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【本編完結】勇者と魔王の歪んだ世界~落ちこぼれ勇者候補生が救ったはらぺこは最強の魔王候補生!?二人はリバースワールドの果てに真実を探究する~【ぺこリバ】  作者: よるか
最終章、巡る世界編――落ちこぼれ勇者候補生と最強の魔王候補生

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心動かす、紡いだ決意


 協会職員に案内されてアグルエが訪れたのは大きな二枚扉の部屋だった。

 防音の細工がされている厚みのある扉の取っ手へ手をかけたところで、協会職員は頭を下げて去っていく。

 部屋の前には護衛のためだろう、鎧を着込み槍を構えた職員も控えていて、扉の厚さだけではない妙な重みを感じる。アグルエは後ろについて来てくれたマリネッタの顔を見やった。

 マリネッタはぐっと顎を引いて頷いてくれた。

 そんな彼女の後ろではアーキスとメルトシスも真っすぐとした眼差しで頷いてくれて、それがアグルエの背を押してくれる。


――シスターマリー……ルマリアさんが、世界会談の場にわたしを呼んでいる。


 その時点で、アグルエは何故呼ばれたのかを薄っすらと理解していた。

 重い二枚扉に両手をついて、力の限り前へ押しながら扉を開く。飛び込んでくる明るい照明の光と、そこに集まったそれぞれの視線が、そうして部屋へ入ったアグルエへと集中して、より眩しかった。

 アグルエは腕で目元を覆ってから、だけどすぐに腕を下して真っすぐ立つと、凛とした表情のままに、扉から向かって円卓の中央に手をついているシスターマリーへと目を向ける。

 決意の灯る赤い瞳が、真っすぐとそうして訪れたアグルエのことを出迎えてくれているかのように細められた。

 彼女は人界でいつもかぶっていたシスターベールを取り払っていて、綺麗な金髪の中、目立つのは二本の黒い角だ。


――やっぱり、そういうことだよね。


 大勢の人々の前で角を晒している。

 その意味が、アグルエにもすぐにわかった。

 どうして呼ばれたのか。なんのために呼ばれたのか。

 誰として、呼ばれたのか。


 円卓の会議の場についていた世界の重鎮たち。

 アグルエの顔を見て安心したように微笑んだ者もいれば、納得したように頷いた者もいる。

「そういうことですか」と安心したように笑うシルメリナ、「そういうことだよね」と期待していたかのように微笑む風姫ルイン。

「ですよね」と笑ったルスプンテル町長レオルアに、「何故、メルトシスたちまでも」と後ろに並んだメルトシスを見て驚いたのはドラトシス。

 そこに座っている人々のほとんどが、今までアグルエが顔を合わせたこともある人たちだ。円卓の外の席にはエリンスの父であるレイナルの顔見えて、アグルエはどこかひと息落ち着けた。


 アグルエはシャンとした姿勢のままに真っすぐと円卓へ近づいていく。

 後ろへついて来てくれていた三人は、レイナルの横へと並んで席についた。

 アグルエは全てを察してそのまま真っすぐに、マリーの横の空いた席のところまで歩いていった。

 並んだアグルエがマリーの顔を見て頷けば、マリーは微笑んだように表情を緩めて頷き返してくれる。

 しかし、真っすぐと向きなおした彼女の顔は、先ほどまでの凛々しく力強いものへと、集まっている者たちへ訴えかけるものへと変わっていた。


「紹介します。彼女こそが、魔王の娘。魔王亡き今、魔界の未来を担ってこの場に立つ、次期魔王です」


 堂々たる紹介に、アグルエの背筋を緊張が走った。改まってそう言われてしまうと、身体が震え出すほどだ。


――だけど。


 と、アグルエはもう振り返らないと決めた覚悟を思い返し、胸元でぎゅっと手を握る。

 集まっている者たちへ、訴えかけるように顔を上げた。


「わたしは……アグルエ・イラ、二百年この世界を支えた魔王アルバラスト・イラの想いと血を継ぐ者……」


 どのような立場で声をかければいいのか、すぐに言葉にはならなくて、口をもごもごと動かしながら考えてしまった。

 だけど、想ったままを口にすればいいのだと――アグルエの言葉を待つそれぞれの顔を見やって、すぐに気がついた。


「……世界を救うために、皆さんと力を一つにしたい!」


 人界で魔王の存在がどう語られてきたのか、十分にアグルエも知っている。

 二百年前対立したとされる勇者と魔王。戦いの果てに勇者は魔王を魔界へ追い返し、未だ世界に残る脅威の象徴として、魔王の存在は定められていた。

 だが、それは勇者と魔王の約束によって騙られた嘘だ。この場でマリーが角を晒しているということは、そこまで話を進めていたのだろうとアグルエは解釈して、もう一度それぞれの顔を見やった。


 国を背負う者としての覚悟、世界を支える者としての想い。

 それぞれがそれぞれに、目にすることになったアグルエの真実に目を見開いて、アグルエの、続きの言葉を待っている。

 ただひと言、力を一つにしたいと語ったところで、それだけでは伝わり切らない。


――わたしたちが何と戦わなければいけないのか。


 二百年前から続いた世界の歪み。

 ちゃんと真実と向き合うためにも、この場が用意されたのだろう。


「二百年前、世界は勇者と魔王によって一度救われた。しかし、その際に歪んでしまった世界は、二人の約束の上で保たれた。その歪みを利用して、二百年暗躍した者たちがいる。今、世界はそんな彼らの手のうちにある……」


 アグルエが語った言葉に、それぞれがそれぞれに顔を合わせて神妙な面持ちで頷いた。


「わたしは、この二百年にある真実を知るために、この世界……リューテモアを巡る旅をした。そして、知ったんです。この二百年の平和を支えるために、命を燃やした人々の想いを!」


 碧眼を輝かせ、アグルエは力強く語り続ける。


「魔王は、誰よりも世界を守ることを考えていた。勇者は、誰よりも世界を想って己を犠牲に贖罪を果たした。そんな彼らが残した想いを継いで、支えてくれた人たちもいる」


 そこには、かけがえのない友であったツキノの意志も残っている。

 横にいるマリーへとアグルエが目線を向ければ、マリーは何を想っていたのか、真剣な表情をしていて目が合った。こくりと頷いてくれる。

 アグルエはひと息ついて、言葉を続けた。


「……勇者協会にしても、そう騙るしかなかったのだと思います。別に、人々を騙すために、今の世界を守っていたわけでもないはずです」


 円卓の外、席へついている勇者協会の重鎮たちへも目を向ける。

 彼らは何か言いたそうに口を動かしたが、アグルエとマリー、二人の力強い視線に押し負けるようにして黙り込んでいた。


――想いは、今へと継がれたから。


 アグルエは胸のうちに灯る、熱を信じて想いを言葉で綴った。


「長い旅を……わたしと共に歩いてくれた勇者候補生がいます。彼がいなければ、ここまで辿り着くこともできなかった……真実を知ることなんて、できなかった」


 そんな二人で歩いた旅路が紡いだ想いが、今この場にだって溢れているのだから。

 納得したように頷いてくれるルスプンテル町長レオルアに、白の管理者クルト。

 ファーラス国王ドラトシスも静かに頷いてくれて、セレロニア公国、統主ルーラー、ルインも微笑んで、青の管理者プラズにしても「うむ」と頷いてくれた。

 誰のことを話しているのか納得したように頷くサロミス国王ランドスナに、ラーデスア帝国女帝シルメリナはアグルエの顔を見て力強く瞳に闘志を宿している。

 そんな支えてくれる絆を紡いで、アグルエは決意をし、口を開いた。


「魔王の力を継ぐわたしと、勇者の力を継いだ彼……わたしたちが、世界を救う。この世界を危機に陥らせる本当の脅威を止められるのは、わたしたちだけだから……だから、力を貸してほしいんです!」


 さらりとアグルエの金髪が流れ、首を振るアグルエは思いっきり円卓に向かって頭を下げた。

 大会議室は、再び静寂に包まれる。

 頭を下げた体勢のまま、人々の視線が集中しているのを感じ取って――角もない魔王では威厳も何もないだろうか、とアグルエが思いなおしたところで、しかし、優しい言葉が耳へ流れ込んできた。


「当然です」


 開口一番そう頷いたのは、風姫ルインだった。

 アグルエが涙の浮かぶ瞳を向けて顔を上げなおすと、ルインは微笑んで頷いてくれる。


「あなたたちの想いが、わたしたちの国を救ってくれた。いつか力になりたいと、そう思っていたのです」


 それに同調するように続けて言葉を発したのはファーラス国王ドラトシスだ。


「我が国も、だ。暗躍する者たちの脅威に晒されたファーラスを救ってくれたのは、お主であろう、魔王!」


 力強く笑ってくれるドラトシスに、アグルエの表情も自然と明るくなる。

 ドラトシスに続いて口を開いたのは、顔を上げたラーデスア女帝シルメリナだ。


「わたしは、命をあなたに救われた身。一度滅びたとまで言わされた帝国の全力を持って、あなたたちを支えると、女帝の名においてここに誓うわ」


 それに続いてサロミス国王ランドスナが口を開いた。


「我が国も、彼がいなければ、恥ずかしい話ながら混乱に陥ったまま、騙されたままであっただろう。今さら迷わされるものか、魔王だろうが勇者だろうが、わたしが信じられるものを信じようと思う」


 それぞれの言葉に、アグルエの胸のうちまでもが明るくなった。

 アグルエが隣に並んだマリーへと顔を向ければ、マリーも嬉しそうに目に力は込めたままに頷いてくれる。


「元より、勇者五真聖としての意向は、勇者協会の意向。シスターマリーと共にあるものじゃ」


 青の管理者プラズがそれぞれの顔を見やって代表するように言った。ディートルヒもそれに納得するように目を細めて頷いている。

 後ろの座席に控えていたマリネッタやアーキス、メルトシス、それに横に座っていたレイナルへと目を向ければ、彼女らも笑って頷いてくれた。


「……ありがとうございます!」


 感極まってしまったアグルエがもう一度頭を下げたところで、最後に続けて言葉を発したのはルスプンテル町長レオルアだった。


「わたしも当然、皆さまと同じ想いです。炎に包まれた町を、翔けて救ってくれた彼ら彼女らはただ者ではなかったと、あのときも思っていた。ただの勇者候補生が、魔王候補生と……あなたたちなら何かを成し遂げる、そんな意志は、あのときから感じ取ていた」


 レオルアは眼鏡を外すとゆっくりと立ち上がる。

 アグルエが視線を向ければ、会談の場についていたそれぞれもレオルアへと目を向けた。


「デイン・カイラス……わたしは、かつての勇者同盟ブレイブパーティーであった先祖の意志を背負ってあの町にいます」


 アグルエもその名は覚えている。

 勇者の仲間として勇者協会創設に関わって、今のサークリア大聖堂、その玄関口となる港町を立ち上げた歴史的偉人。

 そして、それだけでもない。

 カイラスという名には、いわくがついて回っていた。

 二百年前、アルクラスアが進めた禁忌。その中心にいた研究者こそがダミナ・カイラス。デイン・カイラスの兄だとされている。

 二百年前、兄弟の対立からはじまったロストマナ。その果てに生まれた此の世の歪み――『神の器』計画。


「我が家にも、決して語られてはならない、禁忌が存在する。代々、当主となる者に言葉として魂に刻まれてきたモノです」


 円卓の席についた者は驚いたような顔をする者も多い中、アグルエは真剣な表情でレオルアの顔をうかがっていた。

 そんなレオルアがアグルエのほうをちらりと見て頷く。


「魔法によって魂に刻まれた言葉は、忘れることができないカイラス家の呪いのようなもの。そこには、こう記されています――」


 レオルアは瞳を閉じると、続けて深く思い返すように口を開いた。


――『勇者は贖罪を果たす。聖女は魂を捧げた。ならば、わたしも彼らの想いを引き継ごう。人が犯した過ちと向き合うためにも、彼と魔王がした約束を果たすために必要になるだろう。勇者協会を設立し、それを守るための町を、聖地をおこそう』


 アグルエはレオルアの言葉を聞いて呆然と考える。


「だから……あのとき、魔王候補生と伝えても……」

「はい。わたしはすんなりと受け入れられたのです」


 レオルアはその内容がわからずとも、その意味をわからずとも、勇者と魔王がした約束のことを知ってはいたのだ。


「これは紛れもなく、二百年前、デイン・カイラスによって刻まれた彼の言葉だ。嘘はない」


 レオルアの言葉を受け止めて、大会議室は再び静寂に包まれる。

 アグルエの言葉は伝わった。旅で紡いできた想いも一つにまとまっている。もう結論は出たようなものだ。

 そして、人々が真実を受け入れたそのような静寂を突き破るようにして、二枚扉が勢いよく開いた。


「その通りだったわ。我々が、戦うべきは魔王じゃない。何と戦うべきなのか、はっきりとした……」


 力強い女性の言葉に、人々の意識が扉のほうへと集中した。

 アグルエも聞き覚えがあったその声に目を向けて、そして、そこに立っている赤の管理者リィナーサ・シャレンの姿を見て驚きに目を見開いた。


「マーキナス、見つけてきてくれたか……」とマリーが呟いた言葉がアグルエの耳を掠める。だがアグルエはそんなことを気にしてはいられず、慌てて席から離れて扉のほうへと駆け寄ってしまった。


「……どうしたんですか!」


 骨が折れているのだろう、だらりと下がる左腕を右手で支えるように立っているリィナーサは、力強く言葉を吐こうとも弱々しく揺れている。

 ところどころ鋭利な刃物で切り裂かれたようなボロボロになったコート。頭には包帯を巻いていて、擦り切れた服の下からも血が滲む包帯が見えている。履いているズボンは破れ、切り傷や打撲痕が見えて痛々しい。

 慌てて駆け寄ったアグルエに、だけど、リィナーサは「構わなくていい」といった調子で手を振った。ただ、そう言った彼女の息は上がってしまっている。

 全身傷だらけ、動くだけで開いてしまうだろう大きな傷も抱えていそうだ。本来であれば、病室で寝ていなければいけないほどのものだろう。

 だけど、それでも伝えなければならないことがあるのだと、彼女の目が語っていた。

 リィナーサは真っすぐと立ちなおすと、口を開いた。


「わたしの、傷は、どうでもいいんだ」


 どうでもよくはないだろうが、リィナーサはアグルエの心配を振り切るようにして笑うと、大会議室に集まっていたそれぞれに伝えるように声を張り上げた。


「ここに集まった皆は、事情もわかっているでしょう」


 赤の管理者たるリィナーサの本分は、ファーラス王国の勇者協会の責任者でもある。

 今やファーラス王国は世界の危機の中心地、無数の殺戮兵器、魔導歩兵オートマタの襲来を受けている。


――そもそも、その魔導歩兵オートマタたちは、どこから現れたのか。


 アグルエはリィナーサの表情を見て、彼女が何を伝えようとしているのか、考えついてしまった。

 リィナーサは衝撃を伝えるひと言をぽつりと零した。


「ファーラスは、もう、もたないかもしれない」


 驚いたように「馬鹿な」と声を上げて立ち上がるドラトシスに、円卓の席についていたそれぞれにもどよめきが広がった。

 しかし、リィナーサはそんな混乱も気にしないようにして言葉を続ける。


「亡都アルクラスア……あそこにある脅威を、わたしたちは決して見逃してはいけなかった。亡都は……大きな魔導機械そのものだった。アルクラスアは、そんな魔導機械を支えるための国だった……巨大な魔導歩兵オートマタが、今も刻一刻と、ファーラスへと近づいている!」


 襲い来る巨兵――魔導歩兵オートマタたちは、アルクラスアの地から飛来している。

 そう話を聞いて、アグルエが思い出したのは旅の最中、青の軌跡と呼ばれた海底遺跡で見た『過去と今』――その壁画だ。


――大きな球体から発せられる光、波動。

――大きな球体へと群がる人々。

――手を取り合う軍勢。

――軍勢と軍勢の衝突。

――大きな魔導機械のようなものに挑む人々。


 あの軍勢の片方が、魔導歩兵オートマタ。あの大きな魔導機械が、それ(・・)だったのだろう。

 二百年前、人々が何と戦ったのか、歴史は刻まれていたのだろう。

 アグルエが思い至ったのと同時に、その壁画が刻まれている青の軌跡の管理者たるプラズも納得したように頷いた。


「あの壁画、そういうことじゃったのか……」


 白い眉毛の下から覗く小さな瞳は見開かれ、プラズの言葉に大会議室は再び静まり返る。

 膝をついてしまうリィナーサへ、アグルエは慌てて駆け寄って屈むと肩を貸すように支えた――。


 大会議室の中に響いた一声に円卓がどよめくように、ファーラス王国を中心に迫る世界への危機へ、人々は不安に胸を揺すらせる。

 図らずとも皆の想いは一つになっていた。紛れもなく、今ここにある絆は二人の旅路が紡いだ結晶だ。

 世界へ迫った終末の足音に、真実は明かされて……今、戦うべき相手の姿も見えてきた。


 決戦の時は近い。

 しかし、そんな最中、これから先の戦いの鍵を握るもう一人の彼は今――。


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