第18話 タッグバトル(1)
訓練場に着いた利音達はいつもなら更衣室で訓練用の体操服に着替えるところだが、今回はより実戦を意識した訓練ということで制服による身体強化状態での訓練となった。
戦徒会の活動は命が掛かっているということもあり本来は常に実戦を意識して制服で訓練するべきなのかもしれないが、あくまでも戦徒会は学生の活動、その上ある意味運動に関係がある活動ということなので普段は体操服でやる方が都合がいいのだろう。
戦徒会員の制服は普通の生徒とは違う特別製で作られている。具体的に言うと各種耐性、防水・防炎・防塵・防刃etc、そして武器や予備の弾薬、応急処置用のキットなどを入れておける内蔵の空間ストレージ、最後に最も重要な身体強化だ。だが、常に武器を携帯したり身体強化が発動し続けていると学校生活で不便なことも多数ある。そのため戦徒会制服は個人で設定した特定の動作で普通の制服と切り替わることが出来る。
利音は制服の手首辺りにあるボタンを捻り制服を戦徒会用の物へと切り替える。その瞬間、左腕には戦徒会員を示す腕章が出現し、腰のベルトには主力武器である刀が鞘に納められた状態で出現した。そして、最後に一つ、ホルスターと共に一丁にハンドガンがベルトの後ろ側に出現した。
利音は左手を後ろに回してホルスターに収められたハンドガンを掴んで抜く。
(知弥先輩を真似て装備にハンドガンを追加してみたけど、やっぱまだ慣れないな。今まで両手で刀を握って振っていたのをいきなり片手で振るスタイルに変えたし当然と言えば当然だけど)
利音は適当に置いてあった的に向かって左腕を伸ばしハンドガンを構える。そしてリアサイトとフロントサイトをしっかりと合わせて狙いを定めてから引き金を引いた。
──カチッ
しかし、弾が込められていないハンドガンは引き金を引いてもハンマーが起きる金属音を虚しく響かせるだけだった。
「まぁ、マガジンは入れてないんだけどね」
「おっ、お待たせしました。って、何してるんですか?」
「いや、別に待ってないよ。ちょっと暇だったから練習してただけ」
「そうですか」
利音に話しかけてきたのはペアの琴葉だった。
流石にスカートのまま戦うのは恥ずかしいということで戦徒会制服はスラックスにする女子は結構多い。魔物との戦闘でかなり激しく動くのだから尚更だ。琴葉もその一人だったらしく、スカートではなくスラックスに加えてスラックスに似合うように少し改造されたセーラー服を装備していた。そして手にはその身の丈に合わない程銃身の長い狙撃銃があった。
「それが新島さんの武器?」
「はい、名前は覚えてないんですけど戦徒会で正式採用されている銃らしいです」
「なるほど、俺の近距離と新島さんの遠距離、結構バランスは良いのかな」
「そうかもしれませんね」
利音と琴葉がそんな話をしていると訓練場の放送設備から直人の声が響いた。周りの生徒たちがその声に耳を傾けるのを見て、利音と琴葉も話を止めてその放送に集中した。
『あーあー聞こえてる? 聞こえてるっぽいね。じゃあこれからタッグ別討伐タイムアタックを始めるよ。ルールは簡単、タッグでこちらの指定する魔物を討伐してもらい、討伐に掛かった時間で競うよ。因みに魔物はこっちで用意した奴だから死ぬ危険性は無いけど油断したら普通に怪我するからくれぐれも油断しないように』
直人の説明が終わると利音達一年生は裕生に集められて訓練場の一角にあるシミュレーションルームに集合していた。
シミュレーションルームはとある民間の会社が作り上げた世紀の大発明と言っても過言ではない代物だ。なんと現在存在が確認されている魔物をほぼ全て実体のあるホログラムとして出現させ実際に戦闘訓練ができるのだ。さらに、中は空間系の能力で見た目以上に拡張されており訓練の内容に合わせて広さや環境を自由に変えることができると言う。むしろこんな代物が大発明と言われなければ何も大発明とは言われないだろう。しかも、一つ手に入れるだけで東京のど真ん中にビルを押し除けた上で大豪邸を建てられる程掛かるこの代物を海百合中は5つも保有している。ある程度実力がある学校で国から支援を受けているとは言えとんでもない支援である。それだけ期待されているとも言い換えられるが。
「地形設定は市街地、討伐対象は歩行型ランダム2体と飛行型ランダム1体。ランダムとは言え基本的に難易度に差異は無いようこちらで調整するから安心してくれ。それで、何か質問がある人はいる?」
「はい! あります!」
裕生の言葉に対して大きな声で返したのは翔の隣で話を聞いていた千里だった。
「タイムアタックって言ってましたが時間以外でも何か得点要素とかはあるんですか? あとこれで順位付けとかされるんですか?」
「いい質問だね。その通り時間以外にも得点要素は存在する。それは単純な個の実力とチームワークだ。その評価は僕と才賀先生で行う。公平に評価するから後で文句言ったりしないように。あと順位についてだったね、もちろん順位付けはするし発表もする。ただし大事なのはペアと個人両方で順位が付けられるということだ」
「ペアと、個人……」
「ペアの順位によって今回の防衛戦での配置などが決まる」
「じゃあ個人は?」
「今後卒業まで記録され続けるランキングの最初の順位になるね。これはかなり重要なことだよ。前にも言った通り戦徒会は実力主義、2年3年と学年が上がるたびに順位が低い生徒は退会になってしまう」
裕生のその言葉に利音たち1年生が身を震わせる。戦徒会に入る生徒はほとんどが各々何か目的を持っていることが多い。金を稼ぐ為、街を魔物から守る為、ただ単純に魔物と戦いたいが為、命懸けな戦闘なのでむしろ利音のようになんとなくで入る生徒などの方が少ないのである。そのように各々が目的を持っているのだ、退会という言葉に恐怖するのは当然とも言える。
「僕たち3年生も元々は14人いたのに今では8人まで減っちゃったよ」
「2年間で6人も……」
「さて、重い話はここら辺にしておいて、早速試験を始めようか。丁度シミュレーションルームは5部屋全部空いてるっぽいし5ペアずつ次々やっていくよ。1年のペアは10組あるらしいし前半後半に分かれてやっていこう」
それから裕生の指示通り1年のペア10組は前半後半に分かれ利音と琴葉のペアは前半、翔と千里のペアは後半になった。
「んじゃ、行ってくるよ」
「それでは、行ってきますね」
「おう、頑張ってこいよな」
「2人とも頑張ってね〜!」
翔と千里に背中を押されながら利音と琴葉はシミュレーションルームの中に入っていく。
白い扉を潜り抜けて2人の視界に映ったのはまるで地下の室内とは思えない光景だった。視界に映ったのは住宅街、行ったことは無いはずなのにどこか既視感を感じる程ありきたりな風景だが、造られた仮想の世界的な違和感は感じられない。頭上の空に浮かぶ太陽からはほんのりと熱を感じるほどに完成度の高い空間だ。
「凄いな、先に説明されてなきゃ人工的に造られた空間だなんてわからないぞ」
「そうですね、とても細かい部分まで完成度が高いです」
「んで、裕生先輩によると入ったらすぐに魔物が出現するらしいけど。──っと、あれか」
利音が言葉にした瞬間、2人の視線の先30m程離れた位置に2体の魔物とその頭上に1体の空飛ぶ魔物が出現した。
「オークが2体、それに加えてあれは……アーマークロウか」
(オークは前に何度か戦ったことあるし2体同時とはいえ多分平気かな。問題はアーマークロウの方だ。飛んでるから刀で攻撃できない。新島さんに任せるしかないかな)
「新島さんは──」
「わかっています。アーマークロウの方は私が、如月君はオークの方をお願いします」
「──っ! わかった。じゃあ任せたよ」
利音の言葉を遮るように横から入ってきた琴葉はまるで利音の思考を読んだかのように利音の考えと同じことを口にした。そして、その言葉に応えるように利音は腰に刺さった鞘から刀を抜いて目の前の敵へと走り始めた。
どうも―。如月ケイです。
新年最初の投稿です。本当なら昨日投稿する予定だったんですが完全に熟睡してましたすみません。
というわけで、今年も執筆活動頑張っていきたいと思います。それと同時に即売会での活動も頑張っていきたいと思います。
ではでは~。




