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十従獣魔のエスクワイア  作者: 岩山 駆
荷車の騎士編
91/108

secret episode&Fragment of the next story……

予告の描写・セリフは実際の連載とは異なる場合がございます。


「ボサッとするな! さっさと歩けっ!」


「はいはいわーってますよ、逃げやしねーっつの」


 王都の入り口で馬車から降ろされたモルグ洞賊団の一員を剣鉈(パロミデス)隊の副隊長ベオルフ・イザングランが厳しく命令する。


 ニヤニヤと部下の奮闘を眺めている隊長のフェネスだったが、その切れ込みの入ったような目付きは一切の油断も宿していない。


 賊は全員完全に手を縛られ観念した様子であるが彼らは逃走のプロだ。誘拐強盗致傷の実力以上に高い掘削能力で長年騎士団でも手を焼いていたのだから騎士複数人で警戒するのも当然である。


 さらに監視の目を除いたとして、物理的にもその場から勝手に動くことが許されない状況。


 よく見れば縦列で移動する盗賊たちの全身にキラリと微かに光る無数のピアノ線に似たものがまとわりついていた。その正体はフェネスの手元から伸びた糸である。


 ──《蜘蛛の饗宴(アリアドネ)


 もし余計な真似をすれば彼の糸が引き締まり、瞬く間に五体を切り刻まれることになる。道中で警告代わりにその末路を辿るモンスターの姿を見せつけられた。


「ったくよぉ、こんな手厚く送迎されちまったら牢屋の中も期待しちまうなァ。さぞや快適に違いねぇ。酒の差し入れを楽しみにしてるせガハハ!」


「お頭カッケー!」「惚れるゥー!」「頼れるゥー!」


「余計な口を開くな! 騒ぐな! 盛り上がるな!」


「へっ!」


(……や、ヤベェってあのキツネ野郎……!)


 土竜魔族モルグ・ボーリングは部下の手前怯えた素振りを見せずに強がっているが、この場で誰よりも危機感を覚えていた。


(この身体にかかったクモ糸みてぇなの、髪の毛なんかより柔くて細そうなクセに、腕より太い蛇が巻き付いてるみたいな圧を感じさせやがるぜ……! 俺の勘が、暴れるな、逆らうな、抵抗するなと言ってる!)


 牢屋に向かうべく城門を潜ろうとした矢先、


「ほぅ、これは稀有な光景ですねぇ。貴女が魔塔の工房から出て恩身自ら赴きなさるとは」


 フェネスは予想だにしない邂逅に感嘆を漏らす。


 やってきたのは暗いゴシックドレスにヒール靴を履き、喪に服していると思われても仕方のない装いをした褐色肌の獣人女性だった。


 片眼鏡(モノクル)をかけ、深緑の長い巻き髪を結い上げ片方の肩に垂らし、葉を茂らせそうな枝角を頭上に伸ばしている。鹿魔族の高名な貴族であり、王都お抱えの宮廷魔導師のトップ。


 騎士ではないながらも、唯一王国からフェネスたちと同格の称号を賜った立場の人物なのである。


 噂では、女王陛下と五芒魔星(ペンタグラン)の座を巡って対等に渡り合ったとか。そのためか、王都を代表する二人の魔女の片割れとして数えられている。


「ご機嫌麗しゅう、命水(イゾルデ)卿……クラウディア・ケリュネイア婦人」


「超獄獣の亡骸はどこ?」挨拶すら抜きにしてクラウディアは本題に入る。とどのつまり目的はそれだ。


 魔導師としての技術開発はもちろん、魔法具(アーティファクト)の発明など魔法に関する分野の研究機関に所属する彼女は、ゲヘナヒモスが通常個体のベヒーモスとは異なり魔法に酷似した攻撃能力を備えていた点に大きな関心があるのだろう。


「お言葉ですが我々剣鉈(パロミデス)隊が王女殿下直々に拝命されたのは捕縛した賊の罪人たちを連れ帰ること。そちらの件は荷車(ランスロット)隊の管轄ですから預かり知らぬところです。残念でしたねぇ、せっかくご足労いただいたのに空振りに終わるだなんて」


「到着の予定は?」


「さぁ? 立ち寄られた学院で道草を食っているのであればいったいいつになるのやら。呑気なものですよね」


「そう。邪魔したわね」


 そっけなく、もう話す必要はないと言わんばかりにクラウディアは踵を返した。


「──そういえば。先日御息女にお会いする機会がありましてねぇ」


 意趣返しに、フェネスは彼女を呼び止める。


「ひと目でわかりましたとも、ええ。とても可愛らしい御令嬢でした、貴女が目立たせたくない(・・・・・・・・)お気持ちもよくわかります」


 宮廷魔道の組織トップの娘が魔法の落ちこぼれである実態を承知の上で、仄めかせる。


 そんなやりとりにベオルフ副隊長は直立したまま嘆息を漏らした。横槍を入れたいところだったが、立場が上の者同士の会話だ。しかも護送中で警戒を解くわけにはいかない。


「しかし実は不幸なすれ違いがありましてねぇ、私を賊と勘違いしてか襲い掛かってきたのですよ……ああご安心を。ご丁重に無力化させていただきましたとも──こんな風に」


「ぐぁっ」


 モルグに巻き付いていた糸を引き締め、身動きをとれないように拘束する。その場にドサリと倒れ込んだ。


 部下たちは「お頭ぁ?!」と浮き足立ち、副隊長も「おいよせ!」と強い制止の声を挙げる。


「おや失礼。少し強く締め上げ過ぎましたかねぇクヒヒ。彼女もこれには手も足も出なかったようで」


 見目麗しく無表情な面持ちに変化はなく、じぃっと手指を遊ばせるフェネスを見やる。彼は嘲笑を混じえて続けた。


「ただ、その時の表情ときたらなかなか滑稽だったものです。なにが起きていたのか理解もできず、まさしく小鹿の如く震えてしまって可哀想なことをしてしまいましたよ。極めつけに幼子のような悲鳴まで──」


「──知らなかったわ」


「はい?」


 そこで、クラウディアは娘であるエメラルダの尊厳を貶めようとする彼の口上を遮った。


「貴方──」


 ただし声音は平淡なままで、至極退屈そうにこう言ってのける。


「一回りも小さな子供が趣味だったのね」


「んくっ」薄ら笑いをしていたフェネスの顔が固まり、頬がひくついた。


 ピリピリしていた周囲の空気が、別の意味で悪くなっていく。


「見当違いもいいところなんですがねぇ……」


「とやかく言うつもりはないわ仲直りしたいのなら本人同士でやって頂戴。婚姻にしろ、私からはなにも口を出さないからどうぞお好きに」


 弁解に耳を傾けず、あしらう調子でそう言いきった後、今度は立ち止まらずに彼女は去った。


 少女趣味という疑惑をかけられた上、まるで気になる娘にちょっかいを出したがる子を諌めるように扱われたフェネス。普段の嘲笑が影を潜めていた。


「……ぷ、くくく──もぎゅぅ!?」


「お頭ァ! お頭の全身がハムみてぇにー!」


 地べたに這いずったままつい吹き出したモルグ洞賊団頭領は更に締め上げられた。


「その辺にしておけ。今回は向こうが上手だった。八つ当たりは負けを認めるのも同然だぞ」


「とんでもない。不審な挙動が見えたので先手で抑え込んだまでです……この借りは高く付きますよクラウディア・ケリュネイア……いずれ……」


 口早に言ってからもブツブツと呟くフェネスにやれやれと副隊長は肩を竦める。


(イオにも見せてやりたかったよ。フェネスがまんまとしてやられる瞬間を)


 いずれまた顔を合わせるその瞬間を心待ちにしつつ、ベオルフは自らの役務に戻った。



 荷車の騎士編 了



 Fragment of the next story……


 


 ──あの銅像の二人はね、前国王とその親友だった騎士。命をかけて国を守った英雄たちよ。


 ──存じていましたか母上。四ツ葉の白詰草(クローバー)は人の踏むところに生えるようです。


 ──深夜に出るんだって。歩く首のない甲冑が……


 ──呪いだっ。この子供は邪竜に呪われたんだ!


 ──この国自体を一度瀉血した方がいい、僕はそう思うね。





魔法紋ルーンにおける《第Ⅱ覚醒(フサルク)》とは、その人の可能性の拡張。それを考えることが目覚めの近道だから」


 聖女は霊峰花(エーデルワイス)を差し出した。


「貴方になにができて、なにが足りないのか、よく考えてみて」








 妖精の騎士団 裏S級冒険者


「俺たちの中に、裏切り者がいるだとォ?」


 波紋を呼ぶ円卓会議 燃える契約書


「ありえない……ではなくありえるのがおかしい、という方が正しいです。我々は忠誠を誓うにあたって──」







 翼竜(ワイバーン)レース 不明の道化獣(クエスティング)


「ボクと一緒に知らしめようよ。君の名(モッフン)は笑うためのものじゃないってこと!」


「フレアボールターボ失速! フレアボールターボの身に異変が起きたかぁ!?」


 黒の流星


「いい育ち具合のドラゴンだな。俺に譲ってくれよ」













「どいつもこいつもこぞって魔法具アーティファクトで闘いやがって、そんなの不公平だろ? だからオレも使わせてもらう」


 開幕した剣闘大会


「友よ。貴殿が戦友足り得るならば、どうかこの想いに応えてほしい」


 三つ巴の才 対決する二人 一筋の涙


 ──……《銀剣錬製(シルバーレギオン)》・《一騎多勢(リインフォース)》!


 可能性を手繰り寄せろ──








 夜会の悲劇 人魚姫(セイレーン)の唄


「本当にできるとでも?」


 革命の人形劇 囀ずる小鳥(ハミングバード)


「ええ。この国の敵なら燃やせるわ……たとえそれが、アンタであったとしても」 


「貴女はもう、目覚めない(・・・・・)


 伏せられた真実 哀れな婚外子








「貴様は、誰だ」


 月影伸ばす屋根の上、息の根が耐えたはずの存在はふてぶてしく見下ろしていた。


 霊剣クラレント 矜持の体現


「誰なのか、だって? そんなの見ればわかるだろ」


 原石 《■来■(■■■ル■■ァ■)


 あどけなさを残す狼魔族の少年の顔は返り血を浴び、野卑で暴力的な笑顔が広がっていた。


「テメェが斬って捨てたガキ本人──ルチル・マナガルム様だよ。今更お見知りおきする必要ないはずだぜ、大将」


 彼は変貌する。



 次章 大収穫祭編

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