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十従獣魔のエスクワイア  作者: 岩山 駆
王立学院シルバスコラ編
24/107

VSゴーレム



 青銅の巨兵がその堅牢な腕を用い、侵入者を叩き潰そうとしていた。


 その下をルチルとメノウはすり抜け、攻撃をやり過ごす。


 腕に乗り、駆け登りながらルチルは先端が青白く輝くメイスを当てた。


 ──【《超過氷結(オーバーアイス)》】!


 拳から肩にかけてゴーレムの身体が凍り付き、動きを阻害する。


 しかしそれに構わずもう片方の腕が羽虫を叩き落とそうとでも言うように伸ばしてきた。


「こちらは(せつ)に任されよ」


 と、狸魔族の獣人で見習いのサムライであるメノウは抜き身の天叢雲(アメノムラクモ)を振り上げる。


 ──五月雨(さみだれ)(しき)


 緩急のついた太刀筋が波を表現するように飛沫の軌跡を引き、腕を十数片もの数に乱切りにした。



「凍り漬けならどうだ!」


「細切れにしてはいかがかな」


 着地した二人は両腕が使いものにならなくなったゴーレムを振り返る。


 だが、間もなくして氷に覆われた表面が砕かれ、輪切りにされた腕の残骸はひとりで戻っていき組み直された。


 こうして魔法を弾き、部位破壊しても復元されていく光景は何度も繰り返されている。


 皮肉にも狙っている頭部にはめ込まれた四個の魔石が動力源になっているだけでなく、身体を修復する機能にもなっているのだろう。


「魔法が効きにくい上にどれだけバラバラに斬っても再生するかー、弱点狙ったら魔石取れないしズルじゃんこれぇ!」


「ううむ厄介な相手だ」


 予想以上にタフなゴーレムを前に二人は攻めあぐねていた。魔石を壊すわけにもいかないし、奪おうにもただでさえ暴れる上に位置が高過ぎる。


 このまま無力化させようにも体力の限りのない相手にジリ貧となっていくだろう。



「どうされるルチル殿、こうも瞬く間に直られてしまっては現状を打破する手立てがない」


 メノウも切れ味には自信があるようではあるが、瞬間的な火力が足りていない。


 かといってルチルの増幅させた魔法もダメージが薄いことからして、どうやら魔法耐性があるようだ。


(それもあの魔石の作用だし暴れたままあの高さにあるのを取り出すなんて土台無理だし、これ用意した人絶対性格悪いよ)


 恐らく試験においてこのゴーレムは試験に挑む受験者では倒せない前提で用意されている。撤退する判断ができるのか試されているのだろう。


 だが、せっかく二人が合格できる分の魔石が目の前にあるのだ。断念したくない。



 ルチルがこれまでに攻撃を加えた経験則からして、魔法で確実に倒すとなれば上級クラスの魔法が求められてくると推察する。


 つまり、名だたる熟練の魔導士並みの力がなくてはならないということだ。


 ルチルの魔法紋(ルーン)、《英知の利器(フラクタルオーバー)》で下級魔法を内蔵したマジックメイスに働きかけることにより、従来は中級近い威力まで底上げしている。


 その出力を全開にすれば要求される火力を出すことも可能ではある。


 だが、それは魔法具(アーティファクト)を犠牲にする捨て身の攻撃。極限まで増幅された反動によってメイスが耐えきれずに砕け散るだろう。


(うーんじゃあ試すかぁ)


 と、ここまでは幼少期までの彼の限界であった。


 ルチルは傍らで刀を構えるメノウに案を切り出す。



「ねぇメノウ、少しだけ時間稼ぎをして貰えるかな?」


「なにか策が?」


「まぁね。とっておきがあるにはあるんだけど、ちょっと準備が掛かるんだよねぇ……」


「なるほど心得た。囮役を賜ればよいのだな」


 二つ返事で快く引き受けたメノウがゴーレムの注意を惹き付けるために飛び出した。


「あっ判断早っ!」


「善は急げと、時間稼ぎは任されよ」


「うん助かるー。よぅし」


 その間にルチルはメイスで地面をつき、先端の魔石たちに魔法を籠め始める。



「それでは存分に足止めをさせてもらうとしよう」


 天叢雲(アメノムラクモ)におもいきり魔力を籠めて大量の水を刀身に宿した。



 ──毛嵐送(けあらしおく)り!


 そのまま下段から上段へ斬り上げるなり、放たれた水が白い煙となって辺りを覆っていく。ゴーレムの足元へ近付くメノウの姿が隠される。


 水を粒子化させて作った濃霧による目くらましである。



 標的を探すべく見渡すゴーレムを攪乱するように、死角から現れては一太刀を加えて霧の中に引っ込んでいく行動を繰り返した。


 しかしダメージそのものは焼け石に水。どれほど傷を与えようと復元されてしまう。決定打に欠けていた。



 それでもメノウは退かない。ルチルの言葉を信じ、己の役割に徹する。


 もしかすれば囮となっている隙に置き去りにされても不思議ではない状況で、微塵も疑いもせず担ってくれていた。


 否、たとえ逃避の盾にされると知っていようとも彼女は貫き通すだろう。


 それこそがメノウの志す誇り高きサムライ足りうる器であると、本人はそう信じてやまないからだ。



 ゴーレムは翻弄される内に霧に隠れるメノウを探すことをやめ、闇雲な範囲攻撃をすることに切り替えた。腕を組んで地面に鉄槌を叩き落とす。部屋が揺れた。


 その衝撃の余波で濃霧が引き剥がされ、身を潜めていた居場所が暴かれる。



「なんのっ」


 ──滝壺断(たきづぼだ)ち!


 砕かれた床の破片を受けながらメノウは飛んでくる追撃の殴打を技を繰り出して応じる。


 拳が左右に分かたれるも、衝撃を殺しきれずそのまま後方に吹き飛ばされた。



 追いやられながらも踏み留まるメノウ。二撃目のストレートが繰り出されようとしていた。


 回避ができない彼女は受けて立つ姿勢を見せる。


「──草薙流()刀術……!」


 刀から水流が勢いよく吹き出し、刀身に螺旋を纏う。


 そしてゴーレムの攻撃目掛けて突きを繰り出した。


 ──渦潮貫(うずしおぬ)き!


 メノウ・クサナギが持てる最大威力にして貫通力に特化した奥義はゴーレムの巨大な腕を水蒸気爆発と共に打ち砕いた。絶え間ない攻防にさすがの彼女も息を切らし始める。


「……ハァ……ハァ……やはり、焼け石に水……!」


 それでもゴーレムの欠損した腕はなにごともなかったように復元を始める。十数秒にしてメノウの奮闘は水の泡に帰された。やはり根幹を絶たない限り、相手は何度でも元通りになるだろう。



「お待たせ、メノウ」


 準備を終え、ルチルは呼び掛ける。


 マジックメイスで地面をつく彼の周囲には四種の魔法がゆったりと浮遊し、回っていた。


 ──【《超過火炎(オーバーファイア)遅延(ディレイ)》】


 ──【《超過氷結(オーバーアイス)遅延(ディレイ)》】


 ──【《超過烈風(オーバーウィンド)遅延(ディレイ)》】


 ──【《超過岩塊(オーバーロック)遅延(ディレイ)》】



 それらは一度メイスを通して発動した魔法であり、ルチルの制御によってその場に留められている。


 数年の修業の中、ルチルはジレンマを抱え続けていた。


 現状では増幅した魔法は中級クラスまでしか安定して出すことができず、それ以上の威力にしようにものなら魔法具(アーティファクト)が耐えられない。それでは上級魔法を使える魔術師の下位互換に過ぎないことを意味していた。


 そうした限界に突き当たったルチルは、なにか克服する手はないかと彼の師である王立獣魔騎士の隊長オニキス・キャスパリーグにアドバイスを仰いだのだ。


 ──いやぁ俺白兵戦専門だし魔法の攻撃に関しちゃあからっきしだわー。他の人に聞いた方がいいよー。


 ──えぇー! 丸投げェー!?


 ──誰にでも得手不得手はあるもんでしょ。隊長だからってなんでもできるわけじゃないのよ。同じ相手にだけ頼るのは悪い傾向だ。


 ──本当は面倒臭がってるだけじゃないのー?


 ──んなことないでーす。力及ばずながらも応援してまーす。


 ──……じゃあもういいよ。お母さんに事情説明して別の魔導士のアテとかないか聞くから。師匠がなーんも教えてくれないって話を添えて。


 ──だが教え子の深いふか~い悩みとなれば一緒に知恵を捻ってやらんでもないよルチルくん。


 最初からそうしてよ、とため息をこぼしながらルチルはオニキスの魔法を拝見した。


 ──【火炎ファイア


 片手を前にして打ち出された火球はマトにした木の幹に当たり、弾ける。表面を焦がすだけだった。


 ──普通、だね。


 ──うん。俺としては石投げた方が強いからな。幹貫通して数十メートル先の獲物を仕留める自信あるぞ。


 ──だからあんまり極める必要がなかったの?


 ──そういうこと……おいよせそんな残念な相手を見るような目は。


 ──だって師匠の魔法の腕じゃあやっぱりボクの課題を越えられないんだなって。


 ──遠慮なく言ってくれるなぁ。じゃあこういうのはどうだ──【火炎(ファイア)


 言ってオニキスは再び火球を出した。今度はその場に停滞させる。


 そしてすかさず手を先ほどの幹に向けた。


 ──【火炎(ファイア)


 三度目に放たれた火球が飛び出す瞬間、今しがた留まっていた二発目の火球が連れ添い、着弾の直前に重なった。


 これまでにない勢いで炎が燃え上がり幹を焼き砕く。ルチルは心底驚いた表情でオニキスに聞いた。


 ──……い、今のって?


 ──見ての通り、二つの魔法をタイミングをずらして重ねがけたのさ。威力は足し算じゃなくて、相乗。魔法にはこういう使い方だってあるんだぜ?


 それで教授して貰ったのが魔法をすぐに撃ち出さずに時間差で放つテクニック……遅延(ディレイ)と呼ばれる技術である。



 魔石に魔法を内蔵するのに加えて更に準備を要することにはなるが、こうして一つ一つを放出していけば負荷に耐えながら単発での魔法の限界威力を越え、組み合わせることで様々な可能性を見出せるようになった。


 その実例を、今目の前で実演する。



 魔法を率い、発動中の【《超過火炎(オーバーファイア)》】を先行させた。解放された紅蓮の熱波がゴーレムを焼く。


 だが、件の魔法耐性によって砕けることもなく熱を帯びるだけだった。


 そこですかさず【《超過氷結(オーバーアイス)》】をぶつけて氷を被せた。灼熱と相殺されて水蒸気が噴き出す。


 その最中で至るところから亀裂の音が広がる。


 立て続けに【《超過烈風(オーバーウィンド)》】を放つ。ゴーレムの両腕両足に鋭い風の刃が走った。


 さきほど試した時は浅い傷跡しか刻むことができなかった筈なのだが、熱と冷気による著しい温度変化の熱衝撃を加えた影響によりスッパリと切断。魔法でも効果を見せる。



 そして極めつけに【《超過岩塊(オーバーロック)》】が地面に撃ち出され、着弾すると大きな土壁に肥大。ダルマのように倒れ込んだゴーレムの切断面を遮った。それにより、ひとりでに戻ろうとするパーツたちは虚しく土壁にぶつかるだけで修復できない。

 


 中級レベル魔法の同時四連続攻撃。それによってゴーレムは身じろぐことしかできず完封される。


 無防備になった胴体に飛び移り、そしてルチルは手を伸ばした。


「後生大事に抱えていたその魔石、いただくよ」


 収められたそれをむしり取るとゴーレムの動かなくなった。一度に四個もの魔石を手にしたルチルは降りてメノウのもとへ駆け寄る。


 鞘に納刀し彼女の方からもこちらへやってくる。立派に時間稼ぎを果たしてくれた。


「メノウ、怪我はない?」


「破片を掠めただけで大したことはない。それよりもあれほど強力な魔法を幾つも操るとは、ルチル殿の腕前には心底感服いたした」


「君が手伝ってくれたおかげだよ。はい、メノウの分」


(せつ)ら二人とも魔石が五個。これにて合格だな」


「気が早いよ、地上に出るまでが試験なんだから」


 腕輪に魔石を揃えたことでルチルたちは条件を達成。あとは脱出するだけである。


「じゃあ、長居する必要もないし戻ろうか」


「うむ。他の受験者に略奪に遭わぬよう気をつけないと」


 と、危惧していたことも杞憂に終わり、晴れやかな気分で日の光を浴びる。


 既に他の合格者も出てきており、その中にはB班のサーフィアたちも混ざっていた。オークとエンキも通過できたようである。



「ようルチル、遅かったじゃねぇか」


「ちょっと手こずっちゃって。サーフィアはどうだった?」


「ああ、大したことなかったよ」


「さすがだね」


「ウキキ、騙されんなよルチル。コイツ狙われてピンチだったんだぜ?」


「ハァ? あれくらいどうにでもなったつーの」


「まぁまぁサーフィア殿、皆無事に達成できたのだからよいではないか」


 こうしてダンジョン内での試験は終わりを迎えるのであった。


次回の更新は10月20日(木曜日)を予定しています!

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