第1話 入会
※作者は作文能力が酷いので比喩表現や展開の盛り上げ方、複線回収などが少なく会話文などが多いので読みにくいかもしれません。
2025/8/7修正を投稿
日が昇り家と家の隙間から太陽の光が差し込むまだ早朝の時間。小学校を卒業しこれから新たな環境で学び青春を謳歌する事を想像しながら如月利音は新たな通学路を歩いていた。
入学初日、それは人生の中でもトップレベルで緊張する日だと俺は思う。事実俺は今、今までの人生の中でもトップレベルの緊張に襲われている。
そんなことを考えていると背後から利音を呼ぶ大きな声が耳に届いた。
???「おーい! 利音ー!」
振り返ると利音と同じ制服を着た一人の男子生徒が手を振りながらこちらに走って向かって来ていた。
利音「あれは……翔か」
武田翔。幼稚園から今までずっと仲の良い俺の幼馴染だ。相変わらず声が大きく元気な奴だ。
翔「おはよう! 利音!」
利音「あぁ、おはよう……翔」
翔「どうした? なんか元気ねぇな。緊張してんのか?」
ちょっと露骨に元気無さげな返事をしたからか翔にも緊張していることがバレたようだ。まぁバレると思ってそうしたんだから別に何か思う事などは無い。
利音「そうだな、新しい環境だしかなり緊張してる」
翔「そっか、俺は中学校楽しみだなぁ。色んな小学校から人が来るわけだし新しい友達もいっぱい作りたいな!」
利音「元気でいいね。俺ももうちょっと元気出して第一印象悪くないようにしないとな」
二人はその後も新たな環境への希望を談笑しながら通学路を進んで行った。そんな通学途中の最中。
翔「そういえば、利音はどうするんだ?」
翔は話題を変えて俺にそう尋ねてきた。
利音「ん? 何を?」
翔「戦徒会だよ。利音は入るのか?」
戦徒会。今や日本人なら知らない人はいないだろう。40年前、魔物がこの世界に初めて侵攻してきた事件『能力事件』から数年後。突如発現した『能力』を初めて使いこなせるようになった学生たちが作り上げた魔物から市民を守るための生徒組織だ。
利音「どうしようかな、翔は入るの?」
翔「もちろん! なんたってあの海百合中の戦徒会だぜ? 入りたいに決まってるだろ」
翔が興奮するのもわかる。俺たちがこれから通う市立海百合中学校は戦徒会が最初に誕生した中学校であり、世界にも名を響かせる戦徒会員を数多く輩出する強豪校だからだ。
利音「なら俺も入ろうかな」
軽々しく言ったが入会するのもなかなか難しいだろう。でも翔が入るなら別に構わないかな。
翔「あっ、でも入るなら今日実技テストあるらしいぞ」
利音「えぇ〜」
流石に入学当日にテストがあるとなると気分がちょっと沈んだ気がした。
その後も二人は会話をしながら歩いているといつの間にか学校の前まで歩いていた。二人は下駄箱に張り出された紙を確認し自分のクラスを互いに伝えてから各々の教室に向かって行った。
利音「えーと、俺のクラスは、ここか」
俺は1年D組の教室の前で足を止めた。海百合中学校の1年生はAからG組までの7クラス。下駄箱の紙によると俺はD組に入れられたらしい。ちなみに翔はB組だった。
アルファベット表記だとなんだか序列のようなものを感じてしまうが特段クラスによる実力差は無いように生徒は決められているらしい。まぁ、これで実力差があっては大問題である。
利音「おはようございます」
教室の扉を開き挨拶をしながら中に入る。扉の開閉音で一瞬クラス全体の視線がこちらに向いたがすぐにその視線は元の方向に戻った。しかし、視線をこちらに向け続けたまま向かってくる人物が一人いた。制服ではなくスーツに身を包んだ女性。制服じゃないということはおそらく教師なのだろう。
先生「おはようございます! 黒板を確認して自分の席に座ってね!」
それだけ言って先生はまた教卓の椅子に座った。
俺は黒板に書かれた座席表を確認し自分の席に向かう。俺に与えられた席は窓際の前から三番目。かなり、いや個人的には最高の席である。俺がその席に座ると早速後ろの席に座っていた生徒が俺に話しかけてきた。
後ろの席の生徒「はじめまして! 俺、霧島哉太っていうんだ。これからよろしく!」
元気だな。なんだか翔と同じ気質を感じる。
利音「はじめまして、俺は如月利音だ」
初対面だからね。挨拶は軽めにしよう。でも、哉太とはこれから長い付き合いになりそうな気がする。
十数分後、利音と哉太がお互いのことなどを話していると、教卓の前に立った先生が手を合わせて話し始めた。一瞬でクラス全員の視線が先生の方に向く。かくいう俺も哉太と話すために後ろに向けていた体をすぐに前方向に戻した。
先生「はい、皆さん! 注目してください! これから出席確認するので元気に返事をしてくださいね」
先生はそう言うと次々とクラスメイトの名前を呼んでいった。誕生日順なのか俺は2月生まれなので呼ばれたのは最後の方だった。
先生「では、全員いるようなので早速自己紹介をしていきたいと思います」
クラス内で「え~」や「マジか」などの声が出た。事実俺も自然とそんな感じの声がこぼれてしまった。まさか初日のこんな早くに自己紹介が行われるとは思っていなかったらだ。
先生「ではまず私から、私はこの1年D組の担任を務めることになりました、佐々木律子と申します。担当教科は音楽で吹奏楽部と合唱部の顧問をしています。好きなことはピアノを弾くことで、これからみんなと仲良くなりたいと思ってます! わからないことがあったら何でも聞いてくださいね!」
佐々木先生の自己紹介が終わると教室内で拍手が巻き起こった。そして、拍手が終わると佐々木先生は教室の最も右の最前列に座っていた女子生徒を指さして「じゃあ次は君から列順で」と言ってクラスメイトの自己紹介が始まった。
哉汰「俺達後の方でよかったな。最初の方だと緊張して喋れる自信無いや」
後ろに座っていた哉太が身を乗り出して俺に話しかけてきた。
利音「本当にそう、これで失敗したら第一印象最悪になってしまうところだったよ」
そして、利音が自己紹介の内容を考えている内に段々と利音の番が回ってきた。
前の席の生徒が自己紹介を終え、ついに俺の番になった。席を立ちクラスメイトの方に体を向けながら俺は考えていた自己紹介を始める。
利音「如月利音です! 趣味はゲームや読書でスポーツならサッカーを時々します、これからクラスメイトの皆と仲良くなりたいのでよろしくお願いします!」
自己紹介を言い切るとクラス内はもう何度目かわからない拍手に包まれた。よかった、何とか噛まずに言い切れた。それに、第一印象も悪くはなさそうだ。
俺が席に座ると次に後ろに座っていた哉太が席を立って自己紹介を始める。
哉汰「霧島哉汰です! 得意教科は数学で趣味はサッカーです! サッカー部に入るつもりなんでよろしくお願いします!」
すると、またクラス内に拍手が巻き起こった。元気が良くはっきりとしたいい声だ、いわゆるイケボと言うやつだろう。女子の方からも少し小声で聞き取りにくいが哉太について話しているように聞こえる。
その後、後ろの席の数人が自己紹介を終えクラス全員の自己紹介が終わった。
佐々木先生「さて、自己紹介も終わったので、これから入学式があるので体育館に向かいます。廊下に今座っている席順で並んでください」
先生がそう言うとクラスメイト達は各々席を立ち廊下に並び始めた。俺もそれに合わせて廊下に並ぶ。そして放送で1年が呼ばれA組から順番に列に続くように体育館に向かって行った。
司会者「では、1年生が全員揃ったのでこれから入学式を始めます。最初は校長先生からの挨拶です」
司会者のその一言で入学式が始まった。
校長「新入生の皆さん、まずは入学おめでとうございます。今日という日が……」
十数分後、校長は話を終えてステージから降りた。
テンプレ染みたつまらない話だったな。周りを見ればウトウトと眠そうにしている生徒も何人かいる。俺も正直睡魔に負けそうだった。しかし、ウトウトした思考は次の司会者の一言ではっきりと我に返った。
司会者「次は在校生代表の生徒会長と戦徒会長からの話です」
会場が一気にざわつく。在校生代表の挨拶で生徒会長が出てくるのは定番だろう、しかしこの学校の在校生挨拶は少し違う。在校生の代表として生徒会長、そして戦徒会長も挨拶をするのだ。
体育館の前方のステージに2人の男子生徒が登る。そしてステージ中央のマイクの前に立つ。
あれが生徒会長と戦徒会長か。
すると左に立っていた生徒が先に前に出てマイクを持った。
生徒会長「やあ新入生諸君! まずは入学おめでとう。私は生徒会長を務めている九十九拓真です。さて、話したいことはいくつかあるけど、ダラダラ話すと眠くなるだろうし簡潔に話そうか。私たち海百合中在校生一同は君たちを歓迎します。これからの学校生活で困難は必ず訪れるでしょう。その時は私たち先輩を頼ってください。そして最後に、これからの中学3年間の青春をしっかりと楽しんでください。以上」
話が終わると生徒会長は後ずさりし後ろに控えていたもう一人の生徒にマイクを渡す。すると今度はマイクを受け取った生徒がステージの前に出て話し始めた。
戦徒会長「こんにちは皆さん。海百合中戦徒会長の八城啓です。入学おめでとうございます。正直拓真が話した後なので話すことなんてほとんど無いんですが、宣伝だけはしておきましょうかね。我々戦徒会は君たち新入生の人材を欲しています。自分の才能を示したい人、隠れた才能を開花させたい人、評価されないような才能を認められたい人、自分の実力を試したい人。そんな人はこの後の試験を受けてみてください。以上」
そして生徒会長と戦徒会長はステージからそそくさと去って行った。
それから数個程のプログラムを終え入学式は閉会した。
司会者「ではこれにて入学式を終了します。本日の予定はこれで終了なので新入生は戦徒会入会希望者以外は教室に戻り各自帰宅してください。希望者はここに残って後の指示に従ってください」
司会者がそう言うと体育館中に話し声が溢れた。席が近い者同士で話す人や席を立って別クラスの人と話している。俺も緊張が解けて肩を伸ばしていると後ろに座っていた哉太から声を掛けられた。そのまま哉太と話しているとだんだん体育館に残っている生徒も少なくなってきた。
周りを見るとまだ体育館に残っていたのは100人にも満たないような人数だった。その中には翔の他にも小学校が同じだった何人かの姿も見えた。そして、ほとんどの生徒がしっかりと自分の席に座って静かにその時を待っていた。
数分後、ステージに一人の生徒が登り中央に立った。それは、先程も見た戦徒会長だった。
啓「では、これより海百合中戦徒会入会テストを始める。このテストは一次試験と二次試験があり、そのどちらもで君たちの実力を測る。そしてその結果に応じて君たちの合否が決まる。本来なら今日と明日にかけて行う予定だったが予想よりも人数が少ない為、本日中に二つの試験を両方行う。まぁ全員17時までには帰宅できると思うから安心してくれ」
その場にいた全員に緊張が走る。俺も冷汗が流れるほどには緊張していた。でも、それと同時に心臓の鼓動がはっきりとわかるほど俺はこの試験に対してワクワクしていた。
啓「では早速一次試験を開始する。会員に呼ばれた者はその会員について行って説明を受けてくれ。じゃ、後は後輩に任せた」
そう言うと会長はステージを降りて体育館の外に出て行った。
そして一次試験は始まった。クラスごとに一名ずつそれぞれの別室に連れていかれ数分ごとに別室から出ては体育館から出て行っている。その中には俺の知っている顔も何人かいた。
数十分後、俺と同じクラスで前の席に座っていた生徒が呼び出され別室に連れていかれた。
哉太「順番的に次は利音の番っぽいな」
利音「そうだね」
哉太「緊張してる?」
利音「もちろん」
哉太「まあそうだよね。っと、迎えが来たようだよ」
前を見ると一人の戦徒会員が俺の方に向かって歩いてきていた。
戦徒会員「1年D組如月利音さん。私についてきてください」
俺は席を立ちその戦徒会員の後についていく。連れてこられたのは体育倉庫のような部屋だろうか、周りには体育の授業で使いそうな備品がいくつも置かれている部屋だった。その中をパーテーションで区切っており他のクラスの生徒がその中に入って行った。俺も別の個室に連れてこられて中に入った。パーテーションの中は健康診断の時のように椅子と机が置かれており、机の上にはノートパソコンと謎の機械のようなものが置かれていた。
戦徒会員「ではこれから一次試験、潜在能力試験を開始します」
潜在能力、そんなもの測れるのかと一瞬疑ったが俺は無言で頷いて次の説明を聞いた。
戦徒会員「この試験の結果は個人情報なので会長と顧問にしか閲覧できず公開されることはありません。それではそこの機械に触れてください」
利音「わかりました」
疑いながらも俺はその機械に触れる。すると機械的な音を発して所々が光りだした。その状況に驚いているとすぐに光は消えて機械の機能は停止した。
戦徒会員「はい、これで一次試験は終了です。この後は体育館から出たところにいる会員の案内に従って訓練場まで向かってください」
利音「はい、わかりました」
まだ驚きが残ったままだが、俺はそう返事をして体育館から出て訓練場に向かった。
体育館から出ると一人の戦徒会員が立っていてその案内に従って俺は校舎内を進んで行った。案内によると訓練場は別館の地下にあるらしく別館まで行き、階段を下って訓練場まで向かった。
別館の階段を下って行くと段々微かにだが謎の音が聞こえ始めた。そしてその音の正体は訓練場の前についた時にはもう確信した。銃声だ。
利音「すみません、戦徒会の試験で来たのですがここで合っていますか?」
俺は訓練場の前に立っていた戦徒会員にそう尋ねる。するとその戦徒会員はすぐに俺を中に案内してくれた。その戦徒会員に案内されてきた場所は一言で言うと射撃場。奥には的が置かれており手前にはいくつもの銃が置かれている。
戦徒会員「では、二次試験の内容を説明します。二次試験は武器種別適性試験。今から君にはここにある銃、そしてその他の近接武器の適正を調べます。っとその前にこれを」
利音「これは?」
渡されたものは戦徒会員たちが身に着けていたものと同じ腕章だった。
戦徒会員「その腕章には身体強化の効果が付与されています。それを身に着けてこの試験に挑んでください。じゃないと銃は反動で撃てないし剣なんて重くて振れないからね」
利音「なるほど」
俺は恐る恐るその腕章に右腕を通した。すると当然体が軽くなったような感じがした。その場で少しジャンプしてみると某配管工もビックリするほどの高さまで跳ぶことができた。ちょっと興奮してピョンピョンと跳ねてしまった。戦徒会員の先輩はその様子を見ていて笑っていた。そのせいでかなり恥ずかしくなった。
数十分後……。
俺は射撃場で数種類の銃を撃った。拳銃やアサルトライフル等、スナイパーライフルを撃った時の反動にはかなり驚いた。意外にも反動は軽かった、これも身体強化の影響なのだろう。ちなみに命中精度はあんまり、拳銃で30m先の的を撃った時は8発中2発命中と半分も当たらなかった。アサルトライフルやスナイパーライフルは安定した姿勢で撃てたため半分くらいは命中した。
ということで射撃試験が終わった俺は次の訓練場に案内されている。訓練場は地下1階にあるとは思えない程広く、天井までは10m以上はある。階段で降りた高さよりも天井が高いように感じるが気にしないでおこう。
さて、改めて考えてみるとこの身体強化の効果はかなりすごい。先程のジャンプに加え射撃の時の反動制御、ゲームなどで言う身体能力を何倍かに強化するバフのようなものを常に受けている状態だ。昔考えたことがある、脚力が一気に上がったりすると走るどころかまともに歩くこともできなくなってしまうのではないかと。しかしこの身体強化は先程のジャンプで理解したが脚力が強化されているはずなのにしっかりと普段の感覚で歩くことはできる上、普段と変わらないスピードで歩くことができる。おそらく俺では理解できないような技術が使われているのだろう。
訓練場内を歩いて数分、今度はさっきの射撃場とは変わって殺風景な訓練場。
戦徒会員「では次の武器はこれです」
そう言って先輩は俺に一本の刀を差し出してきた。
利音「刀?」
戦徒会員「刀だね。銃が使えないときや近接の時はこれが役に立つんだよね。それにこれをメインに戦っている戦徒会員も結構いるんだ」
利音「そうなんですね」
俺は先輩から刀を受け取り鞘から抜く。銀色の刀身が鞘から姿を現す。
あぁ、なんだか手に馴染むな。
戦徒会員「じゃあ試験を始める。内容はいたって単純、これを斬るだけだ」
そう言って先輩は近くに置いてあった藁の束でできた太い棒を叩く。よくテレビとかで見る刀で斬るためのあれだ。
俺は打ち込み台に近づく。両手で柄をしっかり握り、腕をしっかり伸ばして刀を構える。
集中しろ……俺。こういう藁の束は意外と斬れないことが多い。テレビや動画でも初心者がやったら斬れていることの方が少ない。それは重心の使い方や刀を振る速度、力の込め方にブレがあるからだと思う。だからこそ一息で、体を一直線に、腕で振るのではなく体全身を使って振るように。
利音「ふぅ……はっ!」
振り下ろされた刀は藁の束を一直線に通り抜け、藁の束は斜めに滑りながら地面に落ちた。
戦徒会員「へぇ……」
利音「ふぅ……」
腕章による身体強化の影響もあるのだろうが思ったよりも上手くいった。藁の束の断面は俺のような初心者が見てもきれいな断面だった。
戦徒会員「では、これで試験は終了なので教室に戻って結果を待ってください」
俺は腕章を先輩に返してそのまま教室に戻った。
教室に戻るとそこには5人の生徒が待っていた。すでに試験を終わらせた生徒だろう。俺が教室に入るとその内の1人が俺に近づいてきた。
???「やあ! 試験お疲れ様!」
利音「えーと、君は確か……」
亮「俺は剣崎亮。自己紹介でも言ったけどね。君は確か如月君だったかな」
利音「合ってる、あと利音でいいよ。よろしく」
話しかけてきたのはクラスメイトの剣崎亮だった。声が大きく元気な奴だ。翔とはまた違った体育会系って感じの印象。自己紹介の時も大きな声で喋っていたので顔はなんとなく覚えている。
亮「じゃあ利音、君も戦徒会の試験を受けたんだろう? どうだった、手ごたえは感じたか?」
利音「手ごたえって言われてもな。最初の奴は手ごたえもクソも無いと思うんだけど。でも武器だったら刀が一番手ごたえあったかな」
亮「へぇ、刀……ね。良いじゃん良いじゃん。刀ってやっぱいいよな!」
その後、亮や他のクラスメイトと話していると試験を終えた哉太も教室に戻ってきた。疲れた様子の哉太を労いながら話し込んで数分後。
ガラガラと教室の扉が開き2人の生徒が入ってきた。上履きの装飾の色を見るに2人とも2年生の先輩だ。しかもその内の1人は武器種別テストの時、俺の試験を監督した生徒だった。そしてその手元には数枚の紙が見えた。おそらくこのタイミング的に試験の結果だろう。
時刻は午後3時、入学式が終わったのが午後1時頃なので試験含めて結果が出るまで2時間しか経ってないことになる。流石に早すぎだろと思ったが今はそんなこと気にせず試験の結果を楽しみにすることにしよう。
戦徒会員「では、D組の皆さん。これから結果を返すので呼ばれた人から結果を取りに来てください」
片方の先輩がそう言うともう片方の紙を持った先輩が名前を呼び始めた。俺含めて7人だけだったので返却はすぐに終わった。俺も先輩から結果をもらって自分の席に戻ろうとすると。
亮「よっしゃ! 合格!」
最初に声を上げたのは亮だった。そして結果が書かれた紙を掲げながら喜んでいる。その様子を横目に見ながら俺も自分の結果を確認する。そこに書かれていたのは俺自身の個人情報、そして大きな字で書かれた合格の二文字だった。
哉太「お! 利音合格してんじゃん!」
後ろの席から体を乗り出すように俺の結果を見に来た哉太に少し驚くもすぐに俺は結果の紙を裏向きにして手で押さえる。
利音「あんま勝手にみるなよ。個人情報だって書かれてるんだし」
哉太「ごめんて、なんなら俺のでも見る?」
利音「いや見ないよ。それより哉太はどうだったんだ?」
哉太「俺も合格だった。今度からは俺達一緒に戦徒会員だな」
亮「なんだ? お前らも合格したのか?」
哉太「ああ! 俺と利音も合格だったぜ!」
亮「じゃあこのクラスは俺たち3人が合格か。あいつらは残念だけど不合格だってよ」
利音「そうか。じゃあこれからよろしくな」
俺たちがそんな話をしていると視界の隅で片方の先輩がこちらを見ながら眉間にしわを寄せているのが見えた。それを亮に伝えると亮はすぐに席に戻って行った。
戦徒会員「では、これにて本日の工程はすべて終了になります。速やかに……ではなくてもいいので帰宅してください」
そう言って2人の先輩は教室から去って行った。そして俺達もすぐに荷物を持って昇降口に向かった。
哉太や亮、他のクラスメイト達は俺とは別の校門から出るらしく昇降口で別れた。そして1人で校門から出て帰路を歩いていると。
翔「おーい! 利音ー!」
軽い山道で人通りも少ない静かな道に大きな声が響き俺の耳に届いた。
利音「何か、この感じ朝もあったような……」
俺が後ろを振り向くと2人の人影がこちらに走ってきているのが見えた。片方は翔、そしてもう片方は同じ幼馴染の千里だった。
利音「よう、朝方ぶり。んでもって今回は千里もいるのか」
千里「やっほー! 利音君も結果発表お疲れ様!」
翔と一緒にやってきたのは功刀千里。俺や翔とは幼稚園からの幼馴染でよく遊んでいる親友だ。ちなみに小学6年の始まり頃から翔と付き合っている。
利音「千里も試験を受けたのか?」
千里「うん、そうだよ! 慣れないことしたから少し疲れちゃったよ」
千里は小学校の頃、陸上部に所属していたから体力はある方だが疲れたってことはあの試験そんなに大変だったのか。俺としてはあんまり疲れなかったんだけどな。
翔「俺は春休みの間もしっかり運動してたからあまり疲れなかったぜ」
千里「私も運動してればよかったな〜」
利音「それで、合格したのか?」
翔「ああ! バッチリ合格したぜ!」
千里「私も合格したよ。翔と一緒に合格できてよかった!」
翔「で、利音は合格した?」
利音「ああ、合格したぞ」
それを言うと2人は自分のことのように喜んだ。そして小学校の頃と同じように3人で笑いながら各々の家に帰って行った。
同日pm9:00
俺は夕飯を食べ終わり、自室で姉さんに今日のことについて話していた。
利音「ってことがあった」
天音「へぇ〜、じゃあ利音も戦徒会に入るんだ。利音が海百合中行くって言ってお姉ちゃん本当に心配したんだよ。でも翔君や千里ちゃんがいるみたいで安心したよ」
俺の部屋のベッドに我が物顔で寝そべりながら枕に抱き着いているのは俺の姉、如月天音だった。のんびりとした態度だが実は海百合中の近くにあるもう一つの中学校、船深中学校の3年生で船深中戦徒会の副会長を務めている。知り合いの先輩から姉さんはしっかりしていると聞いたことがあるが今のような姿を毎日のように見ているせいでどうにも姉さんがしっかりしている姿が想像できない。
天音「それにしても利音も戦徒会に入ったのか〜、そっちとは時々対抗戦をしているから、いつか戦うことになるかもね♪」
利音「姉さんと戦うのか、嫌だな」
天音「え〜、お姉ちゃんは楽しみにしてるのに、ちなみそれは家族だからとか?」
利音「いや、実力的に」
そう、姉さんの通う船深中の戦徒会は海百合中の戦徒会と並んで全国トップ2とも言われているほどの強豪だ。そんな戦徒会の副会長である姉さんはもちろん強い。一度だけ戦っているところを見たことがあるが相手を圧倒して余裕で立っている姉さんの姿はかっこよくて今でも脳裏に焼き付いている。
天音「わ〜お、現実的だね〜、そういえば能力は伝えられたの?」
利音「うん、合格通知のところに書いてあった。技術だって」
天音「へぇ、なるほど」
姉さんは突然ベッドから立ち上がった。
天音「その能力ならきっとお姉ちゃんも越えられるよ。それじゃあ頑張ってね。おやすみ利音」
利音「おやすみ」
そう言って姉さんは俺の部屋から出て行った。
それより俺が姉さんを超える? そんなのいつになることやら。俺なんかが姉さんを越えられるとは思わないけどな。でもまあ、やれるだけ頑張ってみるか。
その後、姉さんと入れ替わるようにベッドに寝転がった俺は今日の試験の疲れのせいかいつの間にか寝落ちしてしまった。