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砂漠の女王⑤ ドワーフ最強の戦士

はるか昔、テラの大地に神が降り立ち、人類を支配した。

神は己に似せて作った使いを監視役に置き、テラの大地を天蓋の中に閉じ込めた。

己の利のため、繁栄のために。


それから幾許もの時が過ぎ、人類がその支配の痛みさえも感じなくなってしまった頃、1人の男が反旗を翻す。


これは、真の自由と解放を求める、神殺しの物語。・・・に、不幸にも巻き込まれた魔族たちの物語。

ジン一行がリストと再開したその頃、

南門でそれは起こった。




門の前には2人の衛兵が、背丈ほどの斧を持ち、

いつも通り警備に当たっていた。


怪我人を連れた魔族一行を街の中に入れ、

ひと息ついた後、

突如として岩陰から銃声が鳴り響く。


一人の衛兵が撃たれ、斧が力なく地面に倒れる音が鳴る。

前方を見ると、わずかにスコープの反射光が眼に映った。

衛兵は瞬時に身を屈め物陰に退避。

紙一重で銃弾を回避し、すぐさま通信を入れる。


「こちら南門!襲撃を受けている。対象の数は不明!大吊り橋の対岸より射撃あり。衛兵が一人撃たれた。応援を頼む!」




続く銃撃に身動きが取れない衛兵は、

仲間の救助へ行くことができない。

銃撃の度にはじけ飛ぶ岩肌。

立て続けに飛んでくる弾丸に、焦りが募る。

さらに、発砲音の合間に複数の足音が聞こえる。


人数にして一個小隊規模。

肩に帝国兵の腕章。

魔法陣により封じた地上の石門を突破し、

帝国兵が攻めてきたのだ。

生き残った衛兵の一人は覚悟を決める。


「敵に一個小隊の増援あり。敵兵は機動小銃とサーベルを装備。なかなか骨が折れそうだ。後は頼んだぞ」


通信が切れる。





衛兵は斧を握りしめ雄たけびをあげた後、

斧を盾に銃撃を防ぎながら突進する。

斧は数多の銃弾を浴びながらも、

猛猪の如く駆けていく。


帝国兵が間合いに入った瞬間、

斧を振り上げ、まずは一人。

体を撃たれてもなお勢いは衰えず、

敵小隊の隊列を乱していく。


斧は大きな弧を描きながら帝国兵を薙ぎ払い、

装備は砕け鉄くずと散っていく。

3人目を倒したところで、右足を撃たれ、

徐々に体力が削がれていく。


いくら屈強な戦死といえども、

これほどの数的不利を覆すのは困難この上ない状況だ。

命からがら、5人目を手にかけたところで、

ドワーフの増援が到着した。


「遅ぇぞ!手柄を独り占めしちまうところだったぜ!」




ドワーフの増援部隊が8名合流し、

南門前で交戦が開始。


帝国兵は中遠距離からの銃撃により

ドワーフの制圧にかかるが、彼らの勢いは止まらない。


銃弾の雨を意に介さない突進により

間合いを詰められ、あっという間に形成は逆転。

最新鋭の飛び道具は、ドワーフの卓越した練度の前には無意味であった。


帝国兵は次々と戦力を失い、

あるものは逃走を計る始末だ。


帝国兵の装備はタルタリア製の最新鋭の装備。

軽量でありながら殺傷能力の高い炸裂弾を装填した機動小銃に、ミスリル合金のプロテクトアーマー。


対してドワーフは身丈ほどの斧1つ。


小規模の戦場制圧に特化した装備と編成で仕掛けたこの戦いで、

帝国兵はこの戦況を予想できただろうか。

一個小隊の帝国兵が、

時代遅れのドワーフに蹂躙されていく。


しかし、ドワーフの圧勝が眼に見えたタイミングで、

戦場が異様な殺気に包まれる。




吊り橋の向こうに、異形の影が見えた。


ドワーフたちは、それを見るや否や戦慄し、

防御陣形を取る。




「橋を落とせ!」



すぐさま吊り橋を繋ぐ腕ほどの太さのあるロープを斧で切断し、橋を落とす。


対岸までは10m。

現れた奈落の底。

通常の生物であれば、この10mの奈落を飛び越えることはできないはずだ。


しかし、ドワーフは防御陣形を崩さず、

ただ一点、その異形を見つめる。


戦場ではあるはずのない、数秒の沈黙が流れる。

異形は、首をかしげながらドワーフの様子を見ている。




そして、小さく屈み、跳躍。




10mある奈落を悠々と飛び越え、

ドワーフの目前に着地する。


体長2m。

青白い肌にボロ布をまとい、隆々とした体躯のあちこちから、白濁の人口魔晶石が飛び出している。


眼は赤く充血し、

その人外の眼光は人としての姿を映してはいなかった。


量産型の転生者だ。

ドワーフたちは、その異形の次の動きを、

静かに見守った。




先に沈黙を破ったのは異形の方であった。


右の拳を振り上げながら、

ドワーフの防御陣形に突っ込んでいく。

これに合わせて先頭のドワーフが先陣を切る。


拳の一撃に合わせて斧を振り上げる。

ドワーフは拳を切り落とすつもりであったが、

はじかれた。


異形の拳は鋼鉄のように硬く、

ドワーフの斧が通らない。

しかし、呆気にとられることなく、

後方に控えるドワーフが次の一手に動く。


斧の衝撃でのけ反り、

あらわになった異形の腹部めがけ、

横から思い切り薙ぎ払いを打ち込む。


やはり刃は通らないが、手ごたえがあった上、

異形の動きが一瞬揺らいだ。


打撃は有効だ。


これを見るや否や、

残りのドワーフが一斉に打ち込みをかける。


しかし異形は、奇妙に体をくねらせ跳躍し、

その場を離脱。

脱兎の如く走り出し、南門まで猛スピードで迫っていく。


狙いは門への侵入で間違いない。


しかし、ドワーフたちは異形の存在に気を取られ

門から離れてしまっていた。

練度の高い戦士といえど、未知の異形と相対すれば、

そちらに注意が向いてしまう。


まんまとおびき寄せられた。

門を守るドワーフがいない。

残り数メートル。




異形の手が門にかかる瞬間。

天より閃光が走り、異形とともに地面を裂いた。




「待たせたな、凡夫ども。ここからは妾が引き受ける」




鮮血の女王、ヴィーネ・ヴァン・アストレア。


歴代最年少女王にして、ドワーフ最強の戦士。


ドワーフの中でも小柄な体格でありながら、

可憐な身のこなしと美しい斬撃で

戦場を乱舞する戦闘狂。


女王でありながら戦場を跋扈し、

血しぶきを上げながら踊り狂う様子から、

鮮血の女王と呼ばれている。


ドワーフの王は代々優れた戦闘能力を有し、

王位継承によりその力は受け継がれ、

戦神の加護を受ける。

その中でもヴィーネの強さは得意であり、

まさに神懸かっている。




「どうして量産型がここにおるんじゃ?格好の餌食じゃないか。バラシて調べつくしてくれるわ」


異形の転生者と相まみえるヴィーネ。

強敵との戦闘に心が躍り、不敵な笑みがこぼれる。


互いが相手の死を欲し、

自らの命を賭して、

たった一つの使命を遂げる。


逃げ場のない緊張感と交差する死線が、

高揚感を掻き立てる。


鮮血の女王にとって戦場は、

生を実感できる唯一の場所であった。


対するは量産型転生者。

能力は未知数。

予想の付かない不規則な動きと跳躍力を持ち、

皮膚は鋼鉄のように硬く刃は通らない。


相手にとって不足なし。




「退屈させてくれるなよ」


先に仕掛けたのはヴィーネだった。

足に力を込めると、音を置き去りにするほどの瞬速で

異形の転生者に迫る。


転生者は反応することができず、

横殴りの斬撃を右肩に受け、

2mもの長身が宙を舞った。


すかさず追撃に回るヴィーネ。


空中で無防備になった相手に

容赦なく斧を叩きつける。

地面にぶつかる衝撃で、

岩盤が球形にえぐれる。


起き上がる隙も与えず、

着地と同時に斧の鋭利な先端を腹部へと突き立てる。

転生者の体はくの字に折れ曲がり、

力なく地に伏した。


これだけの斬撃を受けてもなお、

量産型転生者の青白い体からは、体液1つ流れない。

それどころか、切られたトカゲのしっぽのように、

無造作にビクビク体を捩らせている。


異形の転生者の体がうねり、

流体のような動きを見せた瞬間、

腕が鞭のように伸びてヴィーネの体に巻きついた。




「まだ息があるのか、しつこい奴め」


伸びた腕にはところどころに小さな魔晶石が生えており、

ヴィーネの体に食いこみながら少しずつ皮膚を裂いていく。

蛇のように体に巻きつく腕の間から、

赤い血がにじむ。


痛みに悶え声を上げながら、

ヴィーネは異形の転生者とともに宙へ飛び上がり、

再度地面へ叩きつける。

その衝撃で腕はようやく外れ、間合いを取る。


足元に眼をやると、衛兵の斧が落ちていた。

それを拾い上げ、両手に斧を携えるヴィーネ。


良いことを思いついたとばかりに、

悪い笑みを浮かべる。


異形の転生者は起き上がり、

腕を鞭のように伸ばしながら、ヴィーネに襲い掛かる。


鞭の動きを読みながら、華麗に避け、

少しずつ間合いを詰めていく。

相手の攻撃を避けるその様は、

さながら演舞そのもの。


両手の斧は美しい弧を描き、

ヴィーネが纏う深紅のドレスは風に舞って揺れている。


ここが戦場であることを忘れるくらいに、

眼を奪われてしまう。


そして、異形の胴体がヴィーネの間合いに入った瞬間、演目は終わりを迎える。




両手の斧を交差させるように振りかぶり、

異形の首を目掛けて左右から同時に打ち付ける。


強烈な剪断力によるギロチン。


左右の斧の刃は火花を散らしながら重なり合い、

挟まれた異形の首は耐えきれず宙を舞った。


首が地面に転がった頃には、異形は動きを止め、

伸びた腕は力なく垂れ下がった。


決着、のように見えたがヴィーネは警戒を緩めない。

異形の転生者は立ち尽くしたままだからだ。

一向に倒れる気配がない。

首を跳ねてもなお、息があるというのか。


首の断面をよく見ると、水ぶくれのような水泡が生じている。


瞬間、水泡が異形の全身にブクブクと広がり、

体が膨れ上がっていく。

予感を感じ取ったヴィーネは、

斧で岩盤を切り裂き壁を作った。


異形の体は風船のように大きくなり、破裂。

体に生えていた魔晶石を散弾のようにまき散らす。

銃弾のように勢い付いた魔晶石は周囲に突き刺さる。

生身で受けていたら、重症ではすまなかったであろう。


最後に自爆で終わるとは。




戦闘が終わり、ヴィーネは通信を入れる。


「こちらヴィーネ。戦闘終了。息のある帝国兵は捕虜として情報を引き出せ。決して殺すんじゃないぞ。量産型転生者は体液と魔晶石を回収。形の残る部分は解剖と分析に回せ。それと、今回侵入を許した南門の分析を頼む。原因と対処を徹底するように」




各所に指示を出し、

その場を立ち去ろうとするヴィーネであったが、

今回の戦闘では腑に落ちない点が多く、

どうも居心地が悪い。


まず、なぜ帝国兵は侵入できたのだろうか。

南門に通ずる通路を守る石門は魔法陣により守られ、

鍵となる呪文を知らない限り開けることができない。


先の異形の転生者の力を持ってしても、

力で開けることは不可能だ。


また、魔族の一行がシャンデラに入った際、

帝国兵の存在はなかった。


侵入があれば、衛兵が気付いているはずだ。

どうやって石門を開けるための呪文を認識したというのか。


次に、今回の襲撃自体があっさりしすぎている。


シャンデラを落とすためであれば、

一個小隊と量産型転生者1体では不可能であることは、

馬鹿でも分かることだ。


襲撃の目的が分からない。


まるで、何か他に目的があるかのような気さえする。




ヴィーネが思考に耽る中、南門前の処理が始まる。

怪我を負ったドワーフ兵は優先して病院へ運ばれ、

息のある帝国兵は拘束された。

異形の転生者の死体は、運べる部分は持ち出され、

散らばった体液と魔晶石は回収されていった。


自爆した異形の転生者の残存物は、

解剖室に持ち込まれ、一部のドワーフ研究者のもとで

解剖と分析が行われた。




その時、臓物の中で、何かが蠢いた。

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