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十従獣魔のエスクワイア  作者: 岩山 駆
王立学院シルバスコラ編
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祝宴会


 生徒たちの入学を祝って懇親を兼ねてのパーティーが開かれる。早速支給された制服に袖を通し、和気藹々としていた。


 これからは試験の合否を争う相手ではなく苦楽を共にする同志たちである。いがみ合う必要はない。


 メノウも東の国ヤマトからはるばるここまでやってきた旅の話を周りに朗々と語っており、遠目でルチルたちは眺めている。


 ちなみに先ほど手痛い反撃を受けたヘングストは気絶したまま医務室に送り込まれた。


 そんなこんなで戦勝の雰囲気を満喫している真っ最中である。



「オレたち、本当に入学したんだな」


「これが王立獣魔騎士への第一歩になるんだね」


「と言っても、オレとしては案外あっさりだったんでいまいち実感が湧かねぇが」


「でも、ボクらの方はなかなか手強かったなぁ」


「オイオイあんな楽勝な試験でか? 先が思いやられるぞ」


「サーフィアもあのゴーレムと闘ってみればわかるって~」


 今日この時からルチルたちは王立ルースランド学院の生徒だ。そのために長年努力と研鑽を重ねてきたのである。


 早速師と母に合格した旨を伝える文を出そう。そんな風にルチルが考えていると、


「着替えたらなかなか様になっているじゃない」


「あ! ルビィ、デイア!」


「二人とも楽しんでいる?」


「まぁまぁだな」


 試験案内としての役目を終え、猫魔族の双子姫も参加して会場にやってきた。



「積もる話もあるでしょうし、ひとまず乾杯しましょう。はい、これはルビィの分」


「デイアは気が利くわね。じゃあ四人の再会を祝して」


 ルチルたちはジュースを掲げた。


「ゴールドクラスおめでとう。これで晴れて一緒に学院で生活できるね」


「ああ。そっちもゴールドか?」


「決まっているじゃない。どれだけ苦労して成績と点数をあげてきたと思っているのよ」


「ルビィ、ずっと頑張っていたんだ。すごいなぁ、大変だったんじゃない?」


「こ、これくらい当然でしょ、約束していたんだからっ」


 照れ隠しなのかルビィは顔を背けてぶっきらぼうに言う。誤魔化すためか口元にグラスを運ぶ。


 素直になりきれないところはあの頃と変わらない。かえって安心する。


「さっきも話にあったけれど、ゴールドクラスでも評価が悪かったらシルバーやブロンズへの降格もありえるんだから油断していると後進に抜かれるわよ」


「そうそう上位クラスに仲間入りしたからってあんまり調子に乗るんじゃねぇぜ」


「ブヒヒ、シルバークラスだって甘く見られちゃ困る」


「んあ? なんだブタザルコンビか」


 会話にエンキとボークも混ざってきた。これでよく知る顔馴染みが揃い踏みである。


「オイラとエンキはゴールドへの昇格を目指すことにしたんだ」


「そういうわけだからすぐに追い抜いてやるから覚悟しておけ」


「やる気満々だねぇ」


「へいへい。精々頑張ってくれ」


 サーフィアは近くにあった果物の盛り合わせの皿からバナナを丸々一本拝借した。


「そんじゃあ餞別にこれでも食っとけ」


「んなもんいるかバカ!」


「そう遠慮するなよほれほれ」


「て、てめっ……ふざけんな!」


「おっと、ちょっとした冗談だろそんなムキになんなって」


「俺ァバナナがでぇっ嫌いなんだよ!」


 予想以上の反発にサーフィアは鼻白む。


「は? エテ公のくせに贅沢だなオイ」


「そういうとこッ! そういうとこなんだわサルならみんなバナナ喜んで食うって風潮! とりあえず猿魔族に贈るならバナナバナナとバカみてぇに寄越しやがってうんざりなんだっつーの!」


「あーあーうるせぇ。お前アレだぞ、アイデンティティーの危機だぞ?」


「バナナが取り柄みたいに言うんじゃねぇ!」


「そういえばルビィ、エテ公のエテってどういう意味なんだろう」


「アタシも知らないわね」


「うめ、うめ……オーグスト産かなこりゃ」


「ボーク! オメェもなんで利きバナナやってんだよ!?」


「あらあら随分楽しそうですこと! 浮かれすぎちゃってこちらにまで会話が聞こえてきたのだわ」


 一同に白い目を向けられて噛みつくエンキの騒ぎにつられてか、また新たに乱入者が加わった。


 褐色肌に緑の鮮やかな髪と瞳を持ち立派な枝角を生やした少女である。


「あ、シカ女」


「知り合いなのサーフィア?」


 素朴な疑問をルチルが投げ掛けると微妙な反応を示す。


「試験で襲ってきた相手だ。多分かなりのドジっ子みたいでな」


「そんなキャラ付けしないので欲しいのだけれど!?」


「待てや! 俺の猿魔族がサルならバナナをくれてやれと軽んじられている話の方が大事だろうが!?」


「貴方は口を挟まないで! ……えーっと、えっとエーテンキさん!」


「ちげぇよエンキだエ・ン・キ! なんだその晴れ模様な名前は!」


「まぁまぁ落ち着いてよエンキ」


 うるせーのが更にきた……とサーフィアが自らの犬耳を折る。


 するとエメラルダは咳払いをしてなにごともなかったように話を切り出す。


「ごきげんようお姫様方、感動の再会はいかがかしら。このエメラルダ・ケリュネイアが──」


「誰かと思えばエメじゃない」


「エメちゃんも入学おめでとう。久しぶりー」


「その呼び名はやめてくれないかしら! せっかくのミステリアスが削げるでしょうが!」


 ところが恰好をつけようにもことごとく調子が外され目を三角にして抗議する。


 エメラルダとルビィたちは知己であるようだ。



「紹介するね。この子はエメラルダ。宮廷魔導士を代々輩出してきた名だたる上流貴族ケリュネイア家の御令嬢、私たちの友人よ」


「そうなんだー、よろしくね」


 とルチルが手を差し伸べるも彼女は応じない。あれ? と首をかしげていると髪を払う仕草を見せつけた。


「そういうのはやめてちょうだい。わたくし、ここには慣れ合いにきたわけじゃないのだから」


「えっ、ご、ごめん」


「そう素直に謝る必要はないのだけれど! こちらの気分の問題なので!」


「え、えぇ……?」


「彼女人付き合いが苦手なの」


 と、デイアの耳打ちされ戸惑うルチル。


「それで、わざわざオレに挑んできたのはどんな了見だったんだ」


「さぁ、どうかしら。詮索されるのはあまり好ましくないのだけれど」


「大方アタシたちに自分の方が凄いってアピールしたさにちょっかい出していたんでしょ?」


「開け広げに教えるのはやめてくださらない!? 謎を纏うことが女の魅力なのだから!」


「それわたしの受け売りだったよね」


 ルビィとデイアに背後から撃たれて形無しである。



「ともかく! いずれわたくしは五芒魔星(ペンタグラン)に並び立つという目的があって入学したのだから! わたくしにひれ伏すことを覚悟なさい!」


「それに関しては聞き捨てならないわ。前々から言っているでしょう。五芒魔星(ペンタグラン)になるのはアタシよ」


 張り合うようにルビィも進み出る。


「……エンキ、なんだっけそれ?」


「知らんのかボーク。魔導士の頂点に立つ五人に贈られる称号のことだ。その内の一人がルビィの母親──魔女王(マーリン)のグラナタス女王。もう一人がここの学院長だろ、忘れたのか」


「そういやそうだったムグムグ」


「てかいつまでバナナ食ってんだお前は」


 ブタザルコンビの解説をよそにルビィとエメラルダのやり取りは続く。


「同じ原石(・・)持ちとして相手にとって不足はないのだけれど。ルビィ、貴女はあれから進歩しているのかしら?」


「当然よ。アタシとデイアも他の生徒たちの一歩先を行っているわ。アンタこそこんな担架を切るってことはそれなりに力をつけてきたんでしょうね?」


「ウフフ。楽しみにしていてちょうだい。目に物見せてあげるのだから」


 二人は火花を散らし始めた。


 しかし険悪な空気とは異なり、認め合い互いに理解した上で挑発し合っているのが見てとれる。


 好敵手。そんな言葉が様子をうかがっていたルチルの胸中で浮かぶ。


「ずいぶん吠えるじゃない。期待はずれじゃないことを祈ってるわ──ヒック」


 これからこの面々で学院生活が始まる。そう考えると自然と心が弾んでいくようであっ──


「ヒック?」


 ひゃっくりである。


 脈絡もなくしゃくりあげたルビィに視線が集う。当人は気にする様子もなく、よく見てみれば彼女の顔が紅潮しこころなしかとろーんとした表情を浮かべている。


「んんぅ? ……なぁんかぁ……ぐるぐるすりゅ~」


 というか酔っ払っている。何故? という疑問が降って湧いてくるが、その理由はボークがいち早く勘付いた。


「クンクン……あ! 原因は飲んでるこれだこれ! ルビィが飲んでるの葡萄ジュースじゃなくて甘いワインだわ!」


「ワイン!?」


「にゅわぁ~、ろおりれへんにゃあじがすりゅとおもったらぁ~」


 解説を聞いてサーフィアはそれを用意した張本人を横目で見る。


「まぁ大変! ルチル、ルビィをテラスに連れていって冷ましてあげて」


「あ、うん分かった!」


「……いけない。わたしもどうやら酔いが回ってきちゃったみたい……。せっかくの祝いの席なのにごめんなさい……サーフィア、ちょっと付き添ってくれる?」


「仕方ねぇ、な……」


「ふ、二人とも大丈夫なのかしら? あの調子では戻ってこられないんじゃあ……」


「その調子だと少しトゲのある高飛車な令嬢作り無理あるんじゃねーかな」


「うるさ──じゃなかった、お黙りなさい! 本当にお騒がしいおサルさんですこと!」


 尻目にその場を後にする二人。彼女を介抱する形でサーフィアは並び歩く。



「……確信犯だな」


「はい? なんのこと? まさか葡萄酒が混ざっていただなんて思いもよらなかった。どこで間違えたのかしら」


 デイアは問い掛けに対して笑顔で誤魔化した。


「惚けるな。試験だけでなくこの宴の準備の指揮もしていたのも大方お前なんだと推察がつく。そういうのを仕込むことも難しくない」 


「仕込むだなんて毒みたいで人聞きの悪い。誰にだって過ちのひとつくらいあるものでしょう」


「いいのかよ、自分の姉にそんな真似して」


「ああなったルビィは普段とは違って素直で人懐っこくなるだけだから安心して」


「以前も検証していたみたいに言うな。しばらく会わない内に小賢しくなって、可愛くなくなったぞ」


「おや? その言い方からするとわたしのこと、可愛いと思ってくれたんだ?」


 ぐぬ、と墓穴を掘って彼は呻く。デイアは鈴を転がすように笑う。


「サーフィアの言う通り、しばらく会えなかった分あの子も本当はもっとこうしたかったと思うよ」


「調子のいいことを……ってオイこんな場所で! 誰か見ているかもしれないだろ!」


「大丈夫。みんな宴会の真っ最中だから。それともあれあれ? おかしいわ、サーフィアさんはわたしはただの可愛い可愛い妹分としか思っていただけてなかった記憶があるんだけどなぁ」


「お前フリじゃなくて本当に酔っているのか?」


「フフ、多分ね。だから少し、休ませて」


 彼女の方からしなだれかかったことにサーフィアは溜息をつきながらもそれを受け入れた。


 そしてもう一組の方も、


「なーん♡」


「わわっ、ちょっと。やっぱり正気じゃないよルビィ」


 夜の空気を吸わせて酔いを醒ませようとしていたルチルであったが、ルビィは文字通り猫撫で声頬擦りしてくる。治まる気配がない、相当な下戸だ。


「ルチるぅ~」


「はいはいどうしたの」


「会いたかったぁ」


「ボクもだよ」


「さみしかったぁ……」


「……ボクもだよ」



 ぐずぐずと鼻をすすりながら訴えかける。今度は泣き上戸だ。

 

「でも大丈夫。ルビィの隣にいるから。安心して」


「ふぐぅ~、うれじぃ~」


「この調子じゃあもう休んだ方がいいよ」


 なだめながらもルチルはようやく再会の実感を噛みしめ、犬尾を左右にゆっくりと動かしながら支えになるのであった。



 余談であるが、翌朝になっておぼろげながらに覚えていた彼女は寮のベッドで悶絶していたことをルチルは知る由もない。


次回の更新は10月21日(土曜日)を予定しています!

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