序章
はるか昔、テラの大地に神が降り立ち、人類を支配した。
神は己に似せて作った使いを監視役に置き、テラの大地を天蓋の中に閉じ込めた。
己の利のため、繁栄のために。
それから幾許もの時が過ぎ、人類がその支配の痛みさえも感じなくなってしまった頃、1人の男が反旗を翻す。
これは、真の自由と解放を求める、神殺しの物語。・・・に、不幸にも巻き込まれた魔族たちの物語。
その日は朝からひどく冷え込んで、
突き刺すような寒気のする曇り空だった。
珍しく早く目が覚めたので、
厚着をして散歩に出かけた。
紅葉も終わり、冬の気配が濃くなった11月の終わり。
つかの間の平和を噛み締めながら、
戦地に出向いた両親に思いを馳せる。
先週から食糧が配給制になり、
前線から遠いこの街にも、少しづつ戦火の波が寄せつつある。
そんな最近ではあるが、戦況はこちらが優勢で、
終戦まで間近ではないかという噂も耳にした。
身内が戦地にいるという眼に見えぬ恐怖で足がすくむ思いだったが、
もうすぐ会えるかもしれない、
そんな期待で気持ちは少し軽くなった。
母が好きな山茶花の花を二つ摘んで家に帰る。
花弁が崩れないように片手で丁寧に持ち直し、玄関の扉を開けると、
軍服を着た男の目の前で、妹が泣き崩れていた。
両手で顔を覆い、大粒の涙を掌に浴びながら、
人目も気にせず泣き声を上げている。
男勝りで気が強く、
うるさいくらいに元気な妹からは想像もつかない姿に戸惑い、
かける声も失ってしまった。
軍服姿の男に眼をやると、
胸にいくつもの勲章を付け、
ひげを蓄え眼鏡をかけ、
いかにもエリート軍人であった。
そんな人が、何の用だろうか。
「お母様が、戦死されました」
訃報であった。
その言葉の通りであった。
耳に入ってもすぐには理解できず、意識が宙を舞った。
もうすぐ会えると、期待していたのに。
戦況は優勢だと聞いていたのに。
何人もの戦士が戦場へ行ったというのに、
なぜ、母なのだ。
そんな話をいきなりされても信じるわけがないだろう。
それに、うちの母が死ぬわけがない。
我が家は代々剣術に優れた血統であり、
その中でも母は剣聖と呼ばれるほどに優れた才能を持った剣士であった。
状況を飲み込むことができず、現実と想像の区別が曖昧になっていく。
視界の奥で、妹の震える肩がぼやけていった。
「帝国軍が新たな戦術兵器を投入し、戦況は一変しました。お母さまは仲間を逃がすために前線に残り、そのまま消息が立たれました」
「じゃあ、生きているかもしれないという事じゃないか。何をそんな深刻そうな顔してるんだよ。探しに行けばいいじゃねぇかよ」
「消息が立たれてから1週間が経過しました。生存の確率は極めて低い状況です。捜索隊の編成は、危険が伴うため行うことができません。我が軍としては、これ以上の犠牲を出すわけにはいかないのです。残念でなりません」
「お前の感想を聞きたいんじゃない。確かな証拠もなく、状況的に死んでいますじゃ話にならねぇんだよ!」
僕は軍人に詰め寄る。
別の可能性を、異なる事実を、
こいつの口から引っ張り出すために。
「お兄さま、もうやめて・・・」
消えそうなほど、か細い声で、
妹が口を開いた。
その瞬間に何も考えられなくなり、
体の力が抜けていった。
視線を落としたその先に、2輪の山茶花が転がっていた。
母に届けるつもりであった、彼女の好きな花。
母の訃報から2週間後、我が国は帝国に降伏を宣言した。
柔らかな白が舞い踊る、初雪の日であった。
ここまで読んでいただきありがとうございます!
皆様に楽しんでいただけるような作品に仕上げたいです!
ド素人のつたない文章ですが、ぜひ、皆様のご意見・ご感想をお聞かせください。
よろしくお願いします!