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砂漠の女王⑥ 転生者、襲来

はるか昔、テラの大地に神が降り立ち、人類を支配した。

神は己に似せて作った使いを監視役に置き、テラの大地を天蓋の中に閉じ込めた。

己の利のため、繁栄のために。


それから幾許もの時が過ぎ、人類がその支配の痛みさえも感じなくなってしまった頃、1人の男が反旗を翻す。


これは、真の自由と解放を求める、神殺しの物語。・・・に、不幸にも巻き込まれた魔族たちの物語。

ヴィーネが異形の転生者と戦闘を行っていたその頃、

ジンとリン、フレンチ、リストの4人は

第3区画と呼ばれる地下集会所へ避難していた。


地下には集会所の他、

いくつか避難できるスペースが存在しており、

ジン一行はその中でも大きな集会所に避難した。


このドワーフの国、シャンデラ内で戦闘が行われたのは史上初めての事であり、

集会所の中は緊張感で包まれた。

時折、上の階層から大きな炸裂音と衝撃が伝わり、

天井が揺れ、

細かい土くずが降ってきた。

戦闘の激しさが伝わる度、

集会所では小さな悲鳴とすすり泣く声がこぼれた。




上層からの音が聞こえなくなり、

あたりが静まり返ってからしばらくたった頃、

戦闘の終了を知らせる放送が流れた。


「戦闘終了につき第1種警戒態勢を解除。繰り返す。第1種警戒態勢を解除。衛兵の誘導に従い、順次第1、第2区画へお戻りください。引き続き南門は封鎖。一般市民の皆様は南門付近へは近寄らないようにお願いします。」


集会所内に安堵の声があふれる。

抱き合いながら喜びを分かち合う者もいた。


放送は続く。


「え~第3区画内にジン一行はおるかの?このあと宮殿の応接間まで来るように」


この声はヴィーネ女王だ。

女王から直々にお呼びがかかった。

こんな事件の後で、何のようだろうか。


「おい、女王様が会いたいってよ!どうするよ、緊張しちまうぜ」

「別にお前個人に会いたいわけじゃないだろ」


小さなしっぽをフリフリして喜んでいるフレンチを、リストが諫める。


「んなもん、行ってみないとわかんねぇだろ」


謁見の時も思ったけれど、

フレンチは小さな女性には眼が無いようだ。

しかし、ドワーフは長命であり、

実年齢よりも見た目がかなり若い。

フレンチ、外見に騙されてはいけないよ。




ジン一行は衛兵の案内で応接間へと向かった。

扉を開けて中に入ると、

上機嫌のヴィーネ女王が出迎えてくれた。


「いや~すまんのう、わざわざこんなところまで。さあさあかけてくれ」


心なしか、お肌もつやつやしているようで、

スッキリしているみたいだ。

あれだけ激しい戦闘の後だというのに。

いや、その戦闘の後だからこそか。


「呼び出したのは他でもない、お主ら、この後オルデンへ向かうじゃろ?その旅に妾も同行しようと思っての」


「私たちと、ですか?」


ジンは呆気にとられる。


「そうじゃ。旅はみちずれともいうしのう。人数も多い方が楽しかろう」

「もちろん、喜んでお供しましょう。女王様は私、鉄の人狼フレンチめがお守りいたします」


フレンチは眼をキラキラさせ、

しっぽを千切れそうなほど振りまくっている。


「女王様、私たちは帝国兵を手招くようなことはしておりません。警戒なさる必要はございません。ご安心ください」


口火を切ったのはリストであった。

彼は、不信感をあらわにしながら、

隠すことなく発言する。


確かに、一国の女王が、

ポッと出の魔族といきなり一緒に旅をしようなどというのは、あまりに不自然だ。

それを疑問に思ったようだ。


「ごらんの通り、フレンチは獣人です。これまでの道中は彼に追手の警戒を頼んでおりました。シャンデラへ入った際も、追手の気配は無かったとのことです」

「ふむ、なかなか察しの良いゴブリンじゃな。いかにも、妾は主らを疑っておる。少なくとも、きっかけになったことは確かじゃ。であれば、主らと一緒に行動すれば、何か分かるかもしれんと思った次第じゃ」

「一緒に来ていただければ、すぐに誤解も解けるでしょう」

「まぁそこまでつんけんせんでもよい。こちらとて、国内へ敵軍の侵入を許したのは初めてのことじゃ。その原因を知りたいだけじゃよ。むしろ、協力してほしい、というところじゃ」




翌日、ヴィーネ女王を含めたジン一行はオルデンへ向かうこととなった。


女王は側近を付けず単身で付いてくるという。

本人曰く「その方がおもしろそうだから」だとのことだ。

各々旅の支度を終えて、北門へ集合した。




オルデンは門から2日程の距離になる。

あと少しで、リンを治療する糸口が見つかるはずだ。

今のところ薬の効果が続いており、

マナ中毒の症状は出ていない。

早い所、オルデンへたどり着きたい。




北門には数名のドワーフがヴィーネ女王を見送りに来ていた。


「カルバ、妾が不在の間は頼んだぞ」

「お任せください。到着の頃までには、帝国兵ならびに異形の転生者の情報が出そろっていることでしょう」

「それは楽しみじゃ。外への警戒を緩める出ないぞ」

「はっ!御心配には及びません。必ずやシャンデラを守り抜いて見せます」


カルバはヴィーネの右腕として、

このドワーフの国、シャンデラの内政を担当している。

身長は150㎝程度のスマートな女性で、

ブロンドの髪を後ろで束ね、

切れ長の目とクールな顔だちをしている。


ヴィーネとは幼い頃から従者として付き従い、

女王となった今も彼女の元で尽くしている。

カルバの忠義に、ヴィーネは絶対の信頼を寄せている。




ドワーフたちから数日分の食糧や救急グッズ、

必要な装備を受け取り、

ジン一行は北門を出発した。

南門と同じように、大つり橋と曲がりくねった通路を抜けて地上へ向かっていく。

ドワーフからは砂漠越えのためにラクダを3頭借りている。


1頭は女王のため、

もう1頭はリンを乗せるため、

最後は各種物資を乗せるため。

男どもは基本歩きだ。


リストの怪我も、多少は痛むとのことだったが、

ほとんど完治している。

シャンデラの医療技術、様様である。

砂漠を歩く程度であれば、大丈夫だろう。


ただし問題は、残り二日間、オルデンへ到着するまで戦闘を回避することができるかどうかだ。


ティピカの砂砂漠には凶暴なサンドワームが潜んでいるし、

帝国の追撃の可能性もある。

幸い、戦闘狂と名高いヴィーネ女王が付き添ってくれるが、

警戒に越したことはないだろう。


最後まで気を引き締めて行こう。




地上へと続く最後の石門にたどり着くと、

ヴィーネが手をかざし、呪文を唱える。

ゴウゴウと岩が擦れる音を上げながら石門がゆっくり開いていく。

2日程度地下に居ただけなのに、地上が懐かしい。


天からのまぶしい日差しと生暖かい風、

乾いた砂の香りを全身で受けながら、

地上へ戻ったことを実感する。

目的地のオルデンはシャンデラの北東、

砂漠越えの始まりだ。




「ところでジン、お主、ダンのせがれか?」


歩き始めて少しした頃、ヴィーネがジンに話しかけた。


「ええ、そうですが・・・お知り合いで?」

「ああ、腐れ縁じゃ。ジンはダンの若いころに似ておるのう。なよなよしたところがそっくりじゃ」

「それは・・・あんまり嬉しくないですね。父とはどういったご関係だったのですか」

「妾とダンは域外調査団のメンバーだったのじゃ。あれは大変な任務じゃった。二度とやりとうない」

「域外調査とは?なんですか?」

「なんじゃ、聞いておらんのか?40年前にテラを襲った大飢饉を解消するために行われた域外調査に、ダンも参加しておったのじゃよ」




40年前の大飢饉は、教科書に載るレベルの大事件だ。

かつてのテラは争いもなく、

民族間のいざこざはあれど、平和そのものであった。

しかし、その一方である時期から

人口は指数関数的に増え始め、食糧難が起こったのだ。


これに合わせるかのように

麦や米に対する疫病がまん延し、大飢饉が発生した。


この大飢饉は、作物の疫病の終焉よりも早くに人口減少による食糧消費量の低下により終わりを見せた。

テラの黒歴史の一つである。


しかし、ジンたちにとって、域外調査の話は初耳だった。




「域外調査団は、新たな食糧資源を求めてテラ大陸の外、フロンティアを調査する事を目的に結成された組織じゃ。メンバーは各国から選抜された一芸に秀でた選りすぐりが集められた。そこに妾とダン、そして帝国の大悪党、シドもおったのじゃ」


テラの半分を戦火に包んだ人魔大戦の引き金を引いた、

ガルバンド帝国皇帝のシド。

そんな奴とダンに関りがあったとは、

ジンは思いもしなかった。

なぜ、話してくれなかったのだろうか。


「シドはもともと、穏やかな聖人のような奴じゃった。誰にでも分け隔てなく接し、自信を犠牲にしてまで仲間を救おうとするような、優しい奴じゃった」

「じゃあ、どうして大戦を起こすような暴挙に出たんでしょうか。聞いてる話と、だいぶ印象が違うような・・・」

「あぁ。シドは、とある事件をきっかけに調査にのめり込むようになった。あの時から、明らかに眼の色が変わってしまった。」

「事件ですか」

「シドは、ガルバンドのさらに北に位置する大雪原の調査チームじゃった。三回目の調査の際、天候不順によりメンバーが遭難しての。帰ってきたのはシド一人。シドが大雪原で何を見たのかは分からんが、その時から訳の分からぬ妄言や行動を起こすようになったのじゃ。みな、彼から離れてしまって、最後は彼がアルヴァニアに向かうと言って調査チームを抜けていったよ」

「シドがどんな経験をしたにせよ、戦争を起こしたことには違いありません。それだけでなく、転生者の量産と新しい戦争を起こそうとしている。奴はただの悪党ですよ」

「そうじゃな、そうなってしもうたな」


ヴィーネは寂しそうな眼をして砂漠の彼方を見つめた。まるで愛しい人の背中を見つめるように。




砂漠越え2日目。


ここまではサンドワームの襲撃もなく、

平穏そのものだった。

しかし、オルデンまでもう少しというところで異変が起こる。

最初に気付いたのはフレンチだ。




「ジン、北の空から何かが近づいてきている。これは、ヘリか?」


目視で確認できるようになるまで時間はかからなかった。

一機の軍用ヘリが北の上空からこちらへ向かってきている。

機体には帝国のエンブレムが刻まれていた。

よく見ると、黒鉄のコンテナをぶら下げているのが分かる。




「総員警戒。ジンとフレンチはリンとリストを守れ。私が前衛に立つ」


ヴィーネが指示を出し、ヘリの動向を見守る。

この広く遮蔽物の内砂漠の中では逃げる場所も無い。

迎え撃つほか選択肢はないのだ。


その距離が数十メートルに迫ったところで、

ヘリは上空からコンテナを落として帰っていった。


ヴィーネは一歩一歩警戒しながらコンテナへと近づくと、

白い冷気を噴き出しながら、コンテナの扉が開いた。

中から自動音声のようなものが聞こえる。


『第1拘束具解除、第2から第3拘束具まで解除確認。アルヒドラ投与・・・、覚醒確認。コードネーム:バーサーカー、起動確認。第4拘束具解除。』


重たい金属が落下する音が続き、コンテナの中から、それは出てきた。




褐色の肌に赤い瞳。

2m以上はあろうという長身に全身を鎧のように包む筋肉。

髪は長く乱れ、あたり一帯に鼻を着く薬品臭を放っている。

手には分厚い鉄板をそのまま千切ってきたような、

煩雑な鋼鉄の棍棒。

肩や背中には、青白く透き通った魔晶石が生えている。

シャンデラを襲撃した異形の量産型転生者とは、格の違う威圧感。

正真正銘、あの大戦を戦火に包んだ張本人の一人。


人型決戦戦術兵器、転生者だ。

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