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【本編完結】勇者と魔王の歪んだ世界~落ちこぼれ勇者候補生が救ったはらぺこは最強の魔王候補生!?二人はリバースワールドの果てに真実を探究する~【ぺこリバ】  作者: よるか
第7章、霊峰雪山編――霊峰立つ、魔竜翔る冷渦の戦慄

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装い新たに、登山準備!


 アグルエが料理を平らげ、ディムルが酒を飲み切って三人が店を出た頃には、辺りはすっかり夜の気配を漂わせていた。

 タンタラカの街灯はランタンだ。メインストリートはぼんやりとした炎の明るさに包まれている。

 肌を刺す冬の山風が冷たくも感じる中、しかし町を包んだ熱気がそれを忘れさせた。

 カンカンッと鉄を打つ音が時間も選ばず響き渡る。


「さて、出発するにしても明日がいいだろう」


 一歩前へと出たディムルが振り返った。

「それに」と二人のことを見比べてから、


「そんな装備で山に登るのは自殺行為だ」


 と、ピシッと指差しながら言い切った。

 エリンスとアグルエは顔を見合わせる。

 たしかにその通りかもしれない――と山を知らないエリンスも思った。

 だいぶ酒を飲んでいて酔っているはずなのに、ディムルの見る目はたしかなようだ。



◇◇◇



 そういった流れでディムルについて案内された二人は、メインストリート東の外れに位置した衣服の店へと立ち寄った。

 店の中に並ぶ服は用途からサイズまで様々で、ハンガーに通されラックに掛けられて並べられている。

 厚手のものから薄いものまでカラーも様々に幅広く、アグルエはそれだけで興味津々といった様子だった。


 店主と慣れ親しんだように話をしたディムルが店の中を指差してエリンスへ片目を閉じて合図を送る。

 登山用の服を買え、ということだろう。

 エリンスはとりあえず手近なところにあった良さそうなものを選んだ。


 数分後、エリンスは着替えを済ませた。

 厚めの肌着インナーをいつもの軽鎧ライトアーマーと服の下に着込んで、その上からさらにダウンコートを羽織る。

 店の中にいては汗をかくほどで過剰な厚着のようにも思えたが、山の寒さは厳しいと聞くのでこれくらいがちょうどいいのかもしれない。

 やや値は張る買い物となったが、ディムルが口を利かせてくれたことにより優しそうな店主が割引をしてくれた。


 アグルエは未だ着替え中。

 店の奥にある試着室のカーテンの向こう側で鼻歌を唄いながらモソモソ衣擦れ音がしていた。

 エリンスは妙にどぎまぎとしてしまった。

 泳ぐ視線をにやにやとしたディムルに悟られないように、ただアグルエの着替えが終わるのを待った。


 そうこうしている内に試着室のカーテンが開く。

 機嫌がよさそうな笑顔を浮かべたアグルエはエリンスと目が合うなり、くるっと一周、回って見せた。


 耳にはモコモコとした白いファーのついた耳当てをして、いつも着ていたコートとは違う、厚手のブラウンのロングコートを羽織っている。

 手には赤いミトンの手袋。ブーツも雪道仕様、滑りづらいものを選んだようだ。

 滅尽めつじんの力があれば、魔族であるアグルエにそこまでの重装備は必要もなさそうなものだが。


「あったかいの!」


 そう言って頬を赤らめ笑うアグルエはとても嬉しそうだった。


 エリンスはアグルエの分も支払いを済ませ、店主よりもらった革袋へと、今まで二人の着ていた服を詰め込んだ。

「気をつけてな」と優しく声を掛けてくれた店主へと返事をして、エリンスはディムルとともに店を出る。


「ありがとうございます」

「いやいや、必要なことだしな!」


 ディムルはエリンスの礼にそう返事をして、「わはは」と腰に手を当てながら笑う。

 エリンスは夜空に見えるキラリと輝いた星を見上げて、吹き下ろされた山風の冷たさが和らいでいることに気づく。


「あったかい!」


 アグルエは店を出てからもずっと嬉しそうに目を細めて笑ったままだった。


「さて、じゃあ明日の待ち合わせは町を出たところでいいか?」


 二人へ向きなおったディムルは、そのまま東の道の先を指差した。

 町を出た先に緩やかな上り坂が続いている。

 そちらへ進めば山道があるということだろう。


「わかりました」


 エリンスは返事をし、ディムルは大きく頷いた。


「よし、じゃあ、今日は解散! 宿はまあ、自分で選ぶといい!」


 ここまでメインストリートを歩いてくる最中でも目についた宿が多かった。


「明日からは体力勝負だ、ちゃんと休むんだぞ!」


 笑顔でそう言ったディムルは手を振り上げてから一足先にメインストリートを来た方へと戻っていく。


「よろしくお願いします!」


 その背中へと言葉を向けたアグルエが丁寧に腰を折って礼をしていた。



◇◇◇



 ディムルと別れた二人は近くにあった手頃な価格の宿へと入り部屋を取った。

 ベッドが二つ並ぶだけの大して広くない部屋であるが、暖炉に入った火は温かく、ゆっくり休むことができそうだ。


 部屋へつくなり分厚いコートを脱いだエリンスに対して、アグルエはコートを脱ごうとはせず手袋をした手で口元を押さえたままに笑っている。


「暑くないのか?」

「んー? 暑い!」


 とは言うもののコートを脱ぐ素振りすら見せず、アグルエはずっと嬉しそうなままだった。


――まあ、喜んでくれるならそれでいいけど。


「とはいえ、これ、どうするべきかな」


 いつも背負っている革袋に加えてもう一つ、新たな荷物ができてしまった。

 今まで着ていた服類、アグルエのコートも含まれる。

 高そうな生地のそれは山に向かないというだけで、置いていったり売ってしまったりしてはもったいないものであろう。

 悩みベッドへ腰を下ろしたエリンスの横へ、アグルエの肩よりぴょんっと飛び降りたツキノが座り込んだ。


わらわのほうで預かろう」


 尻尾を揺らしながらそう言ったツキノはエリンスが手にした袋を見つめている。

 エリンスが返事をする間もなく、ツキノが何やら呟いて――目の前から服の入った袋が消えた。


「いいんですか?」


 アグルエが聞く。


「そう大した負担でもなかろう」


 空間収納魔法。

 そう簡単に扱える類の魔法ではないが、エリンスは単純に便利だと思った。


「……助かる」


 横に座るツキノをなでたエリンスに、ツキノは少し訝しむような眼差しを向けて返事をした。


「今、わらわを便利な道具扱いしたじゃろう」


 拗ねるように身体を縮めるツキノに、エリンスは落ち着かせようとさらに頭をなでた。


「そう見えたなら悪い、心から助かるって思っただけだ」


 頭をなでまわされてツキノは「くふふ、冗談じゃ」と嬉しそうに笑った。


「あ、そうだ、これも買ったんです」


 アグルエが何かを思い出したように、コートのポケットから小さなケープを取り出した。

 ベッドに座ったツキノに合わせて屈んだアグルエは、それをツキノの首元に巻く。


「かわいい!」


 水色の布地に雪模様が刺繍されたケープはツキノによく似合っていた。

 とんだサプライズにツキノは驚いたよう珍しくキョロキョロと戸惑った。


「うぅ、ありがとう、なのじゃ」


 余程嬉しかったのだろうことがエリンスにもわかる。

 ツキノがそういった表情を見せることはほとんどないからだ。


「そうだ、あと一つ。エリンス、酒場で言っていた『第3位』って?」


 満足そうにして立ち上がったアグルエはそう言いながら向かいのベッドに腰を下ろした。

 どうやらずっと聞くタイミングをうかがっていたらしい。


「あぁ、気にしていたのか」


 どこかで話すことを躊躇ためらってしまっていた。

 ただ、別に隠すつもりがあったことでもない。

 聞かれてしまえば隠すつもりもない。


「レンタラスで船に乗る時、見知った顔を見たんだよ」

「へぇ、それが第3位の勇者候補生?」

「あぁ、あと一人……まあ、友達みたいなものかな」


 ちょっと言葉に悩んだエリンスに、だけどアグルエは気にしないようにしてこたえた。


「そうだったんだ、船の中では会わなかったよね?」

「あぁ、会わなかったな。だからもしかしたらって思ったんだ」

「セレロニアへ向かったのかな?」

「だとは思うけど……」


 そう言いながらもエリンスは頭を悩ませた。

 セレロニアへ向かうだけであるならば、わざわざタンタラカへ寄る必要はない。

 ルスプンテルを経由して、魔導船で直接向かうほうが早いだろう。

 だから少し――心のどこかで引っ掛かっていたのだ。


「まあ、他の同盟パーティーのことを気にしていても仕方がないかぁ」


 アグルエがそう呟いた通り、今は目の前にあることを考えるほうが先決だ。

 これから向かうのは霊峰シムシール、『聖域』と呼ばれる巡廻地リバーススポット

 魔竜の噂も気になるところであり、人も立ち入らぬ場所ともなれば、山道は過酷なものとなるだろう。


 エリンスとアグルエは向かう先に思いを馳せて、その晩は早めにベッドへと潜り込んで眠りについた。

 明日は出発の日。

 二人の前に待ち受けるものが何を意味するか――今はまだわからない。


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