第11話 先輩は扱き使え
後書きにてちょっとお知らせがあります。
視点 知弥
ふむ、なかなかいい動きだ。
虚空騎士と戦闘を開始してから数分。戦闘中に利音を観察していて出た結論だ。
今回2年生の戦徒会員にはあるミッションが裕生先輩から下されている。それは、1年生の手助け、そして観察だ。
自分も去年は見られる側だったと思うと少し恥ずかしいが、これはかなり大事なことだ。なんせ、戦徒会は敵の命を奪い市民を守るのが使命。命を奪うと言うことは当然自分の命も危険にさらされる。だからこそ実力が無い、力が発揮できない、そんな人はすぐに名簿から除名される。俺の友達も何人かそれで除名された。それほどまでに戦徒会とは実力主義なのだ。
さて、利音の観察に戻ろう。先程思った通りなかなかいい動きをしている。訓練を真面目にやっている典型的なタイプだ。言いたいことがあるとすれば少し型に囚われ過ぎているぐらいかな。でもそれはかなり大きな欠点だ。
能力を交えた戦闘になると型なんかほとんど意味をなさなくなる。そこで必要なのは想像力。どのように攻撃し敵を倒すか、それを臨機応変に考えなければ戦闘なんて出来ない。
それにしてもさっきの利音の行動にはヒヤッとしたな。利音にとってかなり重い攻撃だったのにまさか受け止めた上弾くなんて。冷静な子かと思ってたからそのチャレンジ精神には本当に驚かされた。
とりあえず観察を続けようか。危なくなったら助けられるしね。
視点 利音
まずは距離を取ろう。流石に敵の目の前に居続けるのはまずい。未知の相手と戦うなら10m程の距離を保って戦う。これも訓練の時に先輩から教えられたことだ。普段の身体能力で武器が刀などの近接武器なら10mは長いと感じるだろう。でも制服による身体強化があるなら10mなんて1歩で詰められる距離だ。視覚的には長いと感じるが間合いで見れば長いとは感じない。
鳩尾斬ったんだし流石にダメージ入って欲しい。血が流れないし悶絶する様子も無いからちょっと不安。というかなんか先輩全然攻撃しないな。正直俺だと余裕持って攻撃受けられないし攻撃しないならタンク役変わって欲しいんだが。
そろそろ文句が口から出そうになった瞬間、またバチバチっと電流の流れるような音が鳴った。
見れば虚空騎士の手元に剣が出現していた。先程弾いた剣はまだ地面に刺さっている。
利音「剣は何本でもあるってことか」
武器を破壊することも考えていたがあまり効果はなさそうだ。でも武器を新しく出すのにも数秒程時間が掛かっていたし、武器を手放させるのは一応少しは効果があるのかも。それに武器が無限に出せるとも限らない。「何本でもある」とは言ったが流石に無限に出せたら質量とかそういうのがやばい気がするし、ってことは考えられるのは2つかな。
1つ目。剣をどこからか転移させて自身の手元に召喚している可能性。これの場合多分予備は多くても十数本と考えていいかもしれない。
2つ目。能力や魔法で剣を作っている可能性。正直この可能性が一番高いと思ってる。この場合、能力ならわからないが魔法なら魔力の限界がある。虚空騎士の魔力量は知らないけどAランクの魔物ってことは少なくはないだろう。
めんどくさいのは2の可能性、でもその可能性の方がかなり高いんだよな。そういうのは魔法適性が高ければ目で魔力の流れとかを見て判断できるらしいけど、俺は魔力適正が低い。強い魔力なら見えるけど物体を作り出す程度の魔力は見えないから判断ができない。
利音「きついな。どう戦えばいいのか全然わからない」
裕生『どうやら苦戦しているようだね』
突然耳に付けた通信機から声が聞こえてきた。
利音「裕生先輩? いきなりどうしたんですか個人で通信してきて」
裕生『見てたらなんか苦戦してそうだったからね。てなわけでヒントほしい?』
利音「ぶっちゃけ知弥先輩がもっと攻撃すればなんか終わりそうな気はするんですが」
裕生『あっ……それは、その~なんかごめんなさい』
利音「何で裕生先輩が謝るんですか。それより討伐のヒントくれるんですか?」
裕生『もちろん。じゃあ言うね。虚空騎士の弱点はほぼ心臓の位置にある核。それを破壊すれば討伐できるよ』
利音「核……なるほど。わかりました。やってみます」
確かにしっかりと観察してみればちょうど人体で言う心臓の位置、覆われている布の切れ目から金属のようなものが見える。おそらく鉄板のようなもの、もしくは中世の騎士が身につけていた鎖帷子のようなものだろう。そこまでして守るということはそこに核があるのは間違いじゃないんだろう。
裕生『因みに何か作戦とか考えてる?』
裕生先輩のその言葉は鋭利なナイフのように俺の心に刺さった。
正直、策は何も考えてない。さっきみたいに俺が受け止めて知弥先輩にトドメを刺してもらうのが一番楽そうだけど、何故か知弥先輩は全力で攻撃しなさそうだし。
さて、どうしようか。
裕生『別に後輩だからって遠慮しなくていいからね。相手に勝つために先輩を扱き使うのなら使われた側も本望だろうよ』
利音「先輩を扱き使う……なるほど」
今思いついたのはかなり無茶な作戦、それも特に先輩に対してかなり無茶なお願いをする作戦だ。もし俺が知弥先輩の立場なら絶対に「面倒くさい」と言う自信がある。
でも、裕生先輩が扱き使っていいって言ったんだから別に俺に責任は無いよね。
利音「知弥先輩!」
俺は現在進行形で虚空騎士のヘイトを買い続けていた知弥先輩に声をかける。
俺が裕生先輩と話している間、知弥先輩はずっと虚空騎士を引きつけていたから疲れているかなとも思ったが、なんだか余裕そうな表情で攻撃を躱し続けていた。これなら話しかけても大丈夫そうだ。
知弥「ん? なに?」
なんだか予想してたよりも気楽そうな返事が返ってきた。そんな返事に少し気分が削がれたが今はそんなこと関係ない。
利音「ちょっと頼みがあって」
知弥「ふむ、討伐に関わることなら聞こうか」
利音「虚空騎士の動きを5秒ほどでいいので完全に止めることって出来ますか?」
知弥「5秒程度でいいの?」
利音「へ?」
今度は本当に予想の斜め上の返事が返ってきた。5秒程度? 正直、動きを止めるのでさえ面倒なことだと思うのに、何言ってんだこの先輩……。
利音「程度って」
知弥「程度のことだよ。何ならもっと止めることもできるけど、どうする?」
知弥先輩のその発言に息を吞む。そして今、再認識した。この人、いや、この先輩たちと俺とでは本当に格が違うのだと。だがそれと同時に頼もしいとも思えた。そんなに強い人が俺の先輩なんだ。頼もしいと思うのは当然であった。
利音「いっいえ、5秒で大丈夫です。通信機で合図するのでそのタイミングでお願いします」
知弥「おけ。タゲはこっち向けとくから準備出来たらいつでも合図してね」
知弥先輩からの返答を聞き、俺はすぐに行動を始める。
今から俺がやろうとしていること、それは至極単純なことだ。動きが止まった虚空騎士の核を胸部の鎧ごと叩き斬る。それをするのに必要なのは状況、そして俺の能力だ。
俺の能力、『技術』は見たりした技術を自身のものにできる。訓練ではそれで使える技術を増やすために何度も何度も多くの動きを見させられた。その数多の技術の中に敵を一撃で斬ることに特化した技がある。かつて、とある剣士が極めた一撃必殺の剣撃、それを俺は虚空騎士にぶつけようと思っている。
しかしこの技には欠点、いや、俺の能力熟練度不足による致命的な点がある。それは動けないことだ。構えてから一撃を放つまでの数秒間攻撃を防ぐことも躱すこともできず隙だらけになってしまう。だからこそ俺は知弥先輩に敵の動きを止めるように頼んだ。流石に程度と言われたときは驚いたけどね。
利音「先輩にここまでさせるんだから、確実に決めないとね」
こんにちは如月ケイです。
最近パソコンを開く時間が減っていてあんまり原稿が進んでいません。ごめんなさい。
というのも最近友達から進められてフロムゲーを始めたんです。はい、完全に沼にハマりましたすみません。ガスコイン神父は倒しましたがパールにボコボコにされてます。
と、こんな話は置いといて。実は次回のコミティア153にサークル参加応募をしました。前に言っていた合同誌のやつですね。一般、スタッフと今までイベントに参加してきましたがサークル参加はこれが初めての試みとなります。まあ、まだ応募しただけなので落とされる可能性もあるのですが当選したらまたXで告知もするのでフォローお願いします。