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砂漠の女王② 鬼神、抜刀

はるか昔、テラの大地に神が降り立ち、人類を支配した。

神は己に似せて作った使いを監視役に置き、テラの大地を天蓋の中に閉じ込めた。

己の利のため、繁栄のために。


それから幾許もの時が過ぎ、人類がその支配の痛みさえも感じなくなってしまった頃、1人の男が反旗を翻す。


これは、真の自由と解放を求める、神殺しの物語。・・・に、不幸にも巻き込まれた魔族たちの物語。

馬は雄たけびをあげて、馬車が全速力で走り始める。

しかし、砂に足を取られて思うように速度が出ない。

車輪から砂を巻き上げながら、前へ、少しでも遠くへ急ぐ。




「まずい、出血が止まらない」


銃撃が続く中、

フレンチは馬車の中でリストの応急処置を行う。

銃弾は左肩の動脈を貫通しており、出血がひどい。


その間も、どこからともなく馬車は狙われる。

このままでは蜂の巣だ。

いったいどこから狙っているというのだ。




「くそっ。やるしかないか。フレンチ、ちょっと馬車を頼む」


ジンは、母の形見である短刀を手に取り、

馬車後方の縁に足をかけた。


居合の構えを取り、全神経を集中させる。

体内からマナを放出させ、

周囲半径5m以内の空間すべてを認識する。


間近に迫る銃弾、

乾いた空気、

馬車の下を通り抜ける砂の海原、

その砂の一粒一粒まで、

すべてを捕らえたその瞬間、鞘を開く。



居合一閃、空を裂く斬撃。



次に刀を鞘へ納めた瞬間には、馬車後方の砂が大きくえぐれ、

巨大な砂嵐のように空中へ舞い上がっていた。

地形が変わるほどの物量の砂が、壁のように持ち上がる。

馬車は砂の壁に隠れ、ようやく銃撃が止んだ。




「フレンチ、今のうちにあの岩山へ!洞窟があるみたいだ。姿を隠せるかもしれない」

「了解。さすが、かつて鬼神とよばれただけあるぜ」

「その二つ名はもう捨てたよ。いまはただのお兄ちゃんだ」

「おっおう」

「お兄さま、かっこいい所が台無しです」

「・・・おうふ」





鬼人族にとって、己の強さが何よりも重要な意味を持つ。


それは、彼らが古来より戦や要人の警護、傭兵を家業としてきた歴史的な背景によるものであり、

何よりも代えがたいアイデンティティでもあったからだ。


そんな鬼人族の中でも、最強に与えられる称号が、鬼神である。

鬼神になる条件は二つ。


一つは、現存する鬼神を倒し、実力を示すこと。

二つは、一族の総意を得ること。

異を唱える者に対しては、決闘にて事を決する。

鬼神が戦死等により不在の場合は、二つ目の条件のみが適用される。


ジンは、かつて鬼神であった。

幼いころから天賦の才を宿し、

物心ついた時には周りの誰よりも強かった。


刀に愛され、戦うために生まれ、正しく鬼神の如く強さを誇った。

そして、先代の鬼神であり剣聖と称された母を破り、その称号を受け継いだのだった。




ジンは、人魔大戦の時も両親と一緒に出陣するつもりであった。

しかし、両親はそれを良しとしなかった。


次世代のため、

今後の鬼人族を守るため、

ジンを八咫に残した。


大義名分はどうであれ、今となっては親の愛がそうさせたようにも思える。

叶うのであれば、両親とともに、剣神として戦場で死にたかった。

それが、武人として、鬼神としてのあるべき姿だ。


かつての失意が今もなお、ジンの刀への嫌悪と喪失感を駆り立てる。





超遠距離射撃による敵襲を巻いた一行は、岩山の洞窟に身をひそめた。

馬車がギリギリ入る程度の大きさで、一時しのぎには十分だった。

フレンチは、すぐにリストの応急処置に入った。


「出血がひどい。すぐに傷口を塞がないと。ジン、救急バッグを取ってくれ」


大急ぎで傷口の縫合に取り掛かる。

左肩の背面と胸部の2ヵ所。

銃弾は貫通しており、体内には残っていない。

しかし、縫合が終わったとしても、

これほどの出血であれば非常に危険な状態であることに間違いはない。


砂漠のど真ん中で、大切な仲間が撃たれ、成す術がない。

ジンとリンは、フレンチの処置を固唾をのんで見守った。




ふと物音がして、リンが後ろを振り向くと、

小人が岩の陰からこちらを覗いているではないか。


身長は1m程度でずんぐりむっくりしており、体毛が濃い。

3本角の生えたヘルメットをかぶっていて、興味津々のあどけない表情でこちらを覗いている。


「もしかして、ドワーフ?」


どうやらドワーフの子供のようだ。リンは小さなドワーフに話しかける。


「ここはあなたの洞窟なの?ドワーフさん、仲間の命が危ないの。お願い、助けて・・・!」


子供のドワーフはそれを聞くなり、姿を隠してしまった。

わずかな望みを失うわけには行かない。

ジンとリンはすぐに後を追いかけた。

すると、洞窟の奥から男の声が響いてくる。




「何だハルスケ、痛てぇからあんま引っ張るんじゃない。大事なひげが抜けちまうじゃろうが」


今度は大人のドワーフだ。

身長は130㎝程度とやはり小柄だがたくましく、無駄のない筋肉で全身が覆われているのが分かる。

立派な髭の三つ編みが、顎から2本ぶら下がっている。




「これはいったいどういう事だ?なんでこんなところに魔族がいる?」

「オルデンに向かう途中で襲われて、仲間が撃たれたんです。お願いです、助けてください。」


リンはすがるような気持ちで懇願する。

しかし、リンの右腕に寄生している人口魔晶石を見るや否や、

大人のドワーフは血相を変え、投げ斧を構えた。


「おい、鬼め。これは何の冗談だ。その腕の魔晶石。さてはお前、転生者だな。騙そうったってそうはいかんぞ」

「違う、リンが転生者の訳が無いだろう!そっちこそ何の冗談だよ!」


ジンがリンをかばう。




「リンは帝国の人体実験の被害に合って、その治療のためにオルデンを目指しているんだ。俺たちは魔族だぞ。むしろ転生者の被害者だ。リンは転生者なんかじゃない!」


大人のドワーフは出血しながら倒れるリストとリンを見ながら考えをめぐらせているようだ。

しかし、一刻も早くリストを治療しなければ、後がない。

この近くにドワーフの街があることは間違いない。何としても説得したい。




「転生者と疑うのであれば、私を拘束してください。牢屋に閉じ込めるなり、尋問するなり何でも受け入れます。その代わり、リストは、仲間だけは助けてください。」


「・・・であれば、条件を出そう。仲間のゴブリンは助けてやる。その代わり、鬼の女、お前は安全が確認できるまで拘束する。そして、我らの女王に会ってもらう。ドワーフ国の女王たる、ヴィーネ・ヴァン・アストレア様の御前で、その奇妙な魔晶石の情報を全て吐いてもらう」

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