王立学院へ
夜を迎えて真っ暗になった森の中、伸びた一本道を一同は歩いていた。ランタンを持った案内役のアダマントとカルブンクルスが先導する。
同じような木々の景色が続いているため、道を外れれば土地勘のない者であれば遭難しかねないだろう。
「ねぇ、もう日も暮れちゃったけれどどこまで歩くの?」
「ご安心ください。もうじき見えてまいります。試験は明日になりますので、今夜は兵士は遠征に訪れた際に利用される宿舎でお過ごしください」
「おお、それはかたじけない。宿を借りずに済むとはありがたい話だ」
「……さぁ、あちらが王立学院シルバスコラになります」
山々に囲まれた丘には開拓された景色が広がっていた。点々と灯りの漏れる大きな城とありあまった領地にはいくつもの家屋や塔が建っていた。その規模はもはやちょっとした村である。
「あそこにルビィとデイアがいるんだね……」
どうだかなぁ、とサーフィアは肩をすくめた。
「規則に厳しいようなら、ルビィなんか退学になってるかもしれないぞ」
「大丈夫だよ! きっと今も頑張っているに違いないって。確かにルビィは気が強くてワガママで気丈なところがあって辛抱弱いし好き嫌いは多いわレディのたしなみがどうのとうるさくて男の子の遊びにばかり混ざっておしとやかさの欠片もない子だったけれど、さすがにもう落ち着いていると思う」
「おーい、その辺にしとけ。後で怖ェから」
薄暗くて冷えている森の中で近くのどこからか不穏な熱気を感じたような気がしたが、ルチルは錯覚だろうかと判断した。ここに彼女はいないのだから聞こえるはずもない。
「そんなあの子が『がんばる』って言ったんだ。だから、絶対大丈夫」
確かな想いを胸に秘め、ルチルは断言した。
「待っていてね。もうすぐだから」
遠目から眺めながらひとりごちる。この数年間、再会を果たすために二人は途方もない修錬を積んできた。傷付き、挫折しそうになった時も、彼女たちの顔を思い浮かべて持ちこたえたのだ。
どんな風に大きくなっているのか、今も楽しみで仕方なかった。
すると察したのか狸魔族の少女が横から小指を立てて見せてきた。
「さてはルチル殿のコレなのだな?」
「ち、違うよっなにを言うんだメノウ! その、ただの幼なじみの友達なんだって!」
「1年とちょっとの時間をいっしょにいただけでそう言えんのか」
「サーフィアまでェ! 長ければいいってもんじゃないから!」
「……コホン。そろそろ進みましょう」
からかわれて弁解するルチルのやりとりにしびれをきらしたのか、軽く咳払いしたカルブンクルスによって移動を促された。
空いている兵舎にまで案内され、ローブの二人とはそこでお別れとなる。
「それでは皆様、明日のご健闘をお祈りします」
「ああ」
「うん、助かったよ。ところで、お姉さんたちもここの学生なの?」
「志望者へ身の上を語るのは禁足事項に抵触いたしますので、あしからずながらお答えは」
「あー、そうなんだ、ごめんね。でも、また会えるといいね」
「……も──」
「カルブンクルス。お忘れですか? 学院長への報告がありますよ」
なにかを言い掛けたところをアダマントに呼び止められ、口を閉ざした彼女は立ち去る。
「やっぱり学院の生徒なのかなぁ。でも、仮面つけていたけれど美人さんだろうね。なんかあの落ち着き払った雰囲気、っていうの?」
「うむ。拙にも二人の気品さを感じ取ったぞ。育ちのよいご令嬢に違いあるまい」
「そうそう! 貴族とかも通っているって聞くしそんな気がするよ!」
「……ルチル、お前さぁ……ま、いいか」
「サーフィア?」
何故か呆れた調子でいる彼にルチルはまた解せない気持ちで首をひねった。
施設内には既に多くの受験者たちが待機しており、後から入ってきたルチルたちに視線を向ける。
冒険者然とした装いの者、魔導士のローブを羽織る者、他国から訪れたと思わしき貴族服に袖を通す者。
敵愾心と好奇心が半々といった様子で試験の競合相手を牽制し、実力を見定めようとしているようだった。
そんな静かな歓迎を受けた三人であったが、
「うわぁ、こんなにたくさん受験者がいるんだね。いったい何人いるんだろう」
「ま、ここにいる半分以上が振るい落とされるんだろうな」
「それはまた狭き門だ。しかしそれでこそ臨むところというものだが」
緊張感の欠片もなく素通りして周囲を見渡している。
「ようマナガルム兄弟。やっときやがったか」
「このまま朝になってもこないかと思っていたところだったぜブヒヒ」
「エンキ! ボーク! やっぱり先に着いていたんだね」
「サーフィア殿、あちらはもしや同郷の者か?」
「そんなところだ」
顔馴染みの猿魔族と猪魔族に遭遇した。
幼少の頃とは異なり、エンキは黄色のベリーショートで瘦せぎすにシーフを彷彿させる恰好に。
ボークは大柄な体躯に鎧をまとい、精悍になった顔つきに上下のはみ出た牙という特徴が残っていた。
「まさか二人も受験志望だったとは思わなかったよ」
「お前らだけがこの日に備えていたわけじゃなかったんだぜ。俺たちの活躍で落第しても恨むなよな?」
「大きく出たなエテ公、ガキの頃ダンジョンに入ってベソかいてたくせに」
「うるせっ! 昔のことをいつまでもねちっこく引っ張るんじゃねぇこのクソ狼!」
「とりあえずルチル、腹減っただろ。あっちでタダメシ食えるぜ」
「本当? ちょうどお腹空いていたんだー」
「遠慮なくご相伴にあずからせていただこう」
サーフィアとエンキによる言葉の取っ組み合いを尻目に、慣れた光景なのかそれを放置したルチルはメノウと一緒にボークへ連れられて夕食の席に向かう。
「エンキはあんな態度だけど、オイラたちずっと二人に礼が言いたかったんだ。サーフィアは大人をすぐに呼んでいたし、ルチルはオイラを助けてくれたし」
「ボクはただルビィの背中を追っていただけだったんだよ。今もそうさ。彼女がダンジョン内に飛び出していなかったら尻込みしていたかもしれない」
「だとしても、結果的にお前がきてくれなかったらどうなっていたことやら。この学院に入って王立魔獣騎士を目指すきっかけにもなったんだ……だから、みんなで受かればいいと思ってる」
「ボクも同じ気持ちだ。絶対に合格しようね」
サーフィアは試験を蹴落とし合いだと評していたがルチルとしては競うことはすれ、共に頑張って達成することが理想であった。
甘い考えなのかもしれない。だが、同じ考えを持つ仲間がいてくれた。
しかもかつてはからかい嘲ってきた相手から言われたのでこそばゆい思いだった。
「うぅむ! 男児の友情とは美しきかな! ルチル殿たちが少々羨ましく思うぞ」
「……ところでルチル、その人誰?」
「あはは、行きずりで知り合ったんだけれどね」
かくして、それぞれの想いを旨に試験前夜の時間は過ぎていった。
メノウ「ちなみにサーフィア殿からお二方がかなりの悪童であったと聞いたのだがいかほどの悪戯をしていたのだろうか」
ルチル「えっとねー、井戸水にツバをぺっぺと吐いたり、家の前に堆肥置いてったり、草場で用を足してる子に後ろから膝入れたりとかかな?」
メノウ「糞餓鬼!」
次回の更新は10月16日(日曜日)を予定しています!
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