No.100 エピソード00
あっという間に、二月は過ぎ去ってしましました。
特に何事もない平凡な毎日。
そんな毎日はもちろん幸せで。
もう、このクラスも終わろうとしているのです。
クラスが変わって、心配なことしかなかったですが、一年を振り返ってみれば、楽しいことばかりでした。
もう、楓くんがいなくてもやっていけます。
どんな環境でも、やっていける自信があります。
もちろん、同じクラスに越したことはないですけどね。
「神楽坂さん。一年間本当にありがとうございました。」
「有栖ちゃん~こちらこそありがとな。来年もいっぱい遊ぼな~」
もう、このクラスは終わってしまうのです。
「楓くん。」
「私、来年、、、」
去年の私は、楓くんがいないとやっていけないと言った。
「いや、今のお前なら、、、」
「はい。一人でやってやりますよ。」
なんだか、楓くんが笑ったような気がします。
「ああ。変わったな。有栖。」
楓くんに認められるほど、私は成長できたのでしょうか。
たまには自分を認めても、いいのでしょうか。
「でも、願ってもいいならば、やっぱり同じクラスがいいです。」
「ああ。俺もだ。」
ーーーーー
「好き。」
あの言葉が、俺から離れようとしなかった。
有栖は本当に俺に言ったのだろうか。
その言葉は本当に「好き。」だったのだろうか。
その二つが本当ならば、あの言葉は、告白だったのだろうか。
俺には分からなかった。
踏みいる勇気もなかった。
あの日を境に、有栖との対応が変わったなんてことななく、今までと同じように会話をしている。
でも、意識してしまうんだ。
恋をしているわけではない。
それは俺がよく分かっている。
でも、あの感情が少しづつ湧いてくる感じがするんだ。
「はあ。はあ。」
乱れる呼吸。
思い出しそうになる。
あの時の恋の記憶。
文月楓の誰も知るはずのない記憶。
それは心のどこかに深く刻まれていた。
その記憶は、忘れたはずだった。
でも、蘇ってくる。
前回、思い出してしまったのは、狸が退学したとき、俺が病んで部屋にこもったとき。
今、文月楓に、その思い出したくない記憶が思い出される。
高校一年 文月 楓
正直、中学校生活はそんなに楽しくなかった。
では、小学生はどうだったのだろうか。
そこに、あった記憶が、文月楓を戦慄とさせた。
今の高校生活がとても楽しい。
友達も担任もきっと恵まれている。
いや、別に今までも恵まれていなかったわけではない。
前、緑岡に話した過去。
あれも大体本当のことだ。
だが、それでも、やはり話せなかった記憶があった。
彼女が欲しい。
そう思った俺。
実際に、彼女だったかは分からない。
でも、それに近い人がいたのだ。
小学校も中学校でも俺は特に恋愛をしてこなかった。
嘘だった。
嘘というよりも、嘘にして、記憶から消したかった。
忘れていいなんてわけではなかった。
でも、そうでもしないと、今存在している文月楓は、もしかしたら、もっと違う人間だったかもしれない。
この世から去っていたこともあったかもしれない。
そもそも小学生の頃は恋愛なんて1ミリも興味なかった。
これも嘘だ。
文月楓の初恋は小学生なのだから。
でもやはり、それは文月楓の記憶から消されることになった。
中学生になると、女子を意識することもあったがモテることなく三年間を終えた。
こんなことはどうだっていいのだ。
だってその時にはもうすでに恋の感情がなかったのだから。
今までの俺に恋愛という言葉はなかった。
いや、違う。
だから俺は生まれてから恋愛を1度もしたことが無い。
違う。
そして彼女が欲しいと思う割には異性に恋をしたこともない。
違う。
もしかしたら、俺は恋をしているのかもしれない。
だけど俺はそれが恋なのかすら分からない。
違う。
それを知れば、あの時を思い出すことになってしまうのだ。
だから、文月楓はあの記憶を、恋という感情と共に、封印したのだ。
文月 楓は恋愛をしなさすぎて恋という気持ちを知らない。
ということにして。
文月楓の記憶が今にも繰り返されようとしている。
それは、今にも始まろうとしている。
では、始めようか。
「人の恋路をスパイしていたら、いつの間にか恋人ができていた。」ことについて。
いつ頃だろうか。
小学生の時の記憶だ。
別にいつだっていいだろうか。
その時の文月楓は恋をしていた。
名前までは、思い出すことはなかった。
そんなものは重要ではないし、これからの文月楓の人生に関わることは一切ないだろう。
なぜなら、彼女はーーーーーーーーーーのだから。
楓は、とある女の子に恋をした。
幼い楓に付き合うなどの言葉は考えてもなかったが、やはり、両想いになりたい。みたいな気持ちがあったのだろう。
その女の子には、仲の良いの男の子がいた。
名は確か、八雲影太。
文月楓は、小学生なりに考えて、その二人は両思いなのだと考えたのだ。
実際、そのような雰囲気であり、噂もあった。
でも、知能がない小学生は、好きな人に対して何をするかわからない。
例えば、好きな子をからかう男子がいるように。
楓は、二人を追いかけたのだ。
こっそり近づいて。
まるでそれは、スパイかのように。
それに、女の子は気づいていたのだ。
やがて、女の子は楓に話しかけた。
「楓くん。悩みごと、聞いてくれる?」
「うん!いいよ。」
今では考えられないほど元気な文月楓だった。
もしかしたら、恋の感情以外にも、文月楓は封印してしまったのかもしれない。
それが、今の文月楓のテンションがどこか低い感じがする理由なのかもしれない。
「私ね、影太くんのことが好きなの!」
それは、その仲の良い男の子の名前だった。
分かっていたが、幼い楓、そして初恋をした楓にはすごく辛かっただろう。
「そうなんだ!」
だらだらと会話をした。
結局、女の子は、影太くんの好きな人を聞いて欲しいということだった。
楓は、女の子のために、影太と仲良くなろうとした。
そこそこ仲良くなった。
だが、やはり、自分の好きな人の好きな人というのは辛かった。
楓は、影太に好きな人を聞こうとしたが、聞けなかった。
好きな女の子の名前がでるのが怖かったから。
でも、頑張った。
好きなタイプを聞いたり、少しでも貢献しようとした。
そうして、好きな女の子にそれを教える。
その瞬間だけのために、楓は影太と仲良くした。
まるでそれはスパイだった。
やがて、楓はもう両想いになることを諦めていたのだ。
好きな女の子と話すだけで十分だった。
だから、しばらくスパイを続けた。
それでも、楓が影太に好きな人を聞くことはなかった。
でも、女の子が怒ることはなかった。
楓もだんだん女の子に興味はなくなっていき、影太に好きな人を聞こうとした。
でも、そんな時に、女の子は思ってもいなかったことを言った。
「ずっと騙しててごめんね。私本当は楓くんが好きなの。」
楓の心に半分怒りのような感情が湧いてきた。
でも、それを抑えた。
楓が女の子と近づくためにスパイをしたように、女の子も楓と近づくために、影太が好きという嘘で、楓に近づいたのだった。
でも、まだ幼い楓は怒りよりも段々と嬉しさが勝っていった。
やがて、楓とその女の子はもう恋人のようになっていた。
影太だが、もちろんその女の子が好きだった。
影太は怒った。
好きな人を盗った楓に。
楓は最初はなんとも思っていなかったが、この頃影太のことを本当に親友だと思っていた。
そんな親友からの怒り。
親友はやがて絶交を宣言した。
「もう、お前とは話したくない。」
楓は考えた。
女の子を振ることを。
そうすれば、丸く収まるのではないか。と。
そして、その女の子が影太を好きになれば、悪いことはないのではないかと。
そうして、楓は女の子に言った。
「ーーちゃんのこと好きじゃない」
それだけ言った。
嘘の言葉を吐くのは辛かった
何を言えばいいか分からなかった。
女の子は泣いた。
ずっと泣いていた。
やがて影太がやってきた。
そうして、楓に拳を向けた。
楓は動けなかった。
何も出来なかった。
ただただ、殴られ続けた。
女の子はそれを見てさらに泣いた。
この場に幸せな者は一人もいなかった。
やがて、女の子の友達や、影太の友達が集まってきて、大喧嘩が始まってしまった。
ついに、キレたのは、楓だった。
なんで俺が悪いんだと。
喧嘩はやまない。
何も考えない小学生たちはただ殴る。
そして、暴言を吐く。
「いじめ者が!」
「女子を泣かせたやつが!」
そんな言葉。
「バカ!」
「カス!」
「死ね!」
そんな言葉まで飛び交う。
その言葉は一つ一つ楓に深く刻まれた。
やがて、楓も泣いた。
しかし、楓よりも深い傷を負ったのは女の子だった。
「やめてーーー!!!!!!」
やがて泣きながら女の子は叫んだ。
「やめて!やめてやめて!楓くんをいじめないで!!」
「お願いだから!」
でも、その声は誰にも届かなかった。
女の子は全部自分が悪いと、そう思ったのだろう。
女の子は駆け出した。
そうして、ベランダから飛び下りた。
その瞬間、さっきまで大喧嘩を繰り広げていた戦場は一瞬にして凍った。
そこで、文月楓の記憶は途絶えている。
そう、文月楓が好きで、文月楓を好きだったーー。
この女の子ーーーーーは、もうこの世にはいない。
小学生の楓、いや、小学生じゃないとしても、トラウマとなる事件だった。
楓は自分が悪いと自覚していた。
だが、この話は一概に楓が悪いとは言えない。
女の子にだって悪い部分はあった。
影太だって、悪い部分はある。
でも、楓は自分が悪いとしか考えなかった。
その後、楓がその学校に姿を見せることはなかった。
楓は長く苦しんだ。
苦しんで、泣いて、吐いて。
そんな日が続いた。
やがて、もう感情がなくなりかけた。
そうして、文月楓は、あの時の記憶と、恋の感情を、心の奥深くに封印し、それが解けないよう、思い当たる節を全て封印した。
その時使っていた筆箱だったり、ゲームだったり、全てを封印した。
影太まで。
そして、転校した。
これが、文月楓の初恋の記憶であり、絶対に思い出してはならない記憶だった。
エピソード00 文月楓という男(後編)
2年生編。そしてエピソード0ご愛読ありがとうこざいました。
もちろん、3年生編をやらせて頂きます。
ぜひ、見ていただけると幸いです。
3年生編の構成のためにしばらく投稿はしません。
1ヶ月もしない内に帰ってくると思いますが。
3年生編が始まるまで完結とさせていただきます。




