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十従獣魔のエスクワイア  作者: 岩山 駆
王立学院シルバスコラ編
25/108

再会


 

「受験者の皆様、試験お疲れ様でした」


「そして合格おめでとうございます」


「この場に残られた方々は無事実技試験を通過し、入学たりえる資格を有していると判断されたということです」


「此処からは我々が当学院のクラス制度について案内を仰せつかります」


 仮面を被った案内役のアダマントとカルブンクルスが並び、説明を始める。


 合格者は二十余名。約半数が落第していた。


「それでは腕輪の方をご覧ください」


 言われるがまま、ルチルたちはそれを見やる。はめられていた魔石が淡く光を灯し、なにか数字のようなものが映し出された。


 ルチルが92、サーフィアが90、メノウが87、ボークが54、エンキが52とそれぞれ異なっている。



「そちらはダンジョン内での活躍を数値化したものです。この評価で3つのクラスに分け、適した実戦教育を施していくことになります。50点未満はブロンズ、75点未満はシルバー、そしてそれ以上がゴールドクラスです」


「オレたちはギリギリシルバーか」


「危ねー、ブロンズクラスは避けられたぜ」


 説明を受けエンキとボークが安堵と喜びの色を混ぜる。



 同時にそれとは真逆の感情を抱く者もいた。



「おかしいぞ!」


 声を荒げたのは馬魔族にして貴族のヘングスト。彼の腕輪の数字は43と低い。


「あの者といた取り巻きたちの姿がないな」


 メノウが呟く。恐らく殆ど戦闘を行わず、他の受験者の魔石で集めたのだろう。


「つまり、なんだね……この僕が! 最底辺のクラスに在籍することになるというかい!? きちんと魔石を揃えているじゃないか!」


「魔石を五つ揃えてダンジョンから帰還する、というのはあくまで合格条件であり過程の評価とはまた異なります。貴方が魔石を入手する過程を経て腕輪がそのように判断しました」


「その結果がブロンズだって!? クラス分けの制定は事前に明記されていない! 不公平だ!」


「いいえこの学院は実力主義。市民であろうと王族であろうと忖度(そんたく)をせず分け隔てなく評価を下すためにクラス判定を伏せて試験に挑んでもらいました」


「納得できるわけがない……!」


 ヘングストは淡々と抗議を受け流すカルブンクルスに食ってかかる。



「いいか!? 僕はいずれこの王国で騎士となり! 隊長として名をあげ、ヴァイス家の嫡男であることを知らしめるためにここへきた! それが滑り込みで合格しただなんて祖国が聞けば笑いものにされるだけだ! 試験のやり直しを要求する!」


「……わよ」


「聞こえないな! なにか文句があるならもっとハッキリ言ってはどうなんだい!? そのすかした仮面を剥がして身元を名乗ってみたまえ!」


「やめ──えっ?」


 止めに入ろうとルチルが足を動かし掛けて、傍らから腕が伸びる。


 サーフィアが制止したのである。意図がわからず困惑する内にその理由は明らかとなった。



「気安く触るんじゃないわよ」


 抑揚のなかったカルブンクルスの声に、明確な感情が宿った。


 振り上げた手に突如として紅蓮が生まれて収束した。


 そうして繰り出されるビンタに炎が上乗せされ、直撃とともに爆発する。


「ひでぶっ」


 モロに受けたヘングストはスクリューを描いて吹き飛ぶ。一撃でのされ、周囲がどよめく。


 見覚えのある炎であった。ルチルの感情が琴線に触れた。


「……あ……」


「下手に出ていればつけ上がって。アタシを誰だと思っているの」


 ローブを取り払い、学院の制服と鮮烈な深紅のツーサイドアップ髪が露わとなる。


 そして同じ色をしたツリ目とアイラインに猫耳と尻尾。


 懐かしい気丈な声。懐かしい勝気な態度。


 ルチルが再会を渇望してやまなかったその人が、成長した姿で今目の前にいた。


 カルブンクルスとは仮の名。彼女の本当の名前は──


「このルビィ・フェリ・ベスティアヘイム第一王女に手をあげようなんていい度胸しているじゃない。覚悟しているんでしょうね……あら? 気絶した? ちょっとー、大見得切ってなにもう伸びちゃってんのよー」


「ルビィー!」


 感極まって飛び付いたルチルに「ニャぷっ!?」と驚く彼女。


「ルビィ、ルビィ! 君だったんだね! ボクだ! ボク! ルチルだよ!」


「ちょ、ちょっとやめさなっ、わかった、わかってるから、みんなの前で……!」


「久しぶりだぁ、会いたかったよぉ……!」


「……も、もう、ホント変わってないわね~~~!」


 構わず尻尾をパタパタと振り甘えるようにハグするルチル。


 顔を真っ赤にして抵抗するルビィであったが、ビビビと尻尾を吊り上げて内なる心境を表現していた。

 


「うん! うん! ルビィ背も伸びたね!」


「アンタには負けるわ。あんな人懐っこい子犬みたいだった癖に生意気よ」


「今なら以前やったお姫様抱っこ、もっとかっこよくできると思うよ。せっかくだからやってみる?」


「やらなくていいっ! そういうこと人前で言うなーッ」


 幼少の頃に戻ったようなやりとりを見てやれやれとサーフィアは首を振る。



「白昼堂々お熱いことで」


「何年も会っていなかったからそうなるのも無理はないでしょう。そう思わない?」


 そんな彼の傍に、もう一人の素性を隠した少女が穏やかな声で話し掛ける。



「気持ちはわからなくもないが、公衆の面前ではごめんだね」


「サーフィアも相変わらず。驚いていないあたり、いつから気付いていたの?」


 クスリと笑みを漏らし、ローブと仮面を取るアダマント。


 後ろで編み込まれた白い長髪と琥珀の柔らかな瞳を持った猫魔族の獣人。


 その正体はデイア・フェリ・ベスティアヘイム。彼女もまた、素性を隠していた。


「最初からだ。むしろよくあれで隠せると思ったな。だが王都で案内役として偽名を使っているもんだから、事情があると踏んで合わせてやっただけだが……にしても、お前の方は大分雰囲気とか変わったな」


「そう?」


「ああ。本当に御本人かと疑わしいくらいだぜ」


「むぅ、我は悲しいぞ。よもや主の顔を忘れるとは度し難い。この不心得者はどこの誰ぞ」


 芝居がかった口調で怒る彼女にサーフィアは意外の念に打たれながら合わせる。


「ははーっ、これはこれはデイア殿下。ご機嫌麗しく。あまりに見違えていた故に不肖このサーフィア・マナガルム、驚きを隠せずにおります……こんなんでいいか?」


「ふふっ、よろしい♪」


 花が咲いたようにデイアは笑った。


 かつては引っ込み思案で臆病な印象の強かった彼女が、まるで別人のように表情豊かにはきはきと話せるようになっている。



「それじゃあ一度持ち場に戻らないといけないから──はい、皆様あらためて自己紹介を」


 柏手を二度打った彼女はそうしてざわついていた周囲の気を惹く。


「わたくしはそちらのルビィ・フェリ・ベスティアヘイムの妹にして第二王女のデイア・フェリ・ベスティアヘイムと申します。我々は特待生として半年ほど先に在籍しており、同じ席を並べる級友となりますのでどうぞお見知りおきを。この度は試験の進行役を賜らせていただきました」


 王女だって? そんな偉い立場なのに進行役を? といった戸惑いと疑問の呟きがポツポツと湧いた。


「先のお話があった通りこの学院は実力主義に傾倒されるため、血筋も地位も関係なく人材を育てます。そのためこのように王族であろうと小間使いの真似をすることもあり、逆に平民であろうと実力によっては高待遇になります。そして説明の続きになりますが、現在のクラスに悲観されずとも、今後の活躍によっては繰り上がる可能性もあれば逆に下がってしまうこともあるので共に励んで参りましょう」


 そう締めくくり、デイアは両手を左右に広げた。すると掌から淡く白い光が浮かび上がる。


 それは周囲へと広がって行き地面を明るくした。



「では最後に、わたくしから皆様へささやかな癒しをお送りいたします。傷付き疲れきった身体を少しでも安らいでくだされば幸いです」



 ──《聖域の抱擁(ホワイトガーデン)》・《霊峰花(エーデルワイス)



 彼女を中心として足場に突如として純白の花園が咲き広がる。幻想的な景色に受験者たちは息を呑む。


 そしてその力の影響はすぐに訪れる。


「……! 傷がなくなった!?」


「痛みがとれていくぞ」


「それに、あったけぇ……」


 負傷していた者の怪我が瞬く間に治っていくようである。彼女の魔法紋(ルーン)が強まり、これほどの人数を同時に治療できるほどに成長していた。


 驚いたのはそれだけではない。


「デイア、お前も第Ⅱ覚醒(フサルク)を使えるのか?」


「ええ。お前も、ってことはサーフィアたちも目覚めているの?」


「い、いや、まだだ。そんな簡単なもんじゃねーんだろ……どうやってできるようになったんだ?」


 打算のないサーフィアの質問に彼女はあけすけに微笑む。


「教えてあーげない。わたしたちは一歩リードしているってことだね」


「おまっ、ズルいぞ」


「謎を持つことも女の子の魅力のひとつだよ?」



 と、どこかで聞いたような言い回しでデイアはお茶を濁した。



次回の更新は10月21日(金曜日)を予定しています!

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