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海百合中戦徒会活動記録  作者: 如月ケイ
第三章 2022船深侵攻編
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第16話 戦いの前は座学から

 太陽が沈み夕日が空を焦がす夕暮れ時、戦徒会の放課後訓練を終えた利音、翔、千里の3人は少しずつ慣れてきた帰路を歩いていた。


「そういえば、来週って確か防衛戦があるよな」


 それは翔の何気ない一言だった。防衛戦、それは利音もよく知っている世界の常識だ。

 1年に一度存在する異世界とこの世界が繋がりやすくなる日、通称『暗い祝日(ブラックホリデイ)』。この日だけは世界中で異世界生物による被害が発生し、普段1つの地域に5つほど発生するゲートも倍以上に発生する。この世界と異世界が繋がった能力事件から数年はこの日にかなりの被害が出ていたが定期的であり発生日時が特定できるようになってからは被害が激減した。今では対策手段も増えて一般人の被害者はほぼ0になった。


「そっか、そんな時期か」

「今までは守られる側だったけど今年からは私たちが守る側なんだね!」

「ああ、雑魚モンスターも大量発生するらしいしここで大量に狩ってお金をガッポガッポ稼ぐチャンスだな!」


 戦徒会特別給与、戦徒会員は命懸けで異世界の生物と戦うのだ、もちろんそれに見合った対価が国から支給される。日本では基本的に中学生が働いて自らお金を稼ぐことは難しいためこの給与目当てで戦徒会に入る生徒も少なくはない。


 俺も正直金目当てじゃないといえば嘘になるんだよな……。一番大きな理由は翔に誘われたからだけど、二割くらいは金が理由なんだよな。


「でも、まずはしっかりと生き残らないとね。金を貰えても生きてなきゃ使えないんだから」

「「は〜い」」


 翌週……


「さて、みんな先生から伝えられたと思うけど今日から防衛戦準備期間に入る。防衛戦本番は今週の金曜日、それまでの間は毎日訓練があるから頑張っていこうか」


 訓練場に集められた戦徒会員達の前で啓はそう言った。反応はボチボチ、頑張るぞと意気込む者もいればめんどくさいな〜と言葉を溢す者もいた。利音も毎日訓練があると聞いていい気分ではなかった。


「さて、ここからは僕が指示を出すよ」


 啓に変わって前に立ったのは裕生だ。こういう感じの集会ではほとんどの場合裕生が指示を出したり司会を行っているため誰も裕生が前に出たことに驚かなかった。


「2、3年生はいつも通りの訓練に加えて防衛戦用の特別訓練も行ってもらう。それで、1年はこれから……座学の時間だよ」

「はい?」


 思わず声が出ちゃった、座学……座学か……座学ね〜、内容が気になる。戦徒会の座学だし普通の内容ではないんだろうけど何だろうな。魔物の生態とか戦闘技術とかなのかな。


 そんなことを考えながら利音達1年生は裕生に指示された通り筆記用具を持って教室に向かった。

 教室に着いた利音達は特に座席などは指定されていなかったので各々が仲のいいグループやクラス毎に集まって席に着いた。

 利音は翔と千里の近くに座ろうと思ったが、2人共クラスメイトの生徒と話していたので利音もクラスメイトの近くに堅まって座ることにした。

 裕生が先生を呼んでくると言って教室を出てから数分、することも無く暇だった利音は哉太や亮の輪に加わって談笑していた。しかし、廊下からこちらに近づいてくる足音が聞こえた瞬間、教室内の話し声も自然と少なくなっていった。

 ガラガラと扉を開けて教室に入ってきたのは裕生ともう1人、制服ではなく運動用のスポーツウェアを身に纏った男性だった。

 

「では才賀(さいが)先生、あとはお願いします」

「はいはい、面倒くさいけど仕方ないね」


 裕生に才賀先生と呼ばれたこの気怠げな態度の教師を利音達海百合中の戦徒会員は全員知っている。海百合中戦徒会顧問の才賀直人(さいがなおと)だ。


 俺あんまり才賀先生好きじゃないんだよな。訓練の時もふざけてる人とかサボってる人は軽く注意するだけで怒ったりしないし、訓練なんだからもっとしっかりして欲しいってのが本音。風の噂で、元々軍所属で規律に厳しい厳格な人って聞いたけど、今まで見てきた姿や態度からはそんなの感じられないな。


「では授業を始める。今回説明するのは防衛戦の概要、学校の防衛設備、そして……生き残り方だ。今までの歴史とかそういうややこしいものは無い、紙は配るから適当に話を聞いて黒板の内容を写しておいて」


 そして授業は始まった。

 最初の内容は防衛戦の概要、暗い祝日についての説明などだった、しかしそれは利音達にとって常識的な内容だったのでそこまで時間は掛からずに終わった。


「次に説明するのは学校の防衛設備についてだ。知ってる人もいると思うが海百合中は避難場所に設定されていて防衛戦時には海百合中を囲むように壁が展開される。高さ6m、厚さ2mに加え『不変』が付与された壁だ、まず壊されることは無い。それと一定間隔で機銃が配置してある。これは主に射撃能力が高い生徒が臨時で使う用だ、最近は使う機会が無くなってきているから今回も使うことは無いんじゃないかな。まぁこのように基本的に防衛設備はスナイパーやマシンガンナー用だから近接組はあんまり関係ないな」


 防衛戦時に壁が展開されるのは知っていた、でもいつも避難したらすぐに地下のシェルターに入ってたから見たことは無いんだよな。

 今回俺はシェルターで守られる側じゃない、地上で魔物達と戦う側だ。しっかりとその事実を自覚して取り組まないとな。大丈夫、ゴブリンやオーク程度なら数が多くたって何とかなるはず……。


「さて、最後は一番重要な生き残り方だ。先に言っておく、防衛戦での魔物の出現数は少なくてもこの前起きた事件の10倍以上だ。被害件数がかなり減ったとは言え、油断すれば大人数が平気で死ぬような数が襲って来る」


 その言葉に教室にいた全員が息を呑む。説明が始まる前の意気揚々とした雰囲気などは存在せず全員が直人の説明を真剣に聞いていた。


「それで作戦だが、海百合中の防衛戦は基本的に二つの班に別れて行われる。防壁外で魔物の殲滅を行う遊撃班、校舎屋上で主に空を飛んで壁を越えてきた魔物を撃退する防衛班の二つだ。まぁ、聞いてわかる通り、遊撃班のほうが危険だな、でも基本的に1年生は防衛班の方に配置されるから安心してほしい」


 教室に広がっていた重い雰囲気が少し和らいだ気がした。しかし、その言葉を聞いても利音の心に余裕が生まれることはなかった。


 "基本的には"、つまり何か例外的な状況なら遊撃班に配置される可能性もあるってことか。銃や魔法をメインに戦う人はおそらくそんな状況にはならないだろう、だが剣はどうだ? 超近接でしか攻撃は当たらず飛行する敵に対して攻撃するのは難しい。間違いなく防衛には不向きな武器だ。


「今の話を聞いて顔が曇ったね~如月君?」

「へ?」


 突然自分の苗字を呼ばれた利音は思いがけない指名に素っ頓狂な声を上げてしまった。そのせいか一瞬頭の中が真っ白になるが利音はすぐに直人の言葉に耳を傾けた。そして直人は少しニヤついた表情を浮かべたまま話を続ける。


「剣などの近接武器がメインの生徒は例外的に危険な遊撃班に入れられる可能性がある。そんなことを考えていたかい?」

「……! はい……」

「いい着眼点だ。そういう些細なことに疑問を感じ、思考できる生徒はこれからもっと強くなれるよ。では、その疑問に答えるついでに君達には少し酷な事かもしれませんが……」


 教室に一気に緊張感が広がる。利音の頬からも汗が流れる。張り詰めた緊張の中、直人は口を開いてこう告げる。


「2人1組を作ってください、因みになるべく近接武器の生徒は遠距離攻撃が可能な生徒と組んでね。大丈夫、この教室の生徒は偶数人、あぶれるなんてことは……きっと無い……と思いたい!」

どうも~如月ケイです。

11月の投稿遅くなって申し訳ありませんでした。これからも少し用事が多いため投稿頻度がまた減る可能性がありますが頑張りたいと思います。

そんでもってなんと次回の冬コミ、コミックマーケット107になんとサークル参加することが決定しました! 今回も新作の短編を持っていくつもりです。自分の書く文を気に入ってくださる方はぜひ二日目水曜日西み18aにお越しください。以上宣伝でした。

さて、では今回から第3章2022船深戦線編が開幕です。頑張って今年中に書き終われたらいいなと思っています。ちなみに1章2章よりも長くなる可能性があります。では今後も本作品をお楽しみください。

ではでは~。

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