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十従獣魔のエスクワイア  作者: 岩山 駆
王立学院シルバスコラ編
33/108

突然の連行


 この日、制服姿のルチルは馬車の中で揺られていた。


「まさかお出掛けすることになるなんて思わなかったなぁー、王都で遊ぶなんて久しぶりだよ」


 ルチルはそう言いながら窓越しから林道を眺めている。徒歩での移動より早くて楽チンだ。


「しかも馬車を出してもらえるなんて太っ腹だよねー。これなら日帰りで学院に……ルビィ?」


 腕を組み、鮮烈な赤髪をした猫魔族の少女からの返答はない。


「ねぇ、ルビィ、聞こえている?」


「え!? なに!?」


「……あーえっと、この馬車を出せるなんて太っ腹だねー、って思ってさ……あはは」


「そ、そうね! 粋な計らいよね!」


「……」


「……」


 気の利いた話を振ろうとしても乗ってこない。昼行燈(ひるあんどん)なルチルであっても手こずっていた。


「もしかして、ルビィ……まだ怒ってる?」


「おおお怒ってはいないわ。さっきの勢いはそそその、気にしないで」


 どもりながら否定してそっぽを向く。座る彼女の細尻尾はバタバタとせわしなく振っていた。喜びの心境を表しているとは言い難い。


 気まずい空気のまま、二人が王都へ向かうことになったのは1時間前に遡る。



 厩舎(きゅうしゃ)にきていたルチルはモッフンとのんびりしていた。今日の授業はお休みである。


 藁で寝そべると凄く心地よく、日向ぼっこには最適の場所だった。


「いい天気だねー」


「キュ~(そうだね~)」


「平和だねー」


「キュ~(そうだね~)」


 数日でモッフンはこちらに馴染み、それどころか他の飼育されている飛竜たちや家畜の世話まで手伝うようになった。


 放牧と掃除に餌やりだけでなく仲間の世話もそつなくこなし、なにか異変があればいち早く知らせにくるため大助かりだと言う。


 もはや一頭のフェザードラゴンを迎えたというより通訳もできる厩務員を雇ったようである。


 今はくつろいでいる時間であったのだが、豪快に破る乱入者が現れる。


「──ルぅチルゥううううううううう!」


「うわァ!?」


「ギュッ?!」


 鉄棒をねじ曲げるのもかくやという怒声。


 鬼気迫る剣幕で小屋の戸を押し開き、目を三角にしたルビィが入ってきた。


「い、いきなりどうしたのっ」


「今日一日! アタシと付き合いなさいっ! 制服に着替えたらすぐ出発よ!」


「え? 出発ってどこに!?」


「王都に行くの王都に!」


「王都!? 今から!?」


 戸惑うルチルにも構わずその手を引いた。


「モッフンコイツ借りるから!」


「キュンワ~(そんな~)」


「ちょ、ちょっと待ってよ~!」


 強引に連れ出し、ずんずんとした足取りで厩舎(きゅうしゃ)を出ていく。



 といった経緯によって二人は王立学院シルバスコラへ赴いていた。馬車から降りて城下町に立ったルビィはふんすと気合い十分に鼻を鳴らす。


「よし! ルチル! これから店巡りをするからエスコートなさい!」


「つまりお買い物するためにボクを連れてきたっていうこと?」


「そ……そそそういうことよ! 王女が出掛けるんだから付き添いがいないといけないでしょう!? だからアタシの専属護衛騎士になるアンタが行かなくて誰がくるのかしら!」


 ルチルを指差し、彼女は捲し立てた。


「うん、いいよ。それならそうと早く言ってくれれば準備したのに」


「……仕方ないじゃない。今朝決まったんだもの」


「今朝なの? 突然過ぎない?」


「だって…………」


「だって?」


 ごにょごにょと歯切れの悪いルビィにルチルは首を傾げる。


 だが「なんでもないっ」と話を強引に打ち切り、街中へと繰り出した。


(ぜっっったい認めさせるんだから! アタシが本気だってこと!)


 彼女の強い葛藤は今朝の出来事から起因する。



 朝食の時間、ルビィがたまたまエメラルダと同席になったことから始まった。


「ルチル・マナガルムと言ったかしら? あの人懐っこそうなワンちゃんは」


「んぐっ……それが、どうしたというの」


 突然振られた話題で口に入れた直後のスープの具を呑み込んでしまった。咳き込むのは辛うじて堪えて返答した。


「村の平民出とは聞きましたが中々見込みがあるようで、兄弟共々学年問わず女生徒の間では話題が持ちしきりになっていましてよ。優秀で美形な狼魔族の双子が入学したとかで」


「美形、っていうのは脚色しているでしょう」


 大袈裟と訂正するも「そうかしら?」とエメラルダは続ける。



「サーフィア・マナガルムとは一戦交えたのだけれど、なかなかキレる男ね。クールで器量のよさから女性受けがよろしいのも頷けるかと。弟の彼も対照的に柔らかくて愛想もよく、第一印象としては悪くありませんのよ」


「……ふーん」


 なんてことはなさそうな振る舞いをしているルビィを見て、エメラルダはふかし(・・・)を入れた。


「どうやらアプローチを考えている方々もいるそうでしてよ。かくいうわたくしも少々気になっているので」


「! わ、渡さないわよっ」


 効果は覿面で素早い反応を示す。


「別に貴女の許可が必要ではないと思うのだけれど……それとも、お付き合いしているとでも?」


「……そう、だとしたら?」


 間を置いて答える。ルチルの方は自分のために騎士になるとまで誓っているのだし、これはもう両想いでいい筈だ。だったらそれはもう決定事項だと彼女は勝手に肯定した。


 すると「まぁっ」と鹿魔族の令嬢はわざとらしく口に手を当てた。


「では興味本位でお尋ねしますけれど、どこまで進んでおりまして? キスとかなさっているのかしら」


「……したわ」


「どちらに? 何度ほど?」


「…………頬に。一回だけ」


「ううん? それはまたお可愛らしいこと」


「ば、バカにしているわね!? 他にも、で、デートとかだってしたことあるわよ!?」


「いつ? どこで? どんな風に?」


「……昔、王都でデイアたちと」


「昔? つまり一度だけ? しかも数名で? というかそれ単にみんなで遊び回るのと変わらないのでは? オホホホ! それは交際とは言えないと思うのだけれど? おままごとの範疇に過ぎなくって?」


「ぬぁんですってェ!?」


「あ~らあまり大声を出さない方がよろしくてよ王女殿下。周りの方に迷惑がかかるのだから」


 ムキになるルビィをからかうのが面白いのか追い打ちをかけた。


「数年も疎遠になったままそ~んな薄いお付き合いで貴女から離れる保証がどこにあるのかしら。大丈夫? 他に意中の方ができていたりしない? 心配だわぁ~」


「──するわ! してやるわ! すればいいんでしょ!? 見てなさいよ目にもの見せてやるわよ吠え面かかせてやるわよ! 今からデートしてきてやるから!」



「という出来事があったのだけれど、焚き付け過ぎたかしら?」


 薬学部の庭園で元凶のエメラルダ・ケリュネイアは白い卓上で紅茶を嗜みながら説明を終えてそう締めくくった。


 拝聴していた白髪の猫魔族、デイア・フェリ・ベスティアヘイムは「なるほど」と相槌を打つ。


「二人の姿が見当たらないと思ったら道理で。王都に出掛けていたのね」


「その気もねぇ癖に思わせぶりなこと言うなよ。それともなにかマジでルチルに惚れちまったか?」


「そんなわけないのだけれど! ちょっとからかっただけなのだけれど!」


「その割に彼がくると隠れるのよねこの子」


「おやめなさいデイア! それはああいう屈託がなくて距離感を一気に肉薄してくるような御仁に対してどう接していいのかいまいち図り兼ねたから……!」


「言い出しっぺが大声出してるじゃねぇか」


 同席していたサーフィアの煽りを受けエメラルダが躍起になって声をあげる。似た者同士である。


「まぁ、アイツも煽り耐性ひっくいからなぁ。挑発に乗って暴走するのもらしいと言えばらしいというか」


「ルビィは我が姉ながら妙に奥手なところもあるから、距離感を縮めるのにいい機会よ? 多少は揺さぶった方がこうして動くでしょ」


「余計なお節介にしか見えねぇが」


「そーおー? このままモジモジしていつまで経っても進展がないと見ている側からすればやきもきして仕方ないと思うの」


「デイア……お前、その姉の四苦八苦を面白がっているだろ……」


「なんのこと?」


 惚けながら微笑むデイア。サーフィアは渋面を見せる。


「ところでサーフィア・マナガルム、なぜ貴方がこちらに? 薬学部に入部した記憶はなかったと思うのだけれど」


「あん? 地質部って暇だから」



 サーフィアが入部したそこは土地の地層などを調べるというほぼ活動実態がなく、拘束時間も皆無で幽霊部員になれるという理由で選んだそうだ。


「そんでもって炊事部から菓子をかっぱらった後、ここで淹れる紅茶をたかりにきたってわけ。このクッキーも伝達のあるオレが持ってきたおかげでご相伴にあずかることができるんだぜ?」


 正確にはそこに入部したボークに受験の際に魔石を集めた貸しがある、という名目で分けてもらっている。


「抜け目がない御方ですこと」


 経緯を察したのかエメラルダは鼻白む。


「だけどそんな理由で部に入ったら成績に響かない?」


「実地に赴いて適当な石ころでも拾って適当な論文書いてりゃどうにでもなるだろ」


 部の活動に関して精を出すつもりは更々ないという。


「しかしいくらなんでも入学早々からデートとはルチルも日和っているんじゃないか。学院に入ってからが本番だってのに」


「あら? 私はサーフィアからのお誘いを期待していたんだけどなぁ」


「……頼むから人前でそういうこと言うのやめろ」


「周囲の公認にしておいた方がお互いのためだと思うけど?」


 なんてやりとりを聞かされたエメラルダは居心地悪そうに肩を竦める。


「聞かされるこちらが小恥ずかしくなりますわ……はてさて、あちらはどうなっていることやら」


 自称淑女の呟きは当然当人たちに聞こえる筈もなく、その頃ルチルたちはというと、




「次! こっちの店行くわよ!」


「ちょっ! ボクがエスコートするんじゃなかったのー!?」


「腹が立ったらお腹空いたのッ!」


 焼き串数本を手に走るルビィに振り回され、ルチルは街中を転々と駆け回った。



エメラルダ「時にサーフィア・マナガルム、デイアの魔法紋(ルーン)第Ⅱ覚醒(フサルク)は《霊峰花(エーデルワイス)》ですけれど、実際のエーデルワイスの花言葉は御存知? 代表としては『大切な思い出』『忍耐』『勇気』……それと『初恋』なんて意味もありますの。んまぁなんてぴったり──」


デイア「エメラルダ(・・・・・)ケリュネイア令嬢(・・・・・・・・)?」


エメラルダ「はひぃっ」


デイア「その辺になさっては如何(お喋りが過ぎていますよ)? せっかく淹れた紅茶が冷めてしまいますわ(その口今すぐ塞ぎなさい)?」


エメラルダ「お、おほほほ……そうですわねお紅茶しばきますわねおほほほほ……!」


サーフィア「…………ズズゥ(紅茶の啜る音)」




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