ウロボロス
1時間後。約束通りルチルは魔法具研究部の活動を行っている一際大きな小屋を訪れた。
サーフィアたちは別の部の見学ということで別行動に。ご指名が入ったルチルだけで赴いたのである。
「ご、ごめんくださーい」
「ルチル・マナガルム! よくもぬけぬけと顔を出せたな!」
「いつまで恨み節続けてんだ! ったく……ようこそウチらのラボに。と言っても、二人しかいないけどな」
白衣の犬魔族と栗鼠魔族のいるそこには様々な道具が机の上に置かれ、あるいは壁に立てかけられている。
特に目を引いたのは、ダンジョン内から回収されたと思わしきゴーレムであり、稼働を止めて眠っている。試験の時のまま手足が両断されて傍らに安置されていた。
「見ろ! このゴレーヌの痛々しき亡骸を! こんな風にしたのは他ならぬ貴様だぞ!?」
「ご、ごめんなさーい!」
「ごめんで済むなら騎士も兵士もいらんのだ!? あああああああやはり腸が煮え繰り返るゥ! こうなればこの伐採用に開発中の魔導鋸で刻んでくれるわァあああ!」
「それほんとうに伐採用!? 伐採用なの!?」
「今宵の回転刃は血に飢えているゥ! ぶっくぉろぉおおおおす!」
言って彼は回転刃がけたたましく回る不穏な魔法具を持ち出した。それに当たればスプラッタな光景になるだろう。
「いい加減にしろアホイヌ! そんなだから部員が集まらないんだよ!」
「ぶるぁっ!?」
また跳び跳ねた栗鼠魔族のラトスに厚本で引っぱたかれるコボル。
どうやら二人はいつもこんな調子らしい。その日常風景がルチルでも安易に想像できた。
「それよりも早速本題に入ろうと思う。ルチルくん、おたくの持つ魔法紋、《英知の利器》は道具の性能を最大限に引き出し、最適解に扱うという能力。そしてその特性を活かすために魔法具を駆使する戦闘スタイルなのは間違いないか?」
「く、詳しいですね~」
「ウチらは戦闘用の魔法具もいくつか開発している。たとえばさっきの魔筒杖もそのひとつ。待機中の魔力を吸い込んでセッティングした属性へと変換させ、魔法を半自動で内蔵させる未完成の代物だ。こういうのは実戦で使い勝手を確認し改善点を探したいんだが、他の生徒は剣や魔法と自らの腕で闘うことを信条としているようで誰も引き受けちゃくれないんだ。ウチらも戦闘員に向いてなくてね……つまり、そういうことだ」
すなわち魔法具研究部にとってルチルは願ってもない人材であると。
「協力してくれるならウチの試供品をいくらでも貸し出してやる。なんなら入部してくれても構わないぞ」
「おい待て、我輩はそのようなことをコイツに任せるなど許可した覚えは……!」
「それじゃあ試しに好きなものを使ってみるといい。要望はできる限り応えよう」
「えっとぉ、マジックメイスだと接戦が心許ないし、なにか武器になるものとかを」
「近接用と中距離用のどちらか希望はあるか?」
「それならどちらにも対応できるようなものってあります?」
「おっ欲張りさんで選び甲斐がある。なるほどオールラウンドに対応できる魔法具を所望か。それならいいものが……」
「ぬわぁぁぁ! 話を聞けぇ!」
キーキーと抗議しているが既にラトスとルチルだけで話は進んでいた。
「さて、コイツなんてどうだ? 色んな局面に対応できて取り回しがすこぶる優秀。だが取り扱いの難易度は高いぞ」
ラトスより放って寄越されたのは一見なんの変哲もない細長い鉄棒。だが、よく見てみると節目が二つあり、ちょうど三等分に分けられているようだった。
「基本的にそいつは自滅武器──っておい……」
受け取ったルチルは説明を聞く間もなく演舞を始めた。グルグルと目まぐるしく振り回し、初めて持ったとは思えない程に巧みな根術を披露してのける。
嵐の如きその軌道は対人もモンスターであっても受ければひとたまりもないものだろう。
そして頭上で旋回させるなり、その本質を理解した彼は大いに発揮させる。
「……! こうすればいいのかな」
左右の柄が中心から伸びた。鎖に繋がっており、鞭のごとくしならせてリーチを更に広がった。
まるで二頭の蛇のごとく伸びたそれらは鎌首をもたげて周囲に暴れまわる。
攻撃範囲から不穏な風斬音が響き渡った。
「ぬおっ、いきなり棍を伸ばして危ないだろう! というか自分にも当たるぞ!」
「待て部長。彼、使いこなしている」
突然の変化にも対応し、遠心力に身を任せて棍を制御下に置く。
二対の棍が暴れまわる様はさながら黒い暴風である。
「すごく面白いですー! これなんていう魔法具なんですか!?」
「魔動三節棍・ウロボロス。見ての通り魔力を介して中の鎖を動かし、遠近両用で変則的な戦闘法を可能とする代物だ。アジールで伝わるという武術家の武器を参考にしてみたんだが、本来ならその自由度故に熟練にはかなりの時間が要するらしい。でもルチルくんには苦もないようだ。それも《英知の利器》とやらの恩恵か、まさしく魔法具使いの申し子」
「へぇー! ウロボロス!」
ひとしきり動作確認をし終えた後、ルチルは棍を元の形に引っ込める。
「意識すれば魔力だけで動かせるぞ。鎖の魔力動作に遠心力といった様々なコントロールが要るから自分にも激突するリスクもあって達人でも相当扱いに苦労する失敗作だったんだ」
「わっ、ホントだー! 蛇みたい~」
言われるがままにルチルは持ったままで棍を魔力で動かし始める。鎌首をもたげ、噛みつきにかかる動作を再現してみた。
「だが、君にとっては苦でもないようだな。気に入ったかい?」
「はい! 色んなことができそう! これを貸してくれるんですか!?」
「当然だろ? というかそれ他に扱える生徒いないし。そこまで器用に使ってもらえるとは製作者も魔法具も冥利に尽きるだろうな……今のを見て部長もそう思っているんじゃないのか?」
「ぐぬぬぬ……!」
コボルは歯ぎしりをしていた。ルチルの演舞を目の当たりにしたことで圧倒されたのだろう。
「……ルチル、マナガルム」
「は、はい」
「我輩は忘れたわけではない。貴様が犯した罪の数々を」
「いや罪はちっとも犯していないだろ」
「細かいことはいいのだッ! ともかく相応の貢献をして貰わねば認めん。よって貸し出すにあたって条件をもう一つ呑んでもらう。それは今後の活動にあたって必要な魔石の調達だ! せっっっかくダンジョン試験に役立てる体でゴレーヌを動かすために上等な魔石をせしめられたが、知っての通り敗れたことで没収された! 新たに魔石の貸し出しも却下されて彼女の復活には程遠い! だから貴様が集めるのだ! いいな!?」
指を突きつけ言い募りながらも、コボルはようやく折れたようだ。ルチルは何度も頷く。
「ついでに使えそうな素材も提供してくれると助かるよ。いい値で買い取っても構わない」
「そんなもの無償だ無償! リースさせるコイツにはそれで十分!」
「そうもいかないだろせっかくの被験──協力者がいなくなったらどうする」
「今物騒なことを言い換えませんでした?」
かくしてルチルは新たなる魔法具を手に入れることとなった。
次回の更新は10月27日(木曜日)を予定しています!
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