第七十一話 文月楓という男②
俺はお父さん一人の手で育てられた。
お母さんは俺の記憶にもないくらい小さいときに亡くなった。
お父さんは運動神経も悪く、自頭も悪い。
俺の恵まれた才能はお母さん譲りと聞いている。
でも、お父さんは努力で会社の社長にまで上り詰めた。
俺と姉が幸せに暮らせるように。
仕事をして、家では俺と姉の世話。
そんな過酷な日々の末、お父さんは病期にかかった。
俺が小学四年生のころだっただろう。
当時、小さい頃の俺はお父さんを救いたく、医者になることを決意した。
昔、お父さんに言われた。
「お前は母親譲りで才能がある。才能があっても、その才能を使わないものがこの世にはあたくさんいる。お前はそうなって欲しくない。大切な人を救えるようになりなさい。」
この言葉は高校生の今でも忘れないようにしている。
大切な友達のことは、絶対に助けたい。
医者になろうと小さいなりに思った俺は、毎日勉強に励んだ。
医者の勉強は小学生にはもちろん早いため、日々の授業の予習復習を頑張っていた。
もともとある程度頭がよかったが、努力によって俺は周りの人より抜き出て頭がよくなった。
「すげー」
「どうやるの?」
皆そう言う。
こう言われて、嬉しいものもいるだろうが、この時の俺はそう思わなかった。
そんなこと言う暇があったら勉強しろ。
そう思っていた。
実は、俺のお父さんは亡くなってしまった。なんてシリアスな展開を想像しただろうか?
でも、俺のお父さんは俺が勉強を頑張った分とでもいうかのように、どんどん回復していき、俺が小学校を卒業するころには元気に生活していた。
医者になる理由がなくなっても、俺が勉強を続けたのは、お父さんがほめてくれたから、喜んでくれたから。
亡くなってしまったお母さんがくれた才能を俺が自ら潰すことはせず、生かそうとしていた。
でも、それが変ろうとしたのは俺が中学生になってから。
中学一年生になると、周りの者は少し調子に乗り始める。
勉強するやつなんてごく一部だ。
友達もいなかったわけではない。
でも、一部俺のことを否定するような奴が表れ始める。
「なんで勉強してんの?」
「時間の無駄だろ~」
黙れ。
何度もそう言いたくなるのを抑えた。
別に勉強以外に何もしなかったわけではない。
バスケだってやってたし、ちゃんと息抜きにアニメなどもみていた。
でも、何度も学年一位を取り続ける俺を、避けるものは増えていく。
俺に食らいついて勝とうと努力するものも何人かいた。
でも、俺を超える奴は、この学校にはいなかった。
次第にそいつらも皆諦めて、俺から離れていく。
でも、この頃は別にそれでも良かった。
今でも覚えている橘青空。そして、綾華。
こいつらは俺のことを認めてくれた。
こいつと仲良くしてるだけで俺は良かった。
俺が周りのやつに嫌気がさしたのは三年の受験生の時。
受験生にもなると、ほとんどの奴らが勉強を始める。
こうなった途端、俺に話しかける奴も増えていく。
「お前、すごいな。」
「教えて~」
普通の人からしたら嬉しい言葉も一年生の時馬鹿にされていた俺からしたらうざくて仕方がない。
もう、この頃の俺はこんな雑魚たちどうでもいいと思っていたため、ほとんど無視していた。
一、二年生のころからしっかり勉強していた俺にとって、正直、受験勉強なんかしなくても余裕だったため、三年になったからと言って勉強時間を増やすなんてことはしない。
でも、行きたい高校を見つけた。
頭のいい高校に行ったら、どうなるんだろう。
俺より才能がある奴らに囲まれてみたい。
そう思ってからは、今のこの高校に受かるよう、努力して、俺は首席で入学することが出来た。
この高校に入ってからは、楽しいことばかり。
いい奴らばかり。
初めて勉強が面倒くさいと思った。
勉強なんかやめて友達と遊びたいと思った。
今まで頑張ってきたんだし、高校くらい楽しんでもいいよな。
そう思ってしまってから、俺が勉強することはなくなった。
お父さんは俺が楽しんでいるだけで満足だった。
正直、もう医者になろうなんて思ってないし、勉強する理由はあまりない、それに才能と中学での努力によって、基礎が十分固まっている俺は、ある程度勉強すれば理解できる。
だから、高校になってからの俺はだらしない。
でも、楽しくて仕方ない。
大切な友達がたくさんできた。
中学生の頃の友達の橘青空。
こいつのように大切な友達がたくさんできた。
昔お父さんに言われた、「大切な人を救えるようになりなさい」
この言葉だけは守っている。
だから、今回、俺は友達を守るために本気を出す。
本気か、、
「楽しみだな、緑岡。」
俺が望んでいた俺と同等以上の才能をもった奴との対決。
俺はどんどん近づいてくるその対決に胸を弾ませていた。
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