第八十九話 暁角
「明奈、バスケやろう。」
何年ぶりだろう。
毎日姉の明奈をバスケに誘う。
「私に勝ったのになんでまだやるの?」
そう。僕は長年の目標だった明奈に遂に勝った。
何回も戦ってやっとの1回だが。
でも、俺は明奈よりも勝ちたい相手がいた。
文月楓。
「僕には倒さなきゃいけない相手がいるんだ。」
「私より強いの?その子は」
正直、分からない。
でも、楓なら、、、
「ああ。」
「そっか。頑張ってね。林太郎。」
「あ、ああ。」
応援されるのはいつぶりだろう。
ずっと一人で、家族からの愛情も特に受けず、唯一の姉から久しぶりに聞いたその応援は、僕の心に深く突き刺さる。
「大丈夫、だって私に勝ったんだもん。」
たった1回の勝利。
「明奈、、、」
「林太郎なら、絶対に勝てるよ。」
ずっと憧れてて、ずっと追い続けた姉。
初めて姉に認められた気がした。
そうだ、明奈を超える人間なんかいない。
超えるとしても、それができるのは僕だけだ。
ーーーーー
緑岡はどんどん点を重ねていく。
俺のシュートは入らない。
26対30
俺は四点の差をあっという間につけられる。
膝に手をついて乱れた呼吸をする俺。
観客ももう緑岡の勝ちだと思ったのか、さっきまで大盛り上がりだった会場はもうどこにもない。
「楓、そんなもんなのか?お前の本気は。」
本気、、、
「なんか言ってたな、前。色々あって、今は大切な人を助ける時にしか本気を出さないんだろ?」
少し前、俺は緑岡と互いの過去について話し合った。
「楓。お前は今、神月を助けるために戦ってんのに、お前の本気はその程度なのか?」
26対32
残り5分。
俺は今まで大切な人を助ける時に本気を出すと、俺の中で決めていた。
でも、それは本当に本気だったのだろうか。
今まで犠牲になってしまった退学者たちは、もっと救えたのではないだろうかと、ここ最近、ずっと思っていた。
新田、久保、吹雪先輩、綾華。
一人でも多く救えたのではないだろうか。
狸までも、俺なら救えたのではないだろうか。
俺は人助けをしているふりをして、ただ偽善者ぶっているだけなんじゃないだろうか。
『人を助ける。』
それはとてもいいことであり、とても聞こえがいい言葉だ。だが、それをする理由なんか、ほとんどの奴が承認欲求のためにするものだろう。
それが悪いことだとは思わない。
でも、結局それは自分のことしか考えていない。
結果的に、大切な人を守れているならいいが、結局俺は守りきれなかった。
まして、神月の退学までもが、もう目の前まで迫っている。
そうだ。
結局俺は、自分が良ければそれで良かった。
俺が守ろうとするのは、俺が近くに居たいと思った奴だけ。
守るとか言う言葉をかっこつけて言っていた割に、ろくに本気も出せない俺はさぞかし滑稽だろう。
結局自分のことしか考えないのが人間だ。
だから、俺の考えは間違ってた。
大切な人を助けるときに本気を出す。
こんな言葉は、ただ本気を出したくない俺みたいな雑魚が言う言葉。
そしてこう言う奴の大体は結局、大切な人を守もる時に本気を出すことなんてできやしない。
そう。それがきっと俺だ。
だから、
もう、諦める。
「緑岡。俺は神月のために戦うのはやめようと思う。」
神月のために戦うのはやめる。
人のために戦っても、俺は本気を出せない。
「何言ってんだお前。負けましたってか?」
「負けるなんて一言も言ってない。」
「何が言いたいのかさっぱりだ。」
「俺は神月を助けるためにお前に勝とうとしてた。」
「だから、何が言いたい。」
緑岡がさっき得点にしたボールを拾った水無月から俺はボールを受け取る。
さっきまで外ではサッカーが行われていたはずだが、いつの間にか天気は荒くなってきていた。
でも、神月のために本気を出すことをやめたからって、他に理由があるわけでもない俺は、本気を出せるはずがないだろう。
いつだっけな、最後に本気出したの。
はっきりと記憶に残っているのは、中3の最後の大会だ。
「最後の大会、文化祭と被るって。」
衝撃の事実が、その時中3だった俺は伝えられた。
もちろん俺はバスケ部に所属していた。
みんな最後の大会のために必死に努力してきた。
そして、学校生活の楽しみであった文化祭。
その二つの予定日が重なってしまったのだ。
俺は、しょうがないと思った。
文化祭は諦めて、最後の大会に集中しようと思った。
だが、意外にも文化祭に行きたがっている奴らが多かった。
行きたいからと言って文化祭に行けるほど顧問も甘くはないため、もちろん全員試合に参加した。
ただ、唯一文化祭に参加する方法があった。
それは一回戦目で負けること。
そうすれば、文化祭は二日間開催のため、二日目だけ参加できるのだ。
相手もそこそこ強いし、負けてもおかしくはなかった。
問題が起こったのはそれが理由だった。
一部の奴らは、文化祭のために、わざと負けようとした。
もちろん、本気で勝とうとするやつもいたが、一部負けようとしている奴らがいるだけで、チームの雰囲気、団結はそこで欠落する。
それを理解して、結局本気で試合に臨む奴は一人もいなかった。
ベンチも文化祭の話で盛り上がる。
顧問も最初は怒りそうだったが、次第に諦め、放棄。
実質、戦っているのは俺だけだった。
もう、俺のチームは負けると思われていただろう。
でも、それでも俺は勝ちたかった。
特に理由などない。
ただ、勝ちたかった。
そうか。
勝ちに理由なんていらないんだ。
こうなったら、俺一人でも勝ってやる。
そう思った。
それに、文化祭で盛り上がってる奴らの、鼻をへし折ってやりたかった。
行けると思っていた文化祭を俺が潰してやろうと思った。
俺が本気を出すには十分すぎる理由だった。
俺は、一人でこの試合に勝利した。
周りの絶望のような反応はもちろん気持ちよかったが、何よりも勝利が嬉しかった。
俺一人で勝ったという優越感。
そうだ。
忘れていた。
勝ちたい。
負けるのは面白くない。
だから、本気を出す。
それでいいじゃないか。
「緑岡、俺は勝つためだけに本気を出す。」
「それを待ってたんだ楓。久しぶりに見たぜ、今のお前は少し怖い。」
「何を言っているんだ。」
「覚えてないのか?中3の最後の大会、俺のチームは一回戦でお前のチームに負けた。いや、お前に負けた。」
「そうか。」
「チームスポーツだし、俺が負けたつもりは一切なかったが、もしかしたらと思って、お前をずっとさがしてたんだ。やっと天才を見つけたかもしれないと、あの時から思ってたんだ。」
俺はそれを言われても何も言い返さない。
普通なら、驚くべき衝撃の事実だろう。
だが、今の俺はなぜだか心底どうでもいい。
緑岡。お前の過去なんかどうでもいい。
「あれ、面白い話じゃないか?興味ないか?」
「ああ。一ミリも。」
もう、外は黒い雷雲で覆われ、太陽が目を出す隙間なんてものはどこにもなかった。
ご愛読ありがとうございました!
ぜひぜひブックマーク、下の評価を5つ星よろしくお願いします!
していただいたら作者のモチベーションも上がりますので、更新が早くなるかもしれません!
ぜひよろしくお願いします!!
では、またお会いしましょう!




