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十従獣魔のエスクワイア  作者: 岩山 駆
王立学院シルバスコラ編
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衝突の果て


 やりすぎた。


 そういった感想を獅子魔族のノマド・レグルクスが抱くことは少ない。


 荒くれが服を着ていると周囲に評される彼だが、大体の喧嘩勝負鍛錬試合では適度な痛めつけ加減を知っているし、これまでの対戦相手を再起不能に追いやった実例がないからだ。


 あくまで求めているのは闘争による充実感であり、決していたぶることや蹂躙などには興味はなく、できることなら拮抗した相手との対決こそが本望であった。その過程で追い詰めるだけなのである。


 だからこそ、今回の試合はとても有意義で久々にありったけの力を奮う絶好の機会だった。期待以上だった。よくぞついてきてくれたと、賞賛を送りたいくらいだった。


 なので新入生に向けて本来ぶちかましてはいけない大技を決めてしまったことにはなんの後悔もないし、これが取り返しのつかないことだったのかと考える気もない。それは逆に失礼な発想なのだと彼の中では片付ける。


「これで決着をつけるのは尚早だろうッ!? まだまだまだまだ(オレ)の熱は引かんぞッ! 立てッ! 立ってくれッ!」


 というわけで、ノマドは動かないルチル・マナガルムに対して鼓舞を送る。


 やりすぎた、なんて考えは微塵も浮かんではいなかった。


 経験則からしてこの年下の新入りは──


「ここからがッ! 本領なのであろうッ!?」


 終わっていない。


 すると、倒れて表情の見えなかったルチルの口元が微かに動いた。


 えくぼ(・・・)を作ったのだ。そして、動き出す。


「……その、通りだよ」


 痺れていたルチルは徐々に力を取り戻していく。復帰する過程を見守りながらノマドは忍び笑いを漏らした。


「クックックッ! やはり同族かッ!」


「ちょっと負けず嫌いなだけさ」


 直前に風の魔法で威力を半減させたのだろう。しかしそれだけで無事で済んだという点がノマドにとっては不可解極まりない。


 だが事実として自分の奥の手を耐えられたのには変わりないのだ。追求したところで無粋だろう。


「返すぞッ!」言って獅子魔族は足枷となっていた分節棍を既に外してルチルに放る。


 受け取ったルチルであったが、無言のままそれを地面に置く。マジックメイスを支柱に身体を起こす。


「不要というならばそれでよしッ! それ以外でやれるなッ!? ついてこいッ!」


 これで再び獅子魔族の男は身軽になって雷速機動で圧倒するだろう。それなりにダメージの入ったルチルには以前のような対応は難しい。


 遠慮なく彼は《青電起(ペイルボルテージ)》を発動。全身が青白く発電し、早速稲妻と化して動き出す──


「──ぬゥあッ!?」


 が、途中で突然の酩酊感と共に視界が地面に落下しかける。手をつき、身に覚えのない異変に戸惑いを隠せなかった。


 否、症状に心当たりがあった。これは魔力が尽きかけた時に陥る意識の混濁である。だが、それこそ不可解なものだ。


 確かに彼の魔法紋(ルーン)である《青電起(ペイルボルテージ)》は移動以外でも戦闘時には発動し続ける必要があるという特性故にだらだらと魔力を垂れ流すので増強型の中でも浪費が激しい部類に該当する。


 その欠点を知っていたため、ノマドは魔力総量を底上げすることに努め、常時戦闘でも枯渇しないように克服していた。


 破断(はだん)雷霆砲咬拳(らいていほうこうけん)といった魔力を交えた技の数々をそれなりに繰り出したとはいえ、それでもしばらくは戦える程度の余力は残っていたはずだ。


 では、何故?


 疑問の解答は立ち上がったルチルにあった。腕に提げた黒いバンクル。その内側に嵌め込まれた魔法装填の魔石の光の色に目を奪われる。


 従来の魔法を装填するにしては不自然な、青白い(・・・)稲光だった。


「ッ! 貴公まさかッ!?」


「バテさせるのもギリギリだった、本当に。何度もノマドに干渉しなくちゃならなかったんだからさ」



「やはりッ! 吸い取っていた(・・・・・・・)のだなッ! (オレ)の魔力をッ! コツコツとッ!」


 急激な魔力切れの正体。それは、ルチルの魔道具(アーティファクト)にノマドの魔力を魔法装填の応用で奪取していたためである。


 白兵戦の最中、幾多の接触の度に集めてこうなることを狙っていたのだ。


 特性上常時発動で体表から魔力を出し続けていたことが仇となっていた。ペース配分が狂い、残存する魔力量が心許なくなっている。


(なるほどッ! だから意図せず帯電状態が解けていたというわけだッ! 倒しきれずッ! 出力不足もそれが原因ッ! 盲点だったッ!)


 一本食わされたと認める。青白い帯電は当初よりも弱々しく、とても従来の雷速移動は期待できそうにない。


 それでもノマドの腹の奥には怒りや屈辱、そういった後ろ向きの感情はなく、思わず膝を叩きたくなるほどの感心と歓喜に満ち溢れていた。


「だがなッ! (オレ)もただでは転ばんッ! なれば今一度ッ! 全霊を籠めるだけッ!」


 残りの青電を、ノマドは拳に集め出す。再び一極集中。


 形成逆転されていようと追い詰められようと敗れることがわかっていようと力尽くで挑むことには変わりない。そこには年も立場も格も分け隔てがない。それがノマド・レグルクスの芯とも呼べる部分だった。


「今度は棒立ちで受けてくれるなよッ!」


「ボクだってそんなのはごめんだ。君から貰った魔力を上乗せした魔法で、決める」


 ルチル側も既にあの全身を覆う光紋様は消え失せていた。つまり正真正銘本来の力で応じることになる。


 ──【雷光(ライト)】×《青電起(ペイルボルテージ)》×《英知の利器(フラクタルオーバー)》!


 マジックメイスを槍のように構え、内蔵した魔法が撃ち出された。同時に腕のバングルに吸い込んだノマドの魔力を解放する。


 ルチルの魔法紋(ルーン)により強化された雷魔法にノマドの魔力で合成された未知の攻撃。


 大きな矛の形状をした蒼雷が伸びる。


 ──【《超過青電雷光(オーバーペイルライト)》】!


 二度目の獅子が顕れ、振りかぶったノマドから飛び出した。


 ──波断(はだん)雷霆砲咬拳(らいていほうこうけん)ッ!


 同じ属性の雷撃の正面衝突。これまでよりも一段と青く眩い輝きに包まれた。


 貫こうとする雷矛とそれに食らいつく獅子の頭。片時も油断ならない一進一退を繰り広げる。


「こんのぉおおおおおおおお!」


「面白いぞォオオオッ!」 


 雄叫びをあげる両者は一歩も譲らない。


 極限まで高められた末に迎えたのは、行き場を失ったプラズマの大暴発だった。


 余波に二人も例外なく巻き込まれる。


 それから程なくして、その一帯はようやく静けさを取り戻した。


 戦闘は収束する。


「クッハッハッハッ! 見事だルチル・マナガルムッ! (オレ)を三度も背中を土につけさせるとはッ!」


「……くっそー、あともうちょっとだったのに~」


「なんだッ! この結果が不服だとでも言うのかッ! それは欲が深いなッ!」


「当たり前じゃないか。勝てなかったんだからさぁ」


 森林を丸裸にした地面で倒れる二人はそんなやりとりを交わす。


 結果としてルチルとノマドは相討ちという形で身動き一つとれない状況になっていた。引き分けである。


「安心しろッ! 新入生が騎士候補生(エスクワイア)と痛み分けとなれば上々というものッ! もはや偉業だ誇れッ!」


「その前に──」


「わかっているッ! 貴公の父のことも取り消そうッ! 貴公ほどの男が羨望しッ! 尊厳を守ろうとしたッ! つまりそういうことであろうッ!」


 ノマドはそう言って豪快に笑った。


「とはいえ勝負と試合の決着は別の話ッ! 残念だが(オレ)を止めたとて貴公らに勝ち目は薄かろうッ!」


「そんなことないよ。ボクの仲間だってそんなにヤワじゃないよ」


「自信満々だなッ!」


「だってこのチームにはサーフィアがいるんだから」


 彼は兄への絶大な信頼を置き、後の戦いを託した。

次回の更新は11月10日(木曜日)を予定しています!

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