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十従獣魔のエスクワイア  作者: 岩山 駆
大収穫祭編
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荒れる円卓


(なんだあれは……学院の方角だが)


 会議の最中、遠目に窓越しの空で緑と赤い点が飛び交っている光景を女王グラナタスは見た。


 その正体が実の娘と知己の息子による翼竜訓練飛行であったと知ることはない。


「──以上が遠征の最中で起きた経緯の仔細となります」


 荷車ランスロット卿、牛魔族の隊長イーオス・アステリオは話を終えて着席する。それを契機にグラナタスは意識を円卓の一同たちに戻した。


 彼女の報告は既に女王が預かり知るところであり、隊長全体へのあらためて周知している形式だ。そうして意見を酌み交わし方針をとりまとめていく。


「モルグ洞賊団撲滅の件はさておき、超獄獣ゲヘナヒモスの討伐、そしてなによりベスティアヘイム王国としては史上初めてである神獣との接触、か……ケホ……叙勲式を何度も行えるほどの大手柄だよ」


「ありがとうございます射手(トリスタン)卿」


「ケチをつけるようだけどよォ。せっかく発見した神獣サマをむざむざ死なせちまったことに関しちゃいただけねーよなァ荷車(ランスロット)?」


 犀魔族の隊長ライノ・グレイトホーンが苦言を呈した。イーオスはゆっくり頷く。


「確かに私の力不足と致すところだ壁番(ポールス)卿。貴殿ならば守りきれたのかもしれない」


「力不足でしたゴメンナサイ、なんざ誰だって言えんだよったく。そんなんでよく隊長名乗ってられるなァ、このクソでけー損失どう落とし前つけんだ?」


「全くですねぇ、貴女の場合私怨で冷静に立ち回れていなかった可能性が見受けられますから。皆さんもご存知の通り、別の選択肢も考えられるにもかかわらず、彼女は敵討ちを優先した可能性が高い」


 便乗するように糸目の狐騎士フェネスが追い討ちをかけてきた。それにも反論をしない荷車の騎士。


剣鉈(パロミデス)卿の言う通り、申し開きもない。懲戒があるというのなら甘んじて受け入れよう」


「野次たちの言い分をまともに聞かない方がよろしいかと。立て続けに起こった想定外の事態の中でも部下を守り抜いた貴女にむやみやたらと責め立てる謂れはありません」


 山羊魔族の隊長コルヌ・アマルテアが二人の糾弾を遮った。


「それに戦線に出張らないお守役とまんまと獲物を取り逃した輩が吠えているだけですから」


「てんめぇ……喧嘩売ってンのか銀杯(ガラハッド)……!」控えめながら凄むライノ。


「非戦闘員が言ってくれますねぇ」冷笑を浮かべながらも挑発に乗るフェネス。


「喧嘩を売り出したのは壁番(ボールス)卿が先ですしダンジョン内のモンスターを掃討する任務の失敗でゲヘナヒモスが別ダンジョンに渡って神獣を殺める結果に繋がったと考えれば剣鉈(パロミデス)卿が無関係な態度でいるのはおかしいと指摘しているのですが」


 男二人に負けじとコルヌは鋭利な反論を突きつける。


 女王陛下の御前で聞くに耐えない口論も時折起こっているのだが、円卓会議の中では上下関係なく意見を交わすという理念の下で多少ながら許されている。


「少しいいかしら」


 険悪な雰囲気にもかまわず、深い深緑髪に黒ドレスの女性が挙手した。鹿魔族の筆頭宮廷魔道師、クラウディア・ケリュネイア。


「超獄獣の亡骸については大方調べ尽くした。原石を補食しその力を我がものとする特性。とても興味深い個体だったわ」


 クラウディアは会議の場でも自らの知的好奇心を優先した。イーオスの責も誉れにも関心が希薄だ。


「けれども、収穫はそれだけじゃなかったでしょう? 神獣の遺体から確保したという魔石に関して研究したいの。こちらに融通してもらいたいのだけれど」


「不躾ながら命水(イゾルデ)卿、先ほど申したように神獣の愛し子(・・・)……シトリ・ティグマデウスのもとに渡っておりこちらの都合で取り上げるには少々……」


「無償が嫌なら言い値で買い取ってもいいわ。きちんと保管してあるの? 交渉の席を用意してちょうだい」


「イ、命水(イゾルデ)卿……それはあくまで遺品として扱われるものなので」


「当人の意志も確認していないというのに遠慮してどうするというの」


命水(イゾルデ)卿っ」


「その辺にしておいてやれケリュネイア。お前に他意はなくとも申し出の範疇を越えている。もはや年功序列の要求だ」


 ほとほとに困り果てていたイオ隊長に仕方なくグラナタスは横槍を入れた。薄々感じてはいたがこの場の面々は少々協調性に欠け過ぎる。


「シトリ・ティグマデウスが神獣に育まれたという事実がある以上、丁重に召し抱える必要がある。ましてや原石持ちであるのだから尚更だ。そこで愛し子という名誉を掲げ爵位と国民権を授けた。現在は我が娘たちの側仕えとして置いている」


「それが?」


「つまり、王室そのものが後ろ楯として存在していることを強調している。そうでもしないと旗頭に利用されかねんからな」


 女王は抑揚も魔力にも頼らず、圧を籠める。自分と並ぶとされるもう一人の魔女相手に。


「あの者に歯牙を向けるということは王室に歯牙を向けるのと同義。故に強要も脅迫も買収も認めん。無類な善意の下、賜ることでのみ赦されると心得よ」


「委細承知いたしましたわ女王陛下」


 萎縮することもなく二つ返事でクラウディアは応じた。一切気を削がれた気配がない。


 その僅かなやりとりで同席している騎士たちの反応は多種多様に渡る。ヒヤリとして固唾を呑む牛魔の騎士(イーオス)、やれやれと言わんばかりに肩を竦める猫魔の騎士(オニキス)、険しい表情で微かな舌打ちをする犀魔の騎士(ライノ)、小気味よく糸目の笑みを浮かべる狐魔の騎士(フェネス)、憮然と鼻を鳴らす山羊魔の騎士(コルヌ)、困った様子で嘆息した獅子魔の騎士(ネメア)といった具合だ。


「次の議題に移ります」


 そして動じることなく豹魔の騎士(ジルコ)が進行を仰せつかった。


「順番で言えば……谷駆け(パージヴァル)卿だったな」


「はいヨー!」


 ジルコの指名により着ぐるみ騎士クリプ・クエスティングが手を振りながら発言を始める。


「みんな覚えてるかナー、前回報告した闇ギルドに所属するクランの情報のこと。新規鋭の『妖精の騎士団』の話サ」


「そりゃ勿論忘れてないさ。王国に仇なす存在の寄せ集めのくせして騎士団を名乗るふてぇ連中だからねー」猫魔族の隊長オニキス・キャスパリーグが合いの手を打つ。


 冒険者はベスティアヘイム王国に認可されたギルドに登録することで、時には指名依頼や王国による支援の恩恵を受けることもある。


 しかし密輸、違法狩猟、暗殺といった非合法な依頼まで請け負う冒険者もおり当然ながら罰則があり悪質で脅威として認定されればお尋ね者扱いされる。そういった手合いが徒党を組んだ組織が闇ギルドである。


 国としても指名手配や立ち入り調査などで定期的な大捕物を行っているのだが、息のかかった末端が捕らえられるだけで大元は生き残るというイタチごっこが繰り返されているのが現状だ。


 女王グラナタスは手を焼かせている闇ギルドに加盟した悪名高きクランの面々を記憶から想起する。


竜禍の残滓(ドラゴエンバー)小柄な家人(ドモヴォーイ)壊岸の歌姫(セイレーン)幽鬼の騎手(スリーピーホロウ)といった裏S級冒険者どもだったか」


 裏S級冒険者。正規のギルドには登録されていないながらもS級冒険者相当の実力を誇ると見なされた冒険者のことを指す名称。


 指定特殊体(ネームド)の上位危険度モンスターに並び国家レベルで警戒されており、征伐対象として莫大な懸賞金をかけて指名手配されている。


「そーそーそうですヨ陛下。ロビた……夜靴(ケイエス)卿と結託して一斉検挙の手筈を整えていたところだったんだけどネー。先日、状況が急変した。その処理に追われて今回は出席を見送っている」



 おちゃらけた調子のクリプであったが、話していく内に口調が真剣味を帯びていく。


「結果から言えばすんでのところで、逃げられてしまった。驚きだよ。拠点を抑えようとした直後にもぬけの殻になっている上に、万が一と逃走経路に仕掛けた罠も悉く回避して退けたのだから……」


 着ぐるみの頭部を左右に振って悩ませる素振りを見せる。


「だけどネ。代わりにひとつ確信めいたことものがある。この異様な対応の早さは情報が筒抜けになっているとしか考えられない。すなわち──」


 波紋の生じる一石の発言。


「闇ギルドと繋がり手引きをしている──内通者の存在サ」


「俺たちの中に、裏切り者がいるだとォ?」


 声を荒げたライノが席を立つ。あまりに聞き捨てならぬ指摘だった。


「ありえねェ! んなことあるわけねェーだろっ。騎士でいながらこの国を危険に陥れるような真似をするヤツが存在するなんて!」


「彼の意見に同意するのは(しゃく)ですが、その指摘については私からも否定させていただきます」


 努めて冷静に修道女騎士コルヌも口を開いた。


「ありえない……ではなくありえるのがおかしい、という方が正しいです。我々は忠誠を誓うにあたって契約の書を一人一人が隊長格はもちろん下流騎士まで全員が署名しています。ですが焼失があったことは報告にありません」


 約定を果たしていることを証明する魔法具(アーティファクト)。特殊な羊皮紙にサインした後、その中に羅列された項目を破ると発火するという仕組みだ。


 これにより交わされた誓いを物理的に確固たるものとすることが可能で、大きな取引や騎士たちの忠誠の証として活用されていた。


 騎士道に反した大きな問題行為を犯したり、王への謀叛を抱いたりしようものなら当然保管された契約書は延焼せずに灰となり、署名の切れ端だけを残して誰が裏切ったのかが浮き彫りになる。


 よって、それらに異変がないということはすなわち騎士たちの忠誠は揺るぎないことを意味する。


 従来の話であれば。


「なんらかの手段を用いて保管している誓約書をすり替えた可能性を考慮しないのか。がらにもなく過信が過ぎるぞ銀杯(ガラハッド)卿。一度全員の誓約書を調べ上げ、異常がないか洗い出すべきだ」


 紅蓮(モルドレッド)卿、ジルコ・オセロトルは指摘した。しかし射手(トリスタン)卿、ネメア・レグルクスもそこに待ったをかける。


「……否、そんなことで炙り出せるほど容易い問題とは思えない。我等には到底想像もつかない巧妙な方法で欺いているやもしれない。本当に裏切り者がいるというのなら相当な曲者だよ」


「呑気に称賛している場合ではないと思いますがねぇ」


 剣鉈パロミデス卿、フェネス・ルナールは嘲りながら発言した。


「背信の疑惑があるというのは由々しき事態でしょう。話を聞いている限りだと会議での情報を傍受して後追いで指示を受ける末端の騎士が動くにしては対応が俊敏です。となれば我々隊長格にこそ疑惑があるのでは?」


「じゃァ尚更この中で怪しいのはテメーじゃねぇか剣鉈(パロミデス)。ヒトを煙に巻くのが十八番だろォがよ」


「ほぉ? サイの獣人らしく単純で直情なおめでたい思考をなさっていらっしゃる。私が陛下と皆さんに謀叛を企てているという根拠はどちらに? そしてお言葉を返すようですが、意欲的に他者を槍玉に挙げて疑ってかかる貴方こそ、潔白であると周囲を説得できる自信はおありで?」


 疑心暗鬼を生み、それぞれの言い分がすれ違う。巻き起こった口論を静観するのはクラウディアとオニキス。


壁番ボールス卿。確かに彼は言動に少々難のある男だが少なくとも同胞を危険に晒すような真似はしない。誰よりも……少なくとも私よりも道義を重んじる男だ」


「……口添えどうも。擁護しているのか扱き下ろしているのかどちらかハッキリしていただければ幸いかと」


 イーオスからのフォローに嫌みたらしくフェネスは礼を言う。


「──狼狽えるな。たかだか疑惑ひとつ浮上したぐらいで結託を揺るがしてどうする」


 隊長たちの反応を見た女王は戒めるべくそれ以上の私語を制止した。


「あらゆる想定を考慮しながらも確証のあるものだけを吟味しろ。事後報告でもかまわん。各々でなにか疑惑があれば共有し、必要となればわたしの号令を聞く前に動け」


「恐れながら陛下、これだけは先にご返事いただきたい」


 ジルコ・オセロトルは進言する。


「万が一、謀叛人が見つかった場合、陛下の判断を待たずに粛清をお赦しくださいますか?」


 一瞬、冷ややかな空気が流れた。それは自分たちも例外ではない話だったからだ。


「必要となれば、と言っただろう」


 グラナタスは高圧的に釘を刺した。それからフッと彼女は笑う。


「だが、お前たちが生け捕りで引き摺り出せるのなら、ぬけぬけとこのわたしを出し抜こうとした逆賊とやらの面を拝んでみたいものだな」



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