122 神月桜という女
「疲れたあああ」
一日目の文化祭は終了した。
俺、有栖、緑岡、神月、新島の五人がずっと付きっきりで仕事をし、なんとか経営した。
午後は麻雀をやりにくる人も結構いて、中々大変だった。
「売り上げは‥‥」
会計をしていた神月がつぶやく。
「ま、まあしょうがないですよ。気にせず明日も頑張りましょう!」
少ない人数でなんとか完成させたこともあり、このクラスはお世辞にも完成度が高いとは言えない。
もちろん、客だって完成度が高い方に行きたくなるのは当然のことだ。
「そうだね‥‥今日はっじゃなくて、今日もありがとうね。みんな。」
新島が俺たちに向けて言う。
仕事づくしの文化祭も悪くない。
それに、半分くらいは麻雀をしてただけだしな。
「楓くん。一緒に帰りませんか?」
「ああ。帰るか。」
「じゃ、また明日な。」
二人で教室を出て行く。
「神月。」
文月と霜月が一緒に帰るのを見送る緑岡。
そして神月。
「何?」
「前から思ってたんだが‥‥」
緑岡はが神月に向けて言う。
「お前、楓のこと好きなのか?」
「は?急に何言ってんのあんた。」
「あれ。違かったか?それはすまなかった。」
「ち、違うなんて言ってないし。」
目を下に泳がせる神月。
「やっぱそうなのか。」
数秒の沈黙。
「いいのか?あれで。」
「何がよ。」
「だから、霜月がいるだろ?」
「い、いいの!私じゃ無理なの!」
「それは違うんじゃないかな?神月さん。」
話に入ってきたのは新島。
「ごめんね。そりゃ、うん誰にも言わないから。神月さん。私じゃ無理とか言わないで。」
「いや、だって‥‥」
「神月さん、私のこと助けてくれて本当に嬉しかった。だからさ、私も助けられることがあれば助けてたいの。まあ、それは霜月さんにも言えることだけどね。」
また、沈黙が続いた。
「変なことを聞いて悪かったな。神月。もうそろそろ帰ろう。二人とも、また明日。」
「うん‥‥」
ーーーーーーーー
やめてよ。
私は諦めたのに。
そりゃ、まだ好きだよ。
去年のクリスマス。
あの時の私が決めたんだ。
楓くんとは付き合えない。
だから、あの時気持ちだけ伝えて、終わりにした。
別に楓くんと結ばれなくたっていい。
そりゃ、できるものなら付き合いたいけど。
でも、楓くんを見てるだけで楽しいし、楓くんが幸せなら、それでいいって思う。
だから、せめて、楓くんの力になれるように、友達として好きで貰っていられればそれでいい。
今みたいに、楓くんと仲良くやっているだけでいい。
ずっとそうしていたい。
最近はこう考えるようになった。
でもね。
恋の感情は日に日に大きくなってる気がするの。
なんでだろうね。
もし、あの日。クリスマスの日。
「好き」の気持ちだけじゃなくて、もう一言、言えてたら。
あんな逃げたような言葉を言わなかったら。
どうなってたんだろうな。
断られるのが怖くて、勝手に泣いて、ただ君を眺めることしかできなかった。
もう一歩。
踏み出せる勇気が欲しかった。
いいかな。
私、もう一度本気で、楓くんを落としたい。
あの時、言えなかった胸の奥の言葉。
今なら、いくらでも言える。
「愛してる。」
そして
「付き合いたい。」
みんなどうせ思ってるんでしょ?
どうせ綾華ちゃんがいなくなった今、楓くんの相手は霜月さんしかいない。
なんて思ってるんでしょ?
一度諦めた恋。
返事はいらないと言って。
いつでも待ってるなんて言ったけど、ごめん。
私、もう待てないや。
嘘ばっかでごめんね。
でも、女ってそういうもんだよね?
私、決めた。
もう一度、霜月さんと戦うことを。