108 やっぱり
「今日からはちゃんと真面目にやろっか。文化祭、良いものにしようね!」
委員長、新島なのかがそう言う。
また、文化祭の話し合いだ。
「まず、この前カフェと麻雀でグループに分かれたじゃん?でもさ、麻雀の雰囲気に合わせたカフェにしないとコンセプトがごちゃごちゃになっちゃうじゃん?だから、グループ分けしないで、みんなでやろうと思うけど、いいかな?」
新島の提案。当たり前と言えば当たり前のことだが、委員長としてしっかりそれを実行しているのが新島の良い点だ。新島は多分委員長じゃなくてもこういうことをする性格なんだろうが。
そうして、みんなで話し合うことになった。
内装、外装、どんな飲み物、食べ物を出すのか。
着実に文化祭の準備を進めていく。
ある程度みんなで、コンセプトを共有したら、もう一度グループを分けることに、内装20名、外装10名、食材9名の三つに分かれる。
正直何でもいいので、周りの様子を伺う。
隣の徳永に誘われて、外装になった。
外装のメンバーは、俺、徳永、花宮、岩下、暁、新島、緑岡、神月、黒庭、渡良瀬となった。
黒庭と渡良瀬だけ、いまだ話したことがないな。
そのメンバーで集まる。
新島がいるのが大きい。
新島中心に話を進めていった。
そうして今日は順調に進んだのだった。
ーーーーーー
「神月さん。来てくれたんだ。」
俺は今、またもやとんでもない状況にいる。
隣にいるのは有栖。
二人で身を潜める。
この状況は何度目だろうか。
今回このようになった理由は、まず今俺たちの視界にいる男子、黒庭骸がきっかけだ。
彼は神月を体育館裏に呼び出した。手紙で。
だが、彼はその手紙を誤って有栖の机に入れてしまったようだ。
有栖で良かったな。
有栖は誰にも言わずに神月の机に入れ直してあげたみたいだ。
まあ、こうして見に来ているわけだけど。
俺は、部活帰りに本当にたまたまこの場に遭遇してしまった。
そして、有栖に見つけられ、手招きされ、今この状況に至る。
「黒庭くん。だよね。どうしたの?」
そう神月が言うと、黒庭は躊躇いもなく言うのだった。
「俺、神月さんが好きだ。付き合ってくれ。」
その堂々たる様子に、俺も有栖も感銘を受ける。
「あ、あの私ね。好きな人いるんだ。」
神月は照れながら言う。
もう、断ったも同然だ。
「有栖。電車に送れる。神月に悪いし、帰る。」
実際送れる訳じゃないが、なんだか嫌な予感がしたので引くことに。
「あ、え、じゃあ私も!」
そう言って有栖は俺についてきた。
ーーーーー
「あ、あの私ね。好きな人いるんだ。」
私、告白されちゃった。
なんで私なんか。
でも、告白されるってちょっと嬉しいな。
でも、ごめんなさい。
私諦め悪いから。
「じゃ、じゃあ。」
「ごめん。だから付き合えない。」
断るのってこんなに辛いんだ。
別に黒庭くんのことなんか一ミリも好きじゃないのに、こんなに心が苦しいなんて。
私が告白したとき、楓くんも同じ気持ち抱いてたのかなあ。
あ、楓くんに返事言わせなかったんだっけか。
断られるのが怖くて。
でも、気づいた。
やっぱ私は楓くんが好きみたい。
別に楓くんと結ばれなくたっていい。
そりゃ、できるものなら付き合いたいけど。
でも、楓くんを見てるだけで楽しいし、楓くんが幸せなら、それでいいって思う。
だから、せめて、楓くんの力になれるように、友達として好きで貰っていられればそれでいいの。
別に私結婚願望ないし、一人で生きて行けるし、だから、ずっと楓くんのことを好きでいようと思うの。
楓くんが他の人と結婚しようとも。
いいよね。
今みたいに、楓くんと仲良くやっているだけでいいの。
ずっとそうしていたいの。
これが今の素直な気持ち。
「そっか。分かった。来てくれてありがとう。神月さん。」
「うん。」
そうして、別れる二人。
一つ、実るかもしれなかった恋がここで一瞬にして散っていった。
二人は背を向けるように去っていく。
「あれ、霜月有栖のやつ、いねえじゃん。」
背後から聞こえた。
実は私も気づいていた。
霜月さんと楓くんに見られていることを。
そして二人が帰るところを。
でも、黒庭くんの位置からじゃ絶対見えないはず。
どういうことなんだろ。
そのことをずっと考えながら帰った。
考えても分かるはずなかった。
忘れることにして、楓くんにメールを送った。
ーーーーーーー
帰っていると、神月かメールが来る。
ちょうどスマホを触っていたのですぐに返信する。
「さっき、見てたよね?なんで途中で帰ったの?」
「すまないな。ほんとにたまたま遭遇したんだ。悪いと思って引き返した。」
「帰った理由本当にそれだけ?」
「ああ。」
「本当に?」
「ああ。」
「私が楓くんのこと好きなんだ。っていうと思って気まずくなると思ったとかじゃないの?」
俺の手は少し止まる。
「ごめんごめん。からかっただけ。」
「お前が言いたいのは黒庭のことか?」
「え、あ、うん。」
「別に何かあった訳じゃないが、なんだか嫌な予感がした。それだけだ。」
「そっか。なんかね黒庭くん去り際に、霜月有栖いねえじゃねえかよって言ってたの。」
それがどういう意味かは分からない。
ただ、もし何か企んでいるなら、有栖の机に手紙を入れたのはわざとなのかと疑ってしまう。
そんな事あるのか?
なんのために?
でも、企んでいるとしても、彼がしたのは神月に告白。
たぶん、俺と神月の考えすぎだろう。