第17話 防衛線はあなたと
2人1組、人によってはその単語を聞くだけでダメージを受ける人もいるだろう。利音もかつてはそのような性格だった、しかし。
(俺は中学生になって成長したんだ、クラスメイトに自分から話しかけられるようになったし友達も何人か作れた。そう、今の俺ならぼっちになることなんて)
そう心の中で意気込んでから利音は近くに座っていた亮と哉太に声を掛ける。
「なぁ、防衛戦のペア俺と組まないか?」
「あっごめん俺もう決まっちまった」
「俺もすまん、こいつと組むからよ」
内心で「早っ」と思いつつ頼みの綱であるクラスメイトが候補からいなくなったことに利音は絶望する。
そして利音がせめて誰か話しかけやすそうな人をと教室を見渡した瞬間、ふと視界の隅に1人の女子生徒が映った。その女子生徒はペア作りのためにほとんどの生徒が席を立っている中1人静かに席に座っていた。
(あれは、確か新島さんだったかな、女子の顔と名前まだ正確に憶えられてないんだよな。周りに人いないしまだ組んでないのかな。女子に声をかけるのはまだ慣れないし一生慣れる気がしないけど、今は勇気を振り絞って話しかけるしかないか)
そう考えながら利音は席を立って教室後方、新島の座っている席に向かう。この騒がしい教室の中で驚くほど微動だにしない新島の姿を利音は少し不思議に思いながら声をかける。
「えっと、確か新島さんだったよね。2人組のやつもう決まってますか?」
「……」
利音の質問に対して返ってきたのは静寂だった。2人の間に独特な空気が生まれる。
(えっ……無視? もしかして嫌われてる? でも俺と新島さんに接点なんて無かったし話すのも初めてのはずなんだけどなぁ)
頭の中でそんなことを考えながら利音は新島にもう一度声を掛ける。しかし、またしても返事は返ってこなかった。もしかしたら何らかの影響で自分に気づいてないんじゃないかという可能性まで考え始めて利音は新島の肩に手をポンと置いた。その瞬間。
「ひゃいっ!」
「あっ、気づいた」
新島は悲鳴染みた声を上げ、体全身をビクッと震わせながら利音の方に顔を向けた。
「どっ……どうしましたか? 何か用ですか?」
「用はあるんだけど、それより大丈夫? 反応無かったけど体調でも悪かった?」
「いえ、あの……2人1組と聞いてちょっと放心状態に……」
「わかる、めっちゃわかるわ。段々と組む人がいなくなって最後に自分だけ残るのとか辛いよね」
利音の発言に共感したのか新島はコクコクと頷く。
「あっそれで、2人1組の件ですけど、本当に……私で良いんですか?」
「うん、俺から尋ねた側だしね。新島さんが良ければ組んでくれないかな」
「私で良ければ……お願いします」
そして返事を聞いた利音は空いていた隣の席に座って琴葉と話し始めた。
「そういえばお互いに自己紹介とかしてなかったね。俺はD組の如月利音。よろしく」
「A組の新島琴葉です。よろしくお願いします」
互いに自己紹介を終えると静寂が訪れる。両者とも初対面であり趣味嗜好なども全くわからない状態のためある意味それは必然であった。
そんな気まずい状況を最初に崩したのは直人の言葉だった。
「さて、全員ペアが決まったようだね。面倒なことにならなくて本当によかったよ。ではこれから防衛線での作戦、というか戦略を説明します」
直人の言葉で教室で話していた生徒全員が前を向く。
防衛線での戦略と聞いてテキトーな姿勢で聞こうとする人はおらず、全員が真面目な顔で直人の話に耳を傾けていた。
「ペアを組んでもらったのにはもちろん理由がある。それはお互いがお互いを守れるからだ。なるべく近接と中遠距離で組んでもらったのもお互いが倒しやすい敵を担当して戦うためだ。中遠距離が飛んでいる魔物を、近接は中遠距離に近づく魔物を、とこんな感じでね」
直人は手や指を駆使して生徒達にわかりやすく説明しようと努力していた。利音は黒板を使えばいいのではないか頭の中で思ったが口にはせずに直人の説明を真面目に聞いていた。
拙くとも細かい直人の説明は利音にはまだわかりやすいものだった。利音がふと隣の席を見ると分からない所もありそうだが何とかして理解しようと頑張っている琴葉の姿があった。
「新島さん大丈夫? 何かわからない所でもあった?」
「ううん、平気だよ。自分の中で理解は一応したから」
緊張するな~。女子に話しかけるのって本当に慣れないな。
利音が琴葉との接し方に気を悩んでいる間に直人の座学講座は終了し、実践訓練を行う流れになった。
教室から訓練室に戻る途中、琴葉と廊下を歩いていると翔が利音に話しかけてきた。
「おっす利音……って、えぇ⁉︎」
「利音君が女子と一緒に……いる?」
「そんなに俺が女子と一緒にいるのが珍しいか。いじられたくないから先に言っておくけど防衛戦のペアだからな。決して付き合ってるとかそう言う訳じゃないぞ」
「珍しいと言うか」
「「女子に話しかける勇気あったんだぁ」」
「あるわ!」
「ふふっ」
そんなギャグのようなやり取りに、2人が現れた時から利音の背中に隠れていた琴葉も思わず笑い声を上げてしまう。失礼と思ったのかすぐに口を手で塞ぐも他3人の視線は琴葉に向けられていた。そして恥ずかしがった琴葉は利音の背中にまた隠れてしまう。だが、隠れるには少し遅すぎた。
既に翔と千里、特に千里の興味は琴葉の方へと向けられていた。すぐに千里は利音の背中へと回り込む。翔も千里の動きを察したのか千里とは反対側から利音の背中へと回り込み逃げ道の退路を塞いだ。
「あっあわわっ」
「お前らなぁ、新島さんが怖がってるじゃねぇか」
「いやいや分かってないね利音君。琴葉ちゃんはすぐに逃げちゃうからね。こうでもしないと」
「そうやって詰めるから逃げるんだろ。ってか千里は新島さんのこと知ってたの?」
「ん? むしろ利音君は知らなかったの? 話したことはなくても顔くらいは見たことあるでしょ?」
「いや全く、新島さんって有名人だったりするの?」
「ううん、だってここ4人小学校同じじゃん」
「「え?」」
千里の言葉に対して反応したのは利音だけでなく琴葉もだった。千里の衝撃発言に唖然としながらも利音はすぐに頭を回転させて記憶を掘り起こす。
「確かに君たち2人が同じクラスになったの見たことないわ」
「待って……ああっ! 思い出した。確かに学年行事の時とかに見たことあるかも」
「わ……私も、思い出しました」
同じクラスになったことがないという情報から学年全員が参加する行事などに絞って記憶を振り返ると案外すぐに思い出すことが出来た。同じように考えたのか琴葉もすぐに利音の存在を思い出した様子。
「お前ら2人とも内気な性格だしな。クラス同じにならなかったら関わり全くないのも頷けるわ」
「さて、互いの関係を知ったところで、実は前から琴葉ちゃんとは話してみたかったんだ〜。でもいつもすぐ逃げちゃうからね~今回は逃がさないよ。ほら、翔はそっち塞いで」
「はいはい、もう塞いでるよ」
千里の無茶な要求に翔は文句一つ無く応える。逃げ場を完全に失った琴葉は「ヒィッ」と利音の制服にしがみ付きながら縮こまってしまった。
その瞬間、震えている琴葉を今にも捕まえに掛かろうとしている千里を止めたのは顧問の直人だった。
「いや、お前ら何してんだよ。イチャイチャしてないでとっとと訓練場行くぞ~」
「「「「……はい」」」」
4人は返事をしてからとぼとぼと訓練場へ歩いて行った。幸い千里も反省したのかその途中で琴葉を襲おうとはしなかった。しかし、琴葉は恐怖がまだ抜けていなかったのか道中ずっと利音の制服の裾を掴んでいた。
どうも~如月ケイです。
というわけで約一か月ぶりの更新です。何かとリアルで忙しいことが重なり続けて書く時間が全然取れませんでした。
さて、今回の話を読んでいただければわかるかもしれませんがまた文章の雰囲気が変わりました。完全に屍人荘の殺人を読んだ影響が出てます。これからはこんな感じで書くと思います。
というわけで次は宣伝をします。今回のコミックマーケット107に受かりまして前回に続いて短編小説を書きました。タイトルは『毒花の道標』。学校をテーマにした短編小説が二遍収録されております。今回も相方と書いた合同誌となっております。詳細はXの方で宣伝したりしてるのでそちらのフォローなどよろしくお願いします。もし少しでも気になる様子でしたら会場を回り終わって暇になった時にでもサークルを訪れてみてください。スペースは2日目水曜西ホールみ18aです。
それではまた次回をお楽しみに。
ではでは~。




