第三十話 俺のスパイ行動は人の恋路をスパイするだけではなかったらしい。
文化祭の責任者をやらされて、この頃忙しい。
そんな中、一年霜月星良が俺のもとを訪ね来た。
「楓先輩!一年の中から退学者が出てしまいそうです」
俺はそれを聞き、放課後に生徒会室に来ているが、中には入らない。
霜月妹によれば、放課後に退学者が生徒会に来るらしい。
なぜ生徒会なのか、すこし盗み聞きさせてもらおう。
すると、生徒会室の隣の空き教室に何者かが入るのが見える。
訪ねるか迷ったが、スパイとして潜入することをバレないよう、俺は静かに生徒会室に目を向ける。
俺の行為がばれないよう、霜月に生徒会室に人が向かってこないか監視してもらっている。
だから俺がばれる可能性があるのは、生徒会の中から人が出てくる場合だ。
だが、こちらも対策済みだ。
生徒会の中には霜月妹がいる。
何かあったときは、霜月妹が音で合図してくれる。
霜月姉妹の協力によって、俺のスパイ行動は完全となる。
まあ、俺がこんなことしなくても、霜月妹が生徒会の中で聞いたことを俺に報告すればいいのではないか。そう思われるかもしれないが。霜月妹が完全に俺の味方だとはまだ言い切れない。
緑岡に操られている可能性だってある。
それを考慮して、俺自らが潜入することにしたのだ。
ま、霜月妹が敵の場合はもうすでに詰んでいるのだがな。
すると、生徒会室の扉が空く。
予想外の出来事に俺は動揺して、逃げようとしたが、中から出てきたのは霜月妹だった。
「すいません楓先輩。緑岡先輩に追い出されました。一年生はこの話を聞いてはならないそうです。」
「中にいるのは緑岡と例の退学者以外にいるのか?」
「神谷先輩がいました」
綾華か。俺は悩んだ末、盗み聞きを続けることを決める。
「それでは気を付けてくださいね。先輩。」
「ああ。ありがとう。」
そして、生徒会室に耳を傾ける。
普通の教室の作りと同じなため、意外と普通に聞こえたりする。
にしても空き教室に入っていったやつが気になる。
生徒会室の中で話がまだ始まらないようなので、すこし隣をのぞいてみる。
すると、中には誰もいなかった。
俺は気になり、中に入ってみる。
すると、ベランダへの扉が空いていた。
ベランダを少し除くように見てみると、人がいるのが見える。
「か、神月!?」
俺がそういうと、神月は静かにという言うようにポーズをした後、こちらに向かってくる。
「楓くん。なにしてんのよ。」
「俺も同じセリフだ。」
神月に俺がスパイしていることを話すべきか俺は迷う。
「ごめん。退学者のことで少し気になってな」
「やっぱりそっか。」
「神月はなにか知ってるのか?」
「んー」
「ごめん。言えないことなら、言う必要はない。」
「楓くんなら言ってもいいけど、少し、楓くんの考察とやらを聞いてみてもいいかな?」
「ああ。簡単にいえば、緑岡が退学者と何か関係があるとみている。少なくとも、生徒会は関係してるだろ?」
「まあそうね。退学の件は、間違いなく緑岡が関わっている。」
「神月は緑岡側か?」
「今の状況を見ればわかるでしょ。緑岡は退学者と話すとき、私や一年を生徒会室から追い出す。」
「神月まで追い出されるのか。綾華はどうなんだ」
「綾華ちゃんだけは認められているよ。でも綾華ちゃんは恐らくあまり重要ではなさそう。ただのお気に入りみたい。」
「やっぱ緑岡なのか。」
「まあ、そうなるよね~。みんな緑岡には逆らえない。」
「綾華は教えてくれないのか?」
「うん。仮に教えてくれてたとしても、それがバレた時の代償が大きすぎる。」
「退学か。」
「緑岡はなんで退学者を出すんだ。そもそも生徒会長だからといってそれが簡単にできるのか。」
「それを私が調べてるのよ。まだ何もわかってないけどね。」
「そうか。良かったら俺にも教えてほしい。俺も分かったことがあったらすぐに教える。力になれるといいが。」
「楓くんならそういうと思った。でも駄目だよ。これは私一人で解決して見せるから。」
そう言う神月はどこか俺が見たことがあるよな真剣な顔つき。
「神月、お前が言っていたやりたいことってこれのことか?」
たしかに神月が生徒会長になれていれば、退学者は出なかったかもしれない。
「まあ、そうね。」
「緑岡がこうなるだろうと分かっていたのか?」
「ちょっと、親が緑岡家と色々あってさ、昔も似たようなことがあったみたいで」
「とにかく、この件は私に任せてほしい。すべてが終わったら教えてあげるからさ。楓くんが退学になるのは、、駄目だよ。」
神月は俺が退学になるのを心配してくれているようだ
「それを言ったら、お前だって退学になる可能性はあるだろう。」
「そんなの分かってるよ。だから慎重にやっているし、もしものことがあったら私だけ、、、」
「何を言ってるんだ。そもそもお前ひとりで立ち向かう問題ではないだろう。」
「楓君は優しいね。」
「そんな言葉、今は関係ない。」
「じゃあ一つだけ教えてあげる。まあもうほとんど知ってることはないけどね。」
俺は無言で頷き神月を見る。
「緑岡が金持ちなのは知ってるよね?」
「ああ。」
確かに、緑岡が金持ちなのは知っている。
「待て、まさか」
緑岡本人について気にするばかり、親のことなど考えていなかった。
「あいつ、緑岡財閥の息子か?」
突然脳に緑岡財閥が浮かんだ。
よく街中に看板があったり、テレビとかでも流れる。
「その通り。しかも長男ね。緑岡財閥はこの学校の建設に大きく関わっていたらしいの。だから、緑岡がやることには学校も口が出せないのよ。」
そうなると、この件の解決は非常に困難だろう。
「学校側は緑岡財閥様様なのか?」
「そうね。」
学校側が緑岡側ならばこちら側の勝機は一気に低くなる。
「なら、なおさらお前に一人の調査は危険だろ。俺じゃなくても、せめて誰か仲間を、、」
「じゃあもう一つ。昔、神月財閥ってのがあったの。」
「それは俺も知っているぞ。でも何年か前に解体されたと聞いている。」
「詳しくはわからないんだけど、緑岡財閥に騙されて、解体せざるを得なくなったらしい。」
俺は驚く。まさか緑岡財閥によってつぶされていたとは。
「お前なりの復讐ってやつか?」
「そうとも言えるわ。とにかく楓くんは下がって。分かって、、、くれないかな?」
「分かった。神月、無理はするなよ。」
「ありがとう。楓くん。任せて。」
そう言って、俺はそこを離れた。
神月が下がれと言って納得した俺だが、こんなところで終われる訳ない。
すまん。神月。俺の我儘を許してくれ。
俺はこのままスパイを続け、真相に辿りついてみせる。
天才の神月でもこの件は一歩間違えれば、すぐに緑岡に退学にさせられる可能性だってある。
そうなれば、助けるのは俺だ。
この学校も、神月も俺が何とかしてみせる。




