。

大きな体ごと砂の中に吸い込まれていき、

後にはすり鉢状に凹んだ地形のみが残った。

辺りには何事もなかったかのような静寂が訪れ、

耳には砂粒がぶつかる音のみが聞こえる。




「とんでもねぇものを見ちまったな、俺たち」


フレンチは感嘆の言葉を漏らした。


「あぁ、信じられない。転生者をこうも簡単に打ち倒すなんて。彼女が八咫の国にいてくれたら、僕たちの人生は変わってたのかもしれないね」


ジンも開いた口が塞がらない様子だ。

目の前で繰り広げられた圧巻の戦闘と、

その情報量を飲み込めない。

これが戦神の加護を受けた者の戦いであり、

闘争の本懐そのものであった。


リストはハトが豆鉄砲食らったように眼を丸くしている。

しばらく現実に帰ってきそうにない。


一方リンは、生まれて初めて目の当たりにした死合の迫力に圧倒され、

自身の鍛錬が如何にぬるく、

ただの”稽古”であったかを思い知った。


予測不能の展開や未知なる敵に対して、稽古場での鍛錬がどれほど役に立つことか。

それが悔しくて、不甲斐なくて、言葉が出ない。




「いやぁ、まあまあの手ごたえであったな。帝国もやりおるわい。さて、先に急ぐとするかの。しばらく奴らも追ってはこないじゃろう」


一行は、ヴィーネの余裕の様子にまたまたポカンとして、状況を飲み込めないままオルデンへと再出発した。

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