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砂漠の女王④ 女王の謁見

はるか昔、テラの大地に神が降り立ち、人類を支配した。

神は己に似せて作った使いを監視役に置き、テラの大地を天蓋の中に閉じ込めた。

己の利のため、繁栄のために。


それから幾許もの時が過ぎ、人類がその支配の痛みさえも感じなくなってしまった頃、1人の男が反旗を翻す。


これは、真の自由と解放を求める、神殺しの物語。・・・に、不幸にも巻き込まれた魔族たちの物語。

このテラと呼ばれる大陸には、6つの国がある。


北の雪原に広がる軍事国家、ガルバンド帝国。

南の亜熱帯森林には、魔族の国、八咫。

大陸の東を覆うティピカ砂漠のオアシスには

魔法大国オルデン。

その砂漠の地下には、ドワーフの都、シャンデラ。

大陸の西、温暖な気候を有する海岸沿いに、

科学立国タルタリア。


そして、テラ大陸の中央を走るハーネス山脈一帯は、エルフの国、アルヴァニアの領土である。




アルヴァニアの歴史は古く、一説にはこのテラ大陸が生まれた時には既に存在していたと言われている。


アルヴァニアに住むエルフたちは長命であり、

銀髪で長耳、緑の瞳と長い手足を持つ森の民だ。


彼らは歴史と純潔を重んじる一方で選民思想が強く、外界との接触を極端に拒んでいる。

特に混血のハーフエルフに対する差別が強いと聞く。


彼らは自らのことをテラの監視者と名乗り、この大陸で起きている事象の全てを記録しているのだという。




そんなアルヴァニアに対して、なぜ帝国が戦争を仕掛けようとしているのか。


「ヴィーネ女王、なぜ帝国がアルヴァニアと戦争をするって分かるのです?一見、接点が無いようですが・・・」


ジンは言葉を選びながら、女王に質問を投げる。


「3か月程前のことじゃ。アルヴァニアの森外れに住むハーフエルフどもが幽霊を見たと騒いでおっての。それも同時に複数個所で、幽霊の見た目も同じであった。さすがに不思議に思った我々も、半分興味本位で調査に乗り出したんじゃが、派遣した調査隊のひとつが見事にその幽霊に遭遇したのじゃ」

「どんな見た目だったのですか?」

「奇妙なほどに青白い肌でぼろ布をまとった人に近い生き物じゃった。そして体には白濁の魔晶石が生えておったよ」


ジンは耳を疑った。

魔晶石の生えた人に近い生き物。

帝国の地下研究所の廃棄エリアで見た

”検体”の末路と同じ見た目ではないか。


あの研究所であれを作っていたのだとすれば、

一歩間違えれば、

リンも同じ目に合っていたかも知れない。

考えるだけでゾッとする話だ。




「調査隊は遭遇したその幽霊から襲撃を受け、1名を残し命を落とした。我々は、調査隊を再度派遣し、死闘の果てにその幽霊の1体を討伐。幽霊の死体を検死したところ、体内からタルタリア製の生体チップが摘出されたのじゃ。さらに、かの転生者の体にも、魔晶石が寄生していると聞く。我々は、圧倒的な戦闘力とこの類似性から、その幽霊たちを量産型転生者と呼称しておる。」

「それで私を転生者と呼んだのですね」

「リン、その通りじゃ。あらぬ疑いをかけて悪かったのう。ただ、お主はその量産型になる一歩手前であったわけじゃ。今後の体の変化にはよくよく気を付けることじゃ」


ヴィーネの話は続く。


「さらにじゃ。それと同時期、帝国の巡視飛空艇がアルヴァニア上空でうろつくようにもなった。この明らかな越境行為と強兵に向けた動きは、戦争への備えとして考えるに十分じゃ」

「帝国の野郎、いったい何のためにこんなことを」


フレンチは憤る。

全くだ。

この小さな大陸で、

この小さな世界でこれ以上争って、

何の意味があるというのだ。


またあの惨劇を、別の国で繰り返すというのか。


「目的はまだわからん。だが、止めねばならぬ。八咫で起きたあの惨劇を繰り返してはならん。我々ドワーフはオルデンと手を組み、アルヴァニアに加勢するつもりじゃ。ここで帝国のアルヴァニアへの侵攻を食い止め抑止力を生むことは、我々にとって互いに意味のある事であろう」




女王の間での謁見を終え、

ジン一行はリストの様子を見に行くことにした。


「なんか、スゲー話聞いちまったな。俺たちどうなっちゃうわけよ」


フレンチはうわの空でぼやく。

まだ内容が腑に落ちてい無いようだ。


「どうにもならないさ。ただ、リンをオルデンにいるベルさんの所まで連れていく。それで治療が終わったら、また八咫に帰るだけさ」

「まあそうだな。俺らがこの戦争に加担するわけにはいかないし、何ができるってわけでもねぇしな」

「でも私、少し心配です。もしかしたら、今頃アルヴァニアの森をうろついていたかも知れないわけですし、今後、もしそうなってしまったら・・・」


リンは、肩を震わせる。


「大丈夫さ。僕が何とかしてやる。リンを転生者なんかにさせやしないよ」


何の根拠もない話だが、

そう言わないわけにはいかなかった。




ジンの心は不安に駆られていた。

この数日、たった数日で、

あっという間に人生が塗り替えられてしまったような気がする。


本当であれば、今頃マナ鉱山での仕事が終わり、

家に帰って晩御飯の支度をしているはずだ。


当たり前の日常が、

あれよあれよと遠のいていく。


それだけではない。

訳の分からないどこかの帝国とやらの悪だくみのせいで、

妹のリンが苦しんでいる。


体には忌々しい魔晶石が寄生し、

薬が無ければマナ中毒で立ってもいられない。

今だって、口には出さないがきっと苦しいはずだ。


オルデンに着いたところで、

リンを直せる保証なんか無い。

か細い可能性の糸を手繰り寄せるような旅路だ。

さらに、ここにきて戦争の気配だという。


もっと、自分を騙せるくらい、前向きな性格だったらいいのに。


ジンは胸は喪失感であふれた。




とぼとぼと歩いていくと、

リストの待つ病院に着いた。

病室に入ると、なんだか中が騒がしい。


「あ~ん。うわーこの果物美味しいっすね!食べたことない!ティピカ原産なんすか?」


リストはベットに座り、

ドワーフの看護婦に果物を食べさせてもらっていた。

なんだか打ち解けた雰囲気で楽しそうだ。

心なしか、リストと看護師がイチャイチャ気味に見える。


「なんだよ!めちゃくちゃ元気じゃねーか!心配したぞリスト~」


フレンチはリストに駆け寄り抱きしめた。


「痛い痛い痛い!傷が開くっての!」

「もう傷は問題ないのか?大丈夫か?」

「もうすっかり直してもらったよ。ドワーフの医療技術はすごいよ。あと1週間もあれば、完治しそうだし」


思ったよりもリストは元気そうで、

ジンは胸をなでおろした。

それと同時に、深く後悔した。

大切な友を危険に晒してしまったからだ。


これは普通の旅ではない。

実質僕たちは、

八咫の国を支配している帝国の研究所から検体を盗み出した訳だ。


帝国からの追手が来ることも予想できたことだし、

襲撃の準備や万が一の備えも考えておくべきだった。


今回は幸運が重なって、一命を取り留めてはいるが、

次に同じことが起きたら、どうなるか分からない。


できる限り準備をしてから、オルデンへ出発することにしよう。

オルデンへは残り約3日程度の距離だ。


ようやく折り返し地点。気を引き締めて進もう。




心の中で、決意を新たに出発を決意すると、

それを打ち壊すように警鐘が鳴り響いた。


このドワーフの巨大な地下空間に響き渡るほどの鐘の音だ。

連続する甲高い金属の衝撃音。

住む国が違えど、一瞬で理解できる。

体の芯が痺れるような緊張感。

非常事態に違いない。




「南門より侵入者!総員警戒態勢!非戦闘員は第3区画まで避難。これは訓練ではない。繰り返す、これは訓練ではない!」

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