117 協力者
「なるほどね~」
俺は神月と噂のことについて話している。
よく来るおしゃれなカフェで、お互いに飲み物を手に添える。
今日は休日だ。どうせ暇だし、神月と作戦会議をすることにした。
俺は猿田のことを神月に言うか迷った。
猿田の一件から、少しわかったことがあったので、猿田に許可をもらい、神月だけに伝えた。
「伊達くんねえ。全然話したことないや。クラスでもなんというか、普通だよね。」
「そうだな。」
俺は、伊達に焦点を当てている。
伊達は噂に絡みすぎている。
まずは紅。
紅の浮気相手とされていた。
俺は紅と関係がある有栖に頼み、少し話を聞いてきてもらった。
すると、紅は浮気してなかったことが判明した。
話を聞いている限り、紅と柊の間ですれ違いが起こってしまっただけで、誰も悪くないように見えるが、少し伊達の立ち回りに違和感を感じた。
そんな中、猿田の件。
猿田が妹の窃盗を謝っているところを、伊達の妹である伊達風香に見られた。
それが偶然なのかはもちろん分からないが、おそらくそこから兄である伊達幸正にもれたのだろう。
そして、伊達が噂を流した。
色々な嘘を混ぜながら。
これが今の段階で一番可能性が高いと考えられる。
「伊達君が噂を流す犯人。または黄瀬川の手下ってことね。」
「その可能性が高いだろうな。」
「でも、こっからどうするの?目星はついても、解決策がなくない?」
「とりあえず、今から来るから待ってろ。」
「さっき言ってた、協力者のこと?」
「ああ。」
俺はとある協力者をここに呼んだ。
実は結構前から協力者になってもらっていた。
なってもらってから全然話してないのだが、今日やっとこの場で色々と聞ける。
協力者を選ぶにあたって必要だったのは、友達の多さ、人気度だ。
「ごめん。遅れちゃった。」
協力者はあわただしい様子で姿を現した。
制服でなく、私服なため、少し違和感だ。
「大丈夫だよ。夜ちゃん。」
そう。協力者は神無月夜。
一年の頃から、部活で何かとかかわりがある夜。
クラスでは友達も多く、男女問わず人気者だ。
噂の情報源を探るため、俺は夜に声をかけた。
夜はクラスでも人気だし、友達も多い。
噂が入ってくることは多いだろう。
他にも候補がいたが、夜はバスケ部での関わりもあって、助けてくれるだろうと思い、夜に声を掛けた。
軽く説明して、少し調査していることを伝えると、夜は快く協力してくれた。
「夜、例の件。どうだ?」
「ちょっといきなりすぎない?」
怒ってるとかそんな様子ではなく、少しカフェを楽しみたいのかなといった様子が見られる。
「何が飲みたいんだ?」
「ミルクティーかな、え、奢ってくれるやつ?」
「ちょっと待ってろ。」
協力してもらう側だし、1杯くらいいいだろう。
神月にも奢ったことだしな。
俺は立ち上がり、速やかにレジへ。
ミルクティーを注文して、受け取る。
「はいよ」
「ありがとうね。」
少しして、夜が口を開く。
「じゃ、そろそろかな?」
「もうカフェは満足できたか?」
「おかげさまでね。」
「それは良かった。」
俺と夜のやりとりを目線を合わせずに聞く神月。
目線を合わせずというか、スマホをひたすらスクロールしている。
俺はそれについて特に触れずに、夜との会話に入る。
「で、あれでしょ?噂の情報源が知りたい。で合ってるよね?」
「ああ。分かったのか?」
「正直、確実に誰とは言えないかな。」
「それは承知の上だ。」
そういうと、夜は静かに続けて言った。
「噂は毎回、男子から始まってる。」
「なるほどね~」
いつの間にかスマホをしまい、真剣に話を聞いていた神月。
「夜、お前的には、今回の件はたまたまだと思うか?それとも誰かの企みだと思うか?」
俺は質問を問いかける。
「まあ、後者だと私は思うよ。」
「夜、俺は今のところ伊達幸正が怪しいと思ってる。」
特に隠す意味もないので、俺は自分の考えを伝える。
「ん~なるほどね~」
そう言って人差し指を口元に寄せて考える様子の夜。
「私目線、その考えは悪くないと思う。ただ……」
「ただ?」
「一人だけじゃない気がするんだよね~」
「それはどういう意味だ?」
「いや、ただの直感だよ。」
少し間が空いて、神月は俺に話しかけてくる。
「あのことは言わないの?」
すこしこそこそ話のような感じで喋る神月だが、絶対夜には聞こえている。
「何のことだ。」
「黄瀬川だよ。」
「黄瀬川くん?」
俺と神月の話に夜が入り込んでくる。
「黄瀬川かどうかは知らないが、伊達が犯人と仮定するなら、それを操る誰かがいるんじゃないかって考察だ。」
「その線で行くなら、その操られてる側が複数いると思う。」
夜はそう言う。
「複数か……」
「まだまだ解決は遠そうね…」
神月が呟く。
「もうそろそろお開きにしよっか。夜ちゃん、ありがとね。」
「うん。また何かあったら教えるね~」
そう言って夜は去っていった。
「神月。夜の言うことは信じられるか。」
「まあ、夜ちゃんが敵ってことはなさそうじゃない?」
「そうだな。仮に敵だとしても、俺らが調査してることが夜にばれるくらいは問題ない。」
「だね。」
「ああ。」
数秒沈黙が続く。
神月が自分のアイスティーを口にし、それをテーブルに置く。
氷とグラスの綺麗な音が目立つ。
「なあ。噂がどんどん広がってるの気づいているか?」
「まあクラスのみんなが知るくらいにはなったよね。」
「違う。」
「え。」
目を丸くさせる神月。
「他のクラスにも噂が出回ってる。」