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十従獣魔のエスクワイア  作者: 岩山 駆
大収穫祭編
99/108

熾烈極まるゴールイン


 レース後半は誰もが出し惜しみなしの全力で王都に向かっていた。これまでにない頻度で翼を動かし、一分一秒でも早く前を目指す。


 フレアボールターボも果敢にその競り合いに参加し、上位へと躍り出る。


 最高速度に関しては自信のあった赤竜は持てるスタミナ、力の全てを捻り出す。


「もう、少しの辛抱よ、フレアぁああああ!」


 風圧に堪えながら、ルビィはリードしているフェザードラゴンたちを睨む。


 白のフーフシュミット、紫のリンドブルーム、黒のノワールメテオールら三頭に食い下がっていた。


 すぐ後ろでは水色のスカイキャバルリィが競り合おうとしており、気の抜けないデッドヒートが繰り広げられる。


 目と鼻の先にあるフレアボールターボの頭部から泡を吹き出しそうなほど激しい息切れが伝わる。トップスピードをどこまで保てるのか。


 苦しんでいるのは全員同じだ。もはや己自身との戦いである。


『──先陣たちが戻って参りました! 先頭は期待を裏切らぬ白き王子! 二番手争いは黒の流星──』


 王都の間際までたどり着くと、音響が拡散された司会の解説が聞こえる。


 小手先抜きの直線勝負。ジリジリと距離を詰めようと死力を尽くすも、


『フレアボールターボ失速! フレアボールターボの身に異変が起きたかぁ!?』


 しかし限界は早くも訪れた。全力を保てなくなり、みるみる速度が落ちていく。


「ゴ────ゴホッ」


 咳き込みを始めた赤竜は高速飛行をやめる。コンディションが著しく落ちてしまった。


 ルビィの相棒がスタミナ切れを起こしたのである。


(スパートの時期を誤った!? 序盤に吹き荒れた向かい風での消耗は思ったより激しい……!)


 ふらつき、墜落だけは阻止しようとそれでも懸命に翼動かすフレアボールターボ。その仕草に彼女は沈痛な表情で目を伏せる。


「フレア……よくやったわ」


 後続たちにどんどん追いやられていくのを尻目に、リタイアが脳裏をよぎる。だが、無事であることが優先だ。


 もういいから、となだめようとしていた時だった。


 傍らを緑風が掠める。


「キュ~キュゥウウウウウウウウウ!」


 もう一対の新鋭が、頭角を表す。機を窺っていたモッフンが反転攻勢に出ていた。


 スレ違いの間際、フレアボールターボとモッフンの視線が交わされた。フェザードラゴン同士での物言わぬ意志疎通があったのだろう。


 あっという間に置き去りにされた猫魔族も少女と赤竜。ルチルたちが自分たちの代わりに活躍してくれるだろう。


「──……グッグフゥー! グォオオオオオオン!」


 だが、フレアボールターボが乱れた呼気を無理やり整え、荒ぶる。気力で復帰した。


 モッフンに負けじと翼を動かし、抜かされた順位を取り戻そうとする。意地を見せていた。


「……そうね……! このまま終わらせちゃいられないわよね!」


 こんな調子で優勝は不可能だろう。だが、それでもこの相棒は諦めていない。


「あっちにだけいいところ見せられないわよフレア!」


 闘志を燃やし、精魂を注いで、残りわずかな道筋に全力を尽くす。


 そんなことも露知らず、白と黒──フーフシュミットとノワールメテオールの一騎討ちに観客たちも白熱していた。


「行けェそこだァ! そのままぶっち切れェー……え?」


 割れんばかりの声援の中、微かに異変が伝播する。


「おい、あっち見ろ」


「なんだ?」


「まさかアレは──」


 三番手リンドブルーム、四番手スカイキャバルリィが競り合いをする最中、その二頭を交わし怒涛の追い上げを見せた刺客が参入する。


 新緑のフェザードラゴン、モッフンが上位に躍り出た。


『おおおおおおっとぉ!? ここでまさかのノーマークだったモッフン! 新参モッフンが並んできたぁ!?』


 地鳴りにも似た、観衆席で広がる動揺の波。


 終盤のラストスパートともなれば歴戦の猛者ですら疲弊しているというのに、モッフンは衰えを一切見せない。


 鞭の如くしならせた両翼が力強く羽ばたき、更に加速。もう一段階速度を上げる。


 二番手、漆黒のノワールメテオールを難なく躱し、破竹の勢いで一番を目指す。


 入れ替わって迫り来る脅威に、抜かされまいと逃げるフーフシュミットであったが引き離すことができない。


「コ、コォウウウウウウウウウ──」


「キュルルキュゥウウウウウウ──」


 白竜の遠吠えに呼応しモッフンも喉を鳴らした。


 リードしていた間合いすらも縮められており、トップへの王手をかけている。


 尻尾、後ろ脚、胴体、前脚……とフーフシュミットとモッフンの馬身の狭まりは留まることを知らない。


「ウォオオオオオオオオオ!」


「うああやめろやめろやめろやめ──」


 目と鼻の先の終着点に近づくにつれ興奮の声やその結果を望まぬ絶叫が湧き、瞼の瞬きを忘れそうなほど緊迫した瞬間が訪れた。


 ほぼ同時の熾烈極まるゴールイン。大勢の賭けに乗った紙片が飛び散る。


 文字通り、頭ひとつ抜きんでて差しきった。


『──白き王者の陥落だ~~~~!』


 アナウンスが勝敗を明確に喧伝。


 モッフンの優勝の報に悲喜こもごもの喧騒が生まれる。惜しみない喝采。博打予想をハズした者の悲鳴。新たな覇者の登場による歓声。


「……キ、キフフゥ~…………」


「頑張ったね、おめでとう」


 さすがのモッフンも疲労困憊の様子でヘロヘロになっており、ルチルは労った。


『無敗神話に引導を渡したのはっ! 誰もが見向きもしなかったダークホースのモッフン! ケチを付けさせない圧倒的な後方捲りでした! 歴史に残る──』


 後から他のフェザードラゴンたちも到着し、順位付けがされていった。


 二着フーフシュミット。三着ノワールメテオール。四着リンドブルーム。五着スカイキャバルリィ。六着アルカンシェルミエル……


 肝心のフレアボールターボの順位は十着だった。地上に降りるなり、精魂尽き果てた様子で数歩進んだ後にその場で崩れる。


 駆け寄る運営員と飛び降りて介抱するルビィ。モッフンも傍に寄ろうとしたが「近づかないでください危ないからっ」と喧嘩や暴れることを考慮してか制止を受ける。


「控え室に戻ってなさい。安静にすればフレアは大丈夫だから」


「わ、わかったよ。行こうモッフン」


 ルビィの指示を受け、後ろ髪引かれる想いのモッフンとその場を後にするルチル。


 だが、そんな心配をしているどころではない状況に見舞われることになった。


 会場外でわぁっと、記者やレースの事業者に翼竜の飼い主などがこぞって集まってきたのだ。


「優勝おめでとうございます!」


「モッフンという貧相な──失礼ユニークな名付けとは裏腹に素晴らしい活躍でした!」


「無敗の王者を見事に破ったご感想を!」


「あの驚異的なスタミナと末翼の秘訣をご教授願えませんか!? どんな育成を──」


「そちらの所有主とお話をしたく!」


「今後の翼竜(ワイバーン)レースへの出場予定は!?」


「是非ともウチの翼竜を種牡竜として契約を──」


 あまりに殺到する勢いでえーと、と返答に詰まるルチルであったが、その混乱に割って入る人物が現れる。


「モッフン氏は王立学院にて管理されているフェザードラゴン故、この場での交渉は控えて欲しいですな。どうしてもというのならその大元を介してくださるのが筋というもの」


「部長!」


 助け船を出したのは、兎魔族のジャック・アルネプ。


「……なんだね君は」


「自分はモッフン氏およびフレアボールターボ氏を監督する騎竜部の部長ですぞ。口出しする謂れは大いにありますな。その場での返答可否も任されております故」


「し、しかしせめてインタビューだけでも……」


「レース直後で大いに疲弊している選手たちに休ませる暇くらい必要でしょうに。いくら我々が子供とて、行動を弁えていただきたく!」


 眼鏡をクイっと動かしてサバサバと対応していく。



「それにホラ、御本人の意向を無視して話を進めるのはいかがなものかと」


 御本人? と疑問系での復唱に部長は手で後方に控えた新緑の翼竜を示唆する。


 さりげなく手渡されていたボード板をモッフンは書き込み始め、一同に披露した。


「ギュ~ッ!」『帰って!』


 別の意味で騒然となった事態であったが、彼の活躍により野次馬たちは蜘蛛の子を散らすように退散することとなった。

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