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十従獣魔のエスクワイア  作者: 岩山 駆
荷車の騎士編
51/108

《秘匿の宝物庫》


 荷車(ランスロット)隊の隊長イーオス・アステリオの提案によって、小隊の部下であるミニュア・デストリゴイと決闘試合をすることになったサーフィアはすぐに裏手で装備を整えていた。


 といっても彼は腰にホルダーを巻いて空っぽの鞘を取り付けるだけである。


 この試合には新期生たちの遠征する可否がかかっていた。


 代表のサーフィアが勝てばミニュアに謝罪をさせ、負けようものなら任務に同行させることへの再検討、あるいは最悪中止だ。それくらいの覚悟と実力を示してもらいたいと、イオ隊長は宣言したのである。


「ねぇサーフィア、デイアと約束したんじゃなかったっけ。売り言葉に買い言葉で決闘にまでなっちゃってさあ」


「当然だ。他の連中に変な怪我を負わせるような真似はさせねぇ。だからって荒事を起こすなって約束した記憶はないからな」


「完全に屁理屈じゃん……」


 以前のように銀剣一本を生成して鞘に納める。


「本当にそこまでする必要あったの?」


「……なぁ兄弟、あのコウモリ女は既に傷つけようとしてたんだぜ。この学院の生徒の名誉をな」


 訓練所に生徒たちが集まり、先に待っていたミニュアが腕を組んで囲う鉄柵に寄りかかっていた。


「逃げずによく戻ってきたっスね」


「なにもやましいもんはないからな」


 おどけてサーフィアは言う。たちまち蝙蝠魔族の少女騎士は険しい表情を見せた。


「この学院に向かうのは乗り気じゃなかったっスけど。今はよかったと思ってるっス。こうやって合法的に糞生意気な生徒の鼻っ柱をへし折れるんスから」


「そう上手く折れるかな。逆に鼻をあかされる心配した方がいいんじゃねぇの」


「……っとに口か減らないっスね。ちょっと成績が良かったからって実戦も上手く行くと思ってる甘ちゃんたちに身の程ってもんを嫌というほど叩き込んでやるッスよ」


「おーおー学歴の僻みってヤツが透けて見えるねェ。お手並み拝見といこうじゃないかセンパイ」


 戦う前から既に火花が飛び散っていた。



「ではこれより王立学院シルバスコラ武芸科所属サーフィア・マナガルムと王立獣魔騎士荷車(ランスロット)隊所属下流騎士ミニュア・デストリゴイの試合を執り行う。降参させるか一本先取した方を勝利とする。両者、前へ」


 ミノ教官の声で二人は前に。


 サーフィアは鞘に納めていた一振りの銀剣を抜き、ミニュアは二対の小振りな短剣を交差するように抜刀。


「ていうかアンタ、サーフィアって名前なんスか」


「あん?」


 戦闘体勢に移行する間際にミニュアはプッと冷笑を含んだ。


「なーんか、女みてーな名前っスね。どーりで野郎の癖に根性なさそうな面してるわけだ」


「──……あァ?」


「おっなんスかなんスか。この程度の挑発で怒っちゃった? ただの感想っ──」


「ぶっ潰す」


「えっ」


 軽い捨て台詞だったのだが、サーフィアの様子は激変した。普段のクールな面持ちが歪み、殺気に色がついたのならどす黒いオーラでも噴き出しそうな様相をたたえている。


 教官はその異常に察することなく号令を出す。


「では戦闘開始」


 そのほぼ同時、


 サーフィア・マナガルムは特攻を仕掛けた。否、もはや突進、体当たりもかくやという勢いで一瞬の内にミニュアの懐へ肉薄する。


 目を疑った彼女に待っていたのは、数えきれないほどの先制攻撃だった。


 叩き斬る、斬りつける、斬り上げる、袈裟斬りにする、返す刀で斬りかかる、強引に斬り込んで斬り結ぶ、防御を崩そうと斬り払う、再度斬りつける、斬る、斬る、叩き斬る、斬り上げる、斬って斬って斬り続ける。


 達人であろうと見たものが再現するには苦労しそうなほどの剣戟の繰り返し。


 まるで合唱するように両者の刃の接触による金属音の連鎖が響き渡る。


「うっ、ぐぅ、んぎっ! くぁ!?」


「オラオラァオラオラぁああああ!」



「サ、サーフィア、殿? いったいどうなされたというのだ? まるで悪鬼羅刹にでも取り憑かれたようではないか」


「あちゃあ……あの子、一番言っちゃいけないことを……」


 と、観衆に混ざったルチルはその様子を見て思わず額を抑えた。


 隣で戸惑いを隠せない狸魔族のメノウがその独白にすかさず食いついた。


「ルチル殿、もしや心当たりが?」


「サーフィアってね、女々しいヤツーとか女みたいーって馬鹿にされると物凄く怒るんだよ。村に寄った酒場の冒険者にだって容赦なく襲いかかるし、村じゃ暗黙の了解で禁句になるくらい」


「それが、アレと」


「うんまさしくアレなんだ。酔っぱらってたとはいえ結構名うての冒険者だったらしくて、打ち破っちゃったもんだからボクの村じゃちょっとした逸話になってるよ」


「……それはまた大した武勇伝な」


「笑いごとじゃなかったんだよ? あの時も止めるの大変だったなぁ」


「ルチル殿をそこまで言わしめるとはよほどだぞ」


 遠い目をするルチルを見てメノウは察した。


「でも、あの子もすごいよ。サーフィアの剣を正面から受けきってるんだもん。騎士になってるだけのことはあるよ」



(なんスかコイツ……なんなんスかコイツ!?)


 ミニュアはただならぬ気迫に戸惑い、猛攻をどうにか耐えていた。


「うォおおるァぁぁぁッ!」


 らしくもなく雄叫びをあげたサーフィア・マナガルムは嵐でも起こそうとでも言うように、その手にある銀剣で苛烈な斬撃を絶え間なく繰り出していた。


 息をつかせる猶予も与えない。それに手心加減容赦といったものの欠片もなく、ただひたすら相手を防御ごと潰そうとする勢いだった。


 受け流されようと弾かれようと崩される体勢すらも強引に一手でも多く相手への攻撃しか考えない、がむしゃらとでも言うべき攻めである。


 ただしその速度は尋常ではなく、まばたきでもしていたら一発でもくらってしまうのでは、と錯覚するほどに機敏な剣技に彼女は惑わされている。


「調子に、乗ん──うわぁ!?」


 ミニュアからすれば反撃どころではない。緩む機会を待つことしかできずにいた。


 普段の彼は極力自分の手の内を出し惜しみ、相手の出方を伺う戦法を基本としている。戦闘能力、技術、癖、思考などを受けに回って読み取り、弱点を模索し有利な手段を講じていくのだ。


 それは以前に師であるオニキス・キャスパリーグとの対決で常に攻めることだけを考えた剣筋を真っ向からねじ伏せられた経験からくるものであり、それらの流儀を一時的に捨て去ったこちらが彼本来のスタイルでもあった。


 いわば押し付ける剛剣。


 当然格上には通用せず、ペース配分や防御を配慮しない危うい戦法なのであるが、それが結果的に相手のペースを崩し、この一方的な攻勢が続いている。


 しかし、やがて状況が動く。


 ほとんど力任せに振るわれていたサーフィアの銀剣に亀裂が走る。次に強い衝突があればへし折れてしまうだろう。


 刃毀れしようと構わずにありったけ全霊で叩きつけていたのだ。いくら頑丈であっても限界が訪れるのも無理はない。


 それを好機と考えたミニュアがついに突進を仕掛ける。



「いたずらに斬り掛かればいいと──」


「ぜェあッ!」


「ハァぁ!?」


 さすがに武器が壊れるのは躊躇うだろうとたかをくくった蝙蝠魔族の眼前に今にも折れそうな刀身を叩き込んできたのだ。


 ミニュアは咄嗟に双刃で防ぎ、その勢いで打ち上げられた。同時に不吉な不協和音が響き渡る。


 銀が砕け、切っ先が宙を舞う。冷や汗をかいたミニュアは地上から10メートルほど離れたまま滞空していた。


「イ、イカれてるんスかコイツっ!」


 軽く吹き飛んだところで黒い被膜の翼を動かし、一度上昇して距離をとった。飛翔能力を持つ彼女は空中戦も可能としていた。


 それでもサーフィアは手を緩めない。折れた銀剣を全力で投擲。


 猛回転するそれに対し、紙一重でミニュアは回避。その攻めへの異常な執着に慣れてきた。


「でもこれでアンタは手も足も──」


 出ないだろうと、勝利宣言をしようとして背後に飛んでいった銀剣から視線を地上に戻した時、


 サーフィアは既にぐんと上昇して目前に迫っていた。別の銀剣を空中での足場にして跳躍する。


 ──《銀剣錬製(シルバーレギオン)》!


 その場で先ほどより一回りも大きな銀剣を生成。身を捻り、扇ぐように薙ぎ払った。


 羽虫を叩き落とすようにミニュアを撃墜。そこでもガードした彼女の双剣も遂にへし折られた。


 地を削り後ずさるような着地をした蝙蝠魔族の騎士。狼魔族の少年も銀の大銀剣を担ぐようにして遅れて地に降りる。


「……やってくれたっスね。尋常じゃない攻め手は勿論、わざわざ鞘から抜刀するところを披露することで剣一本しか使わないと見せかけるなんて」


「デイアと約束してなかったらこんなもんじゃ済まさなかったぞテメェ」


「いやなんの話スか? 許さねーって思ってるのはそっちだけじゃないんで、やられっぱなしは趣味じゃねーんスよ」


 ようやく一息ついたのかミニュアは顎の汗を拭う。サーフィアは目付きだけは鋭いまま、冷たく言い放った。


「安心しろ無駄に女を傷つける趣味はねぇ。オレと違って武器を失った時点でテメェの負けだ」


「はっ。思い上がりもいいところっス。なんでウチが負けたと決めつけるんスかねぇ。まだ手の内を見せてないのに」


 言って彼女が折れた双剣を捨て、手持ち無沙汰になった。


 そのまま背後に両腕を伸ばす。


 ──《秘匿の宝物庫(ブラックボックス)》!


 そして、その掌の先で景色の一端が歪む。真っ暗に、不明瞭な四方形の穴だった。


 その中に手を入れ、なにかを引っ張り出す。


 一連の流れを目撃したサーフィアは、激情一色の思考からわずかに冷静な思考を取り戻した。


(! コイツの魔法紋(ルーン)、まさか……)


 闇の領域から戻った両手に握られていたのは、新たに用意された双剣である。なにもなかったはずのところから、それが現れたのだ。


「アンタがいくらでも剣を作るなら、ウチはいくらでも武器を出してやるっスよ!」


 空間系。魔法紋(ルーン)の中でも最も特異とする力の持ち主との対決が実演された。

次回の更新は11月30日(水曜日)を予定しています!

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