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十従獣魔のエスクワイア  作者: 岩山 駆
王立学院シルバスコラ編
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メノウ・クサナギ



 王都までの街道を辿ることでつつがなく進むことができた。2日目の夕方にはかつて収穫祭の時に訪れた下街にまで辿り着いた双子であったが、予期せぬアクシデントに遭遇する。


 異国の文化を彷彿させる奇妙な恰好をした獣人が、路上でうつ伏せになったまま倒れていた。


 帽子の代わりにすげ笠、羽織っているのは着物で袴にわらじと、双子には縁のない衣装である。


 しかし確かなことはひとつ。


「生き倒れだなぁ」


「生き倒れだねぇ」


 腹の音が絶え間なく鳴り続けている様子からして結論が一致する。


 こちらに気付いてか、震える手をあげて助けを乞う。


「……誰か……食い、物を……もう3日、なにも……」


「どうするサーフィア?」


「どうすっかなぁ。この生き倒れを衛兵のところに運んでも面倒なことになるだろうし、かといってこのまま素通りするのも夢見が悪いし……」


「……ご、後生だ……食い物を、恵んでェ……」


 同時に溜め息を吐き、仕方なくルチルとサーフィアはその人物を介抱することにした。



「──くぅー! 久方の馳走は臓腑にまで染み渡るゥ! これは美味だな嗚呼これも美味だぞモガムグむしゃむしゃァ!」


「わぁ、絶食しているとこんなにご飯が入るんだね」


「この調子だとオレたちのなけなしの財産を溶かしちまうぞ」


「……ゴックン! 心配いらないぞ! 今しがた腹七分目といったところだ!」


「じゃあ遠慮してそのへんで止めとけよ」


「まぁまぁ、頼んじゃったのは仕方ないし、満足するまで食べさせてあげればいいじゃん」



 ガツガツと宿のメニューをあらかた平らげながら栗色のショートヘアの少女は珍妙な口調で答える。


 特徴として黒い丸みのある三角耳を持ち、ふっくらとした尻尾。種族としても見慣れない。


 一段落がついたのか、深い息を吐いた彼女は居住まいを正す。


「かたじけない、あらためて恩に着る。(せつ)の名はメノウ・クサナギ。東の国から幾多の山々を抜けて王都に参った若輩者だ」


「ボクはルチル。こっちは双子の兄のサーフィア。東の国ということは君、アジールの獣人だね」


「あっちで暮らしてる連中は独特な文化を持ってるって話を聞くな」


「如何にも。アジールにあるヤマトという国の生まれだ。(せつ)は狸魔族の末裔にしてサムライを志す者。見聞を培い己を磨き上げるため、遠方を旅して回っている」


「「サムライ?」」


 双子が疑問符を浮かべるとメノウは突然その場から立ち上がる。


「よくぞ聞いてくれた! サムライとは高貴な家柄の貴人を守る武家より輩出せし者たちのこと! 誇り高く義理堅きヤマトの象徴だ! 忠義を全うし、刃を以て主に仇なす不届き者をなますのごとく斬り捨てて守ることこそが彼らの本懐! 見よ! 磨き上げしこのアメノ……!」


「危ねぇ危ねぇ店ん中でそんな物騒なモン抜くな」


「む、失礼した。口上に熱が入ってしまった」


 演説しつつ剣の腕でも披露しようとでも言うように抜刀し出したので、サーフィアが諫める。


「……つまり、この国で言う騎士と剣士を両立した立場の者を指す、とでも説明すれば理解が早まるだろうか」


「う、うん。なんとなくわかったよ」


「で、そんなサムライがなんで王都の往来で力尽きていやがったんだ?」


「うむ。その修業の一環と実績を得るべく、此方(こなた)にある学院に門戸をたたく次第であったのだが……道中身銭を扮して食べるものにも困り果ててしまってな……」


 お恥ずかしながらと彼女はその経緯を打ち明ける。


 それよりも二人は聞き捨てならない目的の方に意識を向けた。


「じゃあメノウは王立学院ジルバスコラを受験するつもりなんだね?」


「もしや貴殿らも同じくしてこの場所に?」


「そう。着いたばかりでキミと遭遇したってわけさ」


「……それは面目ないことをしてしまったようだ」


「ああ、オレたちは試験になったら蹴落とし合う仲。極端に言えば敵に塩を送っちまったわけだからな」



 知らなかったとはいえ、試験の競合相手と助けてしまったのだ。メノウもそれがわかっていてしのびない想いなのだろう。


「だが呉越同舟(ごえつどうしゅう)とも言うべきか、これからライバルになろうともここで会ったのもなにかの縁。学院までの道中に同伴願えないだろうか。一宿一飯の恩儀を返さねばなるまいし」


「義理堅いことで」


「護衛でも荷物持ちでも快く引き受けよう」


 サーフィアの皮肉に誇らしげに鼻を鳴らす。逞しいや、とルチルは肩をすくめて苦笑した。



「でもね、荷物なんて大してないし護衛なら間に合ってるんだ。ボクたちも自分の身は自分で守れるくらいには鍛えてきていたから大丈夫だよ」


「それは心強い。だが(せつ)の振るう刀は凡百のなまくらを束にしても劣らないと自負しているが、それでも不服だろうか?」


「へぇ、じゃあ無数の剣を同時に相手取るならどうするよ? どれだけ腕に覚えがあるのか知らないが、オレも剣の手数になら自信があるぜ?」


 押し売りに対してサーフィアが挑発的に投げ掛けた。


「フッ、十でも百でも相手にとって不足はない。用意できるというのなら受けて立とう」


「大きく出たじゃねぇか、面白ぇ。なんなら今から試してみるか?」


「ほほう、決闘とな?」


「もーだからやめなよ。なんで学院に向かう前からやる気になっているのさ」



 サーフィアとメノウが好戦的に火花を散らしているところにルチルが仲裁に入ろうとするなり、


「彼の言う通り。試験前に問題を起こすのはやめてください」


「事態によっては受験資格を剥奪する可能性も懸念されますゆえ、私闘は御遠慮願えないでしょうか」


 第三者からも制止がかかった。抑揚のない静かな声音からして女性と思わしき二人組は、フードローブによって素性のわからない出で立ちである。


 更には白黒の無機質な仮面をつけて素顔を隠していた。


「えっと、どちら様?」


「申し遅れました。我々は王立学院よりヤマトからお越しのメノウ・クサナギ様をお迎えするように仰せつかった案内人です。私はアダマントと申します」


「同じくカルブンクルスです、道中よろしく」


 アダマントを名乗る片割れがうやうやしく一礼した。カルブンクルスの方は挨拶を一言。


「うぅむ案内人とな。これは見苦しいところをお見せした」


 メノウは自省して大人しく引き下がり、サーフィアは真顔になった。



「ルチル・マナガルム様、サーフィア・マナガルム様も試験をお受けする旨、よろしければご同行する手筈と参りましょう。早速ですが、こちらの書類に押印を」


「これは?」


「これからの受験に当たって守っていただく契約書になります。当学院に危害を加える意図はないことと、万が一の事態に対しても自己責任であることを誓う旨を守っていただけなければ、これはひとりでに焼失されて失格となります」


 卓上に羊皮紙を広げ、カルブンクルスは話し始める。


「なるほど、森の奥深くにあると聞くし、随分厳重じゃねぇか」


「はい。我々の学院は各国からの貴族や王族を集めるため、様々な自衛策を用意しているのです。サーフィア様にもご理解いただければと」


「ま、別に構わんがね」


 サーフィアは躊躇なく銀のナイフを出し親指を切って血判を押す。


「あいやわかった。サーフィア殿、(せつ)にもその小刀を」


 メノウも快諾して契約を済ました。


「ほれ、次はルチルだ」


「うん。こうして契約書を用意して学院まで案内してくれるなんて親切だねー。ありがとう、お姉さんたち。こちらこそよろしく」


 ルチルも判子を押して屈託なく清廉な笑みを浮かべると、カルブンクルスは動揺した様子を見せた。


「そ、それでは向かいましょう。受験者は貴方たちで最後になりますから」


 三枚の羊皮紙を素早く回収し、踵を返してスタスタと彼女は先導する。 


「……アイツ案内役に向いてないな」


「コラ、失礼だよサーフィア」


「お前も大概だけれど」


「ん? どういう意味?」


「ああもういいからさっさと案内してもらえよ」



 自己完結するサーフィアの言葉の意味をルチルには理解することができなかった。

次回の更新は10月15日(土曜日)を予定しています!

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