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十従獣魔のエスクワイア  作者: 岩山 駆
荷車の騎士編
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古代地下遺跡郡


 遡るのは、かつての剣鉈(パロミデス)隊を担っていた牛魔族の男が王都にて入隊式を行っていた時のことである。


 モンスターを狩ることを主な目的としたその隊の騎士たちを整列させ、数名の新米たちと顔合わせをさせていた。


 ──では次、君は何故ここを選んだ?


 物静かにミノース・アステリオ隊長は、入隊の志望動機を再確認する。


 ──この国の民を守る楯になりたいと強く想い立ったからであります!


 ──そうか。次、ベオルフ・イザングラン。


 ──自分は武勲を挙げ、国の礎になりたく志願致しました!


 狼の新米騎士は気を付けの姿勢で声高に応じる。


 ──次、フェネス・ルナール。


 ──私めに適した分野が前線への配属……特にモンスターを討伐することと考えた次第で、この隊への加入を志望いたしました。是非ともご重宝いただけると幸いですねぇ。


 隣の狐魔族の獣人は飄々とした様子だったが咎められることはなかった。


 それまでよどみない質疑応答を済ませていたミノ隊長であったが、わずかに間を置いて最後の一人を目配せする。


 ──……次だ、イーオス・アステリオ。


 ──侵略してくるモンスターの暴虐を赦すわけにはいかないからです。


 他の男性獣人たちに劣らぬ長身の牛獣人は固い意志の固い口調で応える。


 月並みの建前でも利他的でなくとも口を挟まなかったミノ隊長は話を続けた。


 ──それは誰のためだ?


 ──被害者たちの、引いては今後命をおびやかされる者たちのため。


 ──違うな。自分のためだろう。


 ──なっ……


 ──お前はこの隊でもっとも不必要な感情を抱いている。戦地へ赴くべきじゃない。早い内に移籍を薦める。


 信じられない様子で彼女は目を見開く。


 ──話は終わりだ、解散。


 言い捨てて踵を返す。戸惑った隊員たちはざわつく。


 ──待ってくださ……──ミノ兄!


 堪えきれず呼び止める。上司と部下の関係を放棄し、イオは問い質す。


 ──どうして私を否定するんだ!? 実の妹だから認められないというのか!


 ──関係ない。強いて言うなら根底を理解しているかどうかだけだ。


 ──ならば尚更わかるはずだろうっ! 奴等に故郷と家族や友人を奪われた気持ちが! モンスターを目の敵にしてなにが悪い!?


 納得がいかずに言い募る。


 ──民では手に負えない害虫害獣どもを駆逐するのも騎士の本懐! だから兄さんもこの隊に入ったんじゃないのか!? 復讐のため! 仇討ちのために!


 私もそれに続いただけだ! そう主張した。


 ミノ隊長は目を閉じ、洞角のある頭を振る。


 ──だったら冒険者にでも身をやつせばいい。この隊に残りたくばそんな考えを捨ておけ。忠告したぞ。


 置き去りにされ吹きさらしの風で桜髪が揺れる。既に片鱗のあった美貌をしかめ、イーオス・アステリオはその大きな背中を睨みつけた。


 ──……認めさせてやる。私が本気だということを、この数年血反吐を呑み込んできたこれまでの努力を。


 意固地な入隊であったのだがその数年後、彼女は知ることとなる。




 サーフィアとミニュアはいまだにダンジョンから脱出すべく出口を探して何十もの通路を彷徨っていた。


 しかも降りていくごとにむんとした空気が充満し、気温がゆっくりと上がっているのが汗ばみそうな肌で感じていた。


「なーんかモワッとするっス。まるでドラゴンが虫殺し(ブレス)を吐いて洞窟内を燻した後みたい」


「おう」


「でもたしかここらへんは火山とかなかった筈っスから、溶岩が真下に流れているとは考えにくいでしょーね」


「だろうな」


「……そ、それにしてもこの抜け穴どこまで続いてるんスかね~。ここまで潜りっぱなしで行き止まりの道だったら笑えないっスよ」


「どうだか」


 口火を切ったやり取りが済むなり、沈黙が再開する。


 こうして蝙蝠魔族の少女騎士が幾度となく話を持ち出しても彼は気のない生返事しか応じない。


(あぁもう気まずい! あの見たことないモンスターと遭遇してからずっとこの調子っスよコイツ!)


 ダンジョンに入ってからなんとなく雰囲気がおかしいと思っていたミニュアであったが、先程すれ違った金色の大きな獣が去って以来見てとれるほど憔悴していた。


 肉体的な消耗ではない。精神的な衝撃だというのは想像に難くない。


 ──……クソっ! オレは……モンスターに白旗あげちまったのか……


 あのぼやきから察するにサーフィアは自身のプライドを大きく傷付けてしまったのだろう。


(そんなにショックだったんスかね……戦意喪失したことが)


 彼女からすれば痛手もなく戦闘を避けられてラッキーだったくらいにしか思えなかった。


 冒険者業の経験で知っているが実力が格上のモンスターと遭遇するケースは稀ではない。引き際がわからず命を落とした獣人冒険者を幾人も知っている。


 そういう点では未知の存在を前にとった彼の判断は賢明と言えるだろう。


 問題はこの後のことで、そこはかとなく話題を振った内容だが、万が一この通路の先が行き止まりであった場合自分たちはひとつの懸念と向き合わなくてはならなくなる。


 あの怪物が向かった方向へ引き返さなくてはならないということ。


 その事実に直面しサーフィア・マナガルムはどんな反応を示すのか、想像しているとミニュア・デストリゴイの胃がほんのちょっとキュっとなる。


 その不安とは裏腹に地上を目指していながら、反対に地下へと向かっているのがミニュアの焦燥を募らせていく。


 しかし、そこで新たに現れた景色は諸々の思惑を霧散させる。


「うぉ……っス」


「……なんだこりゃあ」


 思わず立ち止まった二人は広がった地底空間を見張らすこととなる。


 有り体に表現すると、遺跡だった。


 見慣れぬ建造物。塔のように高い廃墟が無数にそびえ、その間の通路は余すことなく舗装されており、自分たちの住まう国の技術では到底再現できない文明の技術が垣間見える。


 高い場所から綱で繋がった柱が等間隔に立ち、のっぺりとした看板、


 そして見慣れぬ形をしたおびただしい台数の乗り物。


「これは……馬車っスかねぇ」


「にしては随分ヘンテコなフォルムをしてるし、御者の座る席がない。まるで馬を引かせないで移動していたみたいだ」


「みたいって、言っても、そんなの不可能っしょ」


 サーフィアの分析にミニュアは水を差す。


「だって建物含めてこれ全部、()っスよ?」


 そう言って見渡した街路樹を含めた全てが、同じ材質のもので成り立っていた。さながら石の都である。


 風雨にさらされていないせいか保存状態はよく、全く欠損した様子がないため、住民の消えた街と言っても差し支えない。


 当然動く者の気配はなく、不気味なくらい静まり返っていた。


「ダンジョン内部では時折こういうのが発見されると聞くっスけど、これまた規模が凄い遺跡っスねぇ。下手すると王都より広いかも」


 建物の中にも入って階段を登り、ぽっかりと空いた窓から顔を出したミニュアがぼやく。


 サーフィアも辺りの警戒をしながら、床や天井をくまなく眺めた。ソファーに机と思わしき家具まで石でできている。全てが石化でもしたようだった。


「いったいどれくらい昔の文明だったのやら想像もつかないっス」


「妙だな」


「そりゃあ見れば分かるっスよ。ウチらの生活様式とは一線を画す──」


「違う」


 ピシャリと狼魔族の少年は頭を振った。


「人の暮らしていた形跡が全く見当たらねぇって言ってんだ。街という背景だけ作って、誰も住まずに放置したような不自然さが鼻につくんだよ。というか、これは街を石で造ったというより街を石で模倣したって印象だな」


「……誰が、なんのために、そんな真似を?」


「オレだって知らん。どこにあった街を再現したのかわからんし、どうしてこんな地下深くにあるのかすら検討もつかねぇ」


 ただ、とサーフィアは締めくくる。


「恐らくは獣人の仕業じゃねぇ。もっと力のあるなにか……」

 

 ──グゥウウウウウウウ……


 地下遺跡のどこかで獣の唸りが響き渡った。二人の警戒度が一気に最大限に達する。


 ただでさえ先ほどの怪物と遭遇したばかりだ。聞こえなかったフリはできない。


 アイコンタクトを交わし、声のする方角へ急行する。


 建物の影から重い足音を出す相手の正体を窺う。


 それは、毛のない赤黒の巨体を持つ四足獣だった。静まり返った市街へ遠慮なく侵入している。


「(あれは……ベヒーモス!? こんな場所で出くわすなんて)」


「(てことはBランクのモンスターか。かなり手強いな)」


 初めて目にするな、とサーフィアは声を押し殺してぼやく。非常に危険な相手であるのにかかわらず、幾段と安堵した様子を見せていた。


 アイツ(・・・)ほどじゃない。そう判断できただけで冷静になれたようだ。


 だが、フガフガと周囲を嗅ぎ回っており、獲物を探しているような様子を見せている。


「(戦闘能力はもちろん、縄張り意識がクソ高いことで有名なモンスターっスからね。多分こっちの存在に感付いているんでしょ。あんなのからやり過ごすのは相当骨が折れるっスよ。ましてや出口を探さなくちゃならないのに……)」


「(……ここに留まってる限り戦闘は避けられねェ、か)」


 ひそひそ話の最中サーフィアは利き手を見やる。震えを微かに残し、闘志が鈍った状態でどれくらい剣を振るえるのか怪しい。


「(だが、やるしかないだろ。ケダモノの糞なんかになってたまるか)」


「(そうっスね。なら、ヤツの動きを止めるいい方法があるっス)」


 ミニュアは《秘匿の宝物庫(ブラックボックス)》を開き、黒い靄の中から収納していた道具をいくつか取り出した。


 手のひらに収まるサイズの鉄球に赤い宝石の欠片が埋め込まれた物を彼女は見せる。


「(それは?)」


「(魔法封袋球──通称マジックパックっス。安価な魔石に下級の魔法を内臓していて、冒険者が罠に用いる使い捨て魔法具(アーティファクト)なんスよ。で、これには【火炎(ファイア)】が籠められているっス)」


「(なるほど、地雷に使うのか)」


 ベヒーモスがそれを踏み抜いた瞬間起爆すれば、倒すとまでは行かなくても機動力を削ぐことはできるかもしれない。


 悪くない作戦だ。サーフィア・マナガルムはすかさず賛同した。誘導場所、起爆位置、退避地点と最適なプランを組み立てる。


 リスキーな白兵戦を仕掛けるよりはいい、そう自分に言い聞かせながら。





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