39.リーベエ視点/愚か者
最初の顔合わせの日から同じ屋敷で共に暮らすことになったフミーナは、次第に伯爵夫人としての馴染んでいった。それと同時にワカマリナも貴族令嬢のような暮らしを喜ぶようになった。ただ、アキエーサだけは以前と変わらずというか、扱いが雑になっていった。それを危惧した使用人もいて私に注意してくれたのだが、私は
対して気にしなかった。どうせ、フミーナとワカマリナとの距離があるせいだろうと思ったからだったのだが……。
◇
……あの時、もっと危機感を持つべきだったのだな。あの時から私はどうかしていたのだ。気が付けば、実の娘を顧みなくなっていたなんて。
何故、アキエーサを蔑ろにしてしまったのだろう。何故、アキエーサを使用人扱いしたのだろう。何故、アキエーサがフミーナに暴力を振るわれていると気付かなかったんだろう。何故、アキエーサの私物をワカマリナに譲るように仕向けてしまったのだろう。
そして、何故……アキエーサを手放してしまうことになったのだろう。シュラウラの死から、アキエーサを見捨てないと誓ったのに。いや、違うな。
「……私が、アキエーサに見捨てられたのだな」
思わず口に出してしまった。そうだ。私が、こんな愚かな男が父親だから、アキエーサは見捨てたのだな。思えば、私はアキエーサに対して父親らしいことはしてやれていなかった。アキエーサの育児も教育も生きていた頃のシュラウラに任せっきりで、私はそういうことに何も手を付けていない。これではアキエーサが私を親として見てくれるはずがないではないか。
「は、ははは……」
私は自嘲気味に乾いた声で笑ってしまった。己の愚かさに本当に笑えるな。
「……何笑ってるのよ。実の娘にあそこまで言われておかしくなったの?」
フミーナが私を侮蔑を込めて吐き捨てる。思えばこの女も変わったものだ。私の正式な妻となってからは。
フミーナは伯爵夫人に、貴族に戻ってからはそこそこ金遣いが荒かった。最初のうちは私も大目に見たが、後になって結構な金を使ったと知った後で注意した。その後からは自重したからよかったのだが……その後だったな。アキエーサへの虐待的な躾けが強くなったのは。まさか、金を自由に使えなくなったストレス発散も理由……!
何てことだ、この女は最初から金だけが目的だったのかもしれない。何しろ、貴族に戻った後でそれだけ豹変してしまったのだ。いや、これが本性だとしたら……私がまた別の意味で愚かな男だったということだな。
アキエーサ、シュラウラ。許してくれるとは思えないが、本当にすまなかった……。




