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十従獣魔のエスクワイア  作者: 岩山 駆
ヤルンウィドの村編
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四人の命名


「フェザードラゴンの子供ねソレ。野生で見るのは初めてよ」


「野生、ってことは飼われてたりするの?」


「王都ではワイバーンとドラゴン系のモンスターでも穏和な種類を乗り物として移動手段にしていたりするわ。娯楽としてレースが開催されるくらいよ」


 手当てのためにルビィとデイアを巣穴へ案内した際にようやくこのドラゴンの正体を知った。


 聞いている限りだとやはり危険なモンスターではないようで、これで近くにいても問題はないという確証を得る。



「ドラゴンなら金銀財宝を蓄えてたりしねぇか?」


「集めないわ」


「炎のブレスを吐ける!?」


「吐かないわ。てかアタシだってそれくらい出せるし」


 ルビィによって即刻男児の浪漫は否定され、ちぇ~と狼魔族の双子は唇を尖らせた。


 持ってきたいくつかの果物を食べているドラゴンの傍らでデイアが《聖域の抱擁(ホワイトガーデン)》を用いて翼を治療していた。手から溢れる白く淡い光によってたちまち傷が治っていく。


「はい、これで、大丈夫」


「キュキュ? キュル! キュルルン♪」


 翼を動かし完治していることを理解したのか、羽ばたいてはつらつとした声をあげた。


 そして感謝と喜びを表すようにデイアとルチルを抱き抱えるように抱擁してくる。


「ひゃぁ……!」


「ふわぁああああ~モフモフして気持ち~」


「ず、ズルいわ! アタシにも触らせなさい!」


 ルビィも続き三人がドラゴンの体毛に埋もれている様子にサーフィアはやれやれと言わんばかりにため息を吐く。


「サンキューなデイア。お前がきてくれて助かったよ」


「う、うん」


「それにしてもこのドラゴン、まだ子供ってことは親とはぐれたのかな」


 ケガのことといいルチルはそこに引っかかる。迷子になってこの森にやってきたのだとしたら、それはとても辛いことだ。


「自然界のことだ、オレたちがどうこう考えてもどうしようもないだろう」


「サーフィアは相変わらずドライだね」


「そのついでに提案するが、念のため大人たちにも教えるのが賢明かもな。村に徘徊していたら大騒ぎになるだろうし」


「ダメよそんなの! せっかくアタシたちで見つけたのに!」


 しれっと手柄を便乗するルビィにお前は見つけてないだろ、とサーフィアが口の中で呟く。


「ドラゴンは一頭で家が建つくらいには貴重なんだから知られたら絶対連れて行かれるわよ。調教されて乗り物にされるか、もしかしたら物好きが剥製にしちゃうかも」


「そ、そんなの嫌だ!」ルチルが否定した。


「じゃあ四人の秘密ってことで決まりね!」


 ただこのままフェザードラゴンという種族の名称だとなんだか呼びづらいので名前を考えることにした。



「モッフン!」


「ハネゾウで」


「……フラフィー」


「ウィングシュナイダーね!」


「おい待て最後のは流石におかしいだろ」


「アンタのハネゾウも大概よ。こちとらドラゴンレースで使われた由緒ある名前なんだから。母様が『行けーッウィングシュナイダー! お前に全賭けしたんだ負けたら承知しないぞォ!』って叫ぶくらいよ」


「なんだそりゃ」


 ルチル、サーフィア、デイア、ルビィの順で出し合う。だが、それぞれが自分の命名を推して譲らない。


「こうなったら本人に決めてもらったほうがいいんじゃないかな」


「じゃあ名前を呼んで返事したものにするのはどうかしら」


「それなら恨みっこなしだな。デイアは?」


 こくこくと彼女も頷いたのでひとりひとりがドラゴンに向けて呼んでみることにした。


「おいハネゾウ。お前は今日からハネゾウになるんだ」


 サーフィアに呼ばれたドラゴンは顔を向けるも首を傾げる。


「フ、フラフィー……お返事、して?」


 デイアが小さく手を叩いて気を引くも目をパチクリするばかり。


「ウィングシュナイダー! ウィングシュナイダー! ウィングシュナイダー! アンタの名前はウィングシュナイダーで決まりよ!」


「やっぱり呼びづらくねぇかそれ?」


「サーフィアは黙って! ほらウィングシュナイダー! 一声鳴くだけでいいのよ!? 答えなさいウィングシュナイダー!」


 ルビィの必死な呼び掛けにはうるさそうにそっぽを向いた。


 そしてルチルの番。


「モッフン!」


「キュ!」


 彼が呼ぶなりドラゴンは食い気味に鳴き声を発した。一瞬の決着である。


「やった! モッフンで決まりだね!」


「いや、これはルチルの声で返事しただけなんじゃないのか」


 サーフィアの意見に思いとどまる。


「じゃあ他の名前で呼んでみるよ……ハネゾウ? フラフィー。ウィングシュナイダー」


「……」


「……モッフン?」


「キュルキュルッ!」


「ほら~!」


 ルビィが「えぇ~っ、アンタ本当にそんな名前でいいのぉ……ウィングシュナイダーがいいわよね!?」と往生際の悪い抵抗を試みたが、拒否するように「ギューン」と首を振るう始末。


 まるで人の言葉を理解しているかのようにドラゴンはルチルの考える呼び名にだけ反応を示し、それ以外の名前にはあえて返事をしないのだと判断していいだろう。


 よってこのフェザードラゴンをこれからモッフンという名前で呼ぶことで決まった。


「というわけでよろしくね。モッフン──アフワァワハハ」


「キュルキュルーンッ」


 再びハグをされ追いモフモフを受けるルチルであったが満更でもなさそうに夢見心地となっていた。


「しっかし、甲虫探しにきてこんなドラゴンを見つけることになるとはな」


「……ハッ、忘れてた」


 正気に戻ったルチルは当初の目的を思い出す。ゴールドヘラクレスを捕まえて大儲けして魔法具(アーティファクト)を購入するために森へ入ったのだった。


「さすがにもう活動をやめて隠れちゃったかなぁ」


「まぁ仕方ない。また日をあらためればいいだろう。とはいえ、こんなに金ピカなのに全然見つからないのは予想外だった。高値で売れるだけのことはある」


 図鑑を開いて姿を再確認しながらサーフィアは言う。


 そんな彼は背後に気配を感じて、振り返った。


「……なんだよ?」


 ドラゴンのモッフンが後ろから見開きの方をじーっと覗き込んでいたのだ。


 図鑑を左右へ動かすと、明らかに視線がそれを追っている。とても興味があるらしい。


「まさか読みたい、なんてことはねぇよなぁ」


 そう言いながらも試しに差し出すとモッフンは両手できちんと受け取った。


 開いた状態のまま上に掲げたり、角度を変えたりとしながらまるで面白い玩具でももらったように夢中になっていた。



「すごい! モッフン本読むんだぁ!?」


「人の真似をしているか、ページの虫のイラストが物珍しいだけだ。さすがにそこまで高度なことはできないだろ……」



 サーフィアはあくまでそう仮定して否定した。


 だが、それが思わぬ形で証明されることを四人は未だ知らない。


次回の更新は10月8日(土曜日)を予定しています!

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