118 滑稽
「では、生徒会会議を始める。」
なんだか、雰囲気が重い気がするのは、隣の神月が明らかに黄瀬川を敵視しているからだろうか。
緑岡は悠々とした表情で俺の右に座る。
さらにその隣にBクラスの八雲影太が。
未だに謎が深い人物だ。
一年の霜月星良や黄瀬川凪もしっかり来ていた。
「まず、文化祭の件についてだが……」
そうして、文化祭について長々と話す黄瀬川。
至って普通の内容で、特に何も無かった。
文化祭の話が終わると、あっけなく会議は終了する。
何も無かったか。そう思っていると、凪が突然口を開いた。
「あの〜会長。最近二年生で色んな噂流れてるって聞いたんだけど、知ってるー?」
「知ってるというか、うちのクラスで流れている。」
黄瀬川は濁すことなくそう言った。
こんな質問をした凪はなんのためにしたのか。
黄瀬川とグルの可能性だって考慮しなければならない。
「楓くん。」
耳元で囁くのは神月。
「なんだ。」
俺も同じボリュームで返す。
「私言っちゃっていいかな?バレたところで退学の危険はないでしょ?去年と違って。」
「え、あ」
聞いたくせに俺に考える間もなく神月は声を上げた。
「あのさ、噂流してるのってあんたなんじゃないの?そんな知らん顔してるけどさ?」
神月はそのまま黄瀬川の方へ近づいて行った。
「いいのか?」
隣で呟く緑岡。
「ここはあいつに任せる。」
ことにする。
「お?面白い展開になっちゃった感じ?」
黄瀬川と神月から少し離れた凪が霜月星良の方を見ながらそう言う。声が大きくて全員の耳に届いているだろう。
「神月。あまり妄想を押し付けるのはやめてくれないか?」
黄瀬川は淡々と言い放つ。
それを見ていると、突然トンと肩を左から叩かれるのを感じる。
あれ、左ってさっき神月がいたはず。
そう思いすぐに左を向くと、そこには八雲影太の姿が。
「どうした。」
そう静かに言う。
だが、いつの間に隣に来たんだ。
緑岡の隣だったはずなのに。
「お前はどう思う。」
八雲は俺に問いかける。
なんか、この顔見たことある気がする。
「俺には分からないな。お前はどうなんだ?」
突然すぎる八雲に流石に怪しさを感じ、俺も質問を返す。
「俺?そりゃ知るわけない。俺はBクラスなんだから。」
そう言いながら、八雲は俺の席の隣を去っていく。
行先は黄瀬川と神月の元。
「あのー早く帰りたいからやめてもらえますか。」
二人の視線。いや、全員の視線が八雲に言った。
「ほら、神月。こいつも言うんだし、もうやめてくれないか。」
黄瀬川はそう言ってこの話を切ろうとする。
「なーんだ。面白そうだったのに。」
凪がそう言いながら霜月と帰ろうとする。
「チッまあいいわ。また今度にしましょう。」
神月もそう言って離れる。
そうして、この会議は終わる。
「神月、あんな大口叩いといて、あれで黄瀬川が犯人じゃなかったら、だいぶ滑稽だぞ。」
「う、うるさい!私なりに頑張ったんだから。そもそも、楓くんはなんでずっと黙ってるわけ?」
「いや、もしもの時、俺と神月がグルなのはバレない方がいいだろう。」
帰りながら、少し神月をいじった。
ーーーーーー
「楓くん。大丈夫ですか?」
「なにがだ?」
有栖に突然そう言われる。
放課後でもう帰ってる人も多い。
「星良から話を少し聞いてるんです。また、スパイしてるって。」
なんで知ってるんだ。と思ったが、恐らく凪だろう。
「あ、まあな。あまり話は広めないでくれ。」
「分かってますよ。何かあったら言ってくださいね。」
「ああ。ありがとな。」
少し沈黙が続いた。
「あの、聞きました?岩下さんのこと。」
そう言いながら、有栖は隣の席に座った。
「嘘って言われたな。」
「びっくりしました。まさか、私と同じなんて。」
「同じ?」
「いえ、なんでもないです。それで、暁くんですが……」
「暁は可哀想だ。両思いだと思ってたのにな。」
そう思い、暁を目線で探す。
もう教室にはいないな。
「でも、仲良いですし、まだまだ分かりませんね。」
「ああ。その通りだな。そういえば、紅と柊、猿田と鴨志田が、ヨリを戻したとかはないのか?」
「そんな話は全然ないですね。」
「そうか……」
「文化祭、もう明後日ですね。」
「もうか、早いな。」
「明日は一日準備ですが、心配ですね。」
「そうだな。このクラスがどこまでやれるか、みんな協力してくれるのか。」
「はい。新島さんがある程度頑張ってくれてますが……一人だけでは難しいこともあります。」
「俺たちはできるだけ協力しよう。」
「分かってます。」
ーーーーーー
「蒼空〜明日から楽しみやな。」
「そうだな心。文化祭は準備から楽しいもんな。」
「準備だけど、ウチのクラスって何も決まってへんよな?大丈夫なんかな?」
「新島さんが1人で色々してくれてるっぽいし、何とかなるんじゃないか?」
「そうなんやーならよかった。」
「ああ。俺たちもできるだけ協力しよう。」
「ん〜協力か〜別に嫌な訳では無いんやけどな。他のみんなも協力するとは考えにくいし、ウチらだけ協力するのは正直嫌やないか?」
「でも、そしたら文化祭が……」
「ウチら2人がちゃんとやったからって、そんなに大きく変わらないと違うんか?他のクラスはみんなで協力してる。でも、うちらはそれができひん。」
「心の言いたいことは分かるよ。でも……」
「だから、ずっと遊んでようや。水無月くん。」