第7話 能力強化訓練
放課後…
多くの生徒が帰宅や部活の練習のため廊下を移動する中、利音は日常となった戦徒会の訓練のため演習場へ足を運ばせていた。演習場は地下にあるため1階からまた階段で下に降る。地下に部室を持つ部活は少ないので周りを歩く生徒も少なくなり、先程までの騒がしい話し声は徐々に聞こえなくなっていった。
利音(なんで噂になってんのかな…確かに結構頑張ったけど先輩方に比べれば全然だし)
利音「う〜ん」
利音が悩みながら歩いているといつのまにか演習場の前まで来ていた。ガラガラと音を立てながら扉を開けると中には地下とも思えない程広い空間が広がっていた。
利音(そういや今更思ったけどこの部屋クッソ広いよな…絶対階段で下がった高さよりも天井高い気がするんだけd)
???「やあ、如月君」
演習場に入った利音の背後から落ち着いた綺麗な声が響いた。いきなり名前を呼ばれたためビクッと反応しながら後ろに振り向くと一人の男子生徒が立っていた。彼の靴の模様は青色、つまり2年生の生徒で利音の先輩だった。
利音「霜月先輩でしたか。驚かせないでくださいよ」
利音に話しかけてきた生徒は戦徒会2年生の霜月知弥だった。
知弥「ごめんね。驚かせるつもりはなかったんだけどね」
利音「それで、何か用があったから話しかけてきたんじゃないですか?」
知弥「察しがいいねその通りだよ。それで話なんだけど、今日からいつもの基礎訓練に加えて能力の訓練も行うからそのことを伝えてくれって三嶋先輩から言われたんだ」
利音「能力の訓練?」
利音はきょとんとした表情でそう口にする。
知弥「そう、能力向上訓練。この訓練は戦徒会員として活動するなら絶対に必要なことだから集中して真面目に受けないとだめだぞ」
真面目な顔でそう言った知弥に対して利音も「わかりました」と答える。
そして二人は荷物を更衣室に置き体操服に着替えてから演習場に戻り、知弥は別室の射撃場に向かった。一人になってしまった利音は演習場の倉庫から木刀を取り出し、いつも通りの素振りを始める。利音が素振りをしている間に他の戦徒会員の生徒も演習場に集まり始め、その中には翔や千里の姿もあった。
利音が数十回程の素振りを終え翔や千里と話していると
裕生「1年全員集合ーー!」
演習場に大きな声が響き渡り、1年の生徒達は声を発した裕生の近くへと集まった。
裕生「よし、全員いるな。何人かは聞いたかもしれないが今日から能力向上訓練を行っていく。今後、戦徒会員として活動するならやらなくてはいけない訓練だから真面目に取り組むように。それじゃあ、各々に訓練の詳細や1年生としての目標が書かれたプリントを配るからその後はそのプリントに書かれている内容で訓練してくれ」
1年生達「はい!」
1年生達はプリントを受け取るとそれぞれがある程度の距離を取りながら能力を発動させて訓練を始めていった。
利音「さて、俺の訓練はっと」
利音も周りの生徒と距離を取って自分のプリントを確認すると、『人形師匠の全モードレベル40を相手にして無傷で破壊できるようになるまで剣の技術習得』と書いてあった。他にも訓練の詳細などがびっしりと書いてあった。
利音「人形師匠…レベル…40⁉︎」
プリントの内容を確認した利音は次第に顔が暗くなっていく。
人形師匠とは全国の戦徒会員の戦闘技術の習得及び向上のために作られた戦闘訓練用の高性能ロボットのことだ。このロボットには国に記録されているあらゆる武術が記憶されており、その技術を再現する機能も搭載されている。利音が戦闘時に刀を振れたのもこの機械で訓練をしたからであった。そしてこのロボットにはレベル別の実践訓練モードがある。利音ももちろんそのモードで訓練したことがあるが勝利できたのはレベル20までであった。その上、まともに戦闘できたのはレベル15まででそれ以降のレベルでは運も関わった勝利だった。
利音(レベル20ですらかなりきついってのに40って嘘だろ…)
利音「まあでも、やってみるしかないか」
そう言って利音は体育館にあるような床にある小さな蓋を開けて、中にあった赤いスイッチを押す。すると目の前の床が開いて下から等身大の藁人形のようなものが床と共に迫り上がってきた。
利音「それじゃあまずは前回ギリギリだったレベル15でやるか」
利音は人形師匠の胸の辺りにあるダイアルを15に合わせて押し込む。すると内部の機械が起動してモーターなどの駆動音が聞こえ始める。
人形師匠「剣術訓練レベル15が設定されました。1分後に実践訓練を開始します」
人形師匠に取り付けられたスピーカーから電子的で生身の人間の声とはまた違った声が発せられる。
利音「ふう……」
深呼吸をしてから腕や足を伸ばして体を動きやすくする。そして腰のベルトに添えた刀を鞘から抜いて柄を両手でしっかりと握って目の前の人形師匠に向けて構える。
人形師匠「残り10秒…9…8…7……」
開始のカウントが10秒を切ると人形師匠の右手部分に刀が出現し、右手でしっかりと掴まれる。
人形師匠「3…2…1…開始!」
その声が聞こえた瞬間、人形師匠の足が動き出し利音に向かって突撃してくる。そして利音が刀の攻撃範囲内に入るまで近づくと頭より高く構えられた刀が振り下ろされる。
利音「ふっ…」
利音は振り下ろされた刀を軽く横に避けながら人形師匠の足に蹴りを入れる。突撃の勢いと蹴りによってバランスが崩れて地面に倒れ込む。
利音はすぐに無防備となった首に向かって刀を振り下ろす。しかし人形師匠は刀を持ち上げてその攻撃を防いだ。ガキンッ!と大きな金属音が鳴り響き二つの刃は動きを止め、お互いが力を込めて刀を押し込もうとする。ジリジリと刀同士から金属の擦れれ鈍くて不快な音が鳴る。利音が力を込めて刀を押し込むと人形師匠も同じ程度の力で押し返してくる。
利音(くそっ…無理か…)
そう思い込んだ利音は押し返される刀の力を利用しながら後ろに勢いよく跳んで距離を取った。人形師匠も立ち上がって刀を構え直す。
利音(やっぱ力押しだけじゃ勝てないか…なら)
今度は利音が勢いよく地面を踏み込んで人形師匠との距離を詰める。人形師匠は真正面から近づいてきた利音を見て居合の構えを取る。そして利音は人形師匠の間合いまで近づく。利音が間合いに入った瞬間、人形師匠は勢いよく刀を横薙ぎに振り抜いたが、利音は高速で迫ってきた刀を姿勢を低くしてギリギリで避ける。
利音(よしっ! ここだ!)
そして刀を振った勢いのままの人形師匠の右腕に向けて利音は刀を振るい、利音の刀は人形師匠の藁で覆われた機械の腕を斬り落とした。
利音「よしっ!」
斬り落とされた右腕がガシャンと音を立てて地面に落ち、人形師匠の体はさらに態勢が崩れて地面に倒れた。利音は地面に倒れた人形師匠の頭に刀を突き立てて完全に止めを刺した。
人形師匠「生命維持不可能なダメージを負いました。実践訓練を終了します」
機械的な音声が人形師匠の中から流れて機械の動きが完全に停止した。
緊張が解けた利音は地面に座り込み息を整える。
利音「ふう…レベル15でこれか…40なんて絶対やばいだろ」
裕生「やあ、なんだか苦労しているようだね」
疲れて地面に座っている利音にコツコツと足音を立てながら裕生が近づいてきていた。
利音「ああ、裕生先輩。そうなんですよ。目標ではレベル40の人形師匠に無傷で勝たなきゃいけないのに今はまだレベル15にすら苦戦してこの様です」
裕生「うーん。利音はこの訓練の意図、というか目的をちゃんと理解しているか?」
利音「この訓練の目的? たしか能力の向上でしたっけ?」
裕生「その通り。この訓練はあくまでも能力の向上がメインの訓練だ。だから本来なら能力を使用して訓練しなきゃいけないんだが」
そう言って裕生は破壊された人形師匠の方に視線を向ける。
裕生(1年の春の時点で人形師匠レベル15……しかも能力無しの身体強化だけで……本当なら身体強化の影響で普段と感覚が違うからまともに動くのにも苦労するはずなんだけど)
裕生「とりあえず、配ったプリント見せてくれないか」
利音「えっ? 先輩は内容知らないんですか?」
裕生「一通り確認はしてるけど、実際にメニューを考えたのは啓だし、流石に20人全員のメニューを覚えるのは無理だよ」
利音「確かにそっか」
裕生は利音から訓練の内容が書かれたプリントを受け取り内容に目を通す。
裕生「なるほど大体わかった。多分利音はまだ自分の能力のことをしっかりと理解できてないんじゃないかな」
裕生が言ったことはかなり的を得ていた。実際に利音は自身の能力についてまだほとんど理解していることが無く、理解していたのは姉が言った一言の呟きだけだった。
利音(能力を……理解する)
利音「確かに俺、まだ全然能力について理解してない」
裕生「まあでも、君のこの能力は理解するのにはちょっと時間がかかるかもな。……………本当は自分の力で気づいた方がいいんだけど、アドバイスするなら君の能力の本質、”技術”とは何だと思う?」
裕生の問いに対して、利音は口を閉ざして考え込む。そして十数秒が経ち利音の中で一つの結論へと至る。
利音「人が何かを行うのに必要なこと…かな」
裕生「なかなか深い答えが出てきたね。ならその技術そのものとも言える君の能力は何ができると思う?」
利音「どんな技術を扱うことができる…とか?」
裕生「その通り、それが君の能力の基礎的な部分だ。じゃあここからは実際に能力を使う訓練をしようか」
裕生が手を広げるとバチバチと電気の弾けるような音がしながら何も無かった手元にタブレット端末が出現した。裕生がそのタブレット端末を操作すると、利音の立っているタイルの隣のタイルが開き、先程まで訓練で使っていたのとは少し外見が違う人形師匠と藁でできた打ち込み台が上がってきた。
裕生「この人形師匠は剣術や柔術、他にも様々な武術の再現ができるようになっている。君にはそれを見てもらい、再現できるようになってもらう」
利音「でも、能力の発動なんてどうやればいいのか」
裕生「能力の発動は色んな方法があるけど、大体はイメージによるものだ。君の場合は頭の中で人形師匠が武術を使っているのを思い浮かべればいい。君の能力なら細かいところは補完してくれるはずだ」
そう言うと、裕生は手元のタブレットを操作して人形師匠に指示を出す。すると人形師匠は右手で刀を低く構え、そして前方に強く踏み込みながら刀を振り、打ち込み台の左脇から右肩までを斬り裂いた。そしてその勢いを体の捻りで保ちながら打ち込み台の左肩に向けて刀を振り下ろした。二回の斬撃によって打ち込み台は胴体にバツ印のように跡が残っていたが、藁の繊維がすぐにその跡を修復して元の状態に戻った。
裕生「さて、手本は見せた。早速訓練を始めようか」
利音「えっ⁉︎ もう始めるんですか⁉︎ あんな動きすぐには無理ですよ」
裕生「大丈夫大丈夫、細かいところは能力が補完してくれるから。じゃあ、構えろ」
空気が変わった気がした。裕生の睨むとはまた違う観察するような鋭い視線が利音を襲い、一瞬体が強張った。冷や汗が少し流れ、すぐに気持ちを切り替えて刀を構え集中する。
裕生「さっきの人形師匠の動きをイメージしろ。鮮明でなくてもいい、どのように体が動いて刀を振ったのかを想像するんだ」
利音「・・・」
利音(さっきの動き……強く踏み込んで二回の斬撃を繰り出すイメージ…)
利音は先ほどの人形師匠の動きを頭の中で映像のようにイメージする。すると
利音「!!!」
なんだか体が軽くなった気がした。今ならば先ほどの動きができるという自信が心の底から込み上げてくる。そして
利音「はあ!!」
利音の足が地面を強く踏み込み一瞬で打ち込み台との距離を詰める。そして、踏み込みの勢いを乗せたまま刀を振るう。利音の刀は打ち込み台の左脇から右肩までを斬り裂く。振るわれた刀は勢いを止めることなくそのまま打ち込み台の左肩から右脇に向けて振り下ろされた。
利音「でき…た?」
普段の訓練では味わったことのないような感覚に興奮や疲労を感じている利音の耳にパチパチと拍手の音が聞こえてくる。
裕生「まさかこんなにすぐ出来るなんてね。でもこれで能力を使う感覚はわかっただろ?」
利音「はい、さっき能力を発動させた時に感じた出来るっていう自信、そしてその自身に身を任せて体を動かす感覚、なんとなくわかった気がします」
裕生「そう、その感覚が大切だ。見てイメージし再現する、それらの工程が君の能力の基礎であり、これからの応用に繋がっていくんだ。でもまずは応用に入る前に基礎から手数を増やしていこうね」
利音「手数?」
その後、利音は戦徒会の訓練時間が終わる夕方まで永遠と人形師匠の動きを見させられてはその動きの再現をさせられた。
次回は1/21(明日)の22時に投稿します。




