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【本編完結】勇者と魔王の歪んだ世界~落ちこぼれ勇者候補生が救ったはらぺこは最強の魔王候補生!?二人はリバースワールドの果てに真実を探究する~【ぺこリバ】  作者: よるか
第5章、ファーラス王国編――思惑縺れる魔幻の王都

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思惑縺れた決戦前夜


「やつらがどこまでその力を想定しているのかわからない。だから、止めなければならない」


 古代魔導技術ロストマナの話を聞いたアーキスが口を開いた。


「まだ『鍵』はこちら側にある。アメリアを救出して、思惑を止めなければ!」


 決意を口にしたアーキスに、ウィンダンハが言葉を続けた。


「それに時間もない。結界が途絶えてしまった今、わしらも三日経てば術中となってしまう」


 敵の狙いがわかった今、アーキスを敵陣へと連れていくことに気が引けるエリンスだったが、アーキスは隠れて留まってはいられないだろう。


「アグルエとメルトシスを助けるためにも、城へいくしかない!」


 エリンスの言葉にアーキスも頷いた。


「とはいえ、数千人の兵士を相手に戦うのは無茶です」


 ラージェスは二人を止めるようにして口を開く。

 たしかに――強行突破の策は、アーキスとメルトシスのことを見るに、一度失敗しているに近い。


「何か策を考えねば」


 悩むようにしたラージェスに、エリンスも一緒になって考えを巡らそうとして――


――チリーン、と。


 地下水道に聞き覚えのある不思議な音が響いた。

 エリンスは慌てて辺りを見渡した。

 その姿を――探そうとして。


「アグルエは、メルトシスと合流しておるぞ」


 部屋の真ん中、机の上に白い狐のモフッとした尻尾が揺れる。


「ツキノ! 無事だったか!」


 エリンスはツキノへと抱き着く勢いで机に手を伸ばして、ツキノはそれをひょいっと飛び跳ねてかわす。


「まったく、不安そうな顔をしおってからに」


 エリンスの頭の上へと飛び乗った白い狐がそう言った。

 エリンスはツキノを乗せたまま、体勢を立て直した。


「えーっと、こちらは?」


 不思議そうな顔でその様子を眺めたアーキスが、エリンスに聞く。


「ツキノっていうんだ。俺たちの仲間かな?」

「どうして疑問形なのじゃ?」


 人語を話す狐の姿に、アーキスもウィンダンハもラージェスも不思議そうな顔をしていた。


「そうか、そのツキノさんの言葉、信じていいんだな」


 だがアーキスが頷いたのを合図に、他の二人も同じようにツキノの話へと耳を傾ける。


「あぁ、もちろん」


 エリンスが返事をして、続けるようにツキノが語り出した。


「時間もないようだしの、簡潔に伝えるぞ。

 合流した二人が、夜のうちに城の中より結界を止める。

 街を覆った『幻操げんそう』の力を止めてしまえば、城へ入ることもできよう」


 ツキノの言葉に返事をしたのは、ウィンダンハだった。


「結界装置に関与している魔素マナを消し、結界を再起動できれば可能性はありますね。

 その際、影響下の近いところにいる者の意識が、一度失われることになるかもしれない」


 幻術の反動が考えられるということ――もしその通りになるのならば、エリンスたちにとっては好都合だ。

 操られた兵士たちとの余計な戦闘が避けられる。


「わかった。アグルエとメルトシスに伝えよう。

 それともう一つ、敵の魔法についてじゃ」


 一息置いてからツキノは説明を続けた。


「ルミアートの『幻操げんそう』は、広く(・・)対象の認識を操る魔法。

 対して、ルミラータの『操影そうえい』は、狭く(・・)対象の認識を操る魔法。

 両者は似ているようで違うものじゃ。

 結界を止めたとて、ルミラータの魔法には気をつけよ、とアグルエが言っておった」

「わかった。覚えておくよ」


 アグルエの伝言を肝に銘じて、エリンスは頷いた。


「ツキノは戻るのか?」

「うむ、そのつもりじゃ」


 ピョンッとエリンスの頭から飛び降りたツキノは、四人に向かって再び口を開いた。


わらわは戻る。城の中のことはこちらに任せるとよかろう」

「時間を決めて置こう」


 アーキスが冷静な様子で申し出た。


「そうじゃな、夜の内にといっても、どうなるかわからん。

 なんせ、敵の本陣ど真ん中、じゃからなぁ」

8時(はちのこく)、朝、ファーラスの時計塔が鳴る時間だ。

 ウィン先生の言った通り、結界が消えたのならば、鐘突きの兵士も意識を失う。鐘はならないはずだ」

「うむ、わかりやすいのう。それまでにどうにかすると約束しよう」


 すっかりアーキスと呼吸を合わせるような会話をするツキノ。


「それまでにどうにか、できなかったら?」


 そう聞いたのはラージェスだった。

 事態が事態なだけに、最悪のことを考えてしまうのも頷ける。


「そのときの判断は、そちらに任せよう」


 エリンスは信じていた。

 アグルエならば、この国を覆った嫌な予感もどうにかしてくれる、と。

 それに今は――その横に頼もしい親友と友がいるのだ。


「計画通りに進んだら中庭で合流したい!」


 アーキスがそう言ったのを聞いたツキノは頷いた。


「うむ、わかった。それも伝えよう。では、わらわは戻るぞ!」

「ツキノ、任せた!」


 勢いよく飛ぶように走り出した親友の後姿を、エリンスは笑顔で見送った。

 ツキノはチラッとその顔を一瞥し頷いた。

 地下水道の部屋より飛び出していったツキノの姿は、あっという間に暗闇に紛れ見えなくなる。


「あちらは任せることにしよう」


 冷静な様子でそう言ったアーキスは、凹んでしまったソファーに腰掛けるように背中を預けた。


「そうじゃな。エリンスくん、今は身体を休めたほうがよいでしょう。心もな」


 ウィンダンハの優しい言葉に、エリンスは頷いて――近くにあった椅子へと戻って真っ暗な天井を見上げた。


――信じよう、三人を。



 地下にいるエリンスたちには時間の感覚がわかりづらかった。

 しかし、次第に夜は更けていった。


 空へと昇った月が、幻惑に堕ちた静かな街を見守っている。

 灯った街灯に、光の漏れる酒場。

 寝静まり灯りの消えた民家の窓に、扉が閉まった商店の数々。

 人通りの消えたメインストリートには、夜の静けさが漂っている。


 平和が保たれて、異常などどこにもないようで。

 だけどその裏で――思惑はもつれて絡まりはじめる。


 暗い夜空の中、流れる魔素マナの結界に負けないように、星々たちが輝く。

 それぞれの決意が光るように。


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