仕返し
暗くなった森でいくつもの焚き火がキャンプを照らしていた。
今夜の晩餐は野草と茸の蒸し煮、ニクニタケのソテー、川魚の塩焼きである。
「なん、スかこれ……」
新期生によって振る舞われた食事にミニュアは唖然とする。
「そこらへんで採った野草がなんでこんなに美味いんスか……!?」
「本当だな、驚いたよ。即興で用意した夜営食だなんて思えない」
兜を脱ぎ、美貌をさらけ出したイオ隊長も舌鼓を打った。
「ウチで普段食べる食事どころか、王都で出る屋台の料理より美味いじゃないか。ウチの隊での飯炊きに欲しいくらいだよ」
絶賛されたボークは「光栄ですー」と応じた。
「気になったのがこの焼き魚、全く臭みがない……というより別の香りで臭みを打ち消しているみたいだな。なにをしたんだ?」
「採ってきた野草の中に香草があったんでハーブ代わりにしたんです。あと、塩水と一緒に浸して揉み洗いすると臭みがとれるんで」
「へぇ~」と周囲から感心の声が広がる。
胃袋を掴まれて騎士たちからも親しまれる彼が面白くなかったのか、蝙蝠魔族の少女は嫌みたらしく言った。
「こんなに飯作るのが上手いならそっち方面の職に就いた方がいいいんじゃないスかね」
「いや、これただの趣味なんで料理人にはならん」
キッパリと猪魔族は否定する。
「好きだからと安易にそれを仕事にすれば、いつかは嫌いなものに変わってしまうから生き甲斐でもないのなら仕事にすべきじゃないって父ちゃんが言ってた」
「あっそう、スか」
「そんなことより皆さん見てくださいよこれっ」
反論して畳み掛けるように、ここぞとばかりに切り札を切った。
「じゃーん、食後にデザートのアップルパイー! ついさっき焼けたんでどうぞー!」
「待て待て待て待て! なんでこんな野外で焼きたてアップルパイが出るっスか!?」
「ん? 野外でだって釜用意すれば色々焼けるぞ」
至極当たり前のようにボークは言う。
「見くびるんじゃねぇぞ。コイツ、その気になったらパンを作り出すからな」
「うんにゃ、パンなら水と小麦粉と鍋さえあれば作れる」
「鍋でパン作んの!?」
「家庭料理だぞ」
こんがり狐色でパリパリに焼けた生地、バターの焦げた香ばしい香りがそそり立つ。出来上がったばかりでホカホカと白い湯気を燻らせていた。
(でも、すげー美味そうっス……さっきの料理の腕前からしてこれも絶対……)
ゴクリ、と生唾を呑み込んでいたところ、
「ん? ……あーッ!?」
突然サーフィアが何かに気付いた様子で声をあげる。
一同の視線が彼に集まった。キッと菓子を運ぼうとしたボークを睨み付ける。
「ボークおいコラ! なに手前の趣味が高じて呑気に菓子まで焼いてんだよ! 命令されていたのは飯炊きだろうがっ、なーに勘違いしてやがるんだ!?」
「え、あっ、アぁーッ!? しししまったー!」
叱りつけられボークも大袈裟に反応した。
「バカ野郎! これじゃあオレたちはお遊びでやってたのと変わらねぇぞ!? あれだけピクニック気分で行くなって言われたのに! 騎士様がたはずぅーっと真面目に任務を遂行しているんだ! もっと緊張感持てって叱られるだろ!」
「ああああああオイラはなんてことをッ!」
「イオ隊長すみませんでした! コイツにはよーく言って聞かせるんでこの不始末、どうか勘弁していただきたい! オラッテメェも謝れ!」
「め、面目ねェー! つい出過ぎた真似しちまいましたァー!」
「い、いや、そこまで畏まることはないよ。普段の任務活動では無縁な菓子を出してくれるのはありがたいし、美味しそうじゃないか」
と、重大なことをしでかしてしまったかのように二人は平身低頭でヘコヘコと詫びる。突然の平伏に隊長は戸惑いながらなだめた。
豹変するサーフィアたちにミニュアも困惑し、普段から顔を合わせている生徒たちすらも目を白黒させた。
この二人、ここまで殊勝な態度を見せる性分だったか? と。
「せっかく焼いてくれたんだ。勿体ないだろう。ありがたくいただくよ」
「そ、それならよかった! 隊長さんも許してくれるってよボーク!」
「ありがてぇ……! それじゃあこれは希望者に切り分けまァす!」
「なっ!?」
高らかに宣言したボーク。ミニュアは不意を突かれた様子でたじろいだ。意図に気付いたからだ。
ごく自然に、真っ当な疑問という名の合いの手をすかさずサーフィアは入れる。
「おや? 希望者ってことは全員に配るんじゃねーのか?」
「うん。オイラが頼んでもないのに勝手に作ったもんだし、食べるのを強要するわけにはいかないしな! だから食いたいヤツだけ食えばいいってわけよ!」
「そりゃ確かにそうだ! 気が利くじゃねーか、みんながみんな遊びで作った菓子まで手をつけたがるとは限らねぇからな!」
強調した。つまり、ピクニック感覚で焼き菓子を用意したことを快諾しない人物はデザートを食べなくていいと前置きをした。
(コイツら……ウチがアップルパイにありつけられないようにワザと騒いだんスね……!?)
すなわち、生徒たちの一挙一動が気に食わないという態度を見せるミニュア・デストリゴイにとっては、自分から申し出ないと食べられない状況へ仕向けたのである。
当然、脈絡もなく希望制にするとなれば角が立つのだが、独断で余計なことをした、それでいてそれを振る舞う正当性を得るべく一芝居を打ったのだ。
もちろんその流れになるように寛容なイーオス・アステリオ隊長がとりなしお墨付きをくれることを想定した上である。
生徒を小馬鹿にし、遊び半分で参加するなと釘を刺した手前、ミニュアが遊び半分で作った焼き菓子まで欲しがったらそれは矛盾し、調子のいい騎士だと評価を貶めることになる。
彼女自身もプライドが許せないし、頭を下げてまでいただくのにば抵抗があった。
「さぁさどうぞ! 冷めない内に食ってくれー! 焼きたては格別だぞ~!」
そんな策謀など露知らず周囲は騎士生徒問わずにワイワイと焼きたてのアップルパイを堪能していた。サクサクと小気味よく音を立てる。
ミニュアが手をこまねいている間に取り分は減っていく。
「うぐぅ……」
「おっ、一切れ残っちまったなー。みんなは行き届いたか?」
これ見よがしにサーフィアが強調し、頭を捻る。
「おーいまだ食ってねぇで食べたいヤツいる? いねーよな? よーし、いねぇな」
「サーフィア~まだ自分の取り分確保してなかったろ。オイラは味見がてらにいただいてるからお前食えよ」
「おうそっか。サンキュー、じゃあ遠慮なく」
「あ……ああ……」
あーんと口を開き大きく頬張った。遠巻きで思わず手を伸ばしかけた蝙蝠魔族の少女にもかまけず、サーフィアはたいらげる。
まざまざと見せつけられたミニュアは、この世の終わりとでもいうような表情になった。
満足そうにペロリと唇を舐め、極めつけに言う。
「うんめぇ~、この味を知らねぇヤツは人生の半分損してるんじゃあねぇかな~」
「お、覚えてやがれっスゥぅぅぅうううう~!」
捨て台詞と共に森の中を走り去るミニュア。そうして二人は黒い微笑を浮かべてしてやったりと拳を合わせた。
「貴方たち性格悪いのだわ……」と一連の様子を静観していた鹿魔族のエメラルダがそんなコメントを残した。
次回の更新は1月4日(水曜日)を予定しています!
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