第六十一話 何も
嵐山付近の商店街。
俺は特に欲しいものもないので、食べ歩きに励む。
水無月は神楽坂とイチャついているので、そっとしておく。
俺は西谷と色んなものを食べながら綾華や霜月の買い物を待つ。
と言ってもその二人はそんなに買い物するわけでもなく、水無月と神楽坂がいちゃついているだけだった。
「あいつら、付き合ってんのか?」
西谷が焼き鳥を食べながら、そう言ってくる。
「いや、多分まだ付き合ってない。」
「そーなのか?今日にでも付き合ってもおかしくねー感じだけどな。」
西谷が恋愛話をしているというこの事実に思わず笑いそうになる。
「西谷は彼女いないのか?」
「いると思うか?一応、いた事はあるが」
なるほど、経験ZEROの俺には勝っているらしい。
「好きな人とかいないのか?」
「あんま考えなくてな。思い浮かばんわ。」
「そうか。」
西谷との謎の恋バナに盛り上がっていると、水無月と神楽坂も戻ってきて、ちょうどいい時間なのでクラスの集合場所に向かう。
「なあ、なんだっけあの橋」
結構有名な橋だが、こういうものを俺は結構忘れてしまう。
「渡月橋ですね。」
霜月が答えてくれる。
なんか、今日は妙に目が合う気がするのは気のせいだろうか。
「沢山歩いたので疲れましたね。」
そう言いながら霜月はポニーテールにしている髪を解き始める。
そんな姿に少し目を奪われる。
「全員揃ったので、ホテルに向かいます。」
バスガイドの声に少しびっくりして背筋が伸びる。
そうして、1日目はあっという間に終わりホテルに向かう。
京都なので旅館っぽい和風なホテルだろう。結構お高めらしく、期待だ。
着いたホテルは思った以上に洋風で京都感はなかったが、アンティークな感じデ、非常にオシャレだ。
それぞれ部屋に向かい、荷物をまとめる。
俺の部屋は水無月、柊、徳永の四人だ。
「風呂行こーぜ!」
早々に荷物をまとめ終わった徳永が言う。
そうして、荷物をまとめ終えてから四人で大浴場に向かった。
大浴場に入り、空いている椅子に座り、鏡を前にして俺は体にお湯を流し始める。
ふと、隣に座る男に既視感を覚える。
よく見ると、そこには俺のよく知る人物がいた。
「久しぶりだな。楓。」
相手も気づいたようで、俺に話しかけてくる。
「ああ。どうも。緑岡。」
俺がこいつのスパイをしてから、こいつと話すのは初めてだ。
こいつは俺の正体に気づいていると聞いている。
綾華によってそれが俺だということも知っているはずだ。
俺は平然を、取り繕う。
「最近はどうなんだ。」
「ああ。平穏な日々を過ごしている。」
「なんだよそれ。」
「ハハッ。まあ順調って感じだよ。楓も楽しそうで何よりだ。」
どこか意味深に聞こえるその発言に少し怯えてしまう。
早く体洗ってどっか行けよ。そう思ってしまう。
俺の正体がバレていなければ軽く質問などをしてみてもいいが、正体がバレてかけている今、それをするのは至難の業だ。
そんな緑岡との風呂をしばらく耐え、緑岡は先に体を洗い終え、俺の隣から去っていく。
俺は思わず安堵のため息をつく。
なんか疲れたなあ。
俺も身体を洗い流し、お湯に浸かる。
中々いい湯だった。
柊の紅とのイチャイチャストーリーを聞きながらその湯に浸かるのだった。
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部屋でダラダラスマホをいじっていると、1件の通知が入る。
「ちょっと来れる?」
そう送ってきたのは綾華で、俺は呼ばれた所に向かう。
1階の奥の方にあるソファ。
先生や生徒はぜんぜん見当たらず、一般人が少しいるくらいだ。
「どうした。なんかあったか?」
「別に、ちょっと話したくなって、座って。」
綾華はそう言い、隣に座れと手でも指示される。
俺がそこに座ると、綾華は話し始める。
最初は今日の事など話していたのだか、突然綾華は話を変える。
「なんで緑岡くんのスパイしてるの?」
「どういうことだ。」
「とぼけるの? 」
俺は黙る。
何を言うか思いつかなかった。
すると、綾華は俺の膝に跨ぐようにして乗っかってくる。
結構まずい体勢だ。
「ねぇ、教えてよ」
そういいながら、俺の上に乗っている綾華は顔から胸にかけて、カウントダウンかのように俺に近づけてくる。
「ちょ、綾華。」
「恥ずかしいの?」
俺も年頃の青年だ。
「じゃあ一つ教えてくれないか?」
「よくここでそんなことが言えるね。楓って感じ。いいよ。なんでも教えてあげるし、何でもしてあげる。」
何でもしてあげるってなんだ、、、?
ちょっとツッコミたい気持ちもあったが、そのまま俺は質問する。
「緑岡はなんでこんなに退学者を出すんだ。」
「あれ、スパイなのあっさり認めちゃった感じ?」
「どっちにしろお前は分かってるだろ。」
まだ、綾華は俺の上から降りない。
「そうね。緑岡くんは完璧な学校を作りたいの。学校のトップとして、不純物を排除する。そう言ってたね。」
嘘はついてないように思う。
「自分の評価を下げるようなバカはすぐに排除するってさ。」
だから、成績が低かったりするやつが退学しやすい傾向があったのか、後はシンプルに緑岡の好みだろう。
「俺のことは排除しないのか?」
「まだ様子を見てるみたい。」
緑岡が如月に言っていた「完璧じゃないお前は俺には必要なない。」という言葉の意味も分かった気がする。
「なんでそんなに完璧を目指すんだ。」
「それは、私にも分からないかな。ごめんね。重かったよね。」
そう言って綾華は俺から降りる。
と思いきや、俺に抱き着いてくる。
「綾華、、?」
「ちょっと今病みそうっていうかさ、なんか辛い。」
今にも泣きそうな声でしゃべる綾華は昔から俺になついてくる綾華である。
「緑岡くんも裏切りたくないし、楓と戦うのもやだよ、、、。」
そうか、、綾華も辛いんだな。
でも、俺には何もできない。
辛そうな綾華をただ見つめることしかできない。
ここで俺は何をするべきだったんだろう。
何と声をかけるべきだっただろう。
俺も綾華を抱き返した方がよかっただろうか。
俺は判断を誤ったかもしれない。
でも、それでも俺には何もできなかった。
ただ、俺に抱き着いて泣きじゃくる一人の少女を。
唯一の幼馴染に。
いつも助けられてばかりなのに。
無力な俺は、何もできなかった。
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