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十従獣魔のエスクワイア  作者: 岩山 駆
ヤルンウィドの村編
11/108

成長の軌跡



 その日の深夜。自宅の寝室でルチルとサーフィアは眠りについていた。


 コツコツという音が外から聞こえてきて、ぼんやりとしたサーフィアが身体を起こす。


「……なんだ? 誰かいるのか」


「キュウゥ」


「冗談だろ!?」


 その聞き覚えのあった声にたちまち目が覚めた彼は弾かれるようにベッドから立ち上がる。


 窓を開くなり顔を覗きこませたモッフンの姿に驚き、夢ではないかと自分の頬をたたく。


「お前、こんな所にきたらマズイ……てかどうやってここがわかった!?」


 騒ぎになってはまずいとひそひそ声ですぐに帰そうとするが、両手になにかを持って窓越しからグイと差し出してくる。


 藁を丸めた塊を思わず受け取り、サーフィアが困惑している間にモッフンは背を向けた。


「キュッキュッー」


 尻尾をユラユラと振りながら次の瞬間、翼を大きく動かして家の外を飛び去って行く。バイバーイと言っているようだった。ルチルはお腹とよだれを出して熟睡したまま目覚める気配はない。


 しかも「ルビィぃ~それ食べ物じゃないよぉ……」などと寝言を漏らしていた。


 しばらくの間ポカンとしていた彼は持っている藁を確認すると、中になにかが蠢いている。


 そこには月夜の光で金色に反射する甲虫が入っていたのだ。


 ゴールドヘラクレスである。それも六匹もいた。


 これだけいれば……という発想に至りながらハッと気付く。これはモッフンのお礼であるのだと。


 確かにあの時、図鑑を渡してそれを探している旨を話していた。しかし、聞かれたところで理解できるはずもないとタカをくくっていたのだ。


「……アイツ、わかってて持ってきたのか」


 高い知性を認めざるを得なくなったサーフィアは、後日あのドラゴンに勉強になりそうな本をいくつか与えてみようかと考えていた。




 1年後。


 草原の上で双子の狼魔族は武器を持って打ち合っていた。オニキスはその様子を見守る。


 サーフィアの手には自ら産み出した銀剣を持ち、ルチルは雑貨店で購入していた鉄の棍棒を握り締める。魔法具(アーティファクト)であった。


 打撃に特化したマジックメイスをメインにしながら、彼は弓や槍といった武器も練習しており様々な武具を使いこなせるように指導を受けている。


 そうすることで戦術の幅を広げることに繋がるそうだ。


 サーフィアはサーフィアで剣の腕前だけでなく、自らの銀剣を産む能力を磨いて一度に複数の精製や発動速度、そして大きさと形状をもっと自在にする訓練などを行っている。


 それぞれの魔法紋(ルーン)の力を伸ばし、そして土台を鍛える。順調だった。


 そんな稽古の最中、恒例のようにルビィとデイアが訪れた。


「ルチル! サーフィア! 今日も遊びにき……あら、オニキス隊長」


「こ、こんにちは……」


「おんや? 姫様たちではないですか。ご機嫌麗しゅうございます」


 バッタリと遭遇したオニキスが猫魔族の双子姫に深々と頭を垂れた。



「稽古つけてあげないの? こんなところで油を売っていたらまた母様にどやされるわよ?」


「違いますって~これも修行の内で、同じレベルの相手と切磋琢磨していた方がいい時もあるんスから」



 年端も満たない内から彼に鍛え上げられている二人は同世代の中でもメキメキと腕をあげ頭角を現していくことだろう。


 現に彼らの動きはオニキスに初めて挑んだ頃よりも鋭く機敏になっており、新人の兵士顔負けの腕前であった。


「いい傾向だわ。そのままどんどんしごいて頂戴。いずれはアタシたちの専属護衛騎士になってもらうんだから」


「ほほぅ? そのお歳でもう意中の殿方を見つけて唾をつけていらっしゃるとは、お二方も隅には置けませんねぇ~ウェヒヒ──ぶ熱っちゃァ!?」


「それ以上言うと炙るわよ」


 もうやってるじゃないですか! と横目のルビィによる視線発火で顔面に軽く炎を吹き掛けられたオニキスが抗議した。



 彼らもそうだが姉妹の方の成長も目覚ましいことを彼は実感する。


 その証拠にルビィがなんの気なしに放った《神の火(ウリエル)》も火傷を避けられる精度で扱えるようになっており、デイアは町の診療所でたくさんの怪我人を治した実績を持っている。


 四人の才能はどれも比類なきものだ。将来活躍するのは間違いないだろう。


「で、訓練終わったら二人を借りてもいいかしら」


「……えぇ、構いませんよ。そろそろ今日はお開きになるところだったので存分にお遊びください。あ、くれぐれもダンジョンに潜っては……」


「わかってる! じゃあ遠慮なく連れて行くわね!」


 ルビィは駆け出して行き、デイアは歩いて後を追う。


「あれー? ルビィ、どうしたの」


「今日の訓練はもう終わりってオニキス隊長が言ってたわ! だから今日も森で遊びましょ!」


「あのなぁー、こちとら動き回って一休みしたいところなんだが」


「歩きながら休みなさい!」


「御無体だぞお前」


「……ルビィ、二人も疲れてるから少し待ってあげて」


「いや大丈夫だよ。ボクもサーフィアも体力ついたんだしルビィの言う通り歩いていれば全然へっちゃらでしょ」


「おい。オレを巻き込むな」


「男の子ならそうこないとね! さっ、行くわよー」


 仲睦まじい光景をオニキスは遠目で眺めていた。彼女たちが王都で暮らしていた頃以上に生き生きとしているのは間違いない。


「だが、それもいつかは……いいや。不粋な話だな」


 彼はそう、ひとりごちる。



 森林の奥にある泉で、巣穴の前に緑のフェザードラゴンがいた。


 木の枝で地面を引っ搔き、絵を描いている。


 四人がいつものようにそこへ訪れるなりモッフンは首に提げていた石板ボードでなにかを書き記していく。サーフィアが用意したものだ。


「おーいモッフーン、遊びにきたよー!」


「キュゥー」『いらっしゃい』


 石版を石筆でそう言葉を描き、四人へ見せる。意思疎通がとれるようになっていた。


 モッフンの知能の高さには目を見張るものがあり、試しに文字や様々な道具の使い方を教えると見事に覚えたのである。


「わ、わたし……モフりたい」


「今日はアタシを乗せなさい。周辺をぐるっと飛んで回りたいわ」


『いいよ』


 ドラゴンに言い寄る双子姫。遊び相手としてとても気に入られているようだった。



「さて、と。わかっているなルチル?」


「もちろん。これは師匠にも内緒の特訓だからね」


 夢中になっているルビィたちをよそにルチルはマジックメイスを取り出す。


 先端には赤い魔石がついているが、中身の魔法は空っぽだ。


「【雷光(ライト)】」


 唱えると手から迸るのは小さな稲妻。これまでも魔法に関してはからっきしで、ここまでがルチルの限界である。


 だが、これを応用する手段を考えた。このちっぽけな魔法をマジックメイスの中に注入し、封じ込める。


 そして湖の反対側に回ったサーフィアが手をあげた。


「準備はいいか?」


「うん、それじゃあ行くよ……」


 思いっきりスイングしてルチルは叫ぶ。


「いっけェッ!」 


 ──【《超過雷光(オーバーライト)》】!


 するととてつもない稲妻がメイスから飛び出した。激しい轟音と稲光が一帯を覆う。


 ルチルの魔法紋(ルーン)、《英知の利器(フラクタルオーバー)》は道具の性能を引き出すことができる。試行錯誤を経てそれは魔法具(アーティファクト)に掛けられた魔法にも作用することがわかった。


 その特性を活かして魔法具(アーティファクト)に自分の魔法を内蔵させて放つことで、元の威力を増幅させるのではないかという可能性に気付いた。


 試みは成功。従来のそれとは比べ物にならない力を引き出す結果になった。


 それは一直線にサーフィアのもとへ向かい、牙を剥く。通過した水面が蒸気をあげる。


 ──剣現陣形(ファランクス)防壁(フォート)


 身の丈を越える銀の大剣を複数顕現し、幾重にも地面にかみ合わせるように突き立てた。


 それは月日を掛けて彼独自に編み出した展開戦法であり、様々な銀剣をいくつも産み出せる《銀剣錬製(シルバーレギオン)》ならではの芸当である。


 横に伸びた落雷の槍と重ね合わせた剣の盾が衝突。大きな火花が散り、相殺した。


 銀剣のいくつかが吹き飛び赤熱するも後ろにいたサーフィアは健在。

 互いの攻撃と防御の成果を確かめ合い、実戦でも使えるように技を編み出そうとしている。


 こんな危なっかしいことをするのなんて師や親にも言えないし、万が一のためにデイアが近くにいる時だけ行うことにしている。


 どうにか魔法をしのいだサーフィアは息をつく。


「フゥ。手応えはどうだ?」


「うん! こっちはバッチリ。これを壊さないようにしながら此処まで威力を出せたよ」


 ルチル曰く、こうして内蔵した魔法の出力を限界以上に引き出そうとすると魔法具(アーティファクト)そのものが耐えられなくなってしまうのが直感的に理解できるそうで、今しがたの魔法も実はセーブを掛けた上で放ったものであると言うのだ。


 まだこれより上があるという事実にサーフィアは戦慄を禁じえないのと同時に、弟に遅れをとりたくないという対抗心を密かに燃やしていた。


「これだったら王立獣魔騎士に入るのも夢じゃあないな」


「もちろんだよ! そのために毎日毎日あんなハードなトレーニングメニューをこなしているんだから」


「ああ。それで思い出したがオニキスのヤツ、トレーニング量を増やす腹積もりでいるみたいだぞ」


「うえぇ、これ以上もっとやるのォ!?」


 なんて湖ごしにやりとりをしていると上空からバッサバッサとモッフンが降りてきた。背中には飛行ツアーを楽しんでいたと思わしきルビィが乗っている。


「なんの騒ぎかと思えばアンタたちだったのね。大技勝負かしら?」


「え? あ、うん。そんなところ」


「オイ! ルチル肯定すんな! アイツの性格上──」


「楽しそうじゃない、アタシも混ぜなさいよ~」


 言って頭上に目配せするなり、彼女の紅眼が妖しく光った。


神の火(ウリエル)》を用いた直後、湖の真上に火球が現れ瞬く間に膨張する。ジリジリと周囲に熱気を放ち、そこにしばらくいるだけで干上がりそうになる。



「うわぁ! 大きいねーっ!」


「呑気か! そんなもん出すな! 危ないだろ!」


「大丈夫よ、森が燃えないように湖に落とすから」


「そういう問題じゃねぇ! おわぁああやめろォ!」


「行っけェ~!」


 嬉々として小さな太陽のようなそれを水中に躊躇いなく落とした途端、


 湖の水が蒸気となって大爆発を起こした。


 その余波に吹き飛ばされ、一同の悲鳴が森に木霊する。大事には至らなかったが、ルビィの大技を出すことは言うまでもなく禁止となったのであった。


次回の更新は10月9日(日曜日)を予定しています!

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