83.姉妹/意味が分からない
「何が相変わらずよ! お姉様こそ少し見ないうちに随分と生意気なことをするようになりましたわね!」
「ええ、おかげさまでね」
怒気を込めて文句を言い放つワカマリナに対してアキエーサの顔は動じることは無い。それが気に入らないワカマリナは更に怒りを露わにする。
「本当に偉そうに……はっ! 今分かりましたわ! その性悪な姿こそが本性でしたのね!」
「性悪と来ましたか、自分のことを棚に上げて」
「んまぁ!? よくもそんなことをわたくしに向かってぬけぬけと……! ああ、なんと卑しい姉だことでしょう。きっと、アクサン様もそこの男もわたくしの知らぬ間に誑かしたのですね!」
「「「はぁ?」」」
今度は被害者ぶるような仕草でアキエーサを非難するワカマリナ。だが、その言動はアキエーサの周りにいる者達から非難されるようなものだった。
「ふざけるなよ……俺のアキエーサは人を誑かすような女じゃない!」
「な、誰よ?」
「俺はアキエーサ・イムランの婚約者テール・イーリュ。さっきから聞いていれば、お前は俺のアキエーサに対して理不尽で最低なことばかり言いたい放題じゃないか。お前の方が最低なくせに!」
「な、何ですって!?」
「アキエーサの妹だったくせに、家の金を勝手に使って遊んでばかりでアキエーサどころか両親や周りに迷惑をかけるし、王太子を誑かしたのもお前の方じゃないか。そのくせアキエーサに突っかかるなんて、人としてどうかしているじゃないか!」
「な、な、なぁ!?」
「……テール様」
鋭い目でワカマリナを睨みつけるテールはアキエーサのために怒っている。その姿にアキエーサもワカマリナも驚いた。アキエーサはこれほど勇ましいテールの姿を初めて見たからであり、ワカマリナは自分になびかない男がいることが信じられないからだ。
「な、なんなのよ……ちょっとそこの男! お姉様なんか捨ててわたくしの愛人におなりなさい! いい待遇をしてやるから生意気なお姉様なんか、」
「黙れ! 聞くに堪えん言葉を吐くな醜い性悪が!」
「ひえっ!?」
テールの言動が気に入らないワカマリナは思い切って口説いて愛人にでもしようとしたが、言い切る前にテールに怒りを吐き捨てられて、気迫に負けて尻餅をついてしまった。
「う、うう……」
そして、ようやく気付いた。目の前の男が本気でアキエーサを思い、何を言っても自分になびかない。ワカマリナにとっては、『女を見る目がない男』なんだ、と。
よろよろと立ち上がるワカマリナは、テールが怖くて今すぐにでもこの場から立ち去りたかった。しかし、他に気になっていたことがあり、どうしてもそれをアキエーサから聞きたかった。
「……どうして……どうして、私のアクサン様が、お姉様を口説いたりするのですか……!?」
「本当にどうしてでしょうね。意味不明で迷惑極まりませんでしたよ。互いに大事な婚約者がいるというのに、お断りさせてもらいましたがね」
「は……?」
「断ったら逃げるように去っていくのですから初めから口説いたりしなければよいものを。本当に理解できませんでしたよ」
「……?」
ワカマリナはアキエーサの言っている意味が分からなかった。自分の婚約者のはずのアクサンが、地味でつまらないと思っていたアキエーサを口説く理由も分からないのに、口説かれたアキエーサの方はそれを断ったというのだ。いくら婚約者がいるからと言っても、王子であるアクサンを受け入れないなんて、ワカマリナは姉のことが本当に分からなかった。




